―瀬戸さんは東ティモールで新たに事業を立ち上げようとしているとうかがいました。どんなことを始めるのですか?
一言で言うと、貧しい人たちのための格安トラック運送サービスです。東ティモールの辺境で生産されるお米やトウモロコシ、食肉用の豚、ニワトリ、牛といった農畜産物を、郊外に住む農民たちが街にある市場まで運べるようにする事業です。
この事業を思いついたきっかけは、現地に課題調査に行った時「運送費が高すぎて、貧しい人たちはとても利用できないんだ。何とかできないか」と何人かに相談されたことです。確かに、東ティモールには、雨で道路が崩れて大穴が空いている、急な斜面を登れずにロープで車を引っ張っている、そんな光景があちこちにありました。道が悪く、トラックも少ないため、運送費がとても高いんです。2トントラックをチャーターするのに350ドル(約3万5千円)かかるのですから。一方、国民の7割の月収は月収は50ドル(約5千円)です。つまり、市場まで作物を運びたくとも、コストがかかりすぎて、それができないんです。
―なるほど、そういった人たちでも商いをできるように、物流事情を改善しようというわけですね。
はい。でも、最初は断ったんですよ(笑)。ぼくたちは「tranSMS」という名前の小さなチームを仲間と立ちあげました。僕たちは道路を造ることはおろか、乗り物をつくったり提供したりすることこともできません。物流費を安くする事なんて、とてもできないと思いました。
でも、村に一週間滞在して、キオスク(小規模の商店)に生活雑貨を届けているトラックが来ていることに気づいたんです。また、思った以上に多くの人が携帯電話を持っていることも分かりました。これらを組み合わせればなにかできるのではないだろうか。事業のアイディアがふつふつと生まれてきたんです。
―具体的にはどういう仕組みなのですか?
仕組みは凄いとてもシンプルです。僕たちはトラックドライバーのためのスマホアプリを開発しました。ドライバーが荷物を届け終わったあと、スマホの画面を3回タッチするだけで、帰り道の経路沿いに住む農家の人々に「今から帰るけれど、運んでほしい物があれば返信してください」というメッセージを一斉送信できるというアプリです。「ついで」に運ぶ荷物なので、届けて欲しい農家の人にとっては安く頼むことができます。また、今まで空荷で帰っていたトラック事業者にとっては、新しい仕事を増やすことができるわけですから、利益の上乗せになります。双方にとってメリットがあるサービスというわけです。
東ティモールではスマホは普及していませんが、携帯電話は農民でも持っているので、SMSを送受信することができます。国勢調査によれば、農村部の世帯別普及率は43%です。ドライバーが一軒一軒に電話をかければ、アプリがなくても同様のことはできますが、それは大変ですよね。このアプリが搭載されたスマホ1台さえあれば、この仕組みが実現するんです。トラックを所有している現地のキオスクオーナーにこの話を持ちかけたところ、興味を持ってもらい、事業パートナーになってくれました。
―携帯電話1台があれば利用できる、シンプルながら影響力のある仕組みなのですね。ところで、そもそも東ティモールと瀬戸さんの出会いのきっかけはなんだったのでしょうか?
はじめて東ティモールを訪れたのは、2011年の2月です。当時ぼくは東南アジアを放浪していたのですが、インドネシアの島々のなかに、東ティモールという国があるということを知りました。それほど多くの人が行った国では無いでしょうし、面白そうだと思ってそこに向かいました。
東ティモールでは、コペルニクというNPOと出会いました。彼らは、先進国のテクノロジーを途上国向けにシンプルに改変した製品を、最も貧しい地域に届けるという活動をしていたんです。実際に東ティモールの奥地で使われているソーラーランタンや、転がして運べるポリタンクを見て「なんて面白い世界なんだと」思いました。
そして、日本に帰ってきてすぐ、東日本大震災が起きました。東ティモールであの時見た製品があれば「どれだけ被災地で役に立つだろう」と痛切に感じました。途上国のための技術開発は、途上国のためだけでなく、日本にも役に立つリソースになっていくということが分かったのです。
その後、放浪の旅と東日本大震災の復興支援をまとめた本『「ゴミ」を知れば経済がわかる』(PHP研究所)を書きました。そして、第2作のテーマを考えていた時「See-D Contest」がはじまるということを知り、東ティモールを応援する事業プランをエントリーしようと思ったのです。
―See-D Contestというのは?
