6月の定例行事となった「フランス映画祭 横浜」に加え、今年は「ルーヴル美術館展」が横浜美術館で開催されており、2005年6月の横浜はフランス色が強くなる。この2つのフランスの文化を紹介するイベントで大きな集客効果が見込めることから、今年1月19日に横浜市は2005年6月1日から30日までの1ヵ月間を「横浜フランス月間・2005」とすることを発表。財団法人横浜観光コンベンション・ビューローが主体となり、「横浜がフランスになる」事業の実施を民間事業者・団体に働きかけた。「フランス文化で賑わっている街・横浜」を全国に発信し、横浜への集客増加を図ることが狙いだ。
横浜フランス月間・2005 2005年6月は「横浜フランス月間」「横浜フランス月間・2005」の開催の背景には、横浜とフランスの文化・経済・まちづくりなどにおける交流の歴史がある。横浜市はフランス第三の都市・リヨンと姉妹都市提携を結んでから、45周年を迎えた昨年11月には中田宏横浜市長がリヨンを訪問。11月18日に横浜市経済局がリヨン商工会議所で開催した「横浜経済投資セミナー」で、中田市長が現地企業の関係者などにビジネスの場としての横浜の魅力をPRした。また、今年2月7日・8日には「都市をつなぐ 文化をつくる」をタイトルに、「日仏都市会議2005 -横浜・リヨン」が横浜シンポジア(産業貿易センタービル9階)にて開催された。同会議は「日本とフランスを横断して現代都市の諸問題をともに考え、両国の智慧を結集して都市の持続的な発展に向けた新たなヴィジョンを開拓する共同研究プラットホーム」として2002年から開催されているもの。中田市長とパスカル・ボニエルーシャリエ リヨン副市長による基調講演に加え、日仏両国の有識者が都市創造の視点から講演やパネルディスカッションを行った。6月の「フランス映画祭 横浜」も含め、これらの横浜とフランスの盛んな交流が、「横浜フランス月間・2005」開催の下地になっていると言えるだろう。
中田市長、フランスで企業誘致のトップセールス 日仏都市会議2005「横浜・リヨン会議」開催「横浜フランス月間・2005」では、多くの民間事業者・団体が参加してそれぞれ独自のフランス関連のイベント・文化催事を開催する。観光施設や博物館などには、期間にあわせてフランス関連の講座・展示の開催を呼びかけた。フランス製品の輸入企業や団体はもちろん、デパートやホテル、飲食店などもフランスフェアの開催やフランス関連の商品・サービスの販売・提供などを行う。芸術鑑賞、イベントへの参加、食事、ショッピングと、多様な視点からフランスの魅力を体感できる1ヶ月間だ。
「横浜フランス月間・2005」の推進とPRを中心となって担ったのは、財団法人横浜観光コンベンション・ビューローと横浜市の横浜プロモーション推進事業本部 集客都市プロモーション課だ。3月には「横浜フランス月間・2005」プレス発表会を開催し、民間事業者が開催するイベントの具体的な内容について発表した。その後、5月24日の定例記者会見では、呼びかけにより集まった約120の企業・団体が、フランスに関連した事業、または宣伝協賛の発表を行った。横浜市内の観光案内所・JR各駅では「横浜フランス月間・2005」リーフレットが15万部配布され、「横浜みなとみらいハンドブック」(東京急行電鉄製作)は、80万部以上が東急各駅で配布される。
財団法人横浜観光コンベンション・ビューロー 横浜プロモーション推進事業部文化催事の中心となるのが、横浜美術館で開催されている「ルーヴル美術館展」と「フランス映画祭 横浜2005」だ。「ルーヴル美術館展 19世紀フランス絵画 -新古典主義からロマン主義へ-」は、4月9日から7月18日まで。創立200年以上の歴史を持ち、所蔵品の規模と質の高さにおいて世界最大級の「ルーヴル美術館コレクション」より、フランス革命・ナポレオン帝政から二月革命にいたる激動の時代のフランス絵画に焦点を絞った19世紀前半のフランス絵画73点を展示する。アングルの名作「トルコ風呂」も日本初公開となる。19世紀前半のフランス絵画をルーヴル美術館の所蔵品により構成、展示するのは国内初で、GW中には1日最高1万2000人が来場。今後も更なるの来場者が見込まれている。
ルーヴル美術館展 横浜美術館世界各国でフランス映画のプロモーションをサポートする機関、ユニフランスが主催となり、新作のフランス映画を上映する毎年恒例の映画祭「フランス映画祭 横浜2005」。今年は6月15日から19日の5日間で、メイン会場はパシフィコ横浜会議センター。フランスから総勢約100名の映画人が来日する。フランス代表団の団長にカンヌ・ベルリン・アカデミー賞を制した巨匠、コスタ=ガヴラス監督が就任。新作『斧』を携えて参加。上映作品は、カンヌ映画祭コンペティション部門のオープニングを飾る『レミング』(ドミニク・モル監督)や、モーリス・ルブラン著の怪盗ルパンシリーズ『カリオストロ伯爵夫人』が原作の『ルパン』(ジャン=ポール・サロメ監督)など長編18本・短編9本をまとめた全19プログラムが決定している。上映作品の監督・俳優・プロデューサー等からなる代表団が来日、舞台挨拶やサイン会を行う。今年からサブ会場として109シネマズMM横浜、ワーナー・マイカル・シネマズ みなとみらいで第2上映が行われることなった。
