1854年の日米和親条約、1858年の日米修好通商条約の締結を経て、1859年6月2日、横浜は開港した。以後横浜は港を舞台に当時最先端の西洋文化を取り入れる玄関港として、ヒト・モノ・カネ・知識・技術・文化そして情報と、あらゆる人的・物的交流が盛んなまちとして着実に発展していく。鉄道、新聞、ホテル、パン、アイスクリームなど現在では当たり前の生活必需品が横浜から日本全国に広まっていったのはよく知られるところだが、当時の横浜には因習にとらわれず、新しいもの、困難なものに挑戦する気概にあふれていた。大正・昭和にかけ、横浜は関東大震災や第2次世界大戦によって壊滅的な被害を受ける。また経済の中心が東京や大阪に移り、海外との人の往来の窓口が空港となるなど横浜の優位性は段々とかげりを見せるようになった。しかし、市民の努力によって数多くの危機を乗り越え、港町として着実に発展を遂げてきた。1978年には人口は272万人を突破、全国第2位の大都市へと成長した。現在の市民は約356万人。横浜は今も発展し続けている。
このように港と共に歩んできた横浜は、その歴史を振り返りつつ節目の年に開港記念事業を行ってきた。開港50周年を迎えた1909年には横浜市開港記念開館の建設や、市章・森鴎外作詞による横浜市歌の制定、開港100周年の1959年にはマリンタワーや市庁舎、市民病院の建設などに取り組んだ。市政100周年・開港130周年のメモリアルイヤーとなった1989年には横浜アリーナ、横浜美術館などを建設。この年に開催された横浜博覧会は、地方博としては過去最高の約1333万人を動員した。
そして2009年、横浜は開港150周年を迎える。2002年の日韓ワールドカップの決勝戦開催や、2004年のみなとみらい線開通などを経て、横浜はますます勢いづいている。4年後の開港150周年はどのような盛り上がりを見せてくれるのだろうか。
横浜開港150周年HP 横浜150年のあゆみ2009年のテーマは「民が主役の開港150周年記念事業」。官主導ではなく、民の企画力、実行力により、市民がやりたい、見てみたいと思う事業を市民、企業、行政が力を合わせて実現していく。横浜市は「開港150周年を自分たちが企画したイベントで祝いたい」「開港150周年の盛り上がりを応援したい」という意欲を持った市民、市民活動団体、企業などが自由に登場でき、観客としても制作者としても楽しむことができるような場として「イベント創造プラットホーム(仮称)」の提供を提唱している。具体的には規制緩和や市民・団体・企業間などのコーディネート、広報支援などで市民の取り組みをサポートする。いわば、市民という役者が最高のパフォーマンスを行えるために舞台演出をする裏方という位置づけだ。
すでに主役となる「民」を盛り上げるために行政の土台づくりが始まっている。2003年11月20日、開港150周年に向け横浜の新たな活性化策として諸事業を展開することを目的とする「近代日本開国・横浜開港150周年記念事業推進協議会」(以下、横浜150協議会)が設立された。会長には横浜商工会議所会頭の高梨昌芳氏が、会長代理には横浜港運協会会長の藤木幸夫氏がそれぞれ就任した。また名誉会長として中田宏横浜市長が選出されている。同協議会が音頭をとり、地元経済界を中心に、各団体や市民、行政が連携して諸事業を展開していく方針だ。事務局は日本丸メモリアルパークタワー内に置かれており、各種のプロモーション事業などが行われている。
現在同協議会では、150周年記念のロゴマークの使用を広く市民や企業に呼びかけている。協議会に使用申請をして承認されれば配布物やポスターなどで自由にロゴマークを載せることができる。またその事業内容は協議会の公式Webサイトで紹介され、2009年の記念事業終了後も記録として残りPRされる。
一方、「イベント創造プラットホーム」の運営推進の母体として「イベント創造プラットホーム運営準備会」が2005年1月に設立された。横浜在住の作家山崎洋子氏が呼びかけ人となり、企業、経済団体、NPO、マスメディア出身の委員で構成されている。当面は(1)組織のあり方及び運営方法 (2)プラットホームの主役となる市民や企業への働きかけ、 (3)イベントの具体的支援方法の検討とそのためのモデル事業の実施といった課題を検討した上で、市民や企業に対しイベント創造プラットホームの具体的な姿を公開したいとしている。
