特集

横浜を舞台に動き始めた
デジタル系クリエイティブシーンの現在

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■デジタルクリエイターの登竜門―第3回デジコンフェスタ横浜

「デジコンフェスタ横浜」は、優れたクリエイターを発掘し、コンテンツ産業の振興と創業・ベンチャ ーの創設につなげる目的で、民間組織と自治体の協働で制作・運営するコンテストとして2001年に始まっ たデジタル作品のコンテストだ。公募はホームページ部門、ゲームや動画等のデジタルコンテンツ部門、 静止画コンテンツ部門の3部門で、プロ・アマ問わず参加出来る。「一般の部」と小中学生を対象とした「 ジュニアの部」で9月24日まで公募を受け付けている。いずれの応募部門での共通テーマは「横浜」。誰が 見ても直感的に横浜を感じる作品だけでなく、クリエイター独自の視点やコンセプトで「横浜」を取り入 れた作品を募集している。

第3回目を迎える今年は、デジタルコンテンツ産業の振興に取り組む横浜市の中田宏市長とハイパーメディ アクリエイター高城剛氏を特別審査員に迎え、今まで以上に広くコンテスト自体の存在をアピールしている。 単に応募を受け付けて専門家が審査・表彰するだけのコンテストではなく、応募作品の一般公開や、トークシ ョー、「夏休みこどもCG教室」、「IT無料相談会」などの参加型ITフェスティバルとして、広く一般に親しみ やすいイベントに進化してきている。主催は、横浜を中心にデジタルコンテンツ制作をサポートする企業のネ ットワークであるNPO法人横浜コンテンツネットワークを中心に、横浜市や横浜産業振興公社により構成された 「デジコンフェスタ横浜実行委員会」。実行委員長を務めるのは、同NPO法人の理事であり、CD-ROMやWeb制作 を手がけるマルチメディアコンテンツ制作プロダクションU-FACTORY代表の ヒラヤマユウジ氏だ。自らが第一 線のクリエイターでもあるヒラヤマ氏は「このコンテストを多くの人に知ってもらい、新人クリエイターのプ ロモーションの場となることを目指している。日本でクリエイターとして活躍する上では、コンテストでの表 彰や肩書きというのが武器になり、評価の目安となる。このコンテストの価値を高めることが、入賞したクリ エイターの価値を上げることに繋がる」と、クリエイター育成の視点から話す。デジタルコンテンツそのもの が、まだまだ、いわゆる「オタク」な閉鎖的な部分も多く、定義が確立していない成長期にある業界であると いう見方もある。作品や作家が一般に広く認知及び理解されることが必要とされている。

横浜コンテンツネットワーク U-FACTORY

今回はじめて応募作品の一般公開展示を12月3日(金)~5日(日)まで横浜情報文化センターを会場に実施 することもその辺りに狙いがある。4日には、中田市長や高城氏も参加して1時審査を通過した作家のプレ ゼンテーションと最終審査、表彰式が公開でおこなわれる。また、デジコンフェスタパンフレットを作成し、 イベント1週間前から都内・横浜で配布をするというのも、このイベントにより多くの人に関心を持ってもら うための仕掛けだ。パンフレットはデジコンフェスタのイベント情報を中心にデジタルコンテンツの魅力を 紹介し「読めば思わずイベントに足を運びたくなってしまう内容」だという。審査員の顔ぶれも大学教授、 CG作家、WEBデザイナー、ゲームプロデューサー、業界誌、タウン誌編集者など幅広い。偏った価値感の中 ではなく、一般的に評価され、かつ専門家から見てもクオリティの高い作品を発掘する。過去2回の入賞者 からは海外に進出するクリエイターも誕生している。また、いずれの回でも60歳代の作家による作品が入賞 しており、幅広い可能性を感じさせる。

第3回デジコンフェスタ横浜
第3回デジコンフェスタ横浜 2003年グランプリ受賞作品 2003年準グランプリ受賞作品 U-FACTORY代表 ヒラヤマユウジ氏

■産・官・学・芸が、一体となって取り組む「夏休みこどもCG教室」

デジコンフェスタ実行委員会が主催し、デジタルハリウッド横浜校やCG教育を支援する企業などの協力で 8月9日に実施された「夏休みこどもCG教室」。今年から新設されたジュニア部門にひとりでも多くのこど も達に興味をもってもらうことを目的に、公募で集まった24人の小中学生を対象におこなわれた。この教室 で講師を務めたのは、横浜在住のCG作家で、2003年より、日本を代表するCGクリエイタ-らによる発表活動 「アジアグラフィック」を主宰している喜多見康氏。今回の「夏休みこどもCG教室」について、喜多見氏 は「夏休みのこども達へこうしたクリエイティブなプレゼントをすることは、近い将来、横浜から優れたCG クリエーターを輩出することを目指し、産・官・学・芸(アート)が、一体となって取り組む活動の最初の 一歩になる。自分が5年前から横浜でたったひとりでこどもCG教室活動を始めた理由は、21世紀を生きるこ ども達に、コンピューターが持つ人間の能力や創造性を開発し拡大強化する力をどうしても体験してもらい たかったから。コンピューターは本質的にクリエイティブな道具だ、ということを知って欲しかったので、 横浜市と企業、教育機関、アーティストが力をあわせることが不可欠だった。今回大勢の方々の協力で第一 歩をやっと踏み出すことができた」と語る。

