「開国博Y150」の大きな特徴は、市民参加型のプロジェクトを中心にイベントが作られているということ。ベイサイドエリアでは「市民協催」をテーマに、149団体と15区が参加し、多彩なプログラムを展開。ヒルサイドエリアでは「市民創発」をテーマに、自然環境の中で対話・参加・体験できる180以上のプロジェクトが7,000人を超えるメンバーにより展開された。
開国博Y150総合プロデューサーの小川巧記さんは「Y150の主体はあくまで個人です。まず『コ(個)』から始まる自分に気づき、自分が生きている場『ココ(此処)』にきづく。そして私というコがこのココというところで何ができるかという『ココロ(心)』に気づき、最後にそのココロをどう現実化できるかという『ココロミ(試み)』をつくっていくというもの。Y150では、この繰り返しのワークショップを展開しています」と話す。
市民ひとりひとりが自分の可能性に気づいてそれをプロジェクト化していくことで、自分にはいったい何ができるだろうかを考えていく。そうすることで、創造的市民による新しいムーブメントが、会場を中心に横浜の各地で起こっているのである。
小川さんは、Y150を通じて広がる運動について「異なるもの多様なものたちをつなげていく、そういうのが市民力。その市民の力を使って市民参加を実現するのが『開国博Y150』です。Y150は会場だけでなく、市内で展開されるイベントも盛りだくさんです。もっとプロジェクトを魅力的なものにするために、興味ある場にどんどん入っていって参加してもらいたい」とも話す。
個人の実践の場を提供しつなぎ合わせていくのがこの「開国博Y150」であり、参加者ひとりひとりがその過程を作り上げていく。横浜の街は、異なる価値観や文化を柔軟に受け入れて発展してきたからこそ、その共生力は市民のなかに生き生きと根付いている。その共生力を土台に「開国博Y150」で育まれる市民力は、決して一過性のものでなく、これからの横浜を作っていく上での新たな試みを生み出し続けているのである。
「開国博Y150」は、2,500人を超える市民ボランティアによって支えられている。4月28日から9月27日までの153日間休みなく開催されるこの大イベントにおいて、市民ボランティアの毎日の積み重ねは、まさに市民参加の最たる形として「開国博Y150」をひとつひとつ作り上げている。ボランティアセンターには日々たくさんの意見が寄せられ、それら市民の声を日々吸い上げ、実践され、「開国博Y150」は参加者の力によって成長しているのである。
市民ボランティアのメンバーは、「開国博Y150」に参加したきっかけ、この経験をこれからの横浜でどう生かすかについてこう語る。
「お客さんに喜んでもらいたいという思いがモチベーションになってやっています。他のイベントのボランティアと違うことは、ボランティア参加者が圧倒的に多いということ。それだけたくさんの人たちによってこの『開国博Y150』は作り上げられているのだと思います」(写真左:満岡重敏さん)
「市民として開港150周年に何か貢献したい、これをきっかけに横浜を見直したいと思い参加しました。会場ではボランティア仲間ともすぐに打ち解けることができて、とても雰囲気がいいです。この経験をこれからも生かして、市民の一人として意見を述べて行きたい」(写真右:宮田貞夫さん)
「もっと横浜について深く知りたい、横浜が何をやっているのか知りたいと思って。これをきっかけに横浜に対する理解が広がると思い参加しました。50年に1回のこの大きなイベントでボランティアをすることで、自分の興味あるものをより深く知ることができると思います」(写真中央右:板倉雅子さん)
「開国博が始まる3年前からコツコツ会場が作られていくのを見ていました。これだけ時間をかけてつくりこまれてきたのは本当にすごいと思います。Y150を通して生まれた新しい経験は、これからも子どもたちに引き継いでいかれると思います」(写真中央左:入間川裕子さん)
ボランティアメンバーから発せられる言葉には、どれも自分が参加することで横浜のために何かしたいという思いが表れている。市民ひとりひとりから溢れ出る行動力がこの「開国博Y150」を作り上げ、これからの新しい横浜を生み出す原動力となる。開港150周年で育まれたボランティアの市民力は、横浜を支えつづける軸として、開国博の会期中はもちろん、その後も横浜の各地で市民参加のムーブメントを作り出していくのではないだろうか。
開港150周年を機に育まれている市民参加の輪は、もちろん「開国博Y150」の会場内だけにとどまるものではない。会場の外で行われてきた市民参加イベントの中でもきわめて大きな規模を誇るものが、市民参加演劇「DO-RA-MA YOKOHAMA 150(ドラマヨコハマイチゴーマル)」だ。
市民の芸術共同体験の場として、市民自らの手で舞台公演を開催している同プロジェクトの参加者は、子どもから大人まで総勢500人を超える。
製作担当で「劇団かかし座」の座長である後藤圭さんは「横浜に誇りを持ち、未来を考えることがこの劇のテーマです。ひとりひとりから出てきた横浜のイメージを集めて、みなさん仕事や学校があるなか、ものすごい時間をつぎこんでこのプロジェクトをつくってきました。その1つ1つがドラマで、ドラマの上にドラマが作られていく。150周年の横浜を祝うにはこれが1番だと思いすすめてきました」と話す。
