特集

OPEN YOKOHAMA 2011
プログラム・コーディネーター 佐藤道元さん
「創造都市・横浜を国際的に認知させたい」

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■横浜の魅力を再認識・再発見していく仕事

―佐藤さんは、どのような経緯でOPEN YOKOHAMAに関わることになったのですか。

 僕は関わっていたTPAM(国際舞台芸術ミーティングin横浜)という舞台芸術のNPOが、今年の2月から横浜で開催するようになって、横浜によく出入りするようになったんです。

 また、横浜にぎわい座(野毛シャーレ)やBankARTStudio NYKなどの横浜臨海都市部のアート拠点を横断的に使ったことによって、横浜のアート関係者や事業者…いわゆる創造都市の担い手たちとつながりをつくることができたんですね。OPEN YOKOHAMAのことは昨年から知っていて報告会も出ていたんですが、今年の春ごろに事務局から「積極的にやってみないか」と声をかけて頂いたのがきっかけです。

横浜で「国際舞台芸術ミーティング」初開催-参加型プログラム多数(ヨコハマ経済新聞)

TPAM in Yokohama / 国際舞台芸術ミーティング in 横浜 2011

―「プログラム・コーディネーター」とは、どのようなお仕事なんですか。

 OPEN YOKOHAMAでのプログラム・コーディネーターというのは、基本的には企画立案・提案です。例えばOPEN YOKOHAMA開催地エリアの商店街にあるお店に対し、「こんなことをやったら面白いんじゃないかな」という企画を考えて持ち込んで、実現してもらうのが仕事ですね。もちろんお店だけじゃなくて、横浜都市臨海部のさまざまな方々に沿った企画を考えて、提案していきます。

 広報ツールは主にガイドマップで、横浜を訪れた観光客にも手に取ってもらえるように、前期版・後期版各15万部ずつ、合わせて30万部の無料配布を行います。Webサイトもオリジナルで作り、ブログやツイッター、Facebookなども使って、広報と集客はこちらでやりますので、一緒にやりませんか? と働きかけていくわけですね。OPEN YOKOHAMAっていうのは一種のプラットフォームなので、つくった、またはつくってもらった企画を「横浜」というブランディングで発信していきます。

 そもそもこの時期、夏~秋にかけてはイベントが目白押しで、まずはそれをイチからスマートに紹介していくという目的があります。それにプラスして、横浜臨海都市部の魅力を再発見・再発掘していく仕掛けを積極的につくっていく。そういうことを通じて、地元の事業者さんたちが新しいアイデアを自分の仕事に持ち込んだり、新しいつながり元にした別の仕事ができるようになったり、そういうネットワーキング…というかいろいろな意味での活性化につなげていくことを狙っていました。またそれが対外的に発信されることで、横浜という街の魅力の向上につなげていくことが大きな目的ですね。

―何月から動き始めたんですか?

 実は、お話を頂いたのは3月くらいだったんですが、震災があったのでスタートが1カ月ほど遅れまして。本格的に動き出したのは6月くらいかな。OPEN YOKOHAMAは8月6日から開催なので、7月中にはもう前半期のイベントをまとめなくちゃいけない。かなり急ピッチで進めましたね。僕はコーディネーターという立場ながら、ガイドマップのビジュアルだとか、Webサイトの作りだとか、結構いろいろなことに携わりました。広報チームと事務局スタッフ、みんなで一緒に作り上げたという感じです。僕はとにかく企画を考えて、街を廻る。ジャズプロや国慶節など、すでにある企画を結び付けるような形のものあるし、まったくゼロから作り上げていくものもあるし、こういう施設ならこういう紹介の仕方はどうですか、みたいなものもあるし、本当に様々な企画を提案しました。まだ正確な統計は出てないんですが、イベントだけでも総数は300以上あるはずです。

 あとは、参加してくれたクリエイターたちが実際に出会う場をつくりたくて、交流会を行いました。これはまだ終わっていなくて、11月下旬に今までで一番規模の大きい第3回交流会「グランド・ファイナル」を予定しています。OPEN YOKOHAMAは、ただ単にイベントを並べるだけじゃなくて、まち歩きを通じて新しい魅力を再認識したり、「普段は入れないところに入ることができる」という期間限定のワクワク感を重視しているので、やっぱり少し変わった場所での開催を考えています。

