横浜には数多くの地域密着型メディアがある。思いつくままに挙げると、無料媒体としては発行部数世界最大の無料宅配誌「ぱど」、横浜信用金庫が発行する「横浜ルネサンス」、ヨコハマポートサイド街づくり協議会が発行する「GALLARYROAD」、はまことりが発行する「YOKOHAMA City Art News」、自遊時間が発行する「petit Deli.(プッチデリ)」、NPO法人横浜エンジェルズ・フォーラムの学生たちが発行する「Ceason」、また有料媒体としては、型破りな野毛の雑誌「NGT」、横浜市が発行する広報誌「横濱」などがある。神奈川新聞、tvk、FMヨコハマなど、地元の新聞、テレビ、ラジオ、またカナロコや、横浜ラジオマガジン ポートサイド・ステーションなど、地域の情報を発信するウェブサイトも地域密着型メディアだ。
野毛の「猥雑パワー」が産み出した規格外の新雑誌「NGT」のメッセージ ブログ導入で参加型メディアへ。神奈川新聞「カナロコ」の挑戦 ポッドキャストはビジネスをどう変える?「ポートサイド・ステーション」の可能性そのなかでも最近は可処分所得の高いF1層(20歳~34歳の女性)を対象にした地域密着型クーポンマガジンや、地元の生活者の視点に立ったフリーペーパーが元気であり、次々と新しい媒体が創刊されている。その背景には広告のあり方の変化がある。いわゆるマスメディアへの広告は認知度向上には大きな効果があるが、単価が高く、実際の商品の購買にどの程度結びついているかは把握できない部分があり、小さな商店にとっては手が出しにくい。その点、フリーペーパーの広告は単価が割安で、店の顧客となる地元の消費者に的を絞って知ってもらうことができるし、クーポンを付ければ来店促進や購買へとつながる流れが見えやすい。また、地域に密着したフリーペーパーには生活者がより主体的に情報発信に参加できるという利点がある。地域密着型メディアの成功には、いかに地域の生活者のニーズを満たす情報を集め発信し、参加型のメディアとしていけるかが鍵を握っている。
「Nasse」は横浜・大阪・福岡・北九州・熊本の5都市で発行している、オフィス向け登録制無料の月刊情報誌。発行元であるサンマーク本社は福岡にあり、各支社に編集部を置き、地域の店舗を紹介するフリーペーパーを発行している。「Nasse」横浜は1997年9月創刊、11月25日に発行する12月号でちょうど100号目を迎える。発行部数は約132,000部、企業登録は約17,400社で、横浜に深く根付いている媒体だ。その編集方針は、食、美、遊の3つの視点で20代~30代の社会人がオフタイムを楽しめるお店の情報を提供するというもの。企業や部署単位での愛読登録制で、読みたいと登録をした人のもとに確実に配布しているのが売りだ。
Nasse&めさーじゅ「なっせ」とは熊本弁の方言で、「食べなっせ」など、人に何かを勧めるときの誘いの言葉。もともと福岡で週間のタブロイド版「めさーじゅ」を発行していた同社は、「次は月刊誌を始めたい」と、熊本で「Nasse」を創刊。それが好評となり、他の都市でも「Nasse」の創刊に取り掛かった。「Nasse」では1号につき約200ものお店を紹介しているものの、「横浜の市場はとても広い。たくさんある面白いことをまだまだ伝えきれてないし、お店の発掘もまだまだこれからですよ」と語る。
愛読登録制により、読者が積極的に参加しているのが「Nasse」の特徴だ。誌面に対する読者の反応は多く、投稿で穴場情報を知って誌面に反映し、読者の参加意識が高まるという好循環が生まれている。読者がペンネームで誌面に参加するコーナーもある。また、飲食店での合コンや異業種交流会などの読者が参加するイベントをプロデュースしているのもユニークだ。「クーポンはお手軽な良さがあるけど、一回で終わってしまう。そうではなく、どうすれば読者がお店にいきやすくなるかを考えプランニングしています。単純な広告だけでは厳しいご時勢ですから、常に提案型の営業で、読者もお店ものっかってもらえる企画を社員全員で考えています」。
