特集

ハマの交通機関がますます便利に?
「顧客満足度」向上競争の舞台裏

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■「顧客満足度(Customer Satisfaction)」とは何か?

 「顧客満足度」という言葉が製造業やサービス業のみならず、交通機関にも浸透してきている。顧客満足度とは、消費者が製品やサービスといった商品にどれだけ満足しているかを表す指標。サービスを利用する消費者にアンケートを行い、その結果を元にニーズや嗜好を分析し、商品の質や方向性を改善していく手法だ。今回の特集では、3周年を迎え、イベントや魅力的なサービスを中心にCS向上に努める横浜高速鉄道と、最近CS向上のためのプロジェクトチームでWebサイトを立ちあげた横浜市交通局の取り組みをレポートする。

顧客満足度(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)

■「観光路線」であるMM線のCS向上策

みなとみらい線の開通当時 2月1日、横浜高速みなとみらい線(MM線)が開通3周年を迎えた。1日の平均利用客数は初年度(2004年度)が12.1万人、昨年度が13.2万人、そして今年度上半期は14万人と毎年増加しており、横浜の新たな交通機関としての認知度も年々高まっている。横浜の集客増にも貢献しており、たとえば、みなとみらい地区への来街者数も開通前の2003年度が4,200万人だったのに対し2005年度は4,700万人と増加し、その「開通効果」は明らかだ。

みなとみらいハロウィーン号が登場したことも そんなMM線では現在、開通3周年を記念してさまざまなイベントが開催されている。MM線横浜駅の売店では、期間限定商品として3周年記念サンドウィッチ「ザ・3(さん)ド」が販売されているほか、日本大通り駅での「開通3周年パネル展 横浜ノスタルジア~昭和30年頃の街角~」や元町・中華街駅での「大世界劇場 in 元町・中華街」など盛りだくさん。さらに、3月10日公開の『映画ドラえもん のび太の新魔界大冒険~7人の魔法使い~』とタイアップした臨時列車「みなとみらい号」も登場している。「みなとみらい号」では、東京メトロ日比谷線、埼玉高速鉄道線、東京メトロ南北線、都営三田線の各駅から、東急目黒線・東横線を経由し、MM線までを結ぶ。

みなとみらい線開通三周年&横浜三塔物語 みなとみらい線3周年記念で「300円のサンド」-売店で限定販売

 「みなとみらい号はこれまでゴールデンウィークや夏休み、秋の行楽シーズン、クリスマスといった時期にも運行しています。今回は乗車されたお子様に向けて『ドラえもん・お楽しみ袋』をご用意しました。また運行日には『ドラえもんスタンプラリー』も実施いたします」(横浜高速鉄道経営企画課長・田口武雄さん)。2月3日に運行された北千住発・元町・中華街行きでは、東京メトロ日比谷線・六本木~学芸大学の区間で「ドラえもん・お楽しみ袋」が配布された。2月17日の浦和美園発、3月3日の高島平発でも小学生以下を対象にプレゼントが実施されるという。

臨時列車『みなとみらい号』に乗ってドラえもんに会いに行こう!!

みなとみらい号に乗ってドラえもんに会いに行こう!「みなとみらい号」は東京北部や埼玉県から横浜へ向かうのに「乗り換えいらず」の便利さがある一方で、それぞれの線で初乗り料金が発生してしまうこともあり、これまで利用客増になかなかつながらなかった。「そこで、今回のように『みなとみらい号に乗車するとドラえもんグッズがもらえるよ』といった付加価値が必要だということです。今後も横浜アンパンマンこどもミュージアムとのタイアップなど検討しています」と、前出の田口さんは話す。MM線は他の多くの路線と異なり、定期利用客よりも切符やパスネットで乗車する客が多い。つまり、「観光路線」ということであり、日常的にマリノスタウンなど横浜都心臨海部にある施設との魅力あるコラボレーションが欠かせない。

横浜アンパンマンこどもミュージアム 横浜F・マリノス

■ますますつながる、首都圏の交通網

 相互乗り入れの整備が進んでいるのは臨時列車だけではない。たとえば来年6月に東京メトロ副都心線(渋谷~池袋間)が開通するが、5年後の2012年には東急東横線とつながる予定なのである。そうなると元町・中華街から渋谷を経由して池袋、そして和光市(埼玉県)まで乗り換えなしに行けることになる。

東京メトロ13号線の路線名称が「副都心線」に決定!!

