特集

ヨコハマは世界のアートの発信地になれるか?
アーティスト支援実験プロジェクトの全容

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■文化芸術都市を目指すヨコハマ

2002年11月、横浜市では学識経験者や専門家らが集まって「文化芸術・観光振興による都心部活性化検討委員会」を発足した。当初からの大きな課題の一つは「横浜市の歴史的建造物をいかに活用するか」という問題。ちょうど都市開発の陰として空きオフィスの問題等が顕在化してきた時期でもあり、横浜の文化・歴史の資源を最大限に活用すべきだという意識が高まりを見せていた。横浜都心部、特に関内地区には開港以来の西洋文化を感じさせる近代建築の建造物が多く、「横浜らしさ」を考えるうえで近代建築は欠かせない重要なキーワードとなっている。同会では古い建物を新たな方法で活用する「リノベーション」の発想で、旧第一銀行、旧富士銀行をはじめとする歴史的建造物や倉庫を文化や芸術のために活用することを考えた。これがBankART1929の発端だ。このプロジェクト、行政レベルだけで進めるのではなく、文化・芸術に関して実績のあるNPOを運営主体とする方針で、2003年3月に中間答申が出されたのちの同年11月、公募によりSTスポット横浜(代表:曽田修司)YCCCプロジェクト(代表:池田修氏)の2団体が選ばれた。

文化芸術・観光振興による都心部活性化検討委員会

■委員会は何を提言したのか

2004年1月、同会はこれまでの提言をとりまとめて中田市長に提出した。この提言書には、文化芸術のもつ力によって横浜都心部を活性化させるヴィジョンと、その実現のために取り組むべき戦略プロジェクトが具体的に示されている。数値として掲げられた目標として、2008年までに横浜市内に住むアーティストやクリエイターを5,000人(現状:3,071人)に。クリエイティブな産業に携わる従業者を3万人(現状:1万5,730人)に。文化芸術・観光に関わる施設を100ヵ所(現状:85ヵ所)に。市主催の文化芸術イベントの年間観客数を350万人(現状:248万人)に。これらの実現のための取り組みとして、みなとみらい線馬車道駅を中心とするエリアに創造界隈を形成する「クリエイティブ・コア」戦略(BankART1929はここに含まれる)。今後成長が見込まれる映像に関わる産業や人材育成機関の立地を促進し、新高島駅周辺にエンターテイメントエリアを形成する「映像文化都市」戦略。 2005年の横浜トリエンナーレや2009年の開港150周年に向けて、臨港パークから山下ふ頭エリアを重点的に整備する「ナショナルアートパーク(仮称)」戦略などが構想されている。これらの壮大な事業の「最初の」プロジェクトがBankART1929と考えていいだろう。横浜市は同会の提出したこの提言を踏まえ、4月から新しい組織として「文化芸術都市創造事業本部」の立ち上げを決めた。BankART1929プロジェクトの実施期間は2年。平成 16年度の横浜市の予算からはこのプロジェクトの運営費として3,000万円が充てられる。 横浜市都市経営局文化芸術・観光振興による都心部活性化検討委員会

文化芸術・観光振興による都心部活性化検討委員会
文化芸術・観光振興による都心部活性化検討委員会

■オープンプログラムは4月上旬まで

3月6日から4月上旬まで、オープンプログラムとして1929ホール(旧第一銀行内)と馬車道ホール(旧富士銀行内)を使って BankART1929の企画や運営に関わる市民や文化芸術関係者とともに、レクチャーやイベント、ワークショップが行われる。アートディレクターの北川フラム氏による講演、珍しいキノコ舞踊団によるダンス、大野慶人氏の振付による舞踏、子どものためのエンゲキワークショップなど。また、美術ジャーナリストの村田真氏が校長を務める「BankARTスクール」(通称BAKAスクール)では、講師として評論家の平岡正明氏や写真家の森山大道氏、音楽家の巻上公一氏らを予定している。2団体が合体して「BankART1929」として新たなチームが組まれたのは今年1月。わずか2ヵ月足らずという短い期間で立ち上がったにしては実に多彩な顔ぶれで、運営者の熱意がうかがえる。3月6日のシンポジウムでは杉浦隆夫氏の大きなスポンジのようなふわふわとしたオブジェ作品の展示が参加者の心をリラックスさせていた。また、この日に行われたオープニング・パーティでは、新鋭作曲家でパフォーマーの足立智美氏と「輝く未来合唱団」が「声」によるパフォーマンスを披露。学生や社会人で構成されるというユニットのユニークな声の群れが、足立氏の指揮に従って1929ホール全体に響き渡った。その他、市民から椅子を集める参加型の展示もあり、馬車道ホールにはすでに約100脚の大小・形さまざまな椅子が集まっている。オープンプログラムにはすべて予約が必要だが、基本的に誰でも参加可能だ。なお、期間中により開かれた対話ができるように、1929ホールにはカフェ、馬車道ホールの1Fにはパブのスペースが設けられる。ソフトドリンク・ワイン・ウイスキー・カクテルなどが350円、ビールは450円。チケット制で、カフェ、バー共通の350円×3枚綴りセットが1,000円。期間中無休で、カフェは11~20時、バーは17~22時まで。

BankART1929
オープンプログラム オープンプログラム オープンプログラム

■旧第一銀行と旧富士銀行について

みなとみらい線馬車道駅を降りてすぐの旧第一銀行は、1929年、関東大震災後の復興期に建てられた古典主義様式の銀行建築。1階ホールの天井高が 7メートル、面積が320平米。円柱がいくつも建っているのが、機能性を第一に優先する昨今の建物とは異なるところ。1990年3月、「歴史を活かしたまちづくり要綱」に基づき、横浜市の登録歴史的建造物となり2003年に改装され、創建当初の空間のイメージが再現された。一方、本町通りと馬車道の交差点の角に建つ旧富士銀行も、同じく1929年に建てられてた。外観は石造りでドリス式と呼ばれる柱と半円形の窓が特徴的だ。1階ホールの面積が323平米。厚さ30センチの鉄扉で見るからに堅牢な金庫室の中には4月上旬まで、写真家・楢橋朝子氏による、水面から見た都市風景の映像作品が展示されている。

旧第一銀行

■気になるBankART1929の今後の動向

これからBankART1929はNPOが運営していくわけだが、今後どのような展開があり得るのか。館長である岡崎氏は、ここで何が可能なのか、ここからいかに発信していくのかをこのオープンプログラムの期間内に市民や専門家やアーティストらと徹底的に考え、実験プロジェクトのより具体的なヴィジョンやネットワークを構築していくつもりだ。シンポジウムでの岡崎氏は「アーティストらのための稽古場を提供することがヨコハマ発のアートを生んでいく大きな原動力になる」と発言した。小劇場「STスポット」で17年に渡って館長を務め、演劇やコンテンポラリー・ダンスのアーティストたちの活動を現場で見てきた人物ならではの現実的で説得力のある言葉だ。また池田氏は、このプロジェクトをきちんと事業として成り立たせていくことをシビアに考えている。カフェやパブは常時1人体制と、コストを最低限に抑えて採算の取りやすい仕組みを作った。当面は人脈を生かしつつ独自の切り口での企画展やスクール事業が軸となるが、実際に無理のない形で運営していくためにも3,000万円の予算に助成金などを加え、年間8,000万円にまでもっていきたいと語った。 2005年の横浜トリエンナーレ開催も間近に控え、ヨコハマは「アートの都市」として世界に強くアピールできる絶好の機会を迎えている。 BankART1929の今後の動向に注目したい。

今後の行方
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