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横浜で初のセグウェイ実験ツアーが人気 
イノベーション加速へ6年目の正念場

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■倍率35倍!大人気セグウェイガイドツアー

 実施したのは11月19日・20日・21日と12月14日・15日。 実験参加者を一般から募ったところ、初回の3日間は27人の枠に945人の申し込みがあった。平日昼間の開催にもかかわらず平均倍率35倍という人気ぶりから、セグウェイという乗り物が専門家のみならず、一般市民の高い関心を引いていることがうかがえる。

 一方で、日本国内でセグウェイは、道路交通法の規定によって「公道での走行ができない」とされている。このため、国内でも横浜を含む複数の自治体が導入を検討しながらも「道路」での走行は実現していない(公園や企業の敷地内など、公道でない場所での導入例多数)。 

 こうした状況のなか、全国で唯一、2011年3月に内閣府認定を受けた構造改革特別区域「モビリティロボット実験特区」となった茨城県つくば市は、公道での実験を実施。2013年10月に、つくば市内をまわる有料ツアー(90分5,000円)を民間主体で開催したところ、応募枠の10倍を超える応募があり、11・12月にも追加ツアーを実施した。

 今回、横浜で行った実証実験は、世界各都市で行われている「セグウェイガイドツアー」実現に向けた環境整備のためのもの。横浜の観光都市としての知名度、および都市ブランド向上が狙いだ。参加者や歩行者からアンケートをとるなど、安全面の検証を目的に実施した。

 セグウェイとは、ジャイロセンサーによる自律制御機能によって、アクセルやブレーキの操作なしに体重移動だけでスムーズに発車や停止ができ、小回りのきく操作性を持つ立ち乗り型の電動二輪車。左右独立したタイヤによってその場での回転が出来るなど小回りの利いた移動が可能。

 動力はリチウムイオン電池。家庭用コンセントで充電でき、7~8時間充電すると、フル充電で40キロメートル走行が可能。電気代10円~20円(パソコン7~8時間使用と同等程度)。排出ガスもゼロのため、環境にも優しく、個人の近距離移動を容易に可能にするパーソナルモビリティとして、高い関心が寄せられている。

 2001年にアメリカで概要が発表された。2006年の第二世代機リリースと同時にセグウェイジャパンが日本正規販売開始。日本の現行の道路交通法制度上、公道での使用は認められておらず、私有地内に限定して使用できる。

セグウェイ・ジャパン

■八景島 セグウェイツアーリポート

 実証実験はおよそ1時間半。参加者は、乗り方講習(約40分)を受け、その後、八景島内のツアーに出発する。 

 セグウェイの運転は、コツをつかめば簡単だ。2つの車輪の間にある板に足を置き、そこから延びるハンドルをつかんで乗車する。  

 指導役は、このツアーのガイドを務めるセグウェイジャパン取締役の秋元大さん。鮮やかなカラーのウェアに身を包み、頭にヘルメット、細長いサングラスをかけて、思いのままにセグウェイを操り、口元のマイクを使って指導するその姿は映画に出てくる未来人のようだ。

 「このセグウェイには、ジャイロセンサーというバランス計算機がセットされていて、1秒間に100回計算しています。イメージとしては、手のひらの上にほうきを立てて、ほうきが傾かないように手を前後左右動かすってやったことあるでしょ。ほうきがみなさんで、手のひらがセグウェイだと思ってください」

 秋元さんから指導を受け、参加者たちはスイッチでセグウェイを起動、実際に乗車し、前進・後退、回転、カーブの曲がり方、止まり方などを実習した。

 セグウェイは、ハンドルの操作や足の踏み方で「運転する」のではない。「動きたい」という意識から来る体の微妙な傾きなどを、セグウェイが敏感に察知し、「動き出す」のだという。

 「意識を前に飛ばして」「ロープで引っ張られるようにカーブして」「大きなバランスボールが前にある感じでストップ」などと、秋元さんの指導は、参加者自らが感覚を動かすことで移動するイメージを教えていく。

 米Appleの創業者、スティーブ・ジョブスはセグウェイのことを「フライングカーペット(空飛ぶじゅうたん)のようだ」と言ったそうだが、確かに、自在な動きと「思っただけで、その通りに動く」という不思議な感覚。最初はその独特の操作方法に戸惑っていた参加者も、みるみるセグウェイと「感覚でつながる」体験を経て、自由自在に操る感覚を覚えていった。

 実験ツアーは、島内のおよそ5キロの道を走る。安全性を検証するため、途中、坂道を登ったり降りたり、溝を乗り越えたり、歩行者の隣を走ったりするようにコースが設計されている。秋元さんを先頭に一列になって実験ツアーがスタートした。

 参加者たちは、スタッフにハイタッチして島内巡りに出発。海沿いで停止し「ペリー来訪の場所」といわれる海を眺めたあと、小高い丘の上のバラ園に向けて移動。徒歩だと息が上がる坂道もセグウェイだとスイスイだ。バラ園から見える富士山を堪能した後、丘を下った。