―各エリアのまち歩きも特徴のひとつですが、実際に佐藤さんが企画したツアーはありますか。

 そうですね、いろいろあるんですけど、例えば横浜ローカルツアーのひとつで、野毛印刷と築地活字という2社を訪ねる「印刷技術を巡る冒険」というツアー。これは、印刷技術という観点からモノづくりを考える企画です。デジタル的なオンデマンドの印刷屋さんと、アナログな活字屋さんを訪ねることによって、この街にこういうモノ作りをしている職人がいるということを示すチャンスだし、オンデマンドの仕組みを知らない若い世代が、印刷の歴史を知るいい機会だったと思います。ツアーされる側からしても、近くにありながらもお互いによく知らない2社がこのツアーをきっかけに知り合って、コミュニケーションができるようになり、非常に良かった。あとは、シーメンズクラブというバーにガイドブックを持っている人だけがオーダーできるオリジナルカクテルをつくってもらったり、面白物件を巡って活用方法を考える「空き物件大喜利」なども良かったです。無責任なアイデアも実現可能なアイデアも、みんなでいろいろ出し合いました。

 僕は横浜出身という訳でもないし、横浜という街に詳しい訳でもないので、まず僕がいろいろな人と関わりながら、横浜について勉強していくことから始めましたね。いずれはこのOPEN YOKOHAMAの仕組みを他の街でもできるようにシステム化して、地域の問題の解決や集客につながるような、先進事例になればいいなと思います。

印刷技術を巡る冒険(OPEN YOKOHAMA2011)

空き物件大喜利 - 横浜・新港村の会(OPEN YOKOHAMA2011)

■国際的に創造都市・横浜を認知させていきたい

―OPEN YOKOHAMAに実際に関わって、より感じたことは何でしょう。

 まず、横浜の人に地元横浜の魅力を再認識してほしいということ。それから、外から横浜に来る人へ向けての魅力の向上に努めていかなければいけない。東京や他地方から来る人に、横浜にはこんな面白い側面もあったんだ…と感じてもらう。これは、今までもやってきたし、今後も必要なことです。

 さらに僕が個人的に思っているのが、海外へのアプローチです。京都しか知らない海外旅行者に、OPEN YOKOHAMAの時期には横浜に行ってみようと思わせる仕組みを作りたいですね。横浜には、国際都市としての歴史や職人などの魅力ある素材が充分ある。そのローカルなコンテンツをインターナショナルに発信していきたい。この期間に横浜に来れば何か面白いことがあって、街を満喫できるというふうに。それは国際的に創造都市・横浜の目指しているところだとも思いますし。

 話は逸れますが、TPAMでは、海外からのゲストが数百人いらっしゃるんですね。彼らは横浜の施設――KAAT(神奈川芸術劇場)やBankART Studio NYKなどをすごく高く評価するんですよ。しかし、なかなかそういったものは、伝わっていない。そんな施設がある・ないという以前に、知られていないんです。それはすごくもったいないことでしょう。クリエイティブシティの創出とかって騒がれる前から、ヨーロッパなどではアートセンターは街を牽引していく存在だったけど、横浜にはそういう存在の施設がいっぱいあるんですよ。そういう横浜の魅力を、東京を通さずに世界とつなげていく必要性はすごくあると思います。

 あとは、もっともっとつながりをごちゃごちゃにしたいです。このOPEN YOKOHAMAでは様々なつながりをつくって見える化してきましたが、それでもまだあんまり出てきてない人たちはいるんですね。来年ももし続けてやらせてもらえるのであれば、地元メディアや、知られていないけどパワーあふれる面白おかしい人たちともっと連携していきたいですね。全部自分たちでつくってしまうのではなくて、例えばカレンダーは他メディアが作ったものを使っちゃうとか。今あるものを組み合わせることで、こんなに使いやすくなるんだよ、ってことを示すには、OPEN YOKOHAMAはすごく適していると思うんですよね。来年はもう少し早く準備をして、ツアー参加者が行った場所の写真を載せたり、体験の感想コメントを載せたりといった、当事者の声をどんどん発信していける仕掛け作りに取り組みたいですね。

