特集

創造性でクリエイティブシティ・ヨコハマを実現!?
アートNPO発「ジャングルカフェ」出現

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■「ジャングルカフェ」誕生の経緯とテーマ

今回、第1回目を迎えたジャングルカフェだが、前身となるワークショップが過去に存在した。発端は、音楽家であり、横浜アートプロジェクトの代表でもある、榎田竜路氏が子供たちの現状について危機感を持ったこと。2年前、同氏がある児童劇団の音楽指導を担当した際、子供たちに「自由にやる」ことを促したところ、大半の子供たちがどうしたら良いか分からずフリーズしてしまったという。これを目の当たりにし、愕然とした榎田氏が、子供たちに自身の「元気の源」を感じてもらうため、ワークショップ「ジャングルカフェ」をスタートさせる。ジャングル(密林)は多種多様な生命を育む場、カフェは人が集い語りあう場。各々の内にある生命の源をジャングルに喩え、ワークショップの名前とした。榎田氏は自らを案内人=「ドアマン」と呼び、食べ物や飲み物つきのコンサートや映画の上映を盛り込んだ、公開式ワークショップとして開催。このワークショップを約1年間続けることで、学びと交流の場づくりのノウハウと積極的に協力してくれる仲間たちが得られた。

「ジャングルカフェ」のテーマは「生命」「環境」「平和」。榎田氏は、数年前の「17才の凶行」と呼ばれる事件が多発したころから、日本の子供たちのなかで「生命」の大切さが薄らいでいることを危惧していた。「知識尊重、感覚軽視」の教育に原因があると考え、子供たちにアートを通じた感覚体験の機会をもってもらうため、横浜アートプロジェクトを立ち上げる。「生命」に触れ、生きる喜びを感じる力を養うこと。「生命」とは豊かな「自然、社会環境」によって育まれるが、その「環境」は世の中が「平和」でなければ保たれない。この原則に立ち返る機会を提供する場として「ジャングルカフェ」は存在する。

特定非営利活動法人 横浜アートプロジェクト

■第1回「ジャングルカフェ」密着レポート

第1回目のジャングルカフェは「多文化共生と教育の多様性」をテーマに、5月4日13時から始まった。世界中を巻き込んだアメリカとイラクの戦争がいまだ終着の兆しを見せない世情下だからこそ、異なる文化をもった人々との共生や生命の尊さについて考えるという内容。プログラムは、世界的な賞をとり、世界中の人々に楽しまれている良質の映画を紹介するコドモシネマコレクションの作品より「イキングット」の上映から始まる。『イキングット』はアイスランドを舞台に、人種を超えた少年たちの友情を描いた作品で、自分と異なるものへの偏見や差別がいかに無意味であるかを訴えかけるものだ。上映が終わると、「イキングット」の監督・ギスリ・スナイル・エリンソン氏、音楽家・鈴木キヨシ氏、冒険家・石川仁氏をゲストにミニシンポジウムが開かれる。多文化が共生するためのヒントや子供の教育に関して、さまざまな意見が交わされた。「多文化共生とは、外国人に限らず『障害を持った人』などを含め、いろんな意味の共生がある」。多文化が共生するための方法として「リズムを刻むように繰り返し同調し、大人が楽しんでいることを子供に見せることが重要」とは音楽家・鈴木氏の意見。榎田氏の「教育の多様性を考え、我々(横浜アートプロジェクト)に問いかけてほしい。ジャングルカフェはまだスタートしたばかり。今後さまざまな団体やアーティストと連携してイベントを定期的に実施していくなかで可能性を見出していきたい」とのコメントで幕を閉じる。

コドモシネマコレクション

シンポジウム終了後も、新しい形の「衣食住」を提案するアーティストやNPOの出店するブースは、盛り上がりを見せた。衣デザイナー・田丸恵子氏のブース「ルナティカナパ」は「麻」を中心とした衣類を展示・即売。「現在の日本にはさまざまな繊維が溢れるが、古来、日本の衣類の素材は『絹』と『麻』のみ。『麻』は虫に強く抗菌作用があり、食用として良質のオイルも抽出できる。日本の風土に合った伝統的でプリミティブな素材」と同氏は語る。また、NPO法人エコ住宅リサイクルバンクによる実際のリフォーム事例を中心としたパネル展示や、生活音楽研究所「おんらくラボ」のひょうたんやビール瓶の蓋を使ったユニークな楽器も来場者の関心を集めた。

