「まちコン」とは各地の自治体および商工団体、商店街等との連携を図りながら、地域における出会いの場創出と、地域やまちの活性化を一緒に行おうという地域振興を目的とした数百人~千人規模の複合型イベントのこと。東京・下北沢の「シモキタラバーズ」、滋賀県・守山の「合コン・とりあえず・レボリューション(GTR)」、群馬県・前橋の「前コン」など全国各地で行われており、話題となっている。
なかでも、栃木県宇都宮市で開催されている「宮コン」は規模としても一番大きい。2004年から開始された「宮コン」は宇都宮市中心部の商店街「オリオン通り」をメインに、半径約300メートル以内にある飲食店を参加者が渡り歩き、たくさんの人との出会いや食事、お酒を楽しむ。宇都宮市の中心街も全国の地方都市同様にかつてのにぎわいはなく、シャッターを下ろす店が目立つようになり、そうした状況から抜け出すために企画されたという。
開始当初は170人しかなかった参加者が、今ではなんと1,500人と勢いはとどまることを知らない。街を盛り上げようと、同イベントに参加する飲食店は今も増え続けている。
このイベントに参加し、「自分たちの街でも開催したい」と思った若者がいた。横浜市旭区出身の渡邉大輔さんだ。
下北沢で大規模合コンふたたび-前回から規模拡大150人対150人に(下北沢経済新聞)
守山で「大規模合コン」-飲食店8店貸し切り、男女200人参加へ(びわ湖大津経済新聞)
渡邉さんは群馬県に住む友人に誘われ、「宮コン」に参加した。そして、合コンと地域振興を組み合わせたこの企画を目の当たりにし、感動したそうだ。
「なんといっても集客力がすごい。イベントの力というものを見せつけられた気がします」。渡邉さんはそのとき抱いた思いを口にする。そして、横浜でもこのイベントを開催したいと考え、友人の小川真輔さんらと共に関内まちづくり振興会に協力を求め、提案した。実は渡邉さん、関内地域では「横浜スタジアム」(横浜市中区横浜公園)にしか行ったことがなかったという。
関内は「大人の街」というイメージが強い。横浜スタジアムで試合やコンサートなどがあったとしても、若い人たちはそのまま素通りし、横浜駅周辺や都内に出てから改めて飲み直すことが多い。
「近隣店舗の皆さんにご相談したときは、『合コン』という名前の響きから、『出会い系のようないかがわしいものではないか』と訝しがる人が多くいました。関内という街のイメージもあるので、それを壊したくないという気持ちの表れだと思います。でも、説明していくうちに賛同してくれる店舗が増えていきました。『本当はなにかやりたい。関内を盛り上げたい』という気持ちを持った方々がたくさんいらっしゃるんですね」と渡邉さん。
「宮コン」や「前コン」は夜に開催されたが、「濱コン」は日中に実施。「濱コン」では日が昇っている間に関内のお店を知ってもらい、日暮れ以降は夜の横浜を楽しんでもらいたいという意図が込められている。
当日。約30人のボランティアスタッフは9時50分に集合し、準備を開始した。スタッフのほとんどは渡邉さん、小川さんの友人。スタッフの1人は「日本がこんな状況ですからね。地域のためになることがあれば・・・本当は、楽しそうだから参加したんですけどね」と笑顔で話す。
11時に「横浜国際ビル」1階駐車場(中区尾上町3)で受付を開始。最初はまばらだった参加者だったが、時が経つにつれて行列を作っていく。男性陣は早い時間から受付を済ませているのに対し、女性陣はぎりぎりになって集まる人が多かった。「なぜだろう」と思い、近くにいた女性スタッフに聞いてみると「女性はぎりぎりまでお化粧をしますからね」と答えてくれた。やる気の表れだ。
参加者は1店舗目のみ指定された店舗に向かう。開始時間の14時になるとそれぞれの店舗に就いたスタッフの乾杯の合図とともに、参加者は注がれたお酒を交わした。まだ、ぎこちない。
お酒と食事が進むにつれて、和やかな雰囲気になっていく。参加者のほとんどは横浜市在住。東京都や千葉県、埼玉県などの他県から参加した人も多い。15時を過ぎると、携帯電話同士を相手に向けて、赤外線通信で連絡先を交換している姿も見られた。
