2008年に横浜トリエンナーレの会場として建設されて以来、2009年の「開国博Y150」「ヨコハマ国際映像祭」、「ヨコハマトリエンナーレ2011」関連プログラム「新・港村」などの会場として活用されてきた「新港ピア」。「ハンマーヘッドスタジオ 新・港区」は、「新・港村」を主催したBankART1929の働きかけにより、横浜市文化観光局のプログラムの一環として2012年5月にスタートした。指名・公募審査を経た、美術、建築、写真、ダンス、服飾などさまざまな分野の約50組のクリエーターが、「原寸大の建築展」をテーマにつくられた「新・港村」の建築とその間に入り込む形で入居し、日常的な制作の場として利用してきた。
2年間の間に計15回開催されたオープンスタジオでは、そうした制作の様子をほぼそのままの形で公開するとともに、カフェやトークイベント、作品販売などを通じて、市民との交流が行われた。企画の多くは、新・港区の「住民」から選出された「区長」「副区長」を中心に自治的に管理・運営され、通常は一般市民が自由に出入りできないスタジオを、少しずつ開かれた場所へ変えてきた。
これまでの成果を一挙に公開する初の展覧会となる今回は、それぞれのブース内にとどまらない、スタジオ全体の空間を活用した展示を見ることができる。会期中を通して、ワークショップやパフォーマンスなどのイベントも開催される。
新港ピアにクリエーターの未来都市「新・港村」が出現-トリエンナーレと連携(ヨコハマ経済新聞)
「ハンマーヘッドスタジオ 新・港区」に入居するクリエーターを募集(ヨコハマ経済新聞)
「ハンマーヘッドスタジオ 新・港区」でクリエーター50組の制作現場を公開(ヨコハマ経済新聞)
クリエーター50組の制作拠点「ハンマーヘッドスタジオ 新・港区」が毎月公開へ(ヨコハマ経済新聞)
ハンマーヘッドスタジオで「撤収!」展-クリエーター53組が成果発表(ヨコハマ経済新聞)
横浜の街と積極的に関わりながら展示やイベントに参加する人、海外を飛び回る人、広いスタジオを生かして実験的な制作を行う人など、住民はステージも活動スタイルもさまざま。そんなクリエーターたちによる垣根のないコラボレーションは、このスタジオならではの見どころだ。
新国立劇場やKAATでも活躍するダンサー・中村恩恵さんと彼女が率いるDance Sangaは、初期のオープンスタジオで行ったダンスツアー「playing play」を今回の展覧会で再び実施(3月30日、4月6日)。スタジオ全体を回遊しながら、衣装や楽器、ライブペインティングなど、思い思いの方法で絡むアーティストたちと、即興でセッションを繰り広げる。
ハンマーヘッドホールで行われる「Working Process」(4月6日)も、住民有志による実験的な取り組みの一つ。ファッションや彫刻、絵画など、異分野の制作を行ってきたアーティストが、普段と同じあるいは全く違った作業を一つの会場で同時に進めながら、お互いの交わり方や見せ方を探るパフォーマンスだ。
また、住民が持ち回りで講師となって運営してきた市民向けワークショップシリーズ「ハンマーヘッドカレッジ」は、3月29日に特別講座「ものをつくること 場がうまれること」を開講。カレッジを進めてきたアーティスト・牛島達治さん(汎用動力研究所)が、自身の「旅する工房 SEV(Soft Energy Vehicle)プロジェクト」の目的でもある「『つくる』ことを通して生まれる『場』の価値やその発生のされ方を能動的に見てみる」ことをテーマに、ゲストの彫刻家・三沢厚彦さんとデザイナー(造形ワークショップ・グラフィック)の横須賀ヨシユキさんとトークを行う。
クリエーターが自主運営する「ハンマーヘッドカレッジ」開校―プレイベントも(ヨコハマ経済新聞)
パフォーマンスやイベントにとどまらず、作品制作や仕事のあらゆる場面で行われてきた住民同士の共同作業は、スタジオ内の展示のほか、今回の展覧会に合わせて発行される冊子(B5版、1,800円+税)でも見ることができる。2年間のスタジオ内外での活動記録に加え、ゲストアーティストとして入居した作家やスタジオの活用を推進した関係者・有識者からの寄稿を掲載するほか、11月1日に行われたシンポジウム「クリエイターが街にすむこと-シェアスタジオの可能性」の内容も収録されている。
横浜都心部の200以上のクリエーター拠点を公開する「関内外OPEN!5」に合わせて開催された同シンポジウムでは、横浜と東京・長野・北九州でシェアスタジオ運営やまちづくりに携わるゲストが参加。槌屋詩野さん(Hub Tokyo/東京)、佐々木龍郎さん(宇徳ビルヨンカイ/横浜)、番場俊宏さん(ハンマーヘッドスタジオ 新・港区/横浜)、嶋田洋平さん(北九州家守舎/北九州)、広瀬毅さん(ボンクラ/長野)、内山博文さん(月島荘/リビタ)、田中陽明さん(co-lab/東京)、肥山達也さん(横浜市文化観光局)の8人をパネラーに迎え、不動産情報サイト「東京R不動産」を運営するOpen-Aの馬場正尊さんが司会を務めた。
シェアスタジオやオフィスそのものの社会でのあり方や、コミュニティーの維持の仕方、そこから生まれたプロジェクトなどについての事例紹介や議論が行われ、クリエーターと地域の関わり、行政がクリエーターを支援する意味について、考えるきっかけを与える内容となっている。
クリエーターのスタジオ公開「関内外OPEN!5」-過去最多200組以上が参加(ヨコハマ経済新聞)
新・港区で「シェア」を考えるシンポジウム-クリエイターが街にすむこと(ヨコハマ経済新聞)
齊藤真菜+ヨコハマ経済新聞