2004年、東京の魅力を紹介する人材育成を目的に東京商工会議所が実施した「東京シティガイド検定」を皮切りに、ここ数年で全国的な広がりをみせているご当地検定。神奈川県内でも、地域活性化や地域に愛着を持ってもらうきっかけづくりとして「小田原まちあるき検定」、「鎌倉検定」、「川崎産業観光検定」、「黒船検定」と、バラエティーに富んだご当地検定が展開されている。2007年3月にスタートした「かながわ検定」も、その一つだ。
神奈川県内、特に横浜市は開港150周年の歴史からもうかがえるように、古くから国際交流が盛んに行われた町である。そのため海外からの玄関口として多くの物品や技術などが流入され、当時、日本にはまだ存在していなかったガス灯、アイスクリーム、ホテル、鉄道、写真館、クリーニング、テニスコートなどが広がっていった。そういった背景から、横浜には多くの“発祥の地碑”が存在している。神奈川・横浜は、こういった密度の濃い歴史文化や建造物、美しい海岸線など観光資源や自然景観に恵まれている。その素晴らしさを多くの人に知ってもらいたい、学んで愛着を持ってもらいたいという思いから、“知るを愛し 学ぶを楽しむ”をキャッチフレーズに「かながわ検定」は創設された。主催・運営は、横浜商工会議所、神奈川新聞社、tvkからなる「かながわ検定協議会」が行っている。
「かながわ検定」は、神奈川県全域の情報を網羅した「かながわ検定・神奈川ライセンス(隔年1回実施)」と、横浜地域のみを対象とした「かながわ検定・横浜ライセンス(毎年1回実施)」の二本構成となっていて、これまでに神奈川ライセンスは2回、横浜ライセンスは3回実施されている。受験者数は、総合で約6500人にのぼっている。では実際に、どのような問題が出題されているのか。「かながわ検定・横浜ライセンス」の過去問題が収録されている受験参考問題集「よこはま百問2009」から、例題をいくつか見てみよう。
◆3級問題:「生活・文化」分野より
横浜出身の人気デュオ「ゆず」は、横浜市立のどの中学校出身か。
1:潮田中学校 2:岡野中学校 3:岡村中学校 4:本牧中学校
北川悠仁と岩沢厚治からなる人気デュオ「ゆず」は、共に横浜市磯子区岡村の横浜市立岡村中学校出身。3年生で同じクラスになり1996年に「ゆず」を結成した。
<答>3:岡村中学校
◆2級問題:「自然・環境」分野より
かつて、横浜地域では田んぼで普通に見かけたのに、最近はほとんど見かけないカエルはどれか。
1:ヌマガエル 2:トウキョウダルマガエル 3:カジカガエル 4:モリアオガエル
関東平野の水田を中心に生息。戦後の土地開発により生息環境が激減し、現在は、ごくわずかな地域に残存、絶滅危惧?類に選定されている。
<答>2:トウキョウダルマガエル
◆1級問題:「歴史」分野より
日米修好通商条約第3条により、貿易のために港と町を開く場所を( )といい、函館・神奈川・新潟・兵庫・長崎に設けられることになった。
条約では神奈川と兵庫が開港場に指定されていたが、実際には神奈川の一部として横浜が、兵庫の代わりに神戸が開かれた。横浜は条約の規定どおり安政6年6月2日(西洋暦では1859 年7月1日)に開港された。
<答>開港場(かいこうじょう)
さて、何問答えることができただろうか。問題からもわかるように、出題される試験分野は「自然・環境」「歴史」「政治・経済・港湾・交通」「社会」「生活・文化」「観光・もてなし」と多岐に渡る。その理由について、かながわ検定協議会事務局長の檜山洋二さんは、「歴史だけではなく、動植物の絶滅や観光資源などにも興味・関心を持ってもらいたいと考え、広い分野から出題しています。また、神奈川・横浜で起こった時事問題なども取り上げています」と話す。
