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起業で「ひきこもり」からの脱却を
自立支援に一役「若者リバイバルセミナー」

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■横浜市では10人に1人が無業状態

起業をテーマに若者たちの自立に向けた可能性を探るのが目的の「若者リバイバルセミナー」 「若者リバイバルセミナー」は、2月26日~3月28日に3回にわたって行われる。プログラムは第1回=若手実業家らによるセミナー、第2回=若者と商店街との協働による地域の経済振興やまちづくり、第3回=地産地消をテーマに起業、いずれも起業をテーマに若者たちの自立に向けた可能性を探るのが狙いだ。すでに終了した第1回目の講座では、「『ひきこもり』でも『ヤンキー』でも、NO.1になれればいい!」というテーマの通り、「ひきこもり」や「ヤンキー」など異色の経歴を持つ30歳代の起業家3名がパネリストとして招かれた。一方、受講者は15~39歳までの無業状態やニートの若年層、横浜の各地域で若者の自立支援に携わる指導者、それに就職活動中の学生など約60名。

ヤンキー社長が起業セミナー-若年層の自立を支援(ヨコハマ経済新聞)

 「ニート」や「ひきこもり」などの社会的・精神的な自立に困難を抱える若者の増加は深刻化しており、横浜市によれば市内在住の若者の約10人に1人が無業状態にあるという。横浜市ではこども青少年局が若者の自立支援に向けて2006年から様々な事業に取り組んでおり、同セミナーもそうした事業の一つだ。

横浜市が若者情報サイト「ヨコハマはぴねすぽっと」開設(ヨコハマ経済新聞)

 「ニート(NEET)」とは、1990年代に英国で生まれた言葉で、“Not in Education, Employment or Training”の略。つまり、仕事に就かず進学も職業訓練もしない若者で、15~34歳の未婚者と定義されている。「若年無業者」も「ニート」とほとんど同義だが、就業を希望しているにもかかわらず仕事に就けない若者も含むという点で、区別されることもあるようだ。また、「ひきこもり」はその名の通り、長期間にわたって自宅に引きこもり社会参加していない状態だが、稀に外出する「準ひきこもり」も含めると、彼らの抱える問題は多様である。若者たちが無業やひきこもりの状態に陥るまでの「経緯」についてもそれぞれである。義務教育期間中の不登校からそのまま引きこもってしまう、高校や大学の中退後に定職に就かなかった、学卒後の進路が決まらないまま無業状態へ、また就職後の解雇や離職による場合などがあるが、特に強い傾向をもつパターンはないという。また、「きっかけ」としても、いじめや対人関係の悩み、病気・怪我、受験や就職活動の失敗といった明らかな場合もあれば、本人や周囲にも原因が分からないケースも多い。

■若者を元気にすることで街を元気にしていく

 ニートの数を正確に把握することは難しいが、横浜に暮らす若者のうち現在でも約10人に1人の割合で無業状態にあると推定される(2006年 横浜市こども青少年局調査)。また、見過ごせないのは若年無業者の高年齢化である。25歳~34歳までの「ニート」及び「失業者」と15歳~24歳までのその推移を比べると、95年の調査時点ではほぼ同数であったものが、10年後の2005年には25歳~34歳の層がおよそ1.5倍となっている。確かに景気は回復し、新卒やキャリアの就職状況は改善した。しかし、企業が採用を抑制した90年代~2000年初頭に仕事に就かなかったり、就けなかったりした若者たちは、その後も自立のチャンスを与えられていない。履歴書の空白期間を延長させることでの自信の喪失が、より深刻なストレスを生み出している。

 しかし、彼らの就労意欲が低いわけではない。2006年末での横浜市による本人調査によれば、大多数が就労を希望しており、そのうち約半数は正規雇用であることを重視している。また、現在の状態に不安や焦りを感じている若者が半数近くを占める一方で、「将来の準備期間」と肯定的にとらえている層も4割近くに達している。このことだけでも、「ニート」や「ひきこもり」の問題に紋切り型の提言はありえないと言える。

 若年無業者は、現在もしくは将来において自立する意思を持ちながら、再チャレンジするきっかけに巡り合わないまま、その状態が長期化しているのが現状だ。街の活力となるはずの若者の10人に1人が無業状態という問題は、もはや個人や家族レベルのものではない。横浜市でも以前から「青少年相談センター」が不登校やひきこもりなどおおむね15歳~20歳代の若者を対象に相談活動を行ってきた。しかし、近年の社会的なひきこもりが長期化する若者の増加、高齢化に対応するためには、より多様なセーフティーネットを形成する必要がある。このような問題意識から、横浜市こども青少年局は2006年から30歳代の若者も含めた包括的な自立支援の取り組みを展開している。そこには、「若者を元気にすることで、横浜の街全体を元気にしていく」との壮大なビジョンがある。