公募で集まった「クルー」と呼ばれる出演者やスタッフが、「杉田」「都筑」「サンハート」「のげ」の4チームに分かれて行ってきた公演は、開港当時の横浜から、未来の横浜までを想像力豊かに表現したもの。5月16日から7月26日にかけて行われてきた全12公演では、各地で満席が相次ぐ盛況ぶり。8月29日と30日に行われた最終公演では、4チームのメンバー500人が一同に会し、約1年かけて作り上げられてきたドラマの集大成が表現された。
後藤さんは「市民演劇としてもなかなか例を見ないものすごい規模。横浜という1つの舞台の上に集まって、自分は『はまっ子』でありたいという思いがみなさんあるのではないでしょうか。ファンタジーは、実際には見えないものを見えるようして、本来の姿を見えるようにするということ。『DO-RA-MA YOKOHAMA 150』は、まさにファンタジーそのものです。本来の横浜はこうであったということを見せる、その創造の過程に皆さんが参加したことが大きい」と話す。
市民の想像力と横浜に対する思いによって、横浜のこれまでとこれからが具現化され、「DO-RA-MA YOKOHAMA 150」は横浜の歴史と未来を見つめなおす象徴的な取り組みとなった。500人を超える市民によって一から積み重ねられたドラマは、まさにこれからの横浜の歩みを映し出すものである。
市民演劇「DO-RA-MA YOKOHAMA 150」最終公演-4チーム500人(ヨコハマ経済新聞)
市民演劇「DO-RA-MA YOKOHAMA 150」が各地で満員御礼に(ヨコハマ経済新聞)
開港150周年”は魅力的な舞台装置? 横浜の街を舞台に活躍する市民演劇人たち(ヨコハマ経済新聞)
開港150周年を新たなスタートに、次の50年を作っていく中心となるのはやはり子どもたち。そんな子どもたちが、開港150周年を機に描き上げた壁画がある。神奈川区在住で国際的に活躍する画家の西森禎子さんが中心となって、市内在住の小・中・高校生84人が、神奈川スケートリンクの反町公園側壁面に創造的な巨大壁画を制作したのである。
西森さんは、20年前にメキシコで、横浜の子どもたちを連れて現地の子どもたちと一緒に壁画制作を行ったのを最初に、中国、アメリカ、カナダ、オーストラリアなど世界各地で子どもたちと壁画を描き、その心を絵画で表現し育んできた。
西森さんは「子どもの心を掴んで引き出すことで、2度と同じ絵にはならないんです。1つの壁画が誕生して、世界にはばたいていく。この壁画は子どもの心を育てます。子どもたちが協力しあって絵を描きながら、調和を自然と学ぶ。みんなあっての壁画なんです」と話す。
7月下旬に約5日間かけて行われた神奈川スケートリンクの壁画制作も、はじめは雨が続き、塗った絵が次の日には流れ落ちているという苦労にも見舞われた。しかし、子どもたちは絵が流されてもめげずに、またはじめから自分たちの絵を描き進めた。その努力と思いが、6メートル×46メートルの巨大壁画の力強いタッチに刻まれている。
西森さんは「開港150周年を祝うためのこの壁画を見て、市民の心が育ち、元気になってもらいたい。壁画のテーマは『誕生、いま、そして未来』。この壁画を見て、未来に向けて希望ある社会をつくってほしい。子どもたちが最後までやり抜く心、みんなと協力してやり遂げるということが、この壁画には塗り込められているんです」と話す。
子どもたちは、この絵を見ながら成長し、夢と希望をもってこれからの50年をまた作り上げていく。開港150周年を機に育まれた子どもたちの市民力がこの壁画には刻まれ、子どもたちがその思いを胸に成長することで、横浜を希望ある都市として世界に発信していくだろう。
「開国博Y150」も、9月27日に向けていよいよラストスパート。開港150周年を機に各所で起こっている市民参加の輪は、子どもから大人までそのひとりひとりの心に根付き、これからの横浜を創造する動きが広がっている。
「開国博Y150」にかかわる情報を発信するサイト「市民でつくるイベントナビ」では、これまでに起こった市民参加の成果や、まだまだこれから参加できるたくさんの市民参加型プロジェクトの情報を発信している。また、イベント情報を投稿することができるので、ひとりひとりが自ら新しい市民参加のカタチを発信し積み重ねつづけている。そこに集約された市民参加のムーブメントはこれからも横浜の各所で活動の輪を広げていくはずだ。
今まさに横浜の各所で行われている取り組みの数々は、新たな市民参加のムーブメントとして、これまで以上に横浜の街から多様な文化や情報を発信していくだろう。そして、これらは一過性のものでなく、地にしっかりと根を張りつづけ、市民ひとりひとりの手によって実践されていく。多様な土地から集まった文化が現在の横浜にしっかりと残っているように、市民参加によって作り上げられる新しい文化は、横浜の街に確かに刻まれ継承されていく。開港150周年を機に育まれた「市民参加」の力は、新しい横浜を作る原動力として、これからも広がりつづけていく。
古屋涼 + ヨコハマ経済新聞編集部