横浜ベイスターズの試合を観戦しに横浜スタジアムに行くと、タブロイド版の情報誌『Beautiful YOKOHAMA』が無料配布される。その内容は選手や監督・コーチのインタビューや試合日程、地元著名人のコラム、野球講座など充実した内容だ。シーズン中、毎月1日に発行される『Beautiful YOKOHAMA』は2000年からスタート。京浜急行、相模鉄道、横浜市営地下鉄の駅売店などで100円で販売されているが、神奈川県内でのベイスターズ・湘南シーレックスのホームゲームではファンサービスとして球場で無料配布されている。
編集しているのは株式会社横浜ベイスターズ・メディア部の八木直子さん。「他のメディアには出ない、選手の生の声を伝えるために発行しています。横浜スタジアムを訪れる方すべてがベイスターズファンとは限らないので、野球やベイスターズのことをよく知らない方にも興味を持って読んでもらえる内容を心がけています。以前、横浜の思い出の場所について語った山下監督のインタビューを掲載しましたが、大変好評でした」と話す。誌面でコラムを連載しているベイスターズオフィシャルリポーターの大矢陽子さんは、女性の目線で選手の個性をクローズアップ。「休憩中の様子や趣味の話など、選手の素顔を伝えることで、一人でも多くの方に興味を持ってもらいたいと思っています。取材などでファンと選手それぞれと接する機会があるので、お互いを近づけられるような活動をしていきたいですね」と話す。
『Beautiful YOKOHAMA』には野球とは関係のない企画が掲載されているのも特徴。中華街やみなとみらいなど人気エリアのタウンガイドや横浜のイベントを毎号紹介している。読みごたえあるボリュームと、野球ファンでなくとも読みたい実用的な企画のおかげで、来場者の多くは球場に捨てずに持ち帰るという。球場の外でも紙面を見てもらうことが、次の来場のきっかけになるかもしれない。そう考えて、球団は手をかけてこの情報紙を作り続けている。
『ビューティフル・ヨコハマ』Baseball and Town News Magazine 大矢陽子のウォッチングレポート観客動員数はチーム成績に左右される。1998年には38年ぶりのセ・リーグ制覇と日本一を達成し観客動員数は激増したが、ここ数年はチーム成績がふるわず観客動員数は伸び悩んでいた。しかし今シーズンは前半戦が好調だったため、昨年より4試合早く100万人動員を達成。それに加えて地道なファンサービスも動員数アップにつながっているようだ。
では、試合の主役である選手たちは観客へのサービスをどう考えているのだろうか。『Beautiful YOKOHAMA』のインタビューで佐々木主浩選手はこう語っている。「なるべく球場でサインとかしたいんだけど、フェンスがあるからなかなかできない。だから球団と僕らが球場でファンの方にできるようなこと、開門の時間を早くしたり、サイン会をしたりだとか、そういうことをやれたらいいのかなぁ」。球場の外では個人の時間を大切にしたい、だからこそ球場でファンと接する機会を増やしたい。そんな声を受けて、今年は夏休み期間中の試合前練習見学に選手がスタンドに登場するという企画を行った。メディア部の八木さんによると「選手がスタンドでファンサービスを行なうというアイデアは選手会から提案されました。ですから、練習を終えた選手が自主的にスタンドに上がってくれるんです。サインをしたり、一緒に写真を撮ったり、握手をしたりと選手によって内容はさまざま。佐伯貴弘選手は『まずお子さんから前に並んでください』とお願いし、それに応えて大人の方も後方にいる子ども達に声をかけ先に並ばせたりして、和やかな雰囲気で行われたようです」。選手の心くばりでファンとの距離は縮まりつつあるようだ。
横浜スタジアムは球場の演出が凝っていることでも有名。大型カラービジョンの映像や球場で流れる音楽、選手の登場曲などは、地元FM局のDJや音楽・映画関係に強いプロダクションのスタッフが制作するとあって洗練された雰囲気だ。9月1日に発売された新しい応援歌『BE A HERO』を歌うのは人気アーティストのクレイジーケンバンド。球場演出を手がける株式会社ベイスターズソフトの高瀬正博さんは「おなじみの球団歌『熱き星たちよ』は今年で10年目を迎えます。昨年、大のベイスターズファンであるジャズピアニスト・山下洋輔さんに依頼し、ビッグバンドジャズでアレンジしていただきました。それに加えて新しい応援歌も作ろうということになり、横浜出身でスタイリッシュな雰囲気がベイスターズにぴったりなクレイジーケンバンドさんに依頼したわけです。大のベイスターズファンであるギタリスト・小野瀬雅生さんが書き下ろし名曲に仕上がりました。9月1日からFMヨコハマで頻繁に流れますので、ぜひチェックしてください」と話す。音楽ファンに熱く支持される著名アーティストたちが球団応援歌を手がけるのも、ベイスターズならではの演出といえるかもしれない。