フランス映画祭 横浜2005 ユニフランス120の企業・団体も、それぞれ趣向を凝らした「オリジナルなフランス」を披露する。フランス食品振興会は、「Happy Aperitif 2005 横浜ナイト」を、6月2日横浜美術館グランドギャラリーで開催、このイベントは「横浜フランス月間・2005」のオープニングイベントに位置づけられた。「アペリティフ」とは食前に楽しむアルコールやソフトドリンク等の飲料とアミューズブーシュと呼ばれる、おつまみの事。フランス農務省の発案で2004年から毎年6月の第一木曜日が「アペリティフの日」と認定され、今年は6月2日に世界22カ国32都市で同時にイベントが開催された。あいにくの雨にも関わらず、横浜の会場には延べ700人もの人が集まった。駐日フランス大使ベルナール・ド・モンフェラン氏、フランス食品振興会日本代表ジャン・シャルル・クルーアン氏、中田宏横浜市長の3人の挨拶で「横浜フランス月間・2005」はスタートを切った。中田市長は「6月はフランスで楽しんじゃおうと横浜市は決意しました。文化を大切にするフランス人は、日本の文化も大切にしてくれます。互いの文化を尊重しあう素晴らしい関係を日仏の間で築いていきたいですね」と朗らかにスピーチした。2003年、日本人で初めてフランスのボジョレー騎士団の団員に選ばれた中田市長は、騎士団の正装に身を包み、フランス語で乾杯を行った。アペリティフとして横浜市内のフレンチを代表するシェフたちが100種に及ぶアミューズブーシュを用意、ソムリエがフランス産のシャンパン、ワイン、リキュ-ル、ソフトドリンク、ミネラルウォ-タ-などを提供。横浜のバ-テンダ-も参加し、カクテルを提供した。
フランス食品振興会 横浜フランス月間、「ハッピーアペリティフ」で開幕また市内のフランス料理店シェフ達の多くが参加する「純フランス委員会」では、市内の各ホテル、レストラン、フランス菓子店、ブランジェリー(パン屋)、フランス食材及び飲料取扱店舗・施設など、約70ヶ所で「横濱・A la Lyonnaise(ア ラ リヨネーズ)フェア」と題し、フランスにちなんださまざまなイベントを実施する。
横浜赤レンガ倉庫は、「横浜赤レンガ倉庫フランス月間・2005」と題し、全館でフランスのカルチャー紹介やフランスグッズ&メニューを用意。6月15日~6月19日の5日間は「フランス映画際 横浜」と連動したスペシャル企画も用意している。また、横浜信用金庫では、「横浜・馬車道 FRANCE プラン」として「横浜フランス月間・2005」のコンセプトに忠実に、みなとみらい線、馬車道駅をフランスの料理・音楽等で埋めつくす。会場をポスターでフランス風に彩り、レストランで注文すれば数千円という料理やスイーツ・ワインを少量ずつ安価で提供。フレンチポップスのBGM、大道芸、フォークソングデュオ「N.U.」のコンサートなども予定されている。
横浜赤レンガ倉庫 横浜信用金庫また、横浜市内の各ホテルも「フランスプラン」を用意。ホテルニューグランドでは「ルーヴル美術館展入場券&ル・ノルマンディ フランス月間スペシャルディナーコース 付1泊2食付宿泊プラン」を設定。ヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテルも、同じくオリジナルのスペシャルディナーのほか、ルーヴル美術館展への入場券、朝食などのオプションを選べるプランを提供する。
ホテルニューグランド ヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテル他にも、キリンビールが主催する「女性のためのシャンパンセミナー(初級編)~シャンパンから感じるフランス~」や学校法人難波学園横浜調理師専門学校による、ピエール・オルシ氏を迎えての料理講習会、そごう横浜店の全館フランスフェアなど、各団体の表現する「フランス」は多種多様。横浜のシンボル、マリンタワーは、トリコロールカラーのライトアップで「横浜フランス月間・2005」の夜を彩る。
横浜にはフランス政府の公式機関「横浜日仏学院」がある。日仏学院は、フランス語とフランス文化を紹介する為、財団法人日仏会館がフランス政府の協力を得て50年前に設立したもの。関内駅から徒歩3分に位置する横浜校は、横浜市の協力のもと、1990年4月にオープン。主にフランス語教育、日仏文化交流、フランスについての情報提供の3つの役割を担っている。