今年の8月号からは「ハマッ子のためのナッセ的課外授業」と題した特集を毎月1ページ無料で横浜市市民局広報課に提供している。そのきっかけは、「本当に読者の声を聞いているのか」、「本当の意味で地域密着型の媒体になっているのか」という自問自答だった。「長く続けていると、いろいろなことが当たり前に感じてしまい、行動する前に『それは無理だ』と諦めてしまうようになります。そこで『リボーン宣言』をし、編集企画、コンテンツ、配布方法を全て見直しました」。そのリニューアル新創刊号となった5月号を持って、横浜市役所に話をしに行ったという。「横浜市の取り組みを広く知ってもらうために、自分たちのやり方で横浜市の情報を発信したいと提案しました。横浜の街づくりのことを伝えるのは、私たち横浜の媒体がやるべきことだから」。来年春からは読者を対象としたメルマガも始め、より多くの生活者に役立つ情報を発信していく方針だ。
今年創刊されたフリーペーパー、「Yokohama Bay City News “WELCOME”」をご存知だろうか。20代~40代をターゲットにしたベイエリアの「熱きカルチャー」を扱い、JAZZ・クラブミュージック・デジタルシーン最前線のコラムを、横浜市民の目線と語り口で幅広く紹介。広告は横浜のクラブ・バー・イベント等が中心、夏には野外音楽イベントFUJI ROCKFESTIVALの広告も掲載している。他とは一線を画したカルチャーの香りが漂う「粋な!ベイエリア風」フリーペーパーだ。現在はテストケース的な発行で、2005年度は、8月・11月中旬に発行され、発行部数は約30.000部。来年度からは、定期的な発行を目指す。横浜市近郊の衣料雑貨店(ファッションハウス)・飲食店、ヘアーサロン・クラブ・音楽&アート系イベントにて配布されている。
制作しているのは有限会社ソーラーシステム。若者の音楽カルチャーを発信するフリーペーパー「BALANCE」の編集部の中から横浜在住の人たちが集まり作っている。編集長を務めるのは、「ドクター・セブン」としてイベントプロデュースやポエトリーリーディング・国内外のアーティスト・オーガナイザーなどのクリエイター活動を行っている和久正一さん。「音楽やアートに関心のある若者がターゲットだが、もっと上の世代と若者を繋げたいっていう思いがある。横浜には、凄く粋なOLD(ご意見番)世代が多く、しかもフランクでさばけてる。そんな人たちにJAZZやオールドサウンドを若者目線で噛み砕いて語って貰いたいなと思っている」。「紙媒体上で人と人が出会わせたいっていう気持ちがある。最初は思い切り”サービス”して広告を載せてあげて、それでファンが増えたら、また載せてねって感じで、掲載した人やお店みんなをバックアップ&ステージアップしてくのが基本姿勢です」。
BALANCE創刊号では、ラジオ番組のナビゲーターを務めるロバート・ハリスさん(WELCOMEアドバイザー)と対談を行った。「彼は東京人だと勘違いされているけど、実は生粋のハマっ子。古き良き日本の商店街があり、一方で異国の香りがして新しいことが起こる予感のする横浜は、僕たちにとって帰ってくると“ほっと”する場所なんですよ」。11月20日発行予定の第2号では、転落事故以来、2年ぶりの本格映画復帰を果たし、いま最も関心度の高い俳優、窪塚洋介さんにインタビューを行ったという。とにかく今!話を聞きたい人、応援したいものを取材するというのが「WELCOME」のスタンスだ。
横浜生まれ、横浜育ちの和久さんは、アースデイ東京&横浜などの環境イベントや横浜シティアートネットワーク(YCAN)などのアート系団体にも参加する、横浜のアートシーン・文化芸術をプロデュース・企画運営する人でもある。「WELCOME」は横浜のアートシーンを紹介する他に、市民が発案・実行・実践する活動や、商店街の魅力を誌面で広く紹介し、「粋な地域活性化」に寄与するという“裏ミッション”をも、内在している。「横浜は国内外の色とりどりの人間が集まってできた都市。敷居が低いというのか、排他的な部分が少ないのがいい。これからは、3日住めばハマっ子じゃなくて、3時間!滞在すれば!もうハマっ子です。横浜には近代日本のメジャーな文化を生み出してきた歴史と、そのDNAとも言える『横濱イズム』がある。横浜には発信していけるエンターテイメントが沢山あって、それは今後世代を超えて広がっていく大きな可能性がある。だから「WELCOME」では横浜の魅力を発掘し、PRし、横浜からスタートするカルチャー、文化を創り、広めていきたい。温故知新の精神で、若者とOLD世代を繋いでいきたい。老舗や匠といったものには、都会でフリーターやニートになっている若い世代が本質的に求めているものが“ある気”がする」と語った。
