男女共同参画社会とは、性別に関わらず、その個性と能力を十分発揮できる社会のこと。横浜市では、男女共同参画社会の実現を目指し、さまざまな取り組みを行ってきた。中でも林市長が力を入れてきたのは、働く女性の環境を整える「待機児童対策」だという。就任当時1,550人いた待機児童は、今年3月末現在で300人を切っている。また、横浜市は女性の起業家を支援する施設として、月5,000円で利用できる会員制シェアオフィス「F-SUSよこはま」(運営:横浜企業経営支援財団)も関内に設置した。そのほかにも、昨年10月に「国際女性ビジネス会議」を開催するなど、働く女性を応援するための取り組みを積極的に行ってきた。
関内に女性起業家向け会員制シェアオフィス「F-SUSよこはま」(ヨコハマ経済新聞)
女性起業家・経営者向けメンター事業(公益財団法人 横浜企業経営支援財団)
4月7日に開催されたシンポジウム「あなたの力が社会に生きる~NPO・女性・横浜がもつ大きな可能性~」では、NPOや社会貢献活動を通して活躍している女性リーダーを向かえ、女性の持つ力・可能性についてのディスカッションが行われた。
第1部の基調対談では、女性経営者としてキャリアを重ねてきた林市長が、18歳で大企業に就職してからのキャリア人生を振り返った。
「いろんな課題を抱えて働いている女性に、今こそ寄り添うことができる。市も、新しく女性局長や区長が誕生し、新体制が整った。少子高齢化の中、女性の社会進出に企業も本気になっている。今、実行の時だ。男性、女性の強みを生かして、それぞれの立場の中で、世の中に出て、積極的に仕事をしていってほしい」と、女性にエールを送った。
横浜市が「NPO・女性・横浜」テーマにシンポ-女性の力を社会に生かす(ヨコハマ経済新聞)
市長と対談したのは、長年、米国ボストンを中心に、社会的活動に貢献してきたフィランソロピストのフィッシュ厚子さん。冒頭では東日本大震災後の支援活動について報告した。米国では日本に行くなと言われたが、震災後すぐに東北に入り、被災者支援を目的とした基金を立ち上げたという。「自分の目でニーズを確かめないと、効果的な援助ができない。これが私の信条だ」と話す。
緊急援助としては、福島・相馬の避難所への医師派遣と、がれきの移設を行った。現地の支援活動で見えてきたものは、「社会の変化」「将来を担う若者たちの出会い」「女性の活躍」の3つだったという。戦後の日本は、政府と企業の2つの歯車で社会を動かしてきたが、被災現場では、それにNGOやボランティアなど第3の車輪が加わり、「市民の声が政治に反映する新しい社会ができあがっていた」。また、大変な悲しみを抱えながら、東北の復興に向かって進もうとしている若者たちに深く感動したそう。「彼らから、日本の将来の夢や勇気、希望をもらった」と話す。さらに、被災地でNGOやボランティアなど、女性リーダーが活躍しているのを目の当たりにした。フィッシュ厚子さんは語る。「今女性が望めば、東北の支援や社会貢献活動を通じて、世の中を変える大きな力、リーダーになるチャンスがたくさんあるのです」
フィッシュ厚子さんは、社会に変化をもたらすリーダーを目指す日本の女性たちを支援する「JWLI」(日本女性指導者育成支援事業)も紹介した。米国・ボストンのNGOで約1カ月の実地トレーニングを受ける研修プログラムだ。募集や研修後のフォローアップを担当する日本BPW連合会によると、今年度も数人を募集する予定だという。
「大震災以後、日本の女性たちの社会貢献への考え方が変わってきた。NPOが社会を支え、女性が世の中に変化をもたらす大きな力となる、新しい時代が来ている。横浜は、日本の中でもNPO活動がさかんな街。人につくすことで、本当の喜びや感動を学んでほしい」とフィッシュ厚子さんは話し、「You can make a difference in Japan」と参加者に熱いメッセージを送った。