2010年からスタートした、発展途上国のためのプロダクト&ビジネスコンテストです。コンテストのミッションは「世界で本当に必要とされるモノを作って、必要とする人に届けたい」。このコンテストを通じて生まれたアイディアが「東ティモールでの格安運送サービス」でした。
このコンテストの実行者には、ものづくりや国際開発など、いろいろな分野の人が携わっています。日本は「ものづくり大国」「技術立国」と言われていますが、途上国向けの製品は少ない。発展途上国のニーズと日本のテクノロジーを繋げよう、という目的で、このコンテストは開催されています。マサチューセッツ工科大学の研究者で、発展途上国向け技術を教える遠藤謙さんがコンテストの代表をしてらっしゃいます。
一緒に事業を取り組んでいるチームのメンバーとは、このコンテストで知り合いました。素晴らしい仲間に巡り会うことができ、おかげさまで最優秀賞を頂くことができました。それだけ期待を頂いた以上、実際にやらなくてはならない、と改めて決意したんです。
See-D Contest 世界で本当に必要とされるモノを作って、必要とされる人に届けたい
―面白いコンテストをきっかけに、事業はスタートしたのですね。でも、継続するための資金はどうされているのですか?
事業の立ち上げ資金の一部は、クラウドファンディングの仕組みを使って募っています。利用しているのは「READYFOR?」というwebサービスです。ぼくたちの「途上国において物流革命を起こす」という理念に共感した方から、寄付していただいています。とはいえ、すべての費用を寄付で集めるのではなく、自分たちでも身銭を切ってやっています。少なくとも最初はそうしないと、自分たちの想いが込められないと思っているからです。
東ティモールの貧困層のために【格安運送サービス】をつくります!(READYFOR?)
―瀬戸さんの直近の東ティモールにからむ活動について教えてください。
チームのメンバーが4月25日から東ティモールに渡り、具体的な事業立ち上げの調整がスタートしました。せっかくの機会ですので、横浜で東ティモールを知ってもらうためのイベントを開催することにしました。僕たちは東ティモールを知ることで、たくさんの気づき・学び・刺激を受け取ることができました。それを、横浜に住んでいる方々にぜひ感じてほしいと思っています。
イベントでは、東ティモール独立を描いたドキュメンタリー映画「カンタ! ティモール」の上映と、監督の広田奈津子さん、See-D Contest代表の遠藤謙さんを招いてのトークセッションを行います。また、僕たちだけでなく、様々な日本の若者が東ティモールでのプロジェクトを進めていますので、その挑戦もお伝えします。さらに、東ティモールとskypeで繋いで、現地の声を届ける予定です。
―最後に、今後の活動について教えてください。
tranSMSとしては、東ティモールでの事業をまず成功させて、他の国に横展開したいと考えています。物流にまつわる課題は、どの発展途上国も抱えていると思いますから。既にカンボジアやナイジェリアからのオファーが来ています。
個人的には、作家として、途上国におけるソーシャルビジネス立ち上げのための本をつくりたいですね。課題調査からチームビルディング、企画の立案からプロジェクトの実施まで、ぼくたちの経験の共有することで、より多くの人に、こうした取組をスタートしてほしいと思っています。
―ありがとうございました。
関内で「カンタ!ティモール」上映会-東ティモール支援者らによるトークも(ヨコハマ経済新聞)
『カンタ! ティモール』上映会 &"映画監督"広田奈津子 × "See-D Contest代表" 遠藤謙 -トークセッション-
瀬戸 義章 せと・よしあき facebook・twitter
作家/ジャーナリスト/チームtranSMS代表 1983年生まれ。
神奈川県川崎市出身。長崎大学環境科学部卒業。都内の物流会社でリユースビジネスの広報に携わった後、独立。東南アジアのリサイクル事情や、東日本大震災の復興の様子を取材して歩く。2012年、発展途上国向けのプロダクトデザイン&ビジネスコンテストである「See-D Contest2012」で最優秀賞をチームで受賞した。著作に『「ゴミ」を知れば経済がわかる』(PHP研究所)がある。
ヨコハマ経済新聞編集部