KAAT 神奈川芸術劇場(横浜市中区山下町281)で、作家ドストエフスキーの小説を原作にした舞台「悪霊」が上演されている。
同劇場は、京都を拠点に活動している劇団「地点」とともに、企画段階から制作過程を共にしてつくりあげる共同作品を制作しており、これまで芥川龍之介の小説をコラージュした「Kappa/或小説」(2011年)、太宰治の短編小説を舞台化した「トカトントンと」(2012年)、「駈込ミ訴ヘ」(2013年)を上演。今回は4作目の共同制作作品として、文学界の巨匠F.ドストエフスキーの小説「悪霊」を舞台化する。
作品「悪霊」は、ロシア革命前夜に革命組織を名乗る学生グループの中で起きた殺人事件「ネチャーエフ事件」を題材にした長編小説。1870年からロシアの雑誌に掲載され、1873年に出版された。劇中では、事件の核心にいながら目的のない人間として描かれている主人公・スタヴローギンが抱える深刻な「空虚」を、現代日本に通じるテーマととらえ、独自の視点で「国」と「個人」を描く。
演出・構成は、「地点」代表の演出家・三浦基さん。舞台美術は建築家の木津潤平さん。衣装は、フランスやドイツでオペラ作品の衣裳制作なども手がけるフランス人デザイナーのコレット・ウシャールさんが担当。
同公演では、さまざまな実験的作品の上演を前提にデザインされた大スタジオの特性を生かし、原作の持つスケールの大きさを舞台全体で表現。通常の客席を取り払い、会場全体をユーラシアの大地に見立てた空間に演出し、舞台中央には湖とも、渓谷とも見える最深部110センチの大きなくぼみを設置。上演中は白い舞台美術の効果で常に雪が降り、劇場空間に白夜のような明るさが残る。
出演は、安部聡子さん、石田大さん、小河原康二さん、岸本昌也さん、窪田史恵さん、河野早紀さん、小林洋平さん、永濱ゆう子さん、根本大介さん。
KAAT神奈川芸術劇場の井上はるかさんは「これまで小説を原作とした演劇作品の新しいあり方を提示してきた神奈川芸術劇場と地点が、今回初めて長編の舞台化に挑戦する。登場人物同士の関係性や対話の面白さといった物語の魅力はそのままに、作家ドストエフスキーの思念をむき出しにするような、物語への新しいアプローチを楽しんでほしい」と話している。
会場はKAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ。チケットは、一般3,500円、U24チケット1,750円ほか。公演スケジュールは日程による。問い合わせは神奈川芸術劇場(TEL 0570-015-415:チケットかながわ)。3月23日まで。
「地点」は、多様なテキストを用いて言葉や身体、物の質感、時間などさまざまな要素が重層的に関係する演劇独自の表現を生み出すために活動している。劇作家が演出を兼ねることが多い日本の現代演劇の中で、演出家が演出業に専念するスタイルが独特。2006年にカイロ国際実験演劇祭でベスト・セノグラフィー賞を受賞。テキストの綿密な解釈に基づき意味を再構築する手法が国内外で注目を集めている。