企画運営に苦しい経験を持つ若者自身も携わった[

 たとえば、昨年8月に行われた「若者リバイバルフォーラム2007」は、現代の社会で自立して生きることに難しさを感じている若者であっても、再び生き生きと社会参加できる機会や場を地域社会とともに模索することで、都市全体を再生しておこうとするものだ。フォーラムにはニートやひきこもりといった問題を抱えた当事者だけでなく、多くの市民が参加。市外・県外からの参加者も4割近くを占め、活動する地域や職域が異なる多様な面々が具体的な課題について議論が行われた。企画運営には行政だけでなく苦しい経験を持つ若者自身が携わり、単なる有識者会議にはない具体的・実践的な提言がなされた。イベントの最後には、「横浜・神奈川若者元気都市宣言」がなされた。「一度、人生につまずいてしまった若者が、再び自信や力を取り戻す、生き生きと生きていく、そのことのきっかけとなる場や機会を創造することによって、若者たちだけでなく社会全体の確かな未来を築き上げていく」という文言で始まる宣言文。そして、次のような箇所がある。「しかし、私たちは決して諦めてはいません。私たちはまず、勇気を出して積極的な一歩を踏み出してみることから始めます」。

横浜でニート、ひきこもりを考える「リバイバルフォーラム(ヨコハマ経済新聞)

■起業家のイメージを覆す異色の経歴

 さて、冒頭でも述べた第1回目の「若者リバイバルセミナー」だが、コーディネーターを務めた横浜ベンチャーボート所長の野竿達彦さんの「皆さんの起業についてのイメージを変えて欲しくて、今日のパネリストをお招きした」との言葉の通り、パネリストとして参加した3人の起業家たちの経歴もなかなか異色だ。従来の起業家のイメージを大きく覆すものだと言っていいだろう。

横浜ベンチャーボート

 半導体メーカーの「テクノライズ」の岩田昇社長は、14歳からツッパリの道へ。高校卒業と同時に親からの金銭的援助もないまま自活を迫られ、まさにゼロからの出発。スーパーに就職するが2年で辞め、20歳で外資系の半導体メーカーに再就職する。英語も半導体に関しても全く分からなかったが、「ツッパってるから、負けるのはイヤだ」と猛勉強。26歳にして、子どもの頃からの夢であった起業を果たした。

テクノライズ株式会社

「テクノライズ」の岩田昇社長(右)と「アナザーブレイン」の久田智之社長 一方、ひきこもりの経験を持つのが、携帯電話ツールの開発などを手がける「アナザーブレイン」代表の久田智之さん。中学2年の時に「大人の言っていることが分からない」とひきこもりが始まる。名門高校に合格するが1カ月で再びひきこもりへ。「とりあえず生きている状態」で、現在もその頃の記憶はないそうだ。ひきこもってパソコンを触っていたところ、システム開発が性に合っていたため仕事を請ける。20歳を過ぎて大学進学も考えるが、受験勉強が辛かったことと、仕事の受注が増え青色申告がきっかけとなり25歳で起業。

株式会社アナザーブレイン

 催眠心理療法やカウンセリングを行う「ふじまる」の近藤ひかる代表も、ひきこもり経験の持ち主だ。近藤さんは、17歳の頃にうつ病を発症。対人恐怖症もあり、就職をしても人間関係でトラブルが続き、度重なる転職を余儀なくされる。自殺も考えたが、自然と向き合うべく奈良県で農業を始める。そこで心身セラピストと偶然出会い、生まれて初めて「もっと話を聞いてほしい」という感覚が生まれる。そして、同時にセラピーが自分の天職だと気づいたのだという。

NLP催眠心理療法ふじまる

■起業でひきこもりから脱却してモテるようになった?

「ふじまる」の近藤ひかる代表(右)と横浜ベンチャーポートの野竿達彦所要

 セミナーの前半は、パネリストたちによるセッション。参加者の大多数を占める無業状態の若者を前に、最も辛かった時期や親との関係、起業のきっかけなどについて赤裸々に語られた。コーディネーターの野竿さんの軽妙な進行と、キャラクターも語り口も全く違う3人のストレートな発言で会場は熱気に包まれる。今では過去の自分を分析し、若者たちの参考になればと言葉を尽くすパネリストたちであるが、家族との軋轢のくだりでは辛く長い時間の重さが滲み出る。一方、起業の醍醐味についての質疑応答では「組織で人に使われるのではなく、休みの日だって何だって自分で決められる」(近藤さん)、「会社を作ったということが、大きな自信になる。それは『何でもできる』という勘違いに近いかもしれないが、その勘違いが前進のパワーとなる」(岩田さん)、「男にも女にもモテるようになった(笑)。常に仕事のアイデアに結びつくアンテナを張っているせいか、普通のサラリーマンとは次元の違う話が面白いようだ」(久田さん)と語り、学歴や組織に寄りかからずに生きる現在の状況に自信を覗かせた。

