昨年2003年、横浜・八景島シーパラダイスに1万人を集めた日本最大級のレゲエ・フェス「横浜レゲエ祭」が今年の夏もやってくる。 今年でちょうど10年めを迎えた同フェスは、8月28日の14時より、海の間近に位置するみなとみらいの新港埠頭特設野外ステージにて行われる。 驚くべきことに、すでに去年の倍の数である2万枚のチケットが完売している。この7月、情報誌「YOKOHAMA WALKER」の企画で中田宏・横浜市長と 主催のMIGHTY CROWN(マイティ・クラウン)との対談が実現、市長からじきじきに熱い応援のメッセージをもらうなど、まさにいま大きな波に乗って いるのが、この横浜レゲエ祭だと言ってよいだろう。
横浜レゲエ祭2004同フェス主催のマイティクラウンは、地元横浜中華街発のレゲエ・サウンド・クルー。結成は1991年で、MCのMASTA SIMONを中心とした、SAMI-T、COJIE、SUPER-Gの4人編成。94年ごろから国内での活動を本格的に始め、サウンド・ クラッシュ(クルー同士で選曲し、客のノリの妙で優劣を競うスタイル)の予選を勝ち残り、99年にはサウンド・クラッシュ の世界一を決めるイベント「ワールド・クラッシュ1999」に日本代表としてエントリーしみごと優勝。アジア人初の世界一 の快挙を成し遂げた。その後もロンドンの「UK cup」やニューヨークの「Grobal cup」など数々の世界大会で優勝の栄光を 勝ち取ってきた、世界トップレベルのレゲエ・サウンド・クルーである。
MIGHTY CROWN ENTERTAINMENT94年当時、日本人のアーティストだけが集まるようなレゲエのイベントがまだ日本にはなく、マイティ・クラウンが「ないなら自分たちでつくって、日本人レゲエアーティストを地元・横浜に呼ぼう」と考えたのが同フェス立ち上げのきっかけだった。ライブハウス「CLUB24 YOKOHAMA」での第1回横浜レゲエ祭(当時の名称は「Yokohama Reggae Bash」)の動員数は150人。現在の100分の1にも満たない数である。そこから現在のレベルまで同フェスを大きくするまでには、さまざまな苦労があった。何よりもレゲエというジャンルを一般の人々に理解してもらうことがいちばん難しかった。レゲエというととにかく「ドレッド」「ラスタカラー」「不潔」というイメージをもたれがちだったのだ。だが、レゲエはジャマイカの貧しい社会情勢のなかから生まれた音楽であり、その特徴とは後打ちのリズムと、歌詞に政治・恋愛・世界愛など強いメッセージ性をもっていることである。そのレゲエの正しい音楽性や魅力をわかってもらうために、企業や行政に対してテープをつくり、何度も説明を繰り返したという。彼らの粘り強い努力とともに、毎年レゲエ祭の動員数は増え、レゲエのアーティストが日本の音楽シーンを賑わす機会が出てくるにつれ、徐々にレゲエに対する理解が一般の人々にまで浸透していった。結成当時から彼らを知り、2000年よりビジネスのパートナーとして音楽イベント運営会社KMミュージックで横浜レゲエ祭の共催として関わる三好亨子さんも「世代を超えて、レゲエは誰にでも入りやすい音楽。偏見をもたず、見に来てくればすぐ好きになれるはず。何とかしてそれを伝えたいといつも思っている」と話す。
KMミュージック現在ではハマ発のレゲエイベントとして知名度もあがり、日本全国から人が集まるようになった。横浜レゲエ祭の観客のうち約4割(今年=約8000人)は地方からこの日のためにやってくるのだそうだ。そのため、KMミュージックでは近畿日本ツーリストと提携し、バスプラン、飛行機プラン、宿泊プランを組んだ(プランの締め切りはすでに終了)。今後の横浜レゲエ祭について、「横浜のお祭りとして、例えば花火大会と同じように地元に定着しながら有名になっていけばいいと思う」と三好さんは語った。全くの手探りから10年で2万人の動員数を集めた地元発の横浜レゲエ祭は、横浜の新たな夏の風物詩となるか。同フェスの今後の可能性に大いに期待したい。なお、8月28日24時より、横浜ベイホールにて横浜レゲエ祭の後夜祭が行われる。
横浜レゲエ祭2004高校生の、高校生による、高校生のための全国音楽フェス「ヨコハマ・ハイスクール・ミュージックフェスティバル2004(以下YHMF)」が8月18日、横浜アリーナで開催される。神奈川県を中心とする全国の高校生が運営スタッフとなり、イベントの運営管理やステージ裏方、司会、パンフレットやチラシのデザイン、出場者の選考と管理などあらゆる業務を高校生が行う。北海道から沖縄まで、全国の高校生アーティストから応募された258曲を高校生審査員が音源審査・ビデオ審査・ライブ審査などで18組に選考、そこにソウルで開催された韓国大会から1組、京都で開催された「LIVEKIDS」中高生部門より選出された1組をあわせ、計20組の高校生アーティストが18日の決戦大会に出場する。同フェスは入場無料、入場者数は1万人を目標にし、スタッフは日夜広報活動を行っている。