夏休みこどもCG教室 アジアグラフィック
アジアグラフィック主宰 喜多見康氏 夏休みこどもCG教室の様子

■集え、横浜のクリエイター デジタル・キャンプ!構想

ウルトラマンシリーズのCG(コンピューターグラフィック)をプランニングプロデュースする会社D/Fu nction(ディファンクション)の代表渡部健司氏が、横浜に拠点を構えたのは2004年3月のこと。2003年末 に、株式会社SOHO(代表取締役社長 斎藤裕美氏)が運営する創業・ベンチャー支援施設「SOHO STATION」 がオープンすることを知り、内覧したのがきっかけだった。それまで渡部氏にとって横浜は数ある候補地 の中の一つに過ぎなかったが、横浜港が見渡せるロケーションや歴史に触れ、自身のなかの新しい構想「 デジタル・キャンプ!」を膨らませていった。数年来、自分がクリエイタ―として思い描くコンテンツを 残せていないジレンマを抱え、新しいステージを築く場を求めていた渡部氏は、「横浜ならば自分の構想 を実現できる」という確信を深め横浜への移転を決意した。

D/Function.Inc

渡部氏の考える「デジタル・キャンプ!」の全体の構想は、4つの柱で構成されている。作家とプロデ ューサーとのコラボレーションプロジェクトによる「オリジナルコンテンツの企画」、クリエイターと制 作者サイドとメーカーとで現場の様々なシステムを考える「ワークショップの開催」、デジタルクリエイ タ―が結集し経験を共有したり、プロデュースやマネージメントサポート体制を兼ね備えた「デジタルク リエイタ―の制作拠点」、最先端の機材を利用しそこに技術力を付加していく「制作支援サービス」だ 。構想は、以上の4つ柱を複合的に組み合わせ、技術だけではなく、プロデュースやマネージメント能力 を備えた新しいデジタルコンテンツを生み出す制作システムを構築したいというもので、最終的には横浜 にデジタル映画製作のためのスタジオを実現させる狙いだ。

現在新作アニメのテレビ放映数だけでも週100本を越すといわれており、それに伴いデジタルコンテン ツ制作にかかわる人の数は増えているが、古い体質を引きずりぎりぎりの環境や報酬で下請け仕事に甘ん じているケースが少なくない。渡部氏は成功しているのは、ほんの一握りでスタークリエイターや目指す べき対象が少なすぎると考えていた。デジタルコンテンツ業界の若手人材育成に対する危惧から、クリエ イター同士が経験を共有し、切磋琢磨しスキルアップする場の必要性を訴える。「デジタルコンテンツ振 興の施策でインフラや組織をつくり「基盤整備をした」という支援だけでは、コンテンツ産業は育たない 。現場クリエイターがコンテンツを生み出す意識をもって、クオリティの高い作品を排出するボトムアッ プ型の構造が必要だ。」と渡部氏は語る。

また身近な部分では、クリエイター自身が自らの問題点や課題に向き合い、同じ視線で物を考える者同 士が集う中から意識の改革や課題のソリューションが見出されるという考えもあり、活動が始まった。「ハマクリ・イ ブニング」という交流会イベントの第1回が7月30日に開催された。前出のアジアグラフィック代表喜多見氏の協力を得 て、親交のあるクリエイターを中心に業界誌の編集者、学校関連、横浜市の職員など約40名前後の出席者を集めて開催 された交流会は、時間を延長する盛り上がりを見せた。「ハマクリ」イベントは今後も定期的に開催される予定で、デ ジタルだけでなく、造形やイラスト、音楽など様々なクリエイターや周辺産業に携わる人々に集まってもらい、新たな 才能や若手人材を浮かび上がらせたいとしている。

デジタル・キャンプ!

「コンテンツや作品が生まれる瞬間というのは、地球上に生命が誕生する瞬間と一緒で、水や温度や光 や十分な環境が整った上で、さらに何か突発というか素晴らしい偶然が関わってはじめて生まれるもの。その偶発的な 要素のひとつが、人のエネルギーとか人と人の出会いによってもたらされるものだと思う」。環境整備と出会いの場や 気づきの機会を総合的にプロデュースする渡部氏は、官、民一丸となって文化芸術振興に力を注いでいる横浜に、ニュ ージーランドが映画「ロード・オブ・ザ・リング」で果たしたような映像産業の活性化と、映像製作の拠点づくりの可 能性を感じている。約340億円の制作費が投じられた映画「ロード・オブ・ザ・リング」3部作で、ニュージーランドは 美術、造形、編集、特殊効果、CGの工房を新たに設け莫大な外貨と映像産業のインフラ及び周辺産業ふくめた雇用の創 出に成功した。「ニュージーランドは人口400万人足らずの小さな国。350万人を抱える横浜でも同じことができれば」 と渡部氏は夢を語る。

