―横浜青年会議所が、毎年会員の総力を挙げている取り組みが「横浜開港祭」ですね。70万人近くが訪れる初夏の風物詩となったこの祭り、今年はどのようなテーマで展開していくのでしょう。
「第31回横浜開港祭2012」は、みなとみらい21地区にある臨港パークをメーン会場として、開港記念日にあわせて6月1日(金)と2日(土)に開催されます。コンセプトは「“Thanks to the Port” 開港を祝い、港に感謝しよう~集まれ!! 開港市民!! 史上最大の誕生祭~」です。横浜の原点である“港”に親しみ、1年に1度、横浜市民としての自身のアイデンティティを実感してもらえるイベントにしたいと準備を進めています。また、153年前、新しい価値をもたらす情報は、開港した横浜という「街」を通じて、世界から日本に集まってきました。今は「人」から情報が発信され、社会を動かしていく時代になっている。そう考えると、横浜の資源である「観光」と「人」を繋げるというところも意識していきたいですね。
初夏の風物詩「横浜開港祭」-3,000発の花火を打ち上げ(ヨコハマ経済新聞)
―岡部さんは理事長として、この祭りを通じてメンバーや地域にどのようなメッセージを伝えていきたいのでしょうか。
私が、このイベントを担うメンバーそして自分自身に問いかけているのは「祭りとはなにか?」という最もシンプルな問いです。祭りは、さまざまな世代の人たちがその地域固有の「架空の物語」と非日常的な時間を共有することで、コミュニティのつながりを培う仕組みだと思います。けれども最近は、地域を挙げた祭りに参加する人も減ってしまいました。世代を超えて交流したり、地域の物語を共有したりする場が少なくなってきている。それがコミュニティのつながりを稀薄にしているという現実があります。こうした流れを変えようと、開港祭実行委員メンバーには「海に感謝」というコンセプトを、どのようプロセスで地域とともに表現するのか、それをしっかり考えてほしいと伝えています。
―岡部さんは、神戸出身で、起業して横浜JCの理事長に就任しています。JCは代々事業を営んできた方が理事長になる、という印象が強いのですが。
そうですね。私はもともと、ゼネコンの竹中工務店の横浜支店で営業マンとして働いていました。その時の支店長が許可してくれたことがきっかけで、JCの活動に関わることになりました。当時の上司や同僚にはとても感謝しています。その後、横浜を愛する多くの方たちと知り合い、日本各地あるいは世界中の人たちと交流の輪が広がるなかで、今後の社会のあり方などを考えるようになりました。JCとの出会いが起業を決意する大きなきっかけにもなっています。
―理事長として、これまでにない異色の経歴をお持ちなのですね。そうした背景を持つ岡部さんが掲げる今年の横浜JCの活動方針は、どのようなものなのでしょうか。
2012年度の方針は「彩り」です。今年で開港153年を迎える横浜は、いち早く異文化に接するという役割を歴史の中で担ってきました。さまざまな文化的な違いを受け入れ、極端な表現をすれば「無秩序の中に秩序をつくる」過程を経て発展してきたと思っています。事実、横浜JCは設立メンバーの半数が外国人でした。ほかのJCとはまったく異なる体制でスタートしたのです。その原点に立ち返り、今年の横浜JCは「多様性を包括し、自主性を尊重する社会を目指して活動していきたい」という思いを込めて「彩り」という言葉を選びました。
―シンプルな言葉ですね。辞書をひも解くと、「彩り」という言葉には「色を付けること/配色/おもしろみや華やかさを付け加える」という意味があるそうです。もう少し、この言葉に込めた思いをお聞きしたいと思います。
人・モノ・情報が、組織を介さず、個人と個人の間で、自由に行き来することが可能な時代になりました。そうなると、これまでその土地あるいは組織に「あたりまえ」のように根付いていた文化やコミュニティが崩壊し、極めて流動性が高い社会になります。ひとりひとりが、何がいま、正しいのかを改めて考え直し、そのつど進むべき道を選択していかなくてはなりません。社会に貢献していくためには、様々な世代・立場の人と交流し、視野を広くしていく必要があります。だからこそ、私は多様性が尊重される彩りある社会、目指すことが大切だと思っています。