問題の内容は毎年、かながわ検定協議会が専門家とともに吟味し作成。基礎的な知識を問う3級、やや高度な知識を問う2級、高度な知識を問う1級の3段階に分かれている。2級・3級の試験は四者択一のマークシート方式で100問、1級は記述式で50問がそれぞれ出題される。試験時間は90分。合格基準は全級ともに70点以上、合格率については、第2回「かながわ検定・神奈川ライセンス」は3級74.1%、2級27.0%、1級33.3%、第3回「かながわ検定・横浜ライセンス」は、3級61.1%、2級0.59%、1級100%となっている。
従来に加え、今年3月21日に実施される第4回「かながわ検定・横浜ライセンス」からは入門編として「4級」が創設される。小・中学生などのさらなる年齢層にも横浜の町を学んでもらい、愛着をもってもらうことが目的だ。試験内容は、従来級と同分野における初歩的・基本的な知識を問うもので、三者択一のマークシート方式で50問が出題される。試験時間は、小・中学生でも受験しやすいよう他級では90分のところを45分に短縮している。
問題のベースとなるのは、昨年の開港150周年を記念して市内の公立小学校で3年生以上に配布された「わたしたちの横浜」、公立中学校で配布された「わかるヨコハマ」の副読本2冊。これは、かながわ検定協議会と横浜市教育委員会がタイアップし、横浜銀行の協力を得て作成されたもので、いずれも横浜の歴史や文化、自然科学、産業社会などが紹介されている。現在、社会科や理科の授業などで実際に使用されており、今年も小学3年生、中学1年生に進級する2学年にそれぞれの副読本配布が予定されている。
「わたしたちの横浜」は、小学校中学年でも理解しやすく興味が持てるよう、全ページカラーでイラストや写真を多用し見やすくしている。文字も大きめで漢字にはすべてふり仮名が記載されているので容易に読むことができる
「わかるヨコハマ」は、開港から現代までの歴史が全体の3分の1を占めており、横浜の町の移り変わりが細かく記されている。「わかるヨコハマ」は県内の主要書店で販売されているほか、tvkが運営する情報サイト「tvkショップ」でも入手できる。
検定試験に向けて勉強するにあたり、受験参考図書や過去問題集のほか「かながわ検定・横浜ライセンス」の公式セミナーも充実している。
セミナーは大きく分けて3種類。フェリス女学院大学の教授や横浜都市発展記念館の研究員など、各分野における専門家が神奈川・横浜に関するテーマを語る「聴き得セミナー(平日ナイトコースと土曜コースの2種類)」、横浜シティガイド協会の協力で横浜のポイントを歩いて見学する「歴史を歩くwith横浜シティガイド」、模擬試験と専門家による解説を行う「直前対策セミナー」で構成されている。※「かながわ検定・神奈川ライセンス」と「かながわ検定・横浜ライセンス」では、セミナーの内容は異なる。
「昨年の11月・12月に行われた『歴史を歩くwith横浜シティガイド』には約100人の方が参加しました。横浜シティガイド協会の方がガイドとして横浜の観光ポイントなどを歩いて説明をしてくれるので、いろいろな発見がありとても面白いと好評です。たとえば山手にある洋館。実はすべて関東大震災で倒壊してしまったので、今ある洋館は別の場所から移築されたものや再建されたものなのです。ですから、当時の人が大震災の後に一生懸命復興を成し遂げて今の横浜があるのだなという事がよくわかります。そういった歴史の背景を知っただけで、これまで気に留めずに通っていた道や景色がちがって見える楽しさが見つかるのです」と檜山さんは語る。これらのセミナーは、検定を受験する人に限らず参加することができる。問い合わせは、「かながわ検定協議会」事務局(TEL 045-651-1719、平日10時~17時)。
「かながわ検定」は年齢、性別、学歴、国籍などの受験資格はなく誰でも受験することができる。では、これまでにどのような人が、どのような目的を持って受験をしているのだろうか。檜山さんに再び話を聞いた。