近代日本開国・横浜開港150周年記念事業推進協議会について横浜市が発表した「横浜開港150周年基本ビジョン(素案)」によると、市は開港150周年を以下の5つの契機ととらえている。すなわち、(1)港と先人の業績への感謝及び賞賛 (2)市民であることの一体感の醸成 (3)夢や希望にあふれるまちへの礎をつくり、その魅力を発信しながら再発展を図る (4)「横浜らしさ・ならでは」へのこだわりと創造 (5)大きな盛り上がり創出とプロモーション活動強化による集客力向上、ととらえ、これらの実現を通じて「チャンスあふれるまち横浜」の創造を目指したいとしている。
横浜市横浜プロモーション推進事業本部の本吉究氏は、この目標の背景には「市民が『横浜らしさ』を感じながら街を盛り上げることで、ヒト・モノ・カネを呼び戻し企業価値を高める」狙いがあると語る。「開港以後の横浜の急速な発展の裏にあったのは民の力(市民の一体感)と港の力(経済の活性)だった。現在は356万都市といっても、多くは東京へ出る横浜「都」民であり、また郊外の人は、なかなか世間的な「ハマ」のイメージである港に接するチャンスがない。150周年を機に、皆が市民という共通項を持ちながら、港町横浜に思いをはせることでその魅力を再確認してもらい、最終的には開港した頃のような横浜らしいフロンティアスピリッツに富んだ街づくりにつなげたい」と意気込む。
横浜市プロモーション推進事業本部 横浜開港150周年基本ビジョン(素案)横浜市は現在、開港150周年に関する市のビジョンへの意見や記念事業のアイディアを市民から広く募集している。先述の「5つの契機」のうち、どれに力を入れてほしいか、どのような記念事業がふさわしいと思うかなどについての考えを市民から募っている。3月18日まで、市が発行する「開港150周年基本ビジョン(素案)」内に印刷されたはがき、またはファックス、Eメール、ホームページにて受け付けている。寄せられた意見は市のホームページ上などで公開する予定だ。取材した2月末の時点で約2600件の意見・アイディアが寄せられており、「市のアンケートではダントツ」(本吉氏)とのこと。
アイディア・ご意見募集 横浜市記者発表【pdf】 横浜開港150周年へのアイディア・ご意見の送信フォームまた横浜市では、2月を中心に全18区役所に「開港150周年基本ビジョン意見募集・区役所キャラバン隊」を巡回させるという試みも行った。同キャラバン隊は開港150周年記念事業企画学生プロジェクト「ヨコハマニア150プロジェクト」メンバーを中心に構成され、各区役所で開港150周年関係のパネル展示や「基本ビジョン」の配布など各種のPR活動に取り組んだ。こちらでも各区役所で50~120人程度から意見が寄せられ、目標とする1000人からの応募は優に超える見通しだ。キャラバン隊を担当する横浜市横浜プロモーション推進事業本部の速水英子氏は「港から離れた郊外の方がむしろ熱心なところもあった。全市的な盛り上がりに期待している」と上々な反応に頬をゆるめた。記念事業のアイディアには船関係(日本丸を何らかの形で利用、記念船をつくる、外国船を呼ぶ)やスポーツイベントなどが目立つとのことだが、「まだまだ幅広いアイディアを募集しており、市民がやりたいと思うことにはできるだけ支援していきたい」(速水氏)と述べた。
「開港150周年基本ビジョン意見募集・区役所キャラバン隊」横浜市記者発表【pdf】 開港150周年盛上げる学生キャラバン隊が18区巡回150協議会が運営する横浜開港150周年ホームページでも、市民のアイディアを活性化する場としてホームページの活用方法を模索している。現在、学校法人岩崎学園情報科学専門学校の学生や教員の協力を得て、より具体的なシステム設計や、運営の方法を検討している段階だ。サイトの運用検討およびシステムエンジニアリングを手がける、情報科学専門学校の杉本一夫氏は「150周年を起点に、それ以降も市民がさまざまな情報を全国に発信していけるような取り組みにしていきたい」と抱負を語った。
横浜開港150周年(近代日本開国・横浜開港150周年記念事業推進協議会) 学校法人岩崎学園現在はまだ、一般市民の間には「2009年=開港150周年」という意識は薄いのかもしれない。しかし、今後さまざまな場面で「開港150周年」というキーワードが見られるはずだ。市民レベルでもすでに学生が学校内外を通じて開港150周年ホームページの製作に関わっている。「ヨコハマニア150プロジェクト」は関東学院大学や横浜市立大学など横浜の大学生が中心となっているし、近代日本開国・横浜開港150周年記念事業推進協議会のホームページの作成には岩崎学園の学生がシステム構築に関わっている。だんだんと市民が参加する機会も増えてくるだろう。なんと言っても「民が主役」の開港150周年記念事業である。市民がその動向に注目し、主体的に活動することで横浜の魅力がさらに高まることを期待したい。