特集

日中映画産業の架け橋を目指す!
国際化する「横濱学生映画祭」の全貌

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■北京電影学院が参入 ~第5世代監督の学生時代の作品上映も

横浜市開港記念会館をメイン会場に、11月11日から14日まで開催される「第3回横濱学生映画祭 横浜国際映像文化祭2004」。日本の映像系の大学・学校の学生作品を上映し、その相互間交流の促進してきた同映画祭に、今年は中国最大の映画学校「北京電影学院(Beijing Film Academy)」が参入し、国際的なイベントとして開催される。次世代の映像産業を担う学生の優秀作品が日本の11校から17作品、北京電影学院から6作品を上映、また河合亮三監督の『発火-小指の思ひ出-』など6作品が招待作品として上映される。会場には作品の監督が訪れ、上映終了後にティーチインを行い様々な情報交換を行う。さらに同学院出身である張藝謀(チャン・イーモウ)監督、田壮壮(ティエン・チュアンチュアン)監督など中国映画界の第5世代監督の学生時代の作品を日本で初めて公開するのも注目だ。

北京電影学院は50年以上の歴史を持つアジア最大の映画人養成の大学で、『初恋のきた道』、『英雄~HERO』、『LOVERS』の張藝謀監督、『青い凧』、『春の惑い』の田壮壮監督、『始皇帝暗殺』、『キリング・ミー・ソフトリー』の陳凱歌(チェン・カイコウ)監督など、数多くの映画人を輩出してきた名門として世界にその名を知られている。ハリウッド映画の製作も行う北京映画撮影所が近くにあるという好環境の中、現在2000名の学生が学んでいる。映画祭を主催するNPO法人横浜アートプロジェクトは、昨年12月に同学院の学長をはじめとする使節団を招き、日本の映像関連学校の関係者との意見交換の場として「中国日本学生映画交流 横浜シンポジウム2003」を開催して同学院と交流を図り、映画祭に招待する運びとなった。これを契機に、今後横浜をアジアの映像文化発信地として育てていくための体制づくりを日中が協力して行っていくというねらいだ。

北京電影学院(中国語版) 北京電影学院(英語版) 張藝謀監督作 『LOVERS』

日本の作品のうちのほとんどがビデオ作品だ。予算の少ない学生映画ではDVカメラでの撮影とパソコンでの編集がスタンダードになりつつあるようだ。NPO法人横浜アートプロジェクト事務局長の堀内健一さんは今年の上映作品について「ビデオの作品が多く、予算の都合もあり、今回はフィルムを使わず全てデジタルで統一した」と語る。同映画祭は文化庁や神奈川県からの助成金、企業の協賛金に加え、今年はトリエンナーレ2005の応援企画として横浜市からの補助金も下りて運営されている。横浜アートプロジェクト理事長の榎田竜路さんは「今後は収益事業を起こしていきたい」と語るが、映画祭のパンフレットの売り上げと最終日に行うライブの収益の半分を新潟県中越地震の被災者に寄付するなど、社会貢献の心も忘れていない。

横浜トリエンナーレ 作戦会議のページ
第3回横濱学生映画祭 横浜国際映像文化祭2004 北京電影学院2004年学生作品 北京電影学院2004年学生作品 北京電影学院2004年学生作品 北京電影学院2004年学生作品 中国日本学生映画交流 横浜シンポジウム2003の様子

■中国ニューメディアアートのインスタレーションと『視像群』

今年の横濱学生映画祭では映画のみならずニューメディアアートの展示も行う。北京電影学院に今年の4月に新設されたニューメディアアート科の教授や学生が来日し、BankART1929馬車道ホールと横浜市開港記念会館2階で現代美術のインスタレーションが行われる。アーティストとして活躍している同学科の教授や学生など15名の作品を展示するほか、実験映画『一つの方式』、『360°+1』、『破・立・流・源』などの映像作品を『視像群』と題し、横浜情報文化センターの野外壁面に投影する。『視像群』投影のオペレーションやマネジメントを担当するのは横浜市立大学の映像制作サークル「VISION FACTORY」。部長であり、自ら「港北映画研究所」というサイトを立ち上げ、ドキュメンタリー映画の研究や制作をしている細見葉介さんは「映画祭には昨年から関わらせていただいています。野外上映の『視像群』は中国の作家の作品を多くの方に見てもらいえる良い機会。今後も学外と積極的に関わり、横浜の映像文化の発展に協力していきたい」と語る。

港北映画研究所 横浜市立大学

作家たちをとりまとめるのは、ニューメディアアート科主任の劉旭光博士。横浜の中華街に親しい劉博士は、北京電影学院が横濱学生映画祭に協力することを聞いて、映画祭にあわせてインスタレーションを行うことを即決したという。「中国には現代美術の優秀な作家がたくさんいて、学びたい学生も多いが、北京にはその教育機関がなかった。今回の学科設立を契機にどんどん新しい試みに取り組み、これからの発展に力を入れていきたい」。現在、同学科の学部生は13名、院生は6名。「1000人の学生が受験してくる中、入学できるのは20人ほど。倍率が高いぶん優秀な人材が集まる。ここから優れたアーティストが生まれていく可能性は高い」。劉博士は「来年のトリエンナーレ2005の時期にあわせて、ぜひ中華街の公園でインスタレーションをやりたい」と意欲を語った。