 自転車だとスピードが加速する下り坂も、一定速度で進めるため、安全に走行できる。園路を行くと遠足らしい学生の集団や親子連れとすれ違う。「こんにちは!」「バイバーイ」。行き交う人たちに手を振り、会話を交わしながらの笑顔あふれるツアーになった。

 横浜市が行ったアンケートの結果、参加者のほとんどが「講習をきちんと受ければ安全にツアーに出かけられる」と回答し、周囲への聞き取りの結果も9割以上が、街をセグウェイが走ることについて好意的だったという。

セグウェイツアー参加者募集(横浜市文化観光局)

■セグウェイが「走れない」日本

 秋元さんは、「横浜にセグウェイを走らせ、笑顔を増やしたい」という思いで創業したが、実際は横浜でこうして実証実験を行うまで5年もかかっている。「法律の壁」があるためだ。日本の道路交通法上、セグウェイは、原則公道を走ることができないのだ。今回の横浜の実験場所の八景島は「港湾緑地」。公道ではない。

 同じ港湾緑地に、みなとみらいの臨港パークがある。さらに例えば山下公園は公園緑地であり、公道ではない。横浜市としては、そうした公道ではないところで民間主導でツアーが開催できたらと考えている。今回の実験は、セグウェイ走行時の安全面の課題の有無などを調査し、ツアー実現に向けた環境整備のため行政主体で実施された。

 横浜市文化観光局企画課横浜プロモーション担当課長の小林仁さんは「市内でツアー形式で実証実験ができたのは初めて。大きな一歩だ」と話す。

 一方、国内で唯一公道での実験を行っているつくば市。どのような体制で、公道走行が可能になっているのだろうか。

 つくば市は「構造改革特区」という規制緩和の特例制度を使っている。道路交通法、道路運送車両法の特例を認めてもらい、セグウェイを歩道で実験的に走らせている。「つくばモビリティロボット実験特区」だ。

 所管は警察庁。警察庁が構造改革特区でセグウェイを歩道で走らせるルールを「通達」で作っており、茨城県警の道路使用許可を得て、公道での走行が可能になっている。

 「走行実験」だけではなく、実際の利用シーンを想定し、防犯パトロールや通勤実験、セグウェイツアー実験なども行っている。防犯パトロールでは20人を超える防犯サポーターやボランティアが毎月参加し、セグウェイツアーでは1,000人を超える一般市民が街中を2時間以上走行するツアーに参加している。

 つくば市・国際戦略総合特区推進部科学技術振興課の大久保剛史さんによると、走行実験総距離は7,000キロを超え、これまでの実験において事故などはないという。2013年10月から実施している有料のセグウェイツアーも、ビシネスモデル開発と位置づけ、構造改革特区の実験の一つとして実施している。

 さらに行政だけでなく、市内複数の機関、産業技術総合研究所、筑波大学、そのほか民間企業などがセグウェイの導入を進めている。セグウェイで行き交う市民の姿は、「科学の街つくば」を象徴する日常風景になりつつある。

ロボット特区実験実証協議会

 一方、海外ではどう法律で位置づけているのだろう。アメリカ国内の45州では、セグウェイはEPAMD(Electric Personal Assistive Mobility Device)というカテゴリーに分類される。つまり歩行補助、日本でいうシニアカーのイメージだ。

 車両ではなく一つの「道具」として、歩行者と同じ扱いだ。簡単に言うと電化製品に近いカテゴリーの商品として扱われ、州ごとに立法して走っている。ヨーロッパの多くの国では、各国で「歩道または自転車道で走行可能」という立法をし、走らせている。

 警察のパトロールでの利用はもちろん、セグウェイツアーによる観光振興も盛ん。世界最大の旅行口コミサイト(登録会員数4,400万人)「トリップアドバイザー」の調べによると、2013年の人気観光都市の上位10都市の中のイギリスを除くほとんどの都市でセグウェイツアーが導入され、セグウェイは人気観光都市のステータスとして確立されている。

パリセグウェイツアー

トリップアドバイザー

■まるで身体の一部!モビリティロボット「セグウェイ」

 今回の実証実験の意味や、横浜での事業展開、さらにセグウェイの魅力について、 セグウェイジャパン株式会社・秋元大さんに改めてお聞きした。

-秋元さんが考えるセグウェイの魅力とはなんでしょうか?

 乗り物というよりも、セグウェイはロボット。人間の身体感覚を拡張したロボットといえます。実験でセグウェイに乗っていた全員が、出会った人にコミュニケートしようとしませんでしたか?つまり身体感覚を大事にしているんですよ。だから、乗る人は「木がどう」とか「坂が変わったな」とか、五感が開く。だから周囲のことに関心を払いながら移動を楽しめる。そこが最大の魅力です。

■「ヒトを笑顔にするテクノロジー」で横浜散歩を

ー秋元さんたちが、セグウェイを事業としてやろうと思ったのはなぜですか?