同学院では、学院に通う生徒だけでなく、一般市民にも積極的にフランス文化の紹介を行っている。映画分野では、横浜美術館レクチャーホールにてフランス映画について学ぶ「シネ・クラブ」を実施。3ヶ月間ごとにテーマを設定し、日本ではなかなか見ることのできない作品を公開している。映画上映後は、映画評論家とゲストによるトークショーや、観客による質問コーナーも設置。ゲストの多くは日本人の有名映画監督で、フランス映画ファンだけでなく、日本映画とフランス映画の関係を知りたい人にもお勧めだという。また、様々な分野のフランス音楽の紹介、コンサートの開催、学院内外での美術展示、フランス人作家を招待してのフランス文学の講演会、美食文化等も紹介。ワイン講座、チーズ講座などのプログラムも用意されている。
今年で創立15周年となる同学院は、横浜フランス月間・2005の期間中でもある6月21日、「15周年記念祭」を実施。フランス大使館の大使や中田市長を招いて式典を行う。式典後、16時から20時30分頃までは、ミニコンサート・フランス語の入門講座・ゲームなどの一般向けプログラムを用意。フランス風のアペリティフ・ビュッフェも用意されるという。また期間中、フランスの有名監督・俳優を招いての映画上映とトークショー「シネマカフェ」を実施。他にも「ジャーク・プズー=マサビュオ写真展 日本の影」(6月7日~6月19日)や、「サビーヌ・デルクール展」(6月18日~7月18日)アーチストトーク、シンポジウムも実施される。
横浜日仏学院では、この4月から新たに1フロアー分、教室スペースを拡大した。増加しつつある利用者に対応する為だ。日仏学院は、全国に4学院有り(九州・京都・東京・横浜) フランス語検定の試験会場にもなっているが、横浜は生徒数第2位。横浜校責任者補佐、山口麻衣子さんは「私達は、ここから毎日フランス文化を発信していますが、横浜にはフランス文化への興味を持つ人が多いように感じますね。今後もこの建物のみならず、様々な場所でイベントを行い、フランスという国をより多くの方に知って頂くよう、務めて行きたいと考えています」と語った。横浜校責任者アンヌ=マリ・ルソーさんは「フランス月間は私達にとっても、本当に良い機会です。この6月をきっかけにして、少しでも多くの人にフランス文化に興味を持ってもらえれば」と語った。
横浜日仏学院わずか4ヶ月ほどの準備期間でありながら、企業や学院、様々な団体など、120もの団体が参加し、予想以上の盛り上がりを見せている「横浜フランス月間・2005」。この盛況の背景を横浜観光コンベンション・ビューロー企画部の二川さんはこう語る。「出来るだけ多くの参加を募集していましたが、期待以上でした。年間を通して見ると、6月はゴールデンウィーク後の閑散期にあたります。集客数が落ちる時期だからこそ、テーマ性のある企画が求められていたようです。そういった時期的な部分とマッチしたことも、参加団体が多く集まった要因とも言えるのではないでしょうか」。開催間近となった今でも、事業者からの問い合わせは絶えないという。「鉄道関係のフリーペーパーなどを見た事業者から、今からでも是非参加したいと多くの問い合わせを頂いています」。
今回のプロモーションに関しては「広告主体のプロモーションではなく、プレス発表を行ったことで、マスコミの方から大きな関心を寄せていただく結果となりました。All about Japanをはじめ多くのウェブサイト、雑誌に紹介していただき、更なる盛り上がりを期待しています」。今後定例化していく予定だという「横浜フランス月間」。横浜観光コンベンション・ビューローでは、ルーヴル美術館展が終わり次第、来年度に向けた準備を進めていく予定だという。
横浜市では、観光交流推進計画内の「横浜の目指すべき姿」として、「来るたび発見、魅力発信都市・横浜」を掲げている。その基本戦略の一つが、横浜観光プロモーションの推進・コンベンション機能の強化だ。今回の「横浜フランス月間・2005」はまさに、横浜市が掲げる「意欲ある観光関連企業などと協働し、ターゲットを明確にしたプロモーションの推進」にあたると言えるだろう。横浜観光コンベンション・ビューローを実施主体に、民間120団体の力を集め、横浜に観光客を集める、新たな集客プロモーション「横浜フランス月間・2005」。従来の広告主体といったプロモーションではなくメディアが関心を寄せる話題作りの手法、プレスリリースを行った事、公共性の高い手法を取り入れたアプローチが、成功の秘訣と言えそうだ。また、一つの「テーマ」に沿ったプロモーション事業が、街全体を活性化させ、PRしやすい環境を生み出した。横浜観光コンベンション・ビューローでは、今後もこうした集客プロモーションを続け、夏には「子供」をテーマにプロモーションを行う予定だという。新たな手法を開拓しつづける「横浜」の集客プロモーション。全国の他都市にとっても今後、大きな影響力を持つのではないだろうか。
弓月ひろみ + ヨコハマ経済新聞編集部