中田市政が発足してから4年が経過しようとしている横浜。この4年間でヨコハマには様々な施設・拠点・プロジェクトが誕生した。リノベーションにより文化・商業施設となった横浜赤レンガ倉庫、斬新なデザインでリニューアルオープンした大さん橋国際客船ターミナルなどは今や横浜の人気観光スポットとなっている。また、市民団体やNPOが活動拠点として活用できる横浜市市民活動共同オフィスや、歴史的建造物をアートスペースにリノベーションしたBankART1929など、実験的な取り組みとしてスタートし、定着してきたものもある。
特に横浜市は、この2年間、「文化芸術都市創造事業本部」という中田市長直轄のセクションを設置し、「クリエイティブシティ・ヨコハマ」というビジョンを掲げ動いてきた。これは「クリエイティブ=創造性」が横浜の新たな都市ブランディングのキーワードであることを意味している。これまでの横浜のイメージは、海、港、観光地といったイメージが強い。そのイメージは多くの観光客を横浜に呼び寄せてきた。しかし、都市間競争が激化するなかで、一時的に横浜という都市を楽しむ観光客と同時に、横浜に住み新たな価値を生んでいく創造的人材をいかに呼び寄せるかが重要になってきている。創造的人材とは、アーティストやプログラマー、科学者、技術者、あるいは金融、法律の専門家など、個人の創造性によって仕事をする人々のことを意味している。
創造的人材は都市に何を求めているのだろうか。もちろんひとくくりに創造的人材と言っても、多様な志向や関心を持つ人々がいて難しいが、彼らが望む街とは、生活という点で言えば、LOHASやQOL(クオリティ・オブ・ライフ)などの言葉で表現されるような豊かな都市環境・文化的な生活環境のある街。仕事という点で言えば、新しくチャレンジングな仕事があり、ネットワークが拡大していくという期待感のある街。そして都市に集まる多様な人々を受け入れる寛容性のある街なのではないだろうか。「これからの社会を牽引していく創造的人材が住む魅力ある街・横浜」というイメージをどれだけ強められるか、それが今後の横浜の都市ブランディングの鍵となるだろう。今年の3月26日には市長選がある。2006年から、開港150周年を迎える2009年までとなる次の4年間は、多様な施設・拠点・プロジェクトで経験を積んだ人たちがネットワークをつくり連携していくフェーズとなっていくのではないだろうか。
横浜市は34年ぶりの大幅な局再編成で、4月から現在の27局・事業本部体制から、23局・事業本部体制となる。現在の「経済局」、「横浜プロモーション推進事業本部」、「文化芸術都市創造事業本部」の3局は「経済観光局」と「開港150周年・創造都市事業本部」に再編される。この新たな体制でのクリエイティブ産業の支援や、ヨコハマを舞台としたイベントやプロモーションの仕組みづくり、また連携や協働により、相乗効果を上げていくことが、横浜という都市を魅力あるものにブランディングしていくことにつながっていくのではないだろうか。
横浜市、大幅な局再編成を発表 -「経済観光局」を新設1859年、世界に向けて開港した横浜は、近代日本開国の象徴となり、国内、国外から多くの好奇心やチャレンジ精神あふれるヒトが集まったという。横浜は、異なる価値観やライフスタイルのヒトが出会い、文化の融合が起こる「舞台」である。開港50周年で横浜市開港記念会館、開港100周年ではマリンタワーが建設されたが、2009年の開港150周年記念事業は、ハード面に力を入れる流れになっていない。都市の魅力を生み出すソフトの充実を図るべきと言う考え方で、創造力と横浜ならではの地域資源を活用した記念事業の検討がはじまっている。
近代日本開国・横浜開港150周年記念事業推進協議会作家の山崎洋子さんを委員長とする「イベント創造プラットホーム運営準備会」は、過去150年間の横浜を見つめなおしながら、創造力で新しい横浜をつくりだす「チャンス」として「開港150周年」を捉えている。『人と人、人とモノ、多様な事柄がつながり、共感を生み出していく、その「場」をつくるのが「イベント創造プラットホーム」の役割』と山崎さんは言う。
つながり、共感を生み出していくネット上の「場」として立ち上がったのが『ペリーの鼻』という名前のWebサイトとブログだ。イベントを自由に発想し、その発想を実現するために必要な情報の所在を、Webサーバに蓄積し、イベントを実施するヒトを応援するための情報の編集・発信・共有の仕組みづくりの第一歩ということだ。
現在、同運営準備会では、「横浜・夢じゃんじゃんプロジェクト」として、開港150周年を盛り上げ・祝い・応援するイベント企画を募集している(応募締切1/20)。夢のあるプランやアイデアには、趣旨や魅力に賛同した企業から協賛(協賛金、ノベルティーなどの物品の供与、会場の無料提供等)が得られるよう支援をするという。