―神戸出身で、大手ゼネコンに在籍中から横浜JCに会員として参加し、のちに起業した岡部さん。JC理事長としては「異端」に見える自身の立場も考慮に入れると、その多様性を活かす「彩り」という言葉の重みを感じます。この方針を具体的なJCの活動に反映していくために、大切にしている考え方はありますか。
私たちJC活動の源流にある国際青年会議所(JCI)のミッションである「ポジティブチェンジ(積極的な変革)」という使命を大切にしています。今、日本社会は、戦後初めて「価値づくり」に挑戦をしている。今まではコストを下げることで世界に立ち向かい、繁栄してきました。しかしもう、コストでは勝負できない。「新しい価値」をいかに創造していくかということが問われている。大切なのは「今までの常識を疑い、なぜ自分がそれを選択しているのか」ということを常に問い続けていくこと。そして、先人たちの歩みを知ることから始めて、積極的に変えるべき点を変えることです。これがポジティブチェンジを体現することにつながると思います。
―では、その「積極的な変革」を地域で実現していくために、リーダーとして心がけていること、メンバーに求めることはどのようなことでしょうか。
多様なメンバーの「ポジティブな思い」を支援していくことが重要です。それは自分と他者の考えの違いを察しながら、新しい価値を創りあげていく作業です。それは難しいことではなく、自分の家族を大事にしたい・守りたいというシンプルな価値観を原点に地域と、日本そして世界に関わっていくなかで実践していきます。
―横浜JCはさまざまな活動を通じて、地域から世界へつながっていくということですね。開港祭のほかには、具体的にどのような活動を展開していくのでしょうか。
1つは、市民大学「ハマのトウダイ」プロジェクトです。これは若者の学びの場を市民参加で創っていく企画です。今年4月1日、横浜マリンタワーで「開校」しました。このプロジェクトは「横浜人ってかっこいい」というコンセプトを柱に、青少年育成・環境・経済・アートなどさまざまな分野で講座を展開していきます。講座をやりたい人・学びたい人が「この指とまれ!」方式で企画を組み立てる実践を通じて、積極的な変化を担い、未来の横浜を創造する人材を育成していきます。ぜひトライしてほしいと思っています。
マリンタワーに市民大学「ハマのトウダイ」開校-自転車発電ライトアップも(ヨコハマ経済新聞)
もう1つは「COENプロジェクト」と言います。これは、横浜JCの「公民連携推進委員会」が進めています。市内にある2300街区公園(市の定義では半径250メートル以内にある遊具や広場を備えた公園、以前は「児童公園」などと呼ばれていた)、を、行政と連携して盛り上げていこうという事業です。現在、市内の公園の1割には、その場所の手入れをする「愛護会」がありません。本来公園とは地域のコミュニティにとって一番開かれた「公(おおやけ)」の場所であるはずで、その意味において私は行政=公ではなく、多くの人たちが積極的に参加してもらえるような「新しい協議会」という形で取り組んでいきます。その第1弾として、保土ヶ谷公園にてイベントなどを企画しています。
―ありがとうございました。
歴史を踏まえ、古きを敬いつつ、さらによりよい新たな価値を創りだすことが求められている今、岡部理事長の唱える「彩り」ある社会を実現するその過程は、横浜だけに留まらず、今の日本が見つけていかねばならないひとつの方向性を示唆している。2012年の横浜JCが展開する新たなプロジェクトは、市民をどのように巻き込んでいくだろうか。岡部さんが率いる横浜JCの活動が、このまちに持たらす変化に注目していきたい。
柳澤史樹 + ヨコハマ経済新聞編集部