4月16日、地域限定の香水『横浜元町オードパルファム フローラル・マリンの香り』の発売を記念し、元町商店街にて中田宏横浜市長、協同組合 元町SS会理事長の三藤達男氏、資生堂執行役員常務の森光平氏の3名同席の元、テープカットによるセレモニーが行われた。『横浜元町オードパルファム』は、文明開化とともに誕生した元町のキーワードとなる「港町」「欧風モダン」、未来に向けて生まれ変わりを続けていることからそのシンボルとしている「フェニックス(不死鳥)」の3つをコンセプトに香りを調香したオリジナル商品。コラボレーションのきっかけを作った中田市長は、「横浜にとっても香りたかい、誇り高い製品ができたことを喜ばしく思っています」と挨拶し、新たな観光資源の誕生を祝福した。
セレモニーの後には元町商店街で2日間にわたって発売プロモーションを実施。4月16日から元町商店街の34店舗で先行発売、4月21日から化粧品専門店、デパート、量販店、ドラッグストアなど約100店で販売を開始。全国でも珍しい地域限定の香水と話題となり、元町のイメージに合った大人の香りが人気で、地元客はもちろん、全国から来る観光客がお土産として買っていくケースも多いという。
きっかけとなったのは、昨年4月に行われた資生堂の幹部と中田市長の談話の席。話の中で、役員が横浜の街と結びついた商品開発をして地域貢献をしたいと語ったところ、中田市長が「資生堂さんなら、ファッションの街である元町はどうですか」とアイデアを出したのが契機となり、資生堂横浜支社内部で元町商店街とのコラボレーション案が浮上。万人に受け入れられる、お土産になるようなものをイメージし、どのジャンルの商品をつくるか検討したところ、フレグランスの企画が上がった。
資生堂ちょうど同時期、3月に資生堂は広島県尾道市の尾道観光協会とコラボレーションで開発したオリジナル香水『尾道の桜の香り』を尾道の観光施設等で販売していた。『尾道の桜の香り』は資生堂の研究者が尾道の千光寺公園のソメイヨシノの香りを抽出し分析、尾道らしさをテーマに開発したオリジナル商品。当初、資生堂の最小ロットである2,000本の限定生産だったが、桜の香りが尾道のイメージにフィットしたこと、また町や土地をイメージした地域限定販売の香水という話題性も手伝って、販売開始からわずか2日間で完売。すぐに追加注文するも、予約が殺到して3,000本が即日完売、最終的には当初予定の5倍である1万本もの発注となった。今年4月には尾道観光協会と資生堂は第二弾商品として、使用の際に『尾道オードパルファム』の香りがする『尾道あぶらとり紙』の販売を開始している。
尾道観光協会「おのなび」尾道での成功事例もあって、資生堂横浜支社で香水案が固まった。香りを文化として捉えることができる街という条件で検討したところ、元町は長年にわたり西洋文化を発信していて、女性客が多く、ファッションでも有名な街であり、連携先として申し分ない。資生堂横浜支社の提案を受け、中田市長が元町商店街に話をつないだ。元町側も「文化の発信地・元町から香りの文化を発信し、地域振興につなげたい」という提案に合意し、資生堂リサーチセンターと元町商店街による共同開発がスタートした。9月上旬に製品候補となる試作品が完成し、9月末に資生堂本社から製品化の承認を受けた。10月に中田市長と面談し、試作品の中から候補を絞り込み、12月に元町商店街の理事会に最終提案、製品化する香りが決まり、商品の生産に取り掛かった。
元町商店街の中心である元町通りを管轄する協同組合 元町SS会は現在210店が加盟し、そのうち34名が理事になっている。どのような流れで資生堂とのコラボレーションが進められていったのか、協同組合 元町SS会の事務局長を務める山田義人さんに話を聞いた。「資生堂さんから提案を受け、面白いですね、ぜひやりましょうとトントン拍子で話が進みましたね。このような試みはウチも資生堂さんも初めてのことでしたが、元町の店主さんは真似が嫌い、何事も一番が好きな性分。新しいことはどんどん取り入れていこうという風土があります。広報室が窓口となり、資生堂さんとともに元町らしい香りを模索していきました」。
Motomachi Shopping Street『横浜元町オードパルファム』は、文明開化とともに誕生した元町のキーワードとなる「港町」「欧風モダン」、未来に向けて生まれ変わりを続けていることからそのシンボルとしている「フェニックス(不死鳥)」の3つをコンセプトに香りを調香、それぞれをイメージした香りが時間の経過ともに現れるようになっている。つけた直後に現れる香り「トップノート」には「マリンノート」を融合させ、港町に吹くさわやかな風を表現した。つけて数分後から現れるメインの香り「ミドルノート」には「ブルー睡蓮」をベースに使用し、「和」と融合した「洋」が奏でる「欧風モダン」を表現。この「マリンノート」と「ブルー睡蓮」の融合によってモダン&エキゾチックを表現した、甘さとさわやかさが程よく感じられる「フローラル・マリン」の香りとなった。長時間経過して香る残り香「ラストノート」には白檀を使用した。