クレイジーケンバンド 公式サイト 小野瀬雅生ショウ 公式サイト今年から本格的に始めたFMハマスタも注目の的。これは横浜スタジアム内のミニFM局で、毎回ベイスターズファンの著名人やベイスターズ選手OBなどがゲスト出演している。FMハマスタの企画運営も行なう高瀬さんは「球団が球場に流す放送なので、出演者とリスナーの距離がすごく近いんです。ゲストの方も親しげな雰囲気で、野球への熱い想いや選手の裏話を語ってくれます。携帯メールの投稿も随時受け付けていますし、スタンドのお客様にマイクを向けることもあり、この番組を通して球場内の人たちが一体感を味わえるのが魅力です」と話す。シーズン始めは番組の認知度が低くリスナーは少なかったが、夏休み期間中には無料で携帯ラジオを貸し出したり、場内コンコースでも放送を流すなど、認知度アップに努めた。最近ではファンの間にも浸透し、携帯ラジオ持参で訪れる人が増えている。解説の入るテレビ観戦に比べると得られる情報が少ないスタジアム観戦。しかしFMハマスタの登場で、新鮮な情報と解説、貴重なエピソードなど、従来の実況放送とは違った楽しさとともに観戦できるようになった。
FMハマスタ球団の収益でもっとも大きな割合を占めるのは、年間70試合のホームゲームの入場料。ビジターでの入場料は一切入らないが、ホームゲームでは対戦チーム側の入場者も含め全席の入場料がホームチームの収入となる。そこで球団としては、対戦カードやチーム成績に関わらず安定した観客を動員するために、さまざまなイベントやキャンペーンを企画している。
「真の市民球団」を目指すベイスターズのイベントは地域密着をテーマに企画。日常生活に関わるものや横浜にちなんだ商品・サービスを手がける企業とタイアップし、年間を通して多種多様なイベントを催している。グループをあげて球団を応援してくれる京浜急行とのタイアップは、初夏の「京急ナイター」の実施やシーズンオフの選手のトークショー開催で、ファンの間ではもはや定番となっている。元町に日本で唯一の直営店「Ty Store」を置く「Ty.Inc.」は、来場者に先着順でぬいぐるみを配布したり、ベイスターズオリジナルのぬいぐるみの製作・販売などを行ない好評を博した。企業には球場をプロモーションの場として活用してもらい、来場者にその企業の商品をプレゼントすることで、タイアップ先と来場者の双方にメリットをもたらす。野球にプラスαのお楽しみを提供することで観客動員を増やすのが狙いだ。シーズン終盤の9月も「2004 -BE A HERO- 秋祭り」と名づけたイベントで球場を盛り上げていく。今年は『ベイスターズてぬぐい』『光る帽子』などの球団オリジナルグッズや、ユニフォームを身につけた人気キャラクターのぬいぐるみ、サイン入りの『秋祭り・オリジナル選手用帽子』等の抽選プレゼントを実施予定。シーズン中に記録を達成した佐伯選手・三浦選手のファン、親子やシニアを対象とした無料招待デーも設けられている。
ザ・ベイスターズ Online Shop Ty Store 横浜ベイスターズオフィシャルサイト ニュースページ野球・サッカーという種目を越えて横浜のプロスポーツチームを応援するという、地元愛の強い横浜ならではの応援連合体「横浜熱闘倶楽部」でも、後半戦を盛り上げるために『半券でGO!』というキャンペーンを企画。横浜ベイスターズ・横浜Fマリノス・横浜FCのいずれかのホームゲームの半券があれば、他2チームのホームゲームの当日券を割引で購入できる。対象会場は、横浜スタジアム、横浜国際総合競技場、三ツ沢公園球技場。
横浜熱闘倶楽部球場での観戦は、試合の迫力を楽しむだけにとどまらない。ルールや選手を知らない人も生で観戦すると楽しいと感じるのは、球場内が一体化し、お祭りのような高揚感を味わえるからだろう。JR・横浜市営地下鉄関内駅、そしてみなとみらい線日本大通り駅からすぐという好立地で、気軽に立ち寄れる横浜スタジアム。そこにはエンターテインメントとしてパワーアップした新しい野球がある。
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