震災の話を受けて、林市長は「コミュニテイを活発にさせるには、人と人をつなぐ女性の力が必要。官・民・学、あらゆる分野の中で、女性たちの活動を生かす場があることを、みんなで確認し合いたい」とコメント。さらに、「つなぎ役としての女性の感性や持ち味を生かすことが大事。男女のいいところを出しあって、協働社会をつくっていきたい」と締めくくった。
第2部では、米国で活躍するグローバルギヴィング創設者の倉石真理さんが、同僚と立ち上げたインターネット上での寄付活動「グローバルギヴィング」の活動内容や東日本大震災での支援内容、米国のフィランソロピー業界の現状などについて語った。
グローバルギヴィングはインターネット上で寄付市場を運営しており、社会問題を解決するために、世界中で活動しているさまざまな団体が、ネット上で直接寄付金を集められるしくみを作っている。多くの参加を促進するため、寄付は10ドル(760円)から行うことができる。現在は120カ国1700以上のパートナー団体と協力し、3,300以上のプロジェクトを支援した実績がある。10年前に始めたこの組織は、年間10万人の寄付者から、20億円近くを集めるまでに成長したという。
倉石さんは言う。「この団体を設立したのは、世界中の市民社会を強化する団体を応援したいと思ったから」。世界銀行に勤務した経験から「強力で効果的な市民社会の助けなしでは実現できないことも多くあると感じたから」だ。例えば「開発途上国などで政府に実践力がない場合は、市民社会が足りない部分を補完し、政府が機能を効果的に果たすように働きかけができる発言力が必要」。そのため、倉石さんらは小規模でポテンシャルを持つNPO、NGOへの支援に力を注いでいるという。
グローバルギヴィングでは、東日本大震災に対して、今日まで世界111カ国以上から義援金として、990万ドル(約8億2,000万円)を集めることができた。そのお金は、日本の優秀なNGO団体に義援金として渡したという。そのほか、宮城県石巻市、気仙沼市、岩手県・大槌町で、医療援助や被災地へのボランティア派遣などに使われている。
しかし、実際の所、日本で支援する候補先を探そうとして意外に苦労したという。それは、運営体制がしっかりとしていて必要な情報をすぐに提出できる団体が少なかったからだ。実際に支援した団体は素晴らしい団体だったが、支援を受けるためにはその情報提供力が必要であることも指摘した。
倉石さんによると、米国では、人口3億1,100万人に対して、NPOが130万人以上あり、日本では、人口1億3,000万人に対し、NPOは4万4,000しかない。この数字は、日本の市民社会の2つの大きな課題を語っている。1つは、日本の寄付市場での個人による寄付金が少ないという事実だ。
米国のフィランソロピーは、大きな業界だ。昨年米国では、24.5兆円(約3,000億ドル)が寄付され、そのうち約7割が個人から、3割が企業や財団からの寄付だという。一方、日本では、980億円(約12億ドル)が社会貢献活動に集まったが、その半分が企業や財団からの寄付金という。つまり、個人からの寄付金が少なく、今後大幅に伸びる余地があると言える。しかし、個人の寄付金を大幅に増やすためには「寄付することで、社会がよい方向に変えていけるのだと、一人ひとりが実感できることが必要」と話す。
もう1つの課題は、民間や非営利部門を含む広い意味で、日本の市民社会がこれから新しいリーダー、新しい考えを持った人材を必要としていることだ。「ソーシャルセクターの仕事は重要な仕事。優秀な人が、社会的企業やNPO団体の仕事につくことが必要だ」と倉石さん。
日本女性の労働参加率は、先進国の中では低い。しかし日本は高齢化により労働人口が減っており、倉石さんは「女性の社会進出は避けて通れない問題」と話す。しかし一方で「大学を卒業して、社会に進出しようとすると、それを阻むものが日本にはある」とし、さらに「一流企業を見てみると、日本の女性CEOがまだ少ないのも事実」と指摘する。