YOKOHAMA HIGH SCHOOL MUSIC FESTIVAL LIVEKIDS 20042000年からスタートしたYHMFは今年で5回めを迎え、ボランティアスタッフとして参加する高校生も約230人と過去最高となった。その大人数のスタッフを元気な声でまとめるのは、高校生企画運営委員長を務める県立新羽高校3年生の篠田香央里さん。篠田さんは1年生のときからYHMFにスタッフとして参加、昨年はスタッフとしてのみならずダンサーとしても同フェスに参加した。「がんばっている高校生にスポットを当てたい」と語る篠田さんはフェスのオープニングにチアリーディングの演技、ゲストにダンスステージを入れるなど、音楽以外の分野で活躍する高校生をゲストとして呼び、イベントを盛り上げる。YHMFに応募してくる高校生アーティストはロックバンドから一人の弾き語りまで様々だが、今年は例年に比べて明るい曲調の応募が多いという。また昨年から既製曲をアレンジした楽曲の受け付けも開始した。「中島みゆきさんの名曲『地上の星』をロック調に大胆にアレンジした楽曲は注目」と篠田さんは見所を語った。
2002年より行なっている韓国大会、今年も7月28日にソウルで開催された韓国大会で優勝した高校生アーティスト1組を招待する。「韓国のレベルの高さには驚いた」と実際に韓国大会を見てきた篠田さんは語る。ビデオ審査も新たに導入し、これまで横浜から遠いためライブ審査が難しかった地域のアーティストへの対応も改善した。初回のYHMFで準グランプリを獲得したロックバンドの藍坊主が、5月12日発売のアルバム「ヒロシゲブルー」でメジャーデビューするなど、過去の受賞者の活躍も同フェスを盛り上げている。応募する高校生アーティストのレベルの向上と、運営を支える多くのボランティアスタッフの熱意で今年も例年以上の盛り上がりを見せることは間違いない。
藍坊主8月1日、多ジャンル融合フェス「濱ロック2004夏編」がBankART1929馬車道を舞台に、横浜を代表するジャズユニット「YAA」の演奏で華々しく幕を開けた。同フェスは7日までの1週間、横浜出身者を中心とした27人のアーティストの平面作品や空間作品を常設展示するほか、連日夕方からパフォーマーやミュージシャンのライブイベントを開催。1日はオープニングパーティとロック・ジャズ・レゲエ・パーカッションユニットによるライブ、2日は舞踏家とミュージシャンの競演、3日は落語・芝居・詩の朗読、4日はアコースティック・ミュージシャン8組の歌合戦、5日はライブペインティング、6日はセッション・演説・朗読などのオープンマイク、7日は同フェスの発起人でもあるミュージシャン・ビトさんのワンマンライブが行われる。今回で9回めとなった「濱ロック」のテーマは「空気の絵」。BankART1929馬車道が過去、富士銀行の名のもとお金が集まる場所としての役割を終え、現在はアートという形の「空気」が集まる場所へと生まれ変わったことが、テーマの由来となっている。
濱ロック1日の初日、絵画や写真、映像などの展示に、ミュージシャンの白熱した演奏が加わると、若きアーティストたちと観客のエネルギーが瞬く間に会場を包みこんだ。この溢れんばかりの熱気のなかで、「濱ロック」を主催するリハーサル&レコーディングスタジオ「月桃荘スタジオ」の松嵜しんたろうさんは「若く、才能あるアーティストは個人で発表の場を持つことが難しいうえに、東京に流出してしまう。このイベントを季節ごとに年4回開催することが求心力となって、大きなムーヴメントにしていきたい」と意気込みを語る。松嵜さんが本格的に「濱ロック」の運営に乗り出したのは昨年の「濱ロック夏編」から。数多くのアーティストたちと親交のある松嵜さんだからこそ、回を重ねるごとに参加者が増え、イベントの規模も拡大してきたに違いない。このイベントを通じて、アーティスト同士の信頼関係や絆も深まりつつある。今回で3回めの出展となったイラストレーター・きたがわめぐみさんは「みんなが楽しく過ごせるイベントにしたい」と語り、全展示の責任を担い、油絵を出展する杉原信幸さんは「音楽と美術という、かけ離れた2つが融合したユニークなイベントだ」と話した。
月桃荘スタジオ&横浜BB STREET「濱ロック」はミュージシャンのビトさんを発起人として2000年から始まった。ビトさんは1989年に札幌から横浜へ来て以来、横浜をこよなく愛し、「濱唄」という独自のジャンルを確立したアーティスト。当初、音楽のみのイベントから始まった「濱ロック」が、複合アートイベントとして過去最大規模を迎え、感無量といった様子のビトさん。「参加者が持つエネルギーをもっと多くの人に伝えていくためには、『横浜』のアートイベントとして定着させていくことが今後の課題だ」と熱っぽく語った。
濱唄シンガー ビトさんのHP今夏、横浜で開催の音楽フェスはまだまだある。今年で24回めを迎え、8月29日横浜本牧市民公園内特設会場 にて行われる「YOKOHAMA 本牧ジャズ祭」も、横浜に住む人々に深く馴染んでいるハマ発フェスだ。また、 7月24日、25日、横浜国際総合競技場ほかで行われた「THE ROCK ODYSSEY 2004」は、The WhoやAEROSMITH、 RED HOT Chili Peppersなど超大物アーティストが多数登場したことでこの夏大きな話題を呼んだ。 そのほか、7月17日、18日横浜アリーナにて行われた石野卓球主催のレイヴイベント「WIRE」なども、期待の 注目株だ。いずれにせよ、横浜の夏に音楽が切っても切り離せないことは間違いない。
今回取材したハマ発音楽フェスに共通して感じられたのは、音楽への強い想いはもちろん、横浜という場所へ のこだわりや想いも、主催者やアーティストたちの大きな原動力となっていることだ。音楽愛と、地元愛。 関わる全ての人々のそうした「愛」がイベントを成功へと導き、それがそのまま横浜という街そのものを 活性化し、豊かにしていく。現在、横浜市では芸術や文化のもつ「創造性」を生かして都市を再生させる構想 でさまざまなプロジェクトが進んでいるが、その実現のために音楽が担うべき役割は、きわめて大きいと考えられる。