―バリアフリーフェアは2001年から開催されていますが、開催のきっかけは何でしょうか?
石井 最初はワールドポーターズ6階の販促イベントとしてスタートしました。当時ワールドポーターズの6階は福祉と健康のフロアと名付けられていて、福祉機器メーカーがテナントとして入っていた。車いす利用者でも運転できるように設計された車「ウェルキャブ」や、リフト付き車両などが展示されていました。
第1回は、6階のテナントと当時の「ナムコ」(現代の「バンダイナムコゲームス」)が企画をしていたのですが、2年目からNPOスクエアが「自分たちらしいイベントをやりたい」と、提案しました。
山本 試行錯誤しながらさまざまなイベントを企画してきました。車いすのお笑い芸人、ホーキング青山さんや、地元で活躍されている障害者の方を読んでトークライブやシンポジウムを開催した年もあります。ほかにも、ユニバーサルデザインを取り入れた服のショーをやったり、歌に手話をつけてリズムに合わせて踊る「手話ライブ」を行ったり。
第1回から続いているのは「バリアフリーマーケット」です。作業所で作られた商品の販売や、自閉症児の絵の展覧会、心理カウンセリングの講座を行ったりもしています。
今年のマーケット出展者のうち、何団体かは私が直接声をかけて参加をお願いしました。大手文具店で、作業所で作られた商品を販売していることがありますが、そこで見つけた団体をスカウトしたり。
作業所での制作は、利潤追求ではなく、リハビリが主な目的です。でも、作業所でも一般に遜色ないものが作れると知ってもらいたいし、売れるものを持っていきたい。それに、質の高いものが売れるのを見れば、他の団体の刺激にもなると思います。
石井 今年は東日本大震災の被災地支援として、伝統の刺し子を用いたTシャツやふきんを作成する「大槌復興刺し子プロジェクト」(岩手県)、被災3県の間伐材を使った割り箸を販売する「希望のかけ箸」(福島県)の2つのプロジェクトが参加しています。
―今回は2011年に引き続き、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」が開催されます。視覚障害者の方にアテンドされ、暗闇の中を耳と触覚だけを頼りに行動するという不思議なイベントです。開催のきっかけはなんでしょうか?
山本 こういった福祉関係のイベントは、どうしても関係者だけの集まりになりがちです。ですから、関係者以外の方が興味を持ってくれるようなイベントがやりたいと思っていました。
「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」は、決して視覚「障害」体験ではありません。むしろ、視覚を閉ざされることによって、普段とはまったく違う新しい豊かな世界を発見できる「エンターテイメント」体験です。これはぜひ商業ビルでやりたいと思っていました。
―バリアフリーフェアのテーマである「五感よ、ひらけ。感じよう、世界を」とも通じますね。昨年度行われた横浜公演の感想を聞かせてください。
石井 私は最初真っ暗な中に入っていくというのが怖くて、入口のところで帰りたくなってしまったのです。そのうちに、同じ時間帯に参加する方々がみなスッと中に入っていく。最後に1人で残されてしまったので、「えいっ」と飛び込んでいきました。すると、入ってすぐにアテンドの方が手をつないでくれるんです。
声しか聞こえない暗闇の中で、それまで全く知らなかったもの同士で自己紹介をして、声の方向にボールを投げ合ったりします。耳と触覚だけを頼りにコミュニケーションをするのですが、不思議とすごく気持ちが落ち着くのです。そこでアイスクリームを食べたりビールを飲んだりします。そうすると、待合の場所ではみんなよそよそしい感じだったのに、なんともいえないシンパシーを感じていく。暗闇から出てくる頃には参加者みんな、すっかり打ち解けていました。
「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」は全国各地で開催されていますが、横浜が1番よかったという声も聞きました。小さな会場で行うので、参加者同士が密にコミュニケーションを取れるのがいいのかもしれませんね。
暗闇の中の対話「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」横浜初開催(ヨコハマ経済新聞)
みなとみらいで「バリアフリーフェア」-暗闇の中の体験型イベント(ヨコハマ経済新聞)
―山本さんは車いす利用者や、同地区のサービス事業者、企業に向けた「横浜みなとみらい21ウェルカムマニュアル」という冊子の執筆を手掛けています。このマニュアルは車いす利用者向けではなく、みなとみらい地区で働く人々に向けて、各所に存在するバリアや、障害者との接し方についての情報がまとめられています。利用者ではなく接する人々に対するマニュアルというのは珍しい。
山本 マニュアルには、車いすを利用しながら目的の場所にたどり着く方法や、各所のトイレについて「ベビーシートがあるか」、「とびらはセンサー式か」など8つの項目を細かくチェックした一覧を掲載しています。しかし、ハードの問題をすぐに解決することは難しい。でも、人の接し方などソフトの問題は、相手に対する想像力を広げることで改善していくことができます。
たとえば、ある車いす利用者は、お店の高いところに置いてある商品を、手元に下ろすことができる。でも、それを元の高さに戻すことができない。そのため、手に取ることをためらってしまうことがあります。そこで、「お取りしますよ」「そのまま置けるところに置いていただいてけっこうです」と声をかけてもらう。それだけで気軽に商品を選びやすくなります。
普段、「バリア」には気がつくけれど、「バリアフリー」を意識することはあまりない。障害のある人、ない人双方に「バリアフリー」の意識を共有してもらえればと思って作成しました。
ワールドポーターズはハートビル法(現バリアフリー新法)を建築に取り入れるなど、バリアフリーに対し意識的な施設です。月1回、従業員のための車いす研修を実施し、研修を受けた店員さんが少しずつ売場を使いやすいように変更してくれることもあります。
ガイドブック「みなとみらい21ウェルカムマニュアル-車いすを使う人をご案内するために」
みなとみらい地区をより使いやすく-車いすマニュアルが完成(ヨコハマ経済新聞)
―バリアフリーフェアのキャッチコピーは、「バリア」の問題はハードだけでないと主張しているように思えます。
山本 私は「バリア」というのは「イマジネーションの欠如」だと考えています。時おりヘルパー養成研修などで講義をしますが、最後に必ず「イマジネーションを広げて」と伝えています。「障害を持つ相手のことを想像してください」ということです。知識は「障害者について想像をふくらませるために必要なツール」。技術は「想像したことを実践するために必要なツール」です、と。
石井 私たちがまったく気がついていなかったことを、山本さんに指摘されることがしばしばあります。たとえば、洗面所。手すりや水道は車いす利用者が使いやすいよう下に設置されているのに、鏡はのぞきこめないような高さについていたりする。当事者がどう使うかを想像できていないのですね。
山本 最近は建設のマニュアルが細かくなったのか、ずいぶんよくなっていますが。ペーパードライバーの私の義弟が「方向転換するスペースのない駐車場」を設計して宅建の試験に落ち、笑い話になっていましたが、それと同じようなものですね。
これは障害を持つ側にも指摘できることです。健常者の身体や思考パターンについて、想像ができない場面では「自分がどうしたいか」を的確に伝えられない。どう伝えれば理解されるのかがわかっていないから、「どうせ伝わらない」と思ってしまう。
でも、経験がなくても、ちょっと想像力と常識を働かせればわかるはず。そういう努力を「双方がしない・できない」ということが、最大の「バリア」だと思います。
―このフェアは、健常者・障害者にかかわらず「相互のイマジネーションを広げる機会」でもあるわけですね。ありがとうございました。
池田智恵 + ヨコハマ経済新聞編集部