横浜シティアートネットワーク同じく今年創刊した「HAMA MAIL」は、若いカップルから熟年夫婦まで「二人」をテーマにした内容で最新の役立つ情報を掲載したフリーマガジン。横浜に住む人、働く人、通い続けている人など、「あらゆる横浜の達人がナビゲートするデートマガジン」で、偶数月末日に発行されている。発行部数は20,000部、桜木町・横浜駅の横浜観光案内所や横浜観光コンベンション・ビューローで手に入れることができるほか、11月10日からは、東急東横線、田園都市線を中心とした主要駅のラックにも設置が決定している。
HAMA MAIL編集長を務めるのは、「横浜が好きで好きでしょうがなくて」という住川禾乙里さん。「小さい頃から、親に連れてきてもらう横浜が大好きでした。学生時代は、学校をサボってまで横浜に来ていましたね。そこにいるだけで嬉しくなってしまうぐらい横浜が大好きなんです」。横浜のショップやカフェ、レストランを取り上げる数多くの情報誌があるなかで、「もっともっと横浜にこだわったマガジンを作って横浜の深い魅力を伝えたい」という思いがあったという。その夢に賛同し、協力してくれる社長と出逢い「HAMA MAIL」が誕生したのだ。
誌面では「横浜発 気になる情報コラム」として横浜の知っているようで知らなかった…という情報を掲載。また連載コラム「横浜名店倶楽部」では横浜にこだわっているお店をピックアップしている。「イベントの時期が過ぎたら用済みになってしまうようなものにはしたくないんです。ただイベント告知を羅列するのではなく、トリビア的要素を入れて読み物として面白いコラムにするように心がけています。それから、手頃な大きさで見やすい地図が入っている点や持ち運んで『使える』物であることも、女性にとっては大事なことですね」。そのほか「あの人へ贈りたい」というプレゼントをセレクトするコーナー「For You」など盛りだくさんだ。第2号となる2005年11-12月号には横浜生まれや横浜育ち、横浜が大好きという人のインタビュー「HAMA-JIN」で、万葉倶楽部横浜みなとみらいのイメージキャラクター天川紗織さんの紹介や地元住民のクチコミで作った元町・山手のお散歩マップ、クーポンを掲載している。
街頭配布をしていることもあって観光客の手に渡ることも多いという「HAMA MAIL」。遠くは北海道からプレゼントの応募やアンケートが届いた事もあるという。「地図が見やすく、解りやすい。楽しい作りで飽きない」と読者からの反応も上々だ。今年10月には「横浜観光プロモーションフォーラム」認定事業となり、助成額25万円を受けた。同事業は「横浜への来訪者を増やす事業」を広く募集し「集客性」「独創性」「社会性」などを勘案し、認定された事業に対して、事業の成功に向けて、横浜観光プロモーションフォーラム会員企業をはじめ、横浜市、財団法人横浜観光コンベンション・ビューローが「オール横浜」でバックアップするというもの。住川さんは「認定事業となったことで、多くの方に知ってもらえるチャンスが増えました」とその効果の大きさを語る。
横浜観光プロモーションフォーラム住川さんに今後の展望を聞いた。「横浜の魅力って一言では伝えきれないほど沢山あるし、自分自身『ヨコハマが大好き!』という横浜愛に溢れていますから…それが読者の方に伝わるといいですね。近い将来には1枚紙を折りたたんだタイプではなく、冊子形式にしていきたいと思っています。今後は横浜の『ちょっぴりディープ』な部分も取り上げて、内容をさらに充実させていこうと考えています。良い誌面を作るためには、皆様の協力なくしては成り立ちませんので、ぜひ多くの方に応援していただきたいですね」。
弓月ひろみ + ヨコハマ経済新聞編集部