ペリーの鼻 横浜・夢じゃんじゃんプロジェクト産業面での連携促進やネットワークづくりについては、経済産業省が進めている産業クラスター計画の横浜での展開「横浜知財ITクラスター形成・支援プロジェクト」が昨年の7月からスタートしている。首都圏エリアの管轄は関東経済産業局の首都圏情報ベンチャーフォーラムで、横浜での実施主体は財団法人横浜産業振興公社。プロジェクトでは民間から4人のクラスターマネージャーを立て、3つのテーマで推進している。「知財・IT・ものづくり」といった広義でのクリエイティブ産業の集積と、企業間連携や新商品、新技術、新ビジネスが自立的・継続的に生まれるような環境や仕組みの整備に取り組んでいる。2006年は横浜の産業情報を発信していくウェブサイトの設立をはじめ、具体的な成果が生まれていくことだろう。
横浜知財IT産業クラスター形成・支援プロジェクトまた、横浜市はIT産業を横浜の新しいリーディング産業の一つと位置づけ、「横浜市IT産業戦略-ヨコハマ・デジタル・フォアフロント-」を策定している。新横浜の半導体、横浜駅周辺のソフトウェア開発、都心臨海部のデジタルコンテンツ制作など、横浜には特徴的なIT企業の集積がある。「横浜市IT産業戦略」では、その集積をより推進していくとともに、そこに新しい連携を生み出して横浜オリジナルの情報家電など、競争力の強い商品やサービスを創りだしていこうというものだ。
横浜市経済局 IT産業の振興今年の秋に「第4回市民メディア全国交流集会in横浜」が横浜で開催される。既存のマスメディアとは異なる視点で、知に足のついた情報を発信していく市民メディアは、地域の隠れたニーズ・シーズを掘り起こしたり、課題を共有し解決していくためのツールとして注目されている。全国交流集会は市民メディアを通して地域活性化を図る団体の情報交換をする場として、2004年2月に第1回が名古屋で開催され、その後10月に第2回が米子で、2005年9月に第3回が熊本県山江村で開催された。近年のブログが流行などもあり、回を増すごとに参加団体も増えてきている。第4回の横浜は初の首都圏での開催となることもあり、大きな盛り上がりが期待できそうだ。
時代はマスメディアからマイメディアへ市民メディアはヨコハマを変える?今年で14回目を迎える「フランス映画祭2006」は、第1回目の1993年から横浜で開催されていた。同載の実行委員会は12月24日に、今年の映画祭を「お台場」「六本木ヒルズ」「大阪」での同時開催すると発表した。フランス映画祭といえば、横浜の6月の定例イベントとして定着していたもの。横浜市は昨年、フランス映画祭で上映された映画のフィルムの貸出などをおこなう「横浜シネマテーク」を設立したり、6月を「横浜フランス月間」と位置づけ、フランスに関する様々なイベントの開催を呼びかけ、映画祭に親しんできただけにフランス映画祭が離れてしまったことは大きな痛手だ。
「フランス映画祭2006」、お台場・六本木・大阪で開催決定 映像で結ばれるフランスとヨコハマ「フランス映画祭横浜2005」の全貌また、昨年11月には「相鉄ムービル」の映画館5館の閉鎖が発表された。1971年にオープンした同館だが、シネマコンプレックスの台頭などにより入場者数の減少に歯止めがかからず閉鎖が決定し、今年5月末に閉鎖となった。一昨年の10月、台風22号の大雨で浸水した横浜駅西口の地下にある名画座「ヨコハマ・シネマ・ソサエティ」が廃館しており、相鉄ムービルの閉鎖で横浜駅近辺の映画館がなくなってしまう。横浜駅の乗降客数は1日約186万人(2004年度)と、全国5位の巨大ターミナル駅である。横浜駅周辺で映画が見られないというのは悲しいものがある。
「相鉄ムービル」の映画館5館、来年5月末で閉鎖一方で、今年は映像を制作する動きには進展がある。東京芸術大学の大学院「映像研究科」の「メディア映像専攻(修士課程)」が4月に新たに開設する。メディアデザイン領域の教授にクリエイターの佐藤雅彦氏が就任し、芸術表現と科学技術の融合を通じて、既存メディアを更新するような映像コンテンツを創出する人材を育成していく。横浜ならではの映像を制作・配信する事業や、デジタルコンテンツのアーカイブ事業などが、横浜のIT産業企業や研究機関、産業支援団体などとの連携により生まれていくことに期待したい。
東京芸大「メディア映像専攻」が開設-教授に佐藤雅彦氏2006年も、創造活動の場としてのヨコハマの魅力を感じて、ヨコハマを舞台として活動していく企業やアーティストは増えていくと思われる。また、文化・芸術・観光・経済・産業などの分野が「クリエイティブ産業」という括りで横断的に捉えられ、各分野で活動する組織間の連携や協働がさらに進んでいくだろう。公衆無線LANなどの通信環境や、同じ目的を共有する組織間で、情報を収集・編集・配信・蓄積・共有・運営するための情報技術を活用して、新たな価値が生み出されていく。2006年はそんな1年間となっていくのではないだろうか。