みなとみらい号 埼玉高速鉄道車両 また、相鉄線から都内へ直接アクセスすることも可能になる。まず相鉄線西谷駅付近~JR東海道貨物線横浜羽沢駅付近に連絡線が新設されることで、相鉄線から新宿方面への直通路線が実現。乗り換え不要となることで、たとえば二俣川駅~新宿駅の所要時間は現状の約59分から約44分となり、15分ほど短縮される見通しだ。そして同じく横浜羽沢駅付近から新横浜駅付近を経過して、東急東横線日吉駅付近にも連絡線が設けられる計画もある。湘南台から海老名から渋谷や目黒方面へ直通列車が走り、たとえば二俣川駅~目黒駅は約54分から約38分へと短縮される見通しだ(約16分短縮)。

JR東日本東海道貨物線横浜羽沢駅付近~新横浜駅付近~東急東横線日吉駅付近を結ぶ連絡線について(PDF)

 さて、気になる開通時期だが、昨年5月に報じられたところによれば相鉄とJRが2015年、相鉄と東急が2019年頃ということである。さらに、横浜市営地下鉄グリーンライン(4号線)も2008年3月末に開通予定だ。これは緑区のJR中山駅から港北ニュータウンを経由して、港北区の東急東横線・日吉駅へと約21分で運行するもの。横浜環状鉄道の整備を計画している横浜市としては、その一部区間として位置づけているものである。

相模鉄道 国土交通大臣から東日本旅客鉄道(株)との相互直通運転実施に関する営業構想の認定を受けました(PDF) 横浜市営地下鉄グリーンライン(4号線) 横浜環状鉄道について

「すぐわかるPASMOガイド」私鉄・地下鉄の駅にて配布中また交通網が整備されていく中で、その効果をより体感できるのがPASMO(パスモ)だ。3月18日より利用できるこのICカードで、首都圏を走るほとんどの私鉄や地下鉄、バスに乗ることができるようになる。従来のパスネットより大きく進化したのは、JR東日本の「Suica」と相互利用できる点。さらに、独自のPASMOオートチャージサービスなどの便利な機能を備えているのも魅力となっている。横浜市内では当初から私鉄各線と横浜市営地下鉄の駅でも購入・利用でき、また市営バスでは、最初はステッカーのあるバスでの使用、来年度中に全路線で対応する予定だ。

PASMO 共通ICカード乗車券「PASMO」3月に発売-電子マネー機能も

 パスネットなど磁気カードを何枚も持つのではなく、ICカードになることは、エコロジーの視点からも注目できる。カードの使い捨てがなくなるうえ、利便性の向上から公共交通機関の利用が促進されマイカーの利用が減れば、それだけ環境への負荷を減らすことにもつながるわけだ。

■CS追求で仕事の進め方も見直した横浜市交通局

市営地下鉄ブルーラインに設置されたホームドア こうした利便性はもちろんのことだが、公共交通事業の大前提としての安全性、さらに満足度といった面も忘れてはならない。横浜市交通局としては経営改革を進める一方で、利用者への安全対策としてホームドアの設置などハードの整備も進めている。あざみ野駅~センター南駅ではすでに設置が済んでおり、9月までにブルーライン全駅でホームドアの使用を開始するという。またハード面だけでなく、仕事の進め方を見直す「3C活動」を始めている。「3C」というのはChange(チェンジ=仕事を変える、マネジメントを変える、仕組みを変える、やり方を変える)、Challenge(チャレンジ=課題に挑戦する)、CS up(CSアップ=結果、お客様満足を高める)の3つの頭文字。

