ヨコハマポートサイド地区(横浜市神奈川区栄町6)に10月10日、眞葛焼(まくずやき)を常設展示する「宮川香山 眞葛ミュージアム」がオープンした。
宮川香山は幕末、京都生まれの陶工で、薩摩の御用商人・梅田半之助に海外輸出用の陶磁器製造を依頼され、1870年に横浜に移住。翌1871年、太田村(現在の南区庚台付近)に窯を開き、陶磁器に金彩を用いて上絵を描く外国人好みの「薩摩焼」や「京薩摩」を模倣した製品を創作しながら、独自の技法「眞葛焼」を開発した。
陶器の表面に身近な動植物を立体的に表現した「眞葛焼」の作風は、フィラデルフィア万国博覧会(1876年)への出品をきっかけに欧米で注目を集め、その後、フランス、アメリカ、イギリスなど各地の万国博覧会で受賞を重ねた。初代から2代、3代へと引き継がれたが、1945年の横浜大空襲で3代目が亡くなり、窯は壊滅的な被害を受けて閉鎖。眞葛焼は多くの作品が海外に輸出されており、「幻のやきもの」とも呼ばれている。
同ミュージアムを管理・運営するのは、横浜の老舗洋菓子販売店「モンテローザ」を展開する三陽物産(中区長者町9)。郷土史愛好家である同社代表取締役社長の山本博士さんが、個人的に収集したコレクションを南区の眞葛窯跡地の記念館で公開してきたが、「地域の財産をより多くの方に見ていただきたい」と、同社の社会貢献事業の一環として、記念館をヨコハマポートサイド地区に移転した。敷地面積は約50坪。
作品は、初代香山の遺作とされる、初期眞葛焼の特徴的な作風でカニの細工を施した「琅かん釉蟹付花瓶」、立体技法「高浮彫」の色鮮やかな鳥とあでやかな花が特徴の「花ニ鳥細工楽園花瓶」、中国清朝の磁器を研究して生み出した赤い「釉薬(ゆうやく)」と藍色の染付が調和した「磁質赤地竜紋花瓶」ほか。
ミュージアムには、山本さんが所蔵する個人コレクションの中から厳選した眞葛焼55点(初代から3代目まで)が展示され、近年、欧米諸国から里帰りした眞葛焼の歴史、時代ごとの作風の変遷をたどることができる。そのほか、「勝海舟直筆の手紙」を含む掛け軸3点も紹介されており、宮川家の所蔵する貴重な古写真のスライド上映も。
「世界に愛された『眞葛焼』の魅力を伝え、若い世代に横浜の歴史や文化を感じてほしい」と話す山本さんは、当地を選んだ理由について、「香山の作品は横浜の港から世界へと旅立って行ったので、『海』を間近に感じられる場所にこだわった。ここは、同社が販売する神奈川台場をモチーフにした縁起菓子『勝サブレ』ゆかりの神奈川台場跡からも近いので、将来は横浜の歴史をたどるミュージアムを起点にしたウォークイベントなども開催したい」と語る。
眞葛焼150点を豊富な写真と解説で紹介する「世界に愛されたやきものMAKUZU WARE 眞葛焼 初代宮川香山作品集」(山本博士編著)は神奈川新聞社(中区太田町2)より10月末に発行予定。価格は3,990円(A4変形260ページ)。
入館料は大人=500円、中高生=200円、小学生以下無料。開館=土曜・日曜の10時~16時。問合せは「宮川香山 眞葛ミュージアム」事務局(TEL 080-3172-8570)まで。