ルナティカナパ NPO法人エコ住宅リサイクルバンク 生活音楽研究所「おんらくラボ」

■横浜アートプロジェクトのビジョンと可能性

横浜アートプロジェクト代表の榎田氏自身は、このプロジェクトは「自信をつけるためのものであり、それは他人より優れているという意味ではなく、自分を感じることだ」と語る。制約の多い現代の日本社会では「自分を感じる」ことは至難の業だ。アートを感覚体験として自らの人生に取り戻せれば「自分を感じる」ことにつながるだろう。同プロジェクトのすべての企画は「生命」としての自分たち自身を見つめ直すことを出発点とする。榎田氏が音楽家であることから、音楽を通じて子供たちに生きる喜びを感じてほしいと考え、2001年6月から「伝わるもの」シリーズがスタートした。同シリーズは、クラシックを中心としたコンサートが15才以下無料、大人1,980円という破格値で楽しめるというもので、今年5月12日開催予定の「楽しい、スイングジャズ」で第44 回目を数える。音楽だけにとどまらず、「ムービー・サマースクール」と銘打った映像制作ワークショップなど、映像文化を通じた子供たちの感覚体験の場も提供。ワークショップを通じて、「平和」や「環境」をキーワードにさまざまな方面の人たちの賛同を得、コミュニティが形成された。今回、盛況のうちに終えた「ジャングルカフェ」は、8月に第2回目を開催予定。「ジャングルカフェ」シンポジウムで司会を務めた教育メディアプランナー・小山紳一郎氏は、「イデオロギーがあまり前面に出ていないため、間口が広く、気軽に交流が持てる場だ」と感想を述べる。今後はさらに多くの人の関心を得ることが課題であり、学び、交流の場として「ジャングルカフェ」がどのような展開を見せるかが気になるところだ。

「子供たちの世界は、肩書きや権威などが存在しない完全実力主義の世界。だから子供たちには偽物は通用しないし、本物を見せていきたい」と語る榎田氏にとって、横浜は開港記念会館のような本物の歴史的建造物を活用でき、アートによる活性化に力を入れる中区の協力も得られる格好の舞台である。横浜市は新しい都市構想「クリエイティブシティ・ヨコハマ」を打ち出し、文化芸術・産業振興・まちづくりなどに関わる役所内のセクションを再編し、文化芸術都市創造事業本部を設置して、アートや創造的産業の活性化による都市の魅力増大に取り組んでいる。また、市民の智恵を施策形成課程へ活かすための新しい研究の仕組みである「横浜会議」もスタートし、NPOなどの民の力が発揮できる環境も整備されつつある。旧第一銀行と旧富士銀行の建物を活用した文化芸術創造プログラム「BankArt1929」も今年3月にスタートした。横浜アートプロジェクトは、5月より「BankArt1929馬車道(旧富士銀行)」3階の旧支店長室に、スタジオ機能を持たせた事務局を置き、映像や音などのコンテンツ制作や横浜の最新アート・カルチャーシーンの情報配信事業にも取り組んでいくという。

横浜市文化芸術都市創造事業本部 横浜会議 BankArt1929

2001年より任意団体として始まった横浜アートプロジェクトは、2003年8月NPO法人として認証を受けた。同プロジェクトの将来的な構想の1つとして挙げられるのが、オルタナティブシーンのネットワークをインターネット上に築くことだ。音楽や映像をアーティストの生き様とともに作品として流通させ、それに賛同する人が作品を購入することで、同プロジェクトとしてもアーティストの支援ができる。安定して継続的に情報配信や作品の供給をするためには、専従の事務、エンジニアスタッフは欠かせなくなってくるが、会員制をとり、ネットを介して賛同者が増えれば、彼らが寄せてくれた会費をもとに運営が可能だ。榎田氏は活動の趣旨に賛同する多くの市民が主体的に参加する仕組みとして、事業協同組合のような参加モデルも検討しているという。また近年、急速に普及してきたインターネットは、独自のメディアを構築して効率的に情報発信ができるだけでなく、時間・空間を超えて、創造のプロセスを共有する仕組みである。多種多様な感覚体験としてのアートに出会うきっかけをたくさんの人に提供すると同時に、アーティストの支援も叶えてくれるメディアとしての期待は大きい。さらにネットワークを新たな学びと交流の機会として活用できれば、間違いなく活動の域は広がる。このような構想は、アートNPOとして本格的に動き始めた横浜アートプロジェクトが量り知れないポテンシャルを秘めていることを示すものであり、今後の動向は目が離せないものとなりそうだ。

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