 3C活動を推進するために「J-up(ジャッキアップ・コミュニティ)」というWebサイトも生まれた。横浜市交通局ホームページとは別ドメインを持ち、交通局内の3C活動についての情報や取り組みのレポートなどを掲載している。小さな力で大きなものを持ち上げる」意気込みで、少しずつでも交通局が変わっていける「エンジン」となって3C活動を進めていこうという思いをこめ、「ジャッキアップ」と名づけたという。

J-upコミュニティ(ジャッキアップ・コミュニティ)

J-upコミュニティ(ジャッキアップ・コミュニティ)トップページ Webサイトには、「ベビーカーのバスでの利用」「防犯カメラの増設」「トイレを明るく」といった、利用者の声から局として取り組んで改善を行った情報や「待ち合わせが便利に。駅の改札口に愛称」「滝頭営業所の傘貸し出しの取組み紹介」など、現場でのアイデアが具体化した事例などの情報が順次掲載されていく。

 横浜市交通局にはCS推進リーダーが160数名いる。その中から有志が集って、月2回、この「J-up」の運営会議を行なっている。ここで行われている議論は、単にWebサイトのアクセスを稼ごうというものではない。「これまで自分たちはお客様に目を向けていたのか、という問題意識を皆が共有しています。利用増や収益アップという以前に、まずお客様から誉められることを目標としています。まずクレームをゼロにしましょうと」(横浜市交通局 電車部 電気課・岩澤忠史さん)。

■「議論する場」から新たなサービスが生まれる

 編集部が取材した日の会議では、こんな議論が行われていた。あるCS推進リーダーが、自らが運転する観光スポット周遊バス「あかいくつ」の音声合成放送(車内放送)に観光情報を盛り込もうと提案した。「次は、赤レンガ倉庫、赤レンガ倉庫でございます。赤レンガ倉庫は明治末から対象の初めにかけて完成した国の保税倉庫です。要所を鉄で補強したレンガ積みの頑丈な構造だったので、大震災や空襲にも耐えて生き残りました。その後、横浜市が一部崩壊した部分を修復し…」といった具合である。「運転中に『あれは税関かしら、県庁かしら』といったお客様の会話を耳にすることが多く、潜在的なニーズがあるのではないか」と考えて同僚たちと原稿案を作成したという。さらに、英語が得意な同僚の一人が英語版の原稿も手がけた。

観光スポット周遊バス「あかいくつ」

観光スポット周遊バス「あかいくつ」 運営会議の場では、この提案に対して「休日のみ観光案内を担ってくれているボランティアとの調整をどうするか?」「(放送が長くなることで)うるさいというお客様への配慮は?」「音声合成放送(車内放送)の担当にも協力を呼びかけよう」などの意見が出る。こうした課題に解決の道筋をつける一方で、「都営バスでは吉本興業の芸人が音声ガイドを読んでいる」といった関連情報が挙がってくる。何より、以前はこうしたアイデアがあって提案しても議論をする場がなかったというのだから、大きな進歩である。今も実現に向けて調整が進められているという。

 「J-upコミュニティ」というWebサイトは利用者への情報発信だけを目的としているのではない。利用者の声や現場の意見・アイデアを議論の場に乗せ、具体的なアクションにつなげるために調整し、実現させる。それらの情報やプロセスをできる限りタイムリーに掲載していく。情報が公開されることにより、局職員一人ひとりとも情報を共有することが可能となり、例えば一営業所での取り組みが全体に波及することもありうる。良いサービスであれば、利用者にとっての利便性も高まる。情報共有のツールとしても「J-upコミュニティ」というサイトの役割は大きい。

 普段、何の気なしに利用している交通機関だが、実はその裏で都内や近県の鉄道各社との相互乗り入れによる交通網の整備、顧客満足度の追求など、横浜の交通事情を充実させるためにさまざまな取り組みが行われているのだ。

辻内圭 + ヨコハマ経済新聞編集部

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