 セグウェイは、アメリカは45州、歩道で走れるし、ヨーロッパもイギリスを除くほとんどの国で、歩道か自転車道で走れます。事業を始める前に視察に行ったときに、ほとんどのユーザーが笑顔で運転していたことに驚きました。ぼくたちは、ずっと、ロボットやスーパーコンピューターなど、ありとあらゆる世界中のテクノロジーを見てきたけれど、ここ10年のテクノロジーでここまで人がニコニコするものを、見たことがなかった。使っている人に聞いても喜んでるし、世界中のツアーオペレーターも、セグウェイのことが大好きだった。だから、日本でセグウエイを走らせるという事業をやってみようと思ったんです。

ー日本正規代理店として活動を始めたのは2006年のこと。横浜に拠点を構えた経緯は?

 横浜ならば新しいものを受け入れる文化もあるし、魅力的な場所が都心部2キロ圏内に点在している。都市の機能というのは、パリもローマもだいたい半径2~3キロくらいの中にほとんど入ると言われています。北仲・馬車道中心にすると、2キロ圏内は横浜駅と元町になります。

 横浜駅~元町は、歩くにはちょっと距離があるし、車で移動するまでではない。セグウェイならばこの横浜の魅力をどんどん伝えられると思いました。みなとみらいをセグウェイが走っていたら、笑顔で手を振るコミュニケーションも生まれて楽しいし、海外からの観光客もアフターコンベンションなどで乗って、横浜の風景を知ってもらうこともできる。 こうした経緯から、2009年に会社を設立し「創造空間 万国橋SOKO」に事業所を構えることに決めました。

横浜で「セグウェイジャパン」が創業ー本社は万国橋SOKOに(ヨコハマ経済新聞)

リノベーションで倉庫から創造空間へ。馬車道に誕生した「万国橋SOKO」の全貌(ヨコハマ経済新聞)

■受け入れられるか「セグウェイ・イノベーション」

ー横浜でさらに一歩を踏み出すために必要なことは?

 わたしたちはつくばで特区の協議会を作っています。目的は、ルールの検討、安全性確保、実証実験の成果の共有です。自治体・大学の参加は無料で、すでに愛知県をはじめ、大阪市、広島県の庄原市と神石高原町、柏市などが参加しているが、横浜はまだ参加していません。ぜひ、協議会に参加してセグウェイが走れる規制緩和の方向性を、他都市とともに探り、動いてほしいと思います。

 ぼくはこの街でイノベーションを起こしたい。人に喜んでもらいたいし、笑顔になってもらいたい。つくばと同じように「モビリティロボット実験特区」も申請してほしい。

 つくばですでに実証された成果もあるし、市民やメディアの反応も好意的で味方も増えている。行政はもちろん、民間企業や大学、個人など、横浜でセグウェイファンを増やし、移動手段のイノベーションを一緒に起こそう、応援してほしいと呼び掛けていきたい。

モビリティロボットシェアリングの実証実験を開始(つくば市)

QUOMO(二子玉川)

ーサポーターや応援者を増やすには、どうすれば良いと思いますか?

 味方を増やすには、実験を繰り返していくしかない。楽しい体験をやり続けたらいいと思います。横浜でセグウェイに触れる機会が少なすぎる。セグウェイがどういうものか実際に体感したら、横浜でも賛同する人は増えると思います。つくばでも、最初は味方はいませんでした。コツコツやっていくうちに、いまは多くの人がプロジェクトそのものに協力しようという状況になってきました。つくばでは、市も、病院も研究所も大学も、セグウェイを所有しています。

ー今後の横浜での展開、どんなことを期待しますか?

 横浜で、いつか観光ツアーができたら素晴らしい。世界にも誇れるツアーになる。ぼくが本社を横浜を置いたのは、150年前に寂しかった村が、新しいものを受けいれ続けて、これだけ経済的に発展したという開港からの歴史に惹かれてのことです。

 でも、現状、時間がかかっていることは事実です。東京でも、柏でも、ほかの自治体でもやっているけれど、セグウェイの公道走行実験は、横浜でやったことがない。けれども、この6年間、行政をはじめ、一緒に頑張ってくれた人がたくさんいるから、やり続けています。前例はもうある。あとは本当に街を変えたいと思う情熱が、関わった人に伝わるかどうか。

 限られたエリアでもいい。できるだけ早く、継続的に実験ツアーを実施し、海外からの観光客も市民も「横浜を初めて案内する時には、セグウェイで行くと楽しい」と人気になるような環境づくりを150年前は一番イノベーティブだったこの土地でやりたい。

 セグウェイはA点からB点へ移動するためだけの「乗り物」ではない。車両という概念で一概に国内での使用を制限してしまうのは惜しい「ロボット」だ。秋元さんたちは、現行の法律の中に「搭乗型移動ロボット」という新しいカテゴリーを作ろうと働きかけを始めている。

 「決して平坦な道のりではなかった6年」。その6年で前例を作り、実績を作り、知名度も上げてきた。

 秋元さんはインタビューをこんな言葉で締めくくった。「車と異なり、ゆっくりとしたスピードで進むセグウェイは、まちとコミュニケーションができる。その走りから生まれる笑顔は、このまちに似合っている」

 セグウェイが、実験から次のステップに進むことが出来るかどうかは、横浜が誇る「進取の精神」にかかっているといえそうだ。

船本由佳+ヨコハマ経済新聞編集部

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