 また、それが市民の方のクリエイティビティを向上させるきっかけになればいいですよね。冊子に影響されてPOP作りが変わったとか、商品の配列が変わったとか、ほんの小さなことでもいいんです。このプロジェクトが、身近なクリエイティブを考えていくヒントになればいいなと思っています。今年はたまたまトリエンナーレがあったのでアートな面が強調されたけど、難しい芸術ばかりがクリエイティブじゃないから。

神奈川芸術劇場「KAAT」がオープン-新たな舞台芸術の拠点が誕生(ヨコハマ経済新聞)

BankART Studio NYKでアーティスト48組がオープンスタジオ(ヨコハマ経済新聞)

―このイベントを通して、嬉しかったこと、辛かったことは。

 辛かったことは…特にないなあ(笑)嬉しかったことはね、余所者の僕でも好意的に受け入れてくれて、協力してくれたことかな。僕は東京の出身ですけど、東京ってあまりにも巨大になりすぎて、つかみどころがなくなっている。これは完全なる僕の個人的意見ですが、数を増やしていく都市計画は限界が来ていると思います。東京のためにある日本、という構造はもう無理だなと思っているところにこの仕事がきた。地域コミュニティが破壊しかかってるとよく言われますが、この仕事を始めてみて、この街は町内会や商店街などの地域の集まりが機能していて、街を、空間をマネージメントしていて、さらにディベロップさせているなあ、と感じましたね。それは本当に素晴らしいことだし、そういう発見ができたことが嬉しいです。

 横浜って、言ってみれば地方都市じゃないですか。ひとりの人間が把握できるちょうどいい規模なんですね。この規模で発展しつつ、拡大生産を目指さない都市のあり方が横浜は可能なんじゃないかと感じています。東京を否定するわけではないけど、東京から人を呼ぶよりもここにいる330万人の市民たちがこの場所で楽しめることが重要なんじゃないでしょうか。例えば、渋谷パルコでやっていた舞台を神奈川芸術劇場でもやっている。東京に行かなくても地元で楽しめる。何かを見に東京に行くってことが必要なくなる。それはとても大きいです。もしかしたら、10年後のOPEN YOKOHAMAは山間部でやっているかもしれない。臨海都心部は大がかりなイベントをやらなくても自然に人が集まってくることになっているかもしれない。どんどん新しい地域を活性化して、文化なり人なりをカルティベートしていく(=耕す)ことができたらすごくいいなと思いますね。

■参加型の地図をつくり、情報発信のスタンダードを

―今回のOPEN YOKOHAMAでの経験を踏まえて、今後やりたいことはありますか。

 またすごく個人的な意見なんですが、将来的には、OPEN YOKOHAMAで何か情報発信の基準位置にしたいと思っていて、例えば参加者の地図がフォーマットになって、それが横浜のスタンダードになっていく、みたいなことができるといいですね。横浜ってすごくたくさんチラシがあるんです。観光資源も多いのでガイドマップもものすごくある。地図ひとつとってみても建物ごとに作られていて、その建物が中心となっているからみんな見え方がバラバラで、初めて来た人は実際のところどれを持って歩いたらいいの?みたいになっちゃう。どんなふうに加工してもいいけど、これを使おう。という、参加者と一緒に完成させていく地図をつくりたいです。例えば商店街なら商店街、アートならアート…と、カテゴリごとにレイヤーを重ねるようにして。次々に層をなしていくと様々な見え方ができるようになる。その重なりこそが文化の深みというか、魅力になるんじゃないかな。それは戦略的にやっていきたいですね。

―ありがとうございました。

佐藤道元(さとう・みちもと)
OPEN YOKOHAMAプログラム・コーディネーター、国際舞台芸術交流センター(PARC) プログラム・オフィサー、国際舞台芸術ミーティングin横浜(TPAM) 事務局次長。

横浜でシティープロモーション「OPEN YOKOHAMA」-アート・食など300のイベント(ヨコハマ経済新聞)

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石田童子 + ヨコハマ経済新聞編集部

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