特集

映画制作通じ、知らない横浜の一面知る
「コクリコ坂から」宮崎吾朗監督、川上量生・ドワンゴ会長

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■17歳の高校生が主人公

―今回の映画の主人公は17歳。携帯電話やパソコンもある現代の高校生とは環境が全く異なると思いますが、そんな時代の違いを意識して今回は制作されたのでしょうか。

宮崎 社会環境は違いますが、子どもでも大人でもない「曖昧な時期」を過ごしているという状態は、今も昔も変わっていないと思います。もちろん、当時は高校卒業後、すぐに就職する場合も多かったから、今よりずっと早く大人になって社会を見つめていたかもしれませんが。

―17歳、高校生という時期について。お二人はどんな高校生だったのですか。

宮崎 けっこう、映画に出てくる高校生と同じく、何かに夢中になると周りが見えなくなる、そんな埼玉県の男子高校生でしたね。

川上 どちらかというと大学時代が、映画の高校生たちのような自由な雰囲気でした。

横浜開港資料館で『「コクリコ坂から」の時代から』-広瀬始親写真展(ヨコハマ経済新聞)

横浜市が「コクリコ坂から」キャンペーン-セカイカメラで昔の写真紹介も(ヨコハマ経済新聞)

横浜を舞台にしたジブリ最新作「コクリコ坂から」のガイドツアー(ヨコハマ経済新聞)

■ニコニコユーザーにとってジブリ作品は『聖典』

―川上さんの会社(ドワンゴ)が運営にかかわるニコニコ動画は、ユーザーが参加して、すでにある創作物を加工したり、コメントを付加したりして特別な空間をつくるサービスでした。一枚一枚の絵コンテを手描きでていねいに細部まで描くことに価値を置く創作集団のスタジオ・ジブリにとっては対立する存在なようにも思えますが、どうして「見習い」をすることになったのですか。

川上 ニコニコ動画のサービスは、一次創作物を作る人がいないと成り立ちません。必ず優れた一次創作物があって、そこにユーザーが集まる。そういう意味で、ニコニコユーザーにとってジブリ作品は「聖典」の一つです。ジブリに来たいと思ったのは、単に「宮崎駿さんが動いているところが見たかったから」というような理由でしたが(笑)、ニコニコとジブリ、必ずしも対立する存在だとは思っていません。

―川上さんは、ジブリの外側から作品を見る存在として、この映画の制作過程を共有されてきたと思います。完成版をご覧になったときにどんな印象を持ちましたか。

川上 絵が動き始め、音や声が少しずつ入り、映画が完成していくプロセスを共有し、何度となく同じ映像を目にしてきました。完成して見たときも当初は「こんなものか」という印象すらあったのですが、実は何度が見ているうちに急に涙がこみ上げてきて感動していることに気づいた、という経験をしました。その感動はなんというか…美しいものに接した時に感じる気持ちといえばいいのか…。上品な感動というか。同じ映像を見ているはずなのに、完成した映画って別の不思議な力がある、と感じました。

ドワンゴ

ニコニコ動画

■「上を向いて歩こう。」に込められたメッセージは

―ジブリの作品で、舞台を現実のまちに設定するというのは大変珍しいと思います。監督は、横浜というまちについてこれまで、そして今回、どのような印象を抱かれたでしょうか。

宮崎 首都圏の人間にとって、横浜は東京近くの港町・デートコースという印象ですよね。私も、いい思い出・そうでない思い出と、色々とありました。今回、リアルな町が舞台になるということで、自分が親しみを持つ場所であったことを感謝しています。ただ、映画をごらんになった横浜のみなさんは横浜をよく知っているせいか、風景について注文が細かいんですよ(笑)。「あの場所からあんなものは見えないだろう」などと指摘をいただくこともあります。ただ、映画づくりの過程で、戦後すぐの混乱期や米軍接収が長い間続いていた時期の風景など、今まで知らなかった横浜のまちの一面を知りました。

―「上を向いて歩こう。」が、挿入歌にも使われ、コピーにも使われています。東日本大震災を考慮されたからですか。

宮崎 いえ、鈴木(敏夫)プロデューサーが、「上を向いて歩こう」でいこうと、早い段階から強く推していまして。最初は「見上げてごらん夜の星を」も考えていたのですが。ただ、この歌は「頑張ろうソング」じゃないんですね。涙がこぼれることもあるが、上を向こう・歩いていこう、という意志を歌っている。結果的にはこのような巡り合わせで、この言葉をコピーとする映画を上映することになりました。

―映画を見る方たちに、映像とともにその言葉が伝わるとよいですね。ありがとうございました。

【プロフィール】

宮崎吾朗さん
1967年、東京生まれ。信州大学農学部森林工学科卒業後、建設コンサルタントとして公園緑地や都市緑化などの計画、設計に従事。その後'98年より三鷹の森ジブリ美術館の総合デザインを手がけ、'01年より‘05年6月まで同美術館の館長を務める。2004年度芸術選奨文部科学大臣新人賞芸術振興部門を受賞。父は映画監督の宮崎駿氏。

川上量生さん
1968年、株式会社ドワンゴ代表取締役会長、株式会社スタジオジブリ所属。1997年にIT関連企業「ドワンゴ」創業。2003年、東証一部上場。子会社のニワンゴが2007年に「動画共有サービス・ニコニコ動画をスタート。昨年末からスタジオジブリに「プロデューサー見習い」として入社。

横浜でジブリ最新作「コクリコ坂から」トークショー-宮崎吾朗監督が参加(ヨコハマ経済新聞)

コクリコ坂から 公式サイト

宮島真希子 + ヨコハマ経済新聞編集部

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