渡部氏は、横浜の見取り図やCGで制作した開港当時の様子を盛り込み、横浜開港の歴史を10分間にまと めたプロモーション映像「Rise in the World!」を7月18日に発表した。これは、横浜に拠点を移すことに決めた渡部 氏が、横浜の魅力に触れ特に歴史的文献や資料を紐解く中で生まれた作品で、SOHO横浜インキュベーションセンターに 入居者有志からなる実行委員会が開催した第4回横浜SOHOフェスタ会場などで上映された。「エンターテイメント的な見 せ方にこだわり、多くの人にドラマティックな横浜の歴史的な魅力を楽しんでもらいたい。」と意欲を見せる渡部氏。 これが完成版というわけではなく、開港150周年を迎える2009年に向けてバージョンアップを重ねる予定で、早くも次バ ージョンを10月18日、19日に東京国際フォーラムにて開催される東京コンテンツマーケット2004で発表する。

東京コンテンツマーケット2004
Digital Canp! D/Function代表 渡部健司氏 第1回ハマ・クリ・イブニング Rise in the World! Rise in the World!

■ハリウッドと横浜を直結―デジタル・ピラミッド

「スターウォーズ」の特殊撮影などを手がけ、アカデミー賞を4度手にしたことで知られるリチャード・ エドランド氏を会長に擁す映画制作会社デジタル・ピラミッド(代表取締役社長 東積美氏)が横浜にある。 デジタル・ピラミッドを横浜に積極的に誘致し、全面的に設立を支援したのは、みなとみらいキャピタル (本社 横浜市中区)社長大田嘉春氏だ。大田氏は、横浜銀行系のベンチャーキャピタルである横浜キャピタ ルから独立し「地域活性型のベンチャーの育成」を目指す新ベンチャーキャピタルを2002年5月1日に興した。 その独立から2週間後の5月14日、事務所のインキュベーションエリアを提供し自らも取締役に就任する形で デジタル・ピラミッドが設立された。

デジタル・ピラミッド みなとみらいキャピタル

エドランド氏は、映像業界全体にフルデジタル化の波が押し寄せることをいち早く予想、そのためのイン フラや新しい制作システムを整え次世代に備えるべきだという必要性を感じていた。エドランド氏自身、 米軍の座間キャンプへの駐留経験があり、小津作品や黒澤作品に触れ感銘を受け、特に安土桃山時代の日本 文化に興味を持っているという。また、映像市場が急速に拡大するアジア地域での展開をにらんだ拠点を模 索していた。知人のつてで、エドランド氏と出会った大田社長は、「日本では構想段階のものにお金を出す 機関は自分たちのほかにははない」と積極的な誘致を展開した。

現在デジタル・ピラミッドでは、実写2本、アニメ2本、計4本の脚本を抱え、東社長がアメリカを中心と する映画投資家にむけた最後のプレゼンを展開中である。実写のうち1本は、幕末開国頃の横浜を舞台にし たストーリー。製作資金の目処がつき次第、撮影が開始され、アメリカ人からみた日本の開国が描かれる 予定だ。デジタル・ピラミッドにとって東社長の今回の渡米は大きな山だ。「エンターテイメント産業の 誘致は、計り知れない波及効果を地域にもたらす」と語る大田氏。職員、関連企業の誘致のみならず、話 題性の提供から「横浜」の世界的知名度をあげ、観光集客や若手クリエイターなど多くの人を横浜に呼べ る企業に育てたいと意気込みを見せる。「ひとつ決まれば20億円~100億円、決まらなければ0円の会社だ から、そろそろ成果を見せたい。撮影が実際に横浜で始まってこそ世の中に認められる。動き出さなけれ ば誰も認めてくれない」と語る大田氏。今年6月24日には、株式会社黒澤フィルムスタジオと基本的業務 提携を結んだ。デジタル・ピラミッドの持つ技術を駆使した合同製作により黒澤作品を蘇らせ、世界マー ケットでの展開の可能性に期待が寄せられている。

黒澤フィルムスタジオ

「文化芸術創造都市」をめざす横浜市は、映像コンテンツ産業、 エンターテイメント産業、人材育成 機関などの集積により、映像制作・発信・交流拠点の形成を図る 「映像文化都市づくり」を進めている。 「映像文化都市」の構想は、文化芸術活動の活性化と同時に、新産業の創出や雇用拡大といった経済の活 性化を狙うものである。来年度からは、東京芸術大学の大学院映像研究科も開設されますますこの動きは 加速していくだろう。コンテンツ産業が東京へ集中する中、東京でもハリウッドでもなく港町・横浜を活 動の場に選ぶ企業家やクリエイターたちの動きに今後も注目していきたい。

DIGITAL PYRAMID みなとみらいキャピタル社長 大田嘉春氏 オスカー像とリチャード・エドランド氏

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