日本でもさまざまな分野から注目を集めている「ワールド・カフェ」とはどういうものなのだろうか。今回のファシリテーターであり、日本において第一人者でもある香取一昭氏によれば「『集合知』を引き出す話し合いの手法の一つ」だという。
「ワールド・カフェ」は1995年に、アメリカの企業やNPOの支援を行っているアニータ・ブラウン氏とデイビッド・アイザックス氏によって、開発・提唱された。現在、この「ワールド・カフェ」の考え方や方法論は世界中に普及して、NPOや市民活動、ビジネス、政治、教育などさまざまな分野で活用が進み、既に数万人もの人々が体験しているという。「知識や知恵は、管理されがちな会議室で生まれるのではなく、人々がオープンに会話を行い、自由にネットワークを築くことのできる"カフェのような空間"でこそ創発される」という基本的な考え方に基づいている。
この手法は、リラックスした雰囲気のなかで、一人ひとりの力を最大限に引き出し、そこからグループ全体の意見へとつなげていく点に特徴がある。結論を出すことでなく、あくまでもアイデアを出すことが目的。そのために話し合い、話し合いを記録することに集中する。そして、そこから新たな方向性が自然に生まれるのを待つ、というプロセスを重視する。
今回の横浜のプロジェクトにもかかわる香取氏は、開催にあたり「この横浜というまちの魅力を存分に、そして対等な立場で語り合ってほしい。『まじめな雑談』『生産的なおしゃべり』を楽しみながら、参加する事の意義をまずは感じてほしい。」と話す。
自律性・自主性を重んじてクリエイティブな雰囲気の中で個人の発想を導く。強制を感じさせず、一人ひとりの力を最大限に引き出し、そこからグループ全体の意見へとつなげていくところが特徴。その場ですぐ結論を出す必要はなく、あくまでもアイデアを出すために話し合い、それを記録する。そこから自然に生まれる新しいプログラム、アクションプランを待つというユニークな手法だ。
また、ワールド・カフェに続いて5月から実施が予定されているのが「市民つながりインタビュー」だ。市民が1対1で深く対話を重ねることで、都市ブランド構築に主体的に多くの市民が参加することを可能にする手法だ。「1000人ワールド・カフェ」に参加するメンバーを起点とし、1人が5人以上に30分程度のインタービューを実施する。インタビューを受けた人が、さらに5人にインタビューをしていくことで数万人規模への展開を目標としている。
ここでは「アプリシエイティブ・インクワイアリィ(AI:Appreciative Inquiry)」という、1980年より米国のシカゴやインド、ネパールなどで実績をあげている大規模な市民参加型の組織開発手法を用いる。
今回の「イマジン・ヨコハマ」プロジェクトで、「市民つながりインタビュー」を担当する、株式会社 AIコンサルティング・ジャパン代表取締役の松瀬理保氏によると「1対1で相手の体験や思いに耳を傾け、人の強みや可能性を引き出す手法」だという。松瀬氏は「横浜にまつわる印象深い経験を呼び起こしながら対話を深め、『思い』と共に未来への『つながり』をつくっていきたい」と話している。
この横浜市の「都市ブランド」を市民の思いと力で作っていくプロジェクトには、すでに学生、就労者、主婦をはじめ、さまざまなライフステージの市民ボランティアが、横浜全域から参加している。「イマジン・ヨコハマ」は、横浜市に対する市民の愛着や誇りを今一度再確認し、国内外の人々や企業が感じる魅力の源泉となる横浜の「都市ブランド」を、多様な市民の参加でつくりあげていくということを重視したプロジェクトだ。参加を決めた市民の「動機」を探ってみると・・・。
・「横浜への愛着が年々強まる気持ちをおさえられず…。未来へ残す横浜の形、その形成に参加したいと思います。」
・「生まれも育ちも横浜で自分を育ててくれたこの街が大好きです。同じ思いを持つ住民の方と横浜を盛り上げ、あまり知られていない街の新たな一面にも光を当てていきたいと思います。」
・「1959年生まれなので、私が横浜で生まれた時が開港100周年、横浜に住み50年、開港200年の時にすばらしい横浜を残したいので参加します。」
・「ワークショップという手法に興味を引かれました。意見の違いが『豊かさ』に転じるような関係性をつくっていけたらと常々思っています。また、地域をよりよくしていくためのビジョンをボトムアップで作り上げていく過程を体験したいと思っています。」
・「『都市ブランドを創る』というアイデアに魅力を感じました。」
・「Y150の節目の時に、市民の一人としてファシリテーションスキルを活用し多くの市民との意見交換を楽しみたい。」
・「定年後、今まで余り御縁の無かった地元横浜市内でボランテイアとして残る力を使いたいと考えていたところでした。開港150年という節目の年に出来ることを何かしたいと考えています。」
参加者の思いは多様である。今回ボランティアとして参加したコアメンバーは、「知の集結」という貢献を果たしながらも、横浜という都市のまちづくりを『自分ごと』として持ち帰った方も少なくないだろう。5月9日に予定されている、日本最大規模のワークショップ「1000人ワールド・カフェ」においても、市民のリーダー的存在として、よりよい横浜づくりの一端を担う役割が期待されている。
また、「イマジン・ヨコハマ」プロジェクトに参加するレギュラーメンバーの募集定員は800人。現在も参加者は募集中で、オフィシャルサイトから登録が可能となっている。ワークショップに限らず、参加できるプログラムも数多く用意されている。
「ヨコハマの持っている感性イメージを探る!」という「ヨコハマ イメージ コレクターズ」では、4月28日に開幕する「開国博Y150」の会場で、来場者から市内外の方が持っている、横浜市に対する感性的なイメージの収集活動を行う。
参加者それぞれが住む地域や所属するコミュニティなどで、横浜への想いを語り合う「出張ワークショップ」、「ひとりひとりのイマジン・ヨコハマをリポート」する「イマジン・ヨコハマ レポーター」は、活動にかかわる中で体験したこと、感じたことをリポート、専用のブログに投稿するインターネットのアクション。
横浜市18区には、365万9千人、156万7千世帯(2009年4月1日現在)の市民が住み・暮らしている。学生からシニアまで、ライフスタイルも価値観もさまざまな方が、「横浜」というキーワードでつながり、意見を交換し、互いを認識していく機会を作るこの「イマジン・ヨコハマ」。
「ワールドカフェ」や、「アプリシエイティブ・インクワイアリィ(AI)」などの新しい方式を、都市ブランドづくりに取り入れるという意欲的な取り組みをはじめた横浜市。横浜開港150周年の絶好の機会にはじまるこの展開が市民に響き、大きな渦になっていくと、日本を代表する都市ブランド構築のモデル事例になっていくかもしれない。
横浜の未来は、言うまでもなく市民一人ひとりの手に託されている。「イマジン・ヨコハマ」の展開は、全ての市民が地域に誇りを持ち、愛着を再確認し、当事者意識を持って自分たちの街の未来をイメージするということを「あたりまえ」のことにしていくことができるだろうか。
ブランド構築の事業として、ロゴやコピーをつくることを最終目標とすることではなく、生活の中で、さまざまな人たちと、次の問いを繰り返し対話することから「住み・暮らしよい横浜」を、市民の手で創造するアクションが始まるのかもしれない。
---あなたにとって横浜はどんなところですか?
---あなたにとって横浜の自慢や残したいものは何ですか?
---あなたにとって横浜の未来はどんな姿ですか?
末木さゆり + ヨコハマ経済新聞 編集部