倉石さんは訴える。「2つのことを実行してほしい。1つは、仕事でもボランティアでも、寄付を通してでも、現在の生活の中で、社会貢献できることを見つけてほしい。もう1つは、日本女性としてのあるべき姿、社会の期待にとらわれず、公の活動に積極的に活動してほしい」
第3部では、フィリピンの大学生らとオンラインの英会話事業を展開しているワクワーク・イングリッシュ代表取締役の山田貴子さんが、子どもたちを支援する取り組みや今後の事業へのビジョンなどについて講演した。この会社は、フィリピンから日本に、インターネット電話・スカイプを使って、オンラインの英会話事業を提供している。フィリピンの貧困層の若者たちと共に、若者の夢と自立を実現しようと立ち上げた事業だ。
山田さんが初めてフィリピンを訪れたのは大学2年の時。元気な子どもたちに出会い、大学4年生まで計9カ月もの間、現地でフィールドワークをしたという。
ある日、一緒に遊んでいたストリートチルドレンの親から「あなたがうちの子と遊んでいたせいで、今日食べるご飯がない」と言われた言葉が起業するきっかけ。ショックを受けた山田さんは考えた。「毎日路上で30円を稼ぐのではなく、働く場を作ろう」と。「単なる支援ではなく、子どもたちと一緒に夢をかなえるために、働く場を作りたい」と、2009年に起業した。
株式会社WAKU WORK 山田 貴子さん(ソーシャル・ポート・ヨコハマ)
現在の活動拠点は、フィリピンのセブ島。貧困のため、学校に行けない子どもたちに、早く教育の機会を提供したいという思いが山田さんの原点だ。既存の支援団体(NGOや孤児院)を視察しながら、見えてきたものがあった。それらの団体の支援方法は、学校に行けない5~6歳の路上の子どもを保護し、大学を卒業するまで、住み込みで衣食住や教育の機会を提供するシステム。「フィリピンは援助大国で、10万もの支援組織があるのに、なぜまだストリートチルドレンは路上にいるの?」と疑問に思ったという。ならば、これまでの方法で保護して教育しても、貧困問題は解決できない、どうしたら効果的に解決できるか。「既存のNGOや孤児院と協働して、何かよいシステムを考えたいと思った」と山田さん。
フィリピンでは、大学生になった途端、孤児院が負担する奨学金が3倍になる。もし、奨学金で大学を卒業しても、就職先がないと貧困の渦に戻ってしまう可能性もある。そこで、優秀でモチベーションも高い大学生に、「自分の学費を自分で稼いでもらおう」と発案。放課後、ワクワークでトレーニングを受けて働くことで、自立していく方法を思いついたという。しかも、孤児院が大学生に払う予定だったお金で、学校に行けない子どもをNGOに保護してもらう約束を取り付けている。
孤児院出身の大学生を会社(ワクワーク)に採用する時に気をつけていることがある。それは、本人の思いはもちろん、親の理解や協力があるかなどだ。現在、フィリッピン・セブ島にある会社のスタッフは40人。大学生たちは、同じ会社のスタッフであるプロの英語教師のトレーニングを受けながら、スカイプで日本の小・中学生を教えているという。
現在、5つの孤児院と連携しており、子どもたちの夢の実現のために100の事業ビジョンがあるという。美容師育成やカフェなどは、現在進行中のプロジェクトだ。子どもたちはこれらの仕事をし、ためたお金で大学に行くのだ。2013年には、トレーニングなどをする「ワクワークセンター」をつくる予定。「子どもたちといっしょにこれからも事業を作っていきたい」と山田さん。
シンポジウムに参加した宮口聡美さん(立命館アジア太平洋大学3年)は、「皆さんの話から勇気をもらった。特に、山田さんの行動力や視点がすごいと思う。私も将来、企業で社会貢献の仕事ができれば」と話していた。
横浜市では、前述のように、経済社会や市民社会で活躍する女性支援に力を入れている。さらに、横浜市はNPOなどの市民活動も盛んな街の一つだ。この横浜に暮らす女性にとって、働きやすい環境が整ってきた今、一人ひとりができることで行動する時だ。地域の課題を解決するために、あなたもアクションを起こしてみませんか?
山根陽子 + ヨコハマ経済新聞編集部