写真家の田村尚子さんが、フランスの南東部にある「ラ・ボルド精神病院」を6年にわたって訪問し、撮影した映像作品「ソローニュの森」が12月6日、さくらWORKS<関内>(横浜市中区相生町3)で上映される。
ラ・ボルド精神病院は、フランス・ロワール地方のソローニュの森にある古い城を改装したクリニック。思想家のフェリックス・ガタリが終生関わり続けたことでも知られている。同病院には「患者服」などがなく、治療者と一見区別がつかないなど、あらゆる面で正常と異常の「境界」を曖昧にしている。
また、病院内では、スタッフと患者がともに食事をつくり、語らい、森を歩き、「アトリエ」と呼ばれる音楽や演劇のワークショップが行われるなど、アートと精神をつなぎ直す試みも盛んで、先進的な精神科クリニックの代名詞ともなっている。
田村尚子さんは、同病院院長のジャン・ウリさんと2005年に京都で出会い、親交を深めたのを機に、ラ・ボルド滞在と自由な撮影を許可された。以来、6年間に6回、同病院を訪れたという。
今回、上映する作品は、その滞在時に撮影した約21分の映像。同名の写真集「ソローニュの森」(2012年、医学書院)は、現実の病院を被写体としながらも、田村さんが感じとった「ラ・ボルト精神病院」の空気を、独特の光の表現で伝えるアート作品として、さまざまな分野の専門家らに評価されている。
また、当日は田村さんに加え、ゲストとして「日常編集家」のアサダワタルさんを招く。アサダさんは、専門的な美術教育を受けていない人による芸術活動を体系的に紹介する「アール・ブリュット アート 日本」(平凡社)の編著を担当し、2013年8月に出版している。
同イベントの企画者で、「本のモ*クシュラ」(中区相生町3)の代表・大谷薫子さんは「『高名なフランスの思想家が関わった伝説的な病院』という評価をいったんはがし、田村さんの作品を通して現われる生(き)の状態のラ・ボルド精神病院を感じてほしい」と話す。
さらに、「私たちは、正常・異常の境界線を意識しないままレッテルを貼りがち。アサダワタルさんは、社会における硬直したまなざしに対して、常に問題を提起する実践を続けている。ふだん当たり前だと思っている価値観を揺さぶる言葉を聞く機会になるのでは」と話している。
開催時間は19時15分~21時。参加費は1,000円。申し込みはさくらWORKS<関内>のフェイスブックページ、またはEメール info@mochuisle-books.comまで。