参加者たちの反応も上々だった

 そして、起業に付きもののリスクについても、久田さんが「自分は学歴も経歴も全くない、ゼロからどころかマイナスの状態だった。その分、失うものはなかった。リスクを背負うことへの抵抗は少なく、興味のあることをするだけだった」と語れば、コーディネーターの野竿さんも「リスクという言葉に怯えてしまうが、現実的な自分のリスクを列挙するといい。すると、思ったほど怖いことはなかったりする。『ひきこもり』という迂回をするパワーのある方たちは、普通では考えられない才能を持っている人も多い。そういう能力を生かしてニッチな分野で開花してもらいたい」と、起業・ベンチャー支援の専門家らしいアドバイス。さらに借金をせずに始める「身の丈起業」など、横浜ベンチャーポートの相談体制に関する補足を加えた。1時間以上に渡ったセッションは最後まで熱心に耳を傾けられ、「講師の方々がそれぞれ個性的で話を聞いていても飽きなかった」「起業家当事者が講師となってざっくばらんに話してくれる点が珍しかった」などと、参加者たちの反応も上々。

「ハマの社長を2倍に増やす」がスローガン。官民一体の起業支援モデル「横浜ベンチャーポート」(ヨコハマ経済新聞)

■自立に悩む若者たちと行政が初コラボ

 後半のグループディスカッションでは、参加者全員が3グループに分かれ講師を囲む形でフリートークが行われた。「起業に必要なものとは?」「ゼロからの人脈の作り方は?」「対人恐怖症の克服は?」「人並みな生活とは?」といった具合に、質問も起業に関するものからひきこもり体験に関するものまで多岐に渡った。20歳代の女性は、「ゲストだけでなく、参加者の発言にも賛同できるものが多かった」と話す。ただ、日々のひきこもりの状態からかなり無理をして参加したメンバーにとって、グループトークは負荷が大きいようでもあった。「ひきこもっている人々にとっては、『外に出る』ことが第一関門。その話をもっと聞きたかった」「『がんばる』とか『勇気を出す』ことより、周りの助けてくれる人々に身をゆだねる感覚が大事だと思うが、その点で少し違和感があった」などの意見もあった。

横浜市こども青少年局では若者の自立支援に向けて2006年から様々な事業に取り組んでいる

 主催者側も熟知していることではあるが、自立支援に画一的なプログラムはありえない。若者の背景や抱えている苦しみに応じて、それぞれに適したサービスを柔軟に提供していくことが必要である。そして、多様なプログラム提供という観点からも、今回のセミナーでひきこもりからの脱却の手段として起業の可能性を示唆したことは有意義ではなかっただろうか。さらに特筆すべきは、ひきこもりの若者たちが単にセミナーを受講するだけでなく、彼ら自身がセミナーの運営スタッフとして参加している点。これは昨年夏の「若者リバイバルフォーラム2007」に引き続いてのもので、セミナーのプログラム作りや参加を呼びかける横浜市こども青少年局の自立支援サイト「FOR YOU」の編集、会場の設営など、支援を必要とする多くの若者が支援側の仕事に加わっていた。中でも「FOR YOU」は、自立に悩む若者と自治体が協働で運営するという全国初の試み。編集局ではスタッフの自主性が尊重され、この活動によって少しずつ自分らしい生き方を取り戻している若者もいるという。

横浜市こども青少年局 青少年自立支援サイト「For You」

 3月28日には、3回目の若者リバイバルセミナーが行われる。タイトルは「私たちが結びつける、都市農業と街」~地域資源としての「農」を活かした起業の可能性。横浜でも「地産地消」の社会システムをつくっていく取り組みが、民間・行政の双方で始まっている。このセミナーは、若者が都市農業と“まち”を結びつけ、地域資源としての“農”を活かし、様々な形で起業・就労していくことで、農家や企業、小売店、消費者といった多様な主体の顔が見える生産と消費のネットワークを都市・横浜において形づくることの可能性について考えるもの。コーディネーターにNPO法人よこはま里山研究所の吉武美保子さんを迎え、パネリストに保土ヶ谷区野菜生産農家の苅部博之さん、馬車道駅近くの地産地消をテーマにしたカフェ「80*80」の赤木徳顕さん、NPO法人ユースポート横濱の下山康博さんらが参加。「若者の起業と地域再生」というテーマで、フリーデスカッションも行われる。

横浜の若者から日本を元気に!(横浜地域SNSハマっち!コミュニティ)

 働く意志さえあれば、誰もが生き生きと働き続けることができる生産や就労の場を身近な地域にどのように生みだしていったら良いのか、また、それをテコにして横浜の都市圏内で人・モノ・サービス・カネ・情報が自足的に循環する社会・経済の仕組みをいかに創り出していくかという課題において、起業マインドを持った若者の地域を元気にする取り組みへの期待は大きい。

 今回の「若者リバイバルセミナー」について、横浜市こども青少年局の関口昌幸さんは次のように話す。「自分が夢中になれる得意分野を磨き、仲間と共に社会を変えていこうという志をもった新しいタイプの起業家が、この横浜の街から生まれて欲しい。今日のセミナーが、その第一歩になってくれれば」。

平岩理恵 + ヨコハマ経済新聞編集部

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