先進的な映画監督やアーティストの作品や様々な研究調査の記録映像を見ることがてきる豊富な展示、そして映像表現の面白さをに自ら触れてみるワークショップ、さらに国内外の研究者やアーティストが集い、未来の映像表現やコミュニケーションについて語るフォーラム、そしてアーティストの制作現場や会期中の放送にもスタッフとしてチャレンジできるというラボスペースと、映像の魅力を思うがままに体感できるイベントとなっている。
インターネットが拡大し、浸透した今、You tubeをはじめとする映像を使ったコミュニケーションが誰でも発信でき、インターネット接続環境があればどこにいても受信できる環境というものを誰もが共有できる時代となった。つまりは誰でも映像を「つくる」側になれる時代なのだ。よって、テレビなどを通して伝えられるものとは違う映像表現、まったく新しい映像のコミュニケーションが日々生まれているのだ。「既存のメディアはどうなるの?」「新しいメディアって?」「そもそも今の映像技術ってどんなことができるんだろう?」この映像祭で、最先端の映像の姿に触れ、いろんな問いを見つけ、答えを探ってみてほしい。
映像作品の製作を体感できるイベントとしては、大阪の映像NPOのremoがプロデュースする、3時間で映像を1本作ってしまおうというワークショップ「ご近所映画クラブ」がある。あらすじを作って撮影、出演もし、DVDを持参して持ち帰ることができる。カメラマンがファシリテーションを行うという、映画監督・ミシェル・ゴンドリーのメソッドにのっとったワークショップである。
横浜に世界の多様な映像が集まる「ヨコハマ国際映像祭」が開幕(ヨコハマ経済新聞)
ヨコハマ国際映像祭2009「CREAM」のメインとなる展示会場はBankART Studio NYKと新港ピア。旧日本郵船倉庫を転用したBankART Studio NYKは、無機質なコンクリートとカラフルなディスプレイが独特の雰囲気を醸しだし、映像体験をムーディに演出している。中でも、会場に入ってすぐの大スクリーンに映し出される音楽とビデオによる四重奏は印象的。元ミュージシャンというChristian Marclayというアーティストの展示「Video Quartet」なのだが、様々な音の中にいろんな音の重なりを観る者は見いだし、それに重なる映像の断片の四重奏に、さまざまな思いを馳せる。与えられる秩序ではなく、無秩序な中に自分でメロディーとストーリーを見つけてゆく、現代的な感覚の映像体験だ。
続いて新港ピアでは、“肉眼では見えない星まで投影できる”という移動式プラネタリウム「メガスターII」を楽しめる。累計25万台を超える大ヒット商品となった、セガトイズと共同開発した世界初の光学式家庭用プラネタリウム「HOMESTAR」シリーズでも話題を呼んだ大平貴之氏によるプラネタリウムである。今回はさらに、作詩・谷川俊太郎による麻生久美子の詩の朗読も流れるという特典付きでの投影である。その他にも、巨大な会場を生かし、映像の起源とも言われている影絵を大スクリーンで楽しめるほか、さまざまなワークショップやトークショーが開かれている。
このメインの展示会場は、移動もさほど遠くないので、2つを同時に回ってみることをオススメしたい。BankART Studio NYKはややアート系の楽しみ方を提案、そして新港ピアはとにかく映像を全身で楽しませてくれるエンタメ感覚にあふれており、観る者を決して飽きさせない。
「CHANNEL CREAM」
同映像祭が力を入れているのが、新港ピアに設置されている映像祭のオリジナルメディア「CHANNEL CREAM」。Youtube、stickamなどを通じて放送されている。プロでなくても、世界中のどこへでも、いつでも自分たちのアクションを伝えることができるインターネットの可能性に着目したこの映画祭だけのメディアである。
このオリジナルメディアについて、同映像祭のディレクター・住友文彦氏は、「専門的な仕事していないひとも関わってメディアづくりをしている。今、映像というメディアは過渡期にある。(You tubeなどCGMの台頭が顕著になり)本当にプロのための映像の生産・流通の時代が終わろうとしていると考えられる。だからこそ、(こうした映像祭をやっている側からすれば)伝えることがはあるはずだ。」とコメント。大きなメディア、マスメディアで伝えられているのは、メディアの大きさのわりにごく少しのことしか伝えられていない現状に、映像に関わる自分たちのできるアクションを模索しているとの考えを示した。
また、「CHANNEL CREAM」のコンテンツには、映像について多数のキャリアを持つ住友氏の、ガイドツアーもある。分かりやすく、そして引き込まれるトークとともに映像祭を回れば、理解と楽しみもより一層深まる。
同映像祭のサテライト会場として、野毛山動物園と黄金町バザール 1の1 スタジオがある。これらは、横浜という街で暮らしたり、あるいは訪れたりしている日常生活の延長上で、映像に親しんでほしいというコンセプトから生み出された。
まず野毛山動物園だが、週末に家族が訪れ、動物たちとふれ合う場で、日本人若手アーティストの映像作品展示が行われるという、ユニークなメディアミックスで魅せる。かつての同じ動物園の人気者だったシロクマが住んでいた「しろくまの家」で行うインスタレーションなど、地元客にも嬉しいところだ。
続いて黄金町バザール 1の1 スタジオでは、マレーシアの作家、クリス・チョン・チャン・フイと森永泰弘による、黒澤明監督の作品「天国と地獄」をモデルにした新作「HEAVENHELL」が上映される。なんと黄金町は、この「天国と地獄」の「地獄」のモデルとなった場所だったのだ。地獄とあって、住人はしかめ面が否めないかもしれないが、それでも気になるというのが人情である。気になったら、すぐ会場へ。スクリーンに新しい黄金町が見えてくるはず。
横浜らしい特色あふれる場の創造がなされているサテライト会場。足を運ぶ価値があるのは間違いない。
黄金町でアーティストらが作品公開-黒澤監督「天国と地獄」のオマージュも(ヨコハマ経済新聞)
来る11月29日にフィナーレを迎える同映像祭。ファイナルに向け、この週末はイベントが盛りだくさんである。
もうひとつのメーン会場であり、上映を主に行う東京藝術大学大学院 映像研究科 馬車道校舎では、芸術表現の領域を越えた新しい映像表現が私たちの今後の社会とどのように関わっていくのか、その問いかけともなるオールジャンルの映像コンペティション「CREAMコンペティション プログラム」の上映ほか、さまざまなプログラムが充実。映像はやっぱりじっくりスクリーンで、という方にオススメだ。
そして新港ピアシアタースペースでは様々なジャンルの音楽に参加しながらも、映像アートとも親和性の高いアーティストたちをセレクトしたオールナイトライブ「EXPERIMENTAL EXPERIENCE」が11月28日に開催される。参加アーティストである「渋さ知らズ!」ほか、映像作家やVJとのコラボレーション、ダンサーとの競演が楽しめる、映像祭ならではのライブだ。
映像というものがいかに様々なエンターテインメントとコラボレーションできるか。その新しい地平の開拓を、素晴らしいアーティストと、そしてさまざまなシーンと模索する。連休のイベントには、ぜひぜひ足を運んでもらいたい!
森王子 + ヨコハマ経済新聞編集部