2004年に実施した横浜・野毛のまち歩きから、地域を巡り、観察し、インタビューを続け、さまざまな実験的な手法で情報を発信しながらコミュニケーションのあり方を探っている慶應義塾大学環境情報学部教授・加藤文俊研究室の成果発表展示が10年目を迎えた。節目を記念した「フィールドワーク展X じゅじゅじゅ」が2月4日まで、ヨコハマ創造都市センター(横浜市中区本町6)で開かれている。
加藤さんは、地域にある創造的な「場」が、どのように生まれ、育っていくのかについて関心を持ち続けている。これまで、研究室の学生たちは「フィールドワーク」という手法で国内30以上の地域に関わり、インタビューを通じてそのまちに暮らす人たちと出会い、ハガキ・フリーペーパー・ポスター・動画・音声コンテンツなど、コミュニケーションを促す媒体を制作してきた。
今回の「じゅじゅじゅ」展は、そうした学生・卒業生たちが10年間にわたって蓄積してきた成果を一堂に集めている。横浜の大道芸人をテーマにした作品をはじめ、釜石市(岩手県)・首里市(沖縄県)・富山市(富山県)など、各地で学生たちがつくったポスターや、路上観察を記録した小冊子などの紙媒体、音声コンテンツなど200以上が展示されている。
まち歩き直後に「はがき」で記録報告を投函した10年前のアナログなコミュニケーションに始まり、デジタルプリンターを駆使し、フィールドワークのインタビュー後、ポスターを一気にデザイン・制作して1泊2日の旅程の間に完成させてまちの人に配るプロジェクトなどの作品から、人と人をつなぐ「メディア」のさまざまな形態とその媒体がコミュニケーションに与える影響について知ることができる。
活動の軌跡を前にした加藤さんは「10年という時を重ねて初めて見えてくることがある」と話す。
象徴的だったのが、被災地でのエピソードだ。2013年秋、岩手県釜石市を訪ねた旅で、震災前(2009年)に学生が釜石市で制作したポスターを大事に取っておいてくれた住民がいた。
4年ぶりの再訪、踏み込んで話を聞いていいのかという不安もあったが、津波の水の跡が残っていても大切に扱われていたそのポスターを見たという学生の報告を聞いた時「たった一度のフィールドワークであっても、残してきた成果がつないでくれた関わりがある」と思い、感動したという。加藤さんは「これからの10年、新しい地域を歩くとともに、今まで訪ねた地を振り返る関係のメンテナンスにも力を入れたい」と話していた。
「フィールドワーク展X じゅじゅじゅ」は、4日まで。11時~18時(最終日4日は15時まで)。