商品は元町SS会で一括購入、資生堂横浜支社の社員が元町の販売店34店に一軒一軒納入した。50ml、4,200円(税込)で、総販売数は7,000個。販売店には、これまで全く香水を販売したことのない店も大勢あった。そこで販売店を集めたセミナーを開催し、香水の基礎知識、香りの構成、販売の際のヒントを教えた。店によっては1日で20個以上売り、売れ行きとは好調だという。「元町らしい香りを決めるのは難しいことでしたが、甘すぎない『大人の香り』だと好評で何よりです。これは一本売れていくら、という種類のものではなく、大事なのは話題性、街の宣伝効果です。実際に街に足を運んで買ってほしいから、通信販売もしていません」(山田)。資生堂横浜支社の安田さんは、「デパートでは10日で200個売ったところもあり、売れ行きとしては非常に良いです。今まで化粧品を置いたことのない店でも販売していただいたので、香水を使ったことのない人にも香りの文化を紹介できました」とプロジェクトの効果を語る。
中田市長が相談を受けた際に元町の名前を出し、資生堂が連携先として元町を選んだのも、他の商店街から群を抜いて独自の「元町ブランド」というものが確立しているからだろう。元町商店街は、いかにしてここまでのブランディングを成功させたのか。元町には横浜の有名ブランド店が集まっていることもあるが、開港以来の長い歴史を持ち、その発祥の物語を最大限に活かしていることがポイントだと言えるだろう。例えば、第2期街づくりでヨーロッパ調の石畳で街路整備をしたこと。工事を行った80年代、全国の商店街ではアーケードやカラー舗装、歩行者天国が取り入れられていた。元町商店街はそれに反し、さんさんと降る太陽の日差しが似合い、外国の街のように歩くだけで楽しくなるような大人の街を目指し、他の商店街との差別化を図った。
また、ブランド力を向上するようなイベントを多数開催していることも強みだ。2月と9月に開催する「元町チャーミングセール」では6日間で40万人ほどの人が来街し、町全体を平均して通常の1ヵ月分ほどの売上げを記録する。3月にはアイルランドの建国祭「セントパトリックデー」パレードを開催、街をグリーン一色に染める。4月には犬と飼い主が楽しめるイベント「モトマチ・ドッグフェスタ」を開催、10月にはクラシックスポーツカー・レース「ミッレミリア」のゴール地点として関係者を迎え入れる。さらに10月末に「モトマチハロウィーン」、11月下旬からクリスマスイベントと、年間を通して元町ブランドをアピールしている。さらに今年は「横浜フランス月間・2005」に合わせて、6月にフランスフェアを検討しているという。
La Festa Mille Miglia 2005これだけ多数の大イベントを企画し実現できる秘密は、資金を潤沢に使うことと、意欲に溢れた若い人材の活用にある。2003年からの2ヵ年で行った第3期街づくりでは、総額で約7億円を投入、そのうち地元からは2億3000万円を出している。足りない分は横浜銀行から借り、15年で返済していく予定だ。また、協同組合 元町SS会の組合費は、売上高に応じて月額1万円から30万円までと日本一高いことで有名で、会費収入だけで年間1億円以上集まる。また、全国で商店街の高齢化が進むなか、元町SS会の理事の平均年齢は50歳以下。若手の意見を反映できるように委員制度を設け、イベント等の企画運営を行い、長い目で人材を育てようという風土がある。意欲のある若手に権限を与え、新しいことに常に挑戦していくこの姿勢が、元町のブランド維持の要因と言えるのではないだろうか。
事務局長の山田さんは、元町の街づくりの凄さをこう語る。「どの商店街も資金や人材の問題はあるものの、忙しいとか手を染めたくないという理由で実行しない人が多い。元町はやるべきことをこなすどころか、それ以上のこともやってしまう凄い街。次から次へと意見を投げてくる社長さんたち、そんな人たちだからこそ今の元町のエネルギーがあるのだと思います」。
昨年2月にみなとみらい線が開通、終点「元町・中華街」という駅名によってさらに露出度や認知度が向上した元町商店街。街のブランドコンセプト「変わらない想い。変わっていくストーリー。」のとおり、常に意欲的に新しい取り組みを行ってきたことが、今回の香水の共同開発にも結びついている。ゆるぎないブランド力を誇る元町商店街に学び、明確なビジョンを持って資金・人材の両面から、将来に向けて投資していく視点が、これからの街づくりにおいて重要となるのではないだろうか。