「仕事に活かしている方ですとタクシーの運転手の方。横浜の観光名所の造詣が深くなったことで、お客様を観光スポットに連れて行った際にも的確な案内ができるようになったそうです。また、そごう横浜店や横浜高島屋にある『横浜ちょこっと観光インフォメーション』で働くコンシェルジュの方は、横浜の観光スポットや名所などの紹介・相談を行う業務なので、学んだことが大いに生かされているようです。資格保持者であるという「証」を制服のバッジ着用やホームページ掲載することでアピールし、お客様からの信頼も得ているようです」。
珍しいケースでは、受験者が講師になった例もある。「かながわ検定・横浜ライセンス」の1級取得者となった横浜眞葛焼宮川香山記念館の館長、山本博士さんは、昨年の12月17日に「魅力尽きない宮川香山、そして横浜」(生活・文化の分野)というテーマでセミナーの講師を務めるという大役を果たした。
「自分の住む町をもっと知りたい」という目的で受験する人もいる。2007年に実施された第1回「かながわ検定・横浜ライセンス」で3級を取得した佐野光香さんだ。
「3年前に見たチラシで『かながわ検定』のことを知り、“横浜に住んで20年ほどになるけれど横浜のことを真に知っているのかな”と思い、受験することにしました。過去問題を解きながら公式テキストなどの本を読む勉強法を行ったところ、これまでは、“馬車道の名前の由来”や、“山下公園は埋立地である”などの部分的な知識だけしか知らなかったのが、系統だて広く知識を得られたことにより、町の移り変わりや変化していく過程を立体的にみることができました。それがとても楽しく、おかげで以前より町への親しみが深くなりました」と語る。
「かながわ検定」を取得した人には、「かながわ検定」カード型認定証が渡され、そのカードを提示すれば施設割引などの優待を受けることができる。2010年2月現在では、関内にある神奈川県立歴史博物館では、入館の際に受付で認定証を提示すると常設展・特別展の観覧料が団体割引料金に、南区にある横浜眞葛焼宮川香山記念館では、合格証のコピーまたは認定証を提示すると通常800円の入館料が500円になる。
「かながわ検定」が誕生して3年。検定を運営しているかながわ検定協議会は、前述の4級創設や副読本配布のほか、神奈川新聞やtvkでの広告掲載や、観光客と接する機会の多いデパートやホテルなどへ出向き従業員の検定取得を提案したり、インターネットから受験を申し込めるシステムに変更したりと、検定の輪を広げるために積極的な活動を行っている。今後の活動の展開予定を檜山さんに伺った。
「2007年に実施した第1回目のかながわ検定の際は、合格者に対して“合格者のつどい“を開き、神奈川・横浜のことについて市民が語り合える機会を設けていました。しかしそれ以降は開催していないので、今年はぜひ"つどい"を再開し、かながわ検定の存在とともに市民の輪がさらに広がればと思っています。また、横浜の歴史を学ぶようなセミナーやゼミに参加している大学生など、若年層への受験推進活動も行っていく予定です」県内にある他エリアのご当地検定との連携も模索中とのことだ。
ご当地検定取得にむけて勉強し知識を得たことで、「気にしていなかった日常の風景が違って見えた」、「(建物や碑などの)意味を知ったことで歩くことが楽しくなった」と語る受験生は多い。「それこそが『かながわ検定』を受ける醍醐味です」とも檜山さんは語っている。まさに、“知るを愛し 学ぶを楽しむ”である。
第4回「かながわ検定・横浜ライセンス」の試験日は3月21日。試験会場は横浜市立大学金沢八景キャンパス。申し込みはかながわ検定公式ホームページより(申し込み締め切りは2月16日まで)。
安代亮子 + ヨコハマ経済新聞編集部