街には、通りを行き来する若い男女であふれた。地図を片手にお店をのぞきこんだり、異性へ気軽に声を掛けたり。道行く50代の男性からは「今日、関内に何があったの」と聞かれた。今までに見られなかった関内の風景がそこにあった。
参加店舗はこのイベントをどのように捉えているのだろう。
・morocca(中区相生町2)
「地域振興になっていいんじゃないですか。うちでも『婚活イベントやってよ』と言われること多いですから」
・オリヂナル ジョーズ(中区相生町3)
「思ったより若い人が多いですね。20年前だったら反対していましたが、関内の活性化になれば」
・関内 喜びの里(中区港町3)
「うちは昨年9月にオープンした新参者です。早く関内に溶け込みたい。お店同士のつながりもできて、素晴らしいイベントだと思います」
お店によってコンセプトやターゲットが違うので、それぞれの立場というものがある。しかし、どのコメントも関内という街をとても意識している。
夕刻になると、はじめは同性同士、小人数で回っていた参加者たちも、大きなグループの中で行動していた。終了時間の18時を過ぎても、街には若い人たちであふれていた。
今回の企画に協力した関内まちづくり振興会(中区相生町3)は昨年8月に設立した比較的新しい団体だ。会長を務める秋山修一さんは1958年から関内に構える秋山眼科医院(中区尾上町3)の院長。秋山さんはこの企画を聞いたとき、「これは渡りに舟だ」と思ったという。
関内地域には「関内を愛する会」という地域団体があったが、昨年4月に解散した。しかし現在、関内駅改築や横浜市役所庁舎の移転などの計画が進行している。このままではこういった計画に地元住民、地域商店の意見が反映されなくなってしまう。
秋山さんは「本当は若い人にやってもらいたかったんですけどね。街に恩返しするつもりで一肌脱ごうと思いました」と話す。
日中は官庁街、夜は繁華街と関内には多種多様な顔を持っている。昔は「丸の内と銀座が一体化したような街」というある種のステータスがあった。ところが、バブルがはじけ、高級料亭が立ち行かなくなり、街の形態が一変した。横浜を代表する中心街だった当時のにぎわいは失いつつある。今はマンションも建ち、オフィス街、官庁街、飲食街とは別に、住宅街の側面もある。
「『まちコン』というイベントを彼らから聞いた後、『宮コン』が取り上げられたテレビ番組を見ました。参加者の顔がとても楽しそうだったんですね。これはお店にとっても悪い話じゃない。関内に持ってきてもできそうだと思った。こういったイベントで、我々の会の印象をつけたかったということもあって協力することにしました」と秋山さん。
現在、横浜市の都市整備局が中心となり、「関内・関外地区活性化推進計画」が進行している。地域を活性化するには官民一体となり、未来像を作っていかなければ衰退しかねない。今回行われた「濱コン」は「まちづくり」に一石を投じるイベントとなったのではないだろうか。
関内地域は昼間人口が多い。早い時間で仕事を終える人が多いため、夕方を過ぎると周辺の飲食店はにぎわいを見せ始める。
「『関内は夜を元気にしてくれ』というお声を頂くことが多いです。大人が安心して飲める街ということを期待されています。関内が横浜全体の回遊を担えるポイントはそこにあると思う」と秋山さんは語る。
関内には和食・洋食・中華、全て混ざっても許される食文化を持ち、全ていいところを取り入れた個性的な店が多い。ミシュランガイドにも5店舗載っており、関内は全国的に認められてもいいはずだが、認知度はまだ低い。
今回のイベント参加者で、横浜市在住20代の男性からこんな声を聞いた。「今まで関内でお酒を飲んだことがなかった。今回イベントに参加して、おいしいお店が多いし、女性を連れていきたいと思った。また今度来ようと思います」。
ビルの一室で机を並べて「まちづくり」を語る。それはそれで意義のあることだと思う。ただそれよりも、街でおいしいお酒を飲んで、純粋に食事を楽しみながら「まちづくり」を語った方がもっと意義があるのではないか。一石二鳥である。「まちづくり」と「出会いの場」を創出する「まちコン」が今後、地域活性にどれだけ役立つのか。温かく見守りたい。
関内地区で大規模合コン「濱コン」開催-500人がグルメと出会いを楽しむ(ヨコハマ経済新聞)
梶原誠司 + ヨコハマ経済新聞編集部