映像作品の野外上映『視像群』 ニューメディアアート科の作品 ニューメディアアート科主任の劉旭光博士 ニューメディアアート科の教授たち

■技術・教育・市民の3つのフェーズから映像を考える

13日には『映像の今とこれからを知る三つの集い』を開催する。第一部は中嶋正之氏(東京工業大学大学院教授)による講演「デジタル映像技術の今と映像文化の可能性」。榎田さんは「現在のデジタルコンテンツは技術偏重のものが多い。デジタル機器のメーカーと各映像関連機関を結びつけ、芸術面で優れたコンテンツを生み出すしくみを作りたい」と語る。第二部は「中国日本学生映画交流シンポジウム2004 ~新しい映画文化の共創をめざして、市民と専門家の対話~」を開催し、日本と中国の新しい映画文化の創造に向けたコラボレーションの可能性について意見交換を行う。パネリストは北京電影学院副院長、鄭洞天氏(北京電影学院教授)、佐藤忠男氏(日本映画学校校長)、中嶋正之氏(東京工業大学大学院教授)、宮廻正明氏(東京芸術大学大学院教授)、谷川多佳子氏(筑波大学教授)。「映像産業が持っている技術力・制作力・配信インフラと映像教育機関を結びつけ、産学協同事業を展開していかなくてはならない。そのプラットフォームを作るためには映像教育機関のネットワークや有識者による合意形成のためのしくみが必要」と広い視野で映像産業発展に力を注ぐ。

また、榎田さんは市民のメディアリテラシー向上のしくみをつくりたいという。「欧米に比べ、日本の映像教育ははるかに遅れている。小・中・高校にメディアリテラシーの授業を入れていきたい」。第三部では映像業界の第一線で活躍する方を講師に招き、市民メディアを考えるトークライヴと「映像の文法」を読み解くための実践型のワークショップを行う。「市民がメディアリテラシーとそれに基づく情報発信力を持つことで『映像メディア』を私達の社会に正しく生かすことができる」。正しい情報を見抜く目のみならず、それを発信する能力がなければ社会は健全化しないと語る榎田さんは、来年4月から市民ディレクター育成のためのワークショップを始めるという。映像文化向上のために産・学・民が連携していくことが求められている。

第3回横濱学生映画祭 横浜国際映像文化祭2004 NPO法人横浜アートプロジェクト
NPO法人横浜アートプロジェクト NPO法人横浜アートプロジェクト理事長の榎田竜路さん 第2回横濱学生映画祭の様子 第2回横濱学生映画祭の様子

■中国映画産業に学ぶ ~映像文化都市ヨコハマの未来

近年、中国は国策として映画産業発展に力を入れ、それが実を結んできている。2000年の中米合作映画『グリーン・デスティニー』が米国で1億ドルを超える収入を上げ、その後『HERO』、『LOVERS』、『ヘブン・アンド・アース』と世界規模のヒット作が続々と生まれている。その要因の一つは、他国と国際協力制作による合作をつくってきたことであるだろう。映画先進国と共同制作することにより技術を学び、人材育成につながるだけでなく、自国映画の他国への市場開拓の効果もある。『ヘブン・アンド・アース』にいたっては制作に7ヵ国が関わっている。多くの国が制作に絡む国際協力制作による合作では、世界の広い市場に受け入れられるような作品を作ることが求められるもの。そのような共同制作の現場から、また新しく国際的に活躍する制作者やアクターが生まれていくのだろう。

『ヘブン・アンド・アース』

横浜は開港を契機に発展し、諸外国と関係を結び常に最先端の文化を取り入れてきた。その先進性が国際都市・横浜のアイデンティティーだと言える。国際協力制作により映画産業発展を果たした中国を見習い、横浜もより積極的に海外と連携していくべきだろう。北京電影学院が参加する今回の横濱学生映画祭は、映像文化都市構想を掲げる都市・横浜にとっても海外とのパイプを作るうえで有効な機会だ。2005年4月には、馬車道の歴史的建造物である旧富士銀行横浜支店(現BankART1929馬車道)と新港客船ターミナルに東京芸術大学大学院映像研究科が設置される。このようなアカデミックな学びの場と、実際の映画作りの現場の両面からヨコハマの映像文化が飛躍していくことを期待したい。

第2回横濱学生映画祭の様子 第2回横濱学生映画祭の様子 東京芸術大学大学院映像研究科が設置される旧富士銀行横浜支店 東京芸術大学大学院映像研究科が設置される新港客船ターミナル
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