みなとみらい線馬車道駅の目前に建つ、レンガ色と白色の2棟の歴史的建造物、それが「北仲BRICK&北仲WHITE」だ。この建物に入居している約50組のアーティストやクリエーターたちが、オフィス・アトリエを一般公開する「北仲OPEN!! 2006 The Summer」が7月28日から8月6日まで開催される。「北仲BRICK&北仲WHITE」のように、これだけの数のアーティストやクリエーターのアトリエやオフィスが一カ所に集結しているところは珍しい。それが一斉にオープンスタジオを行い、普段は見ることができない制作環境を見せるとともに、入居者が多様なイベントを行うというものだ。
北仲OPEN!! 2006 The Summer 北仲B&Wの入居団体約50組が最後のオープンスタジオ北仲WHITEは、今年10月に暫定活用が終わり、その後は再開発のために壊される建物である。築80年の建物は、壁・床・天井全てが魅力的であり、ライティング等でアートとして利用し、入居するアーティストが壁面に絵を描いたり、壁の表面の割れ目に沿って彩色したり、さらには館内のいたるところで植物を育てるなど、自由な創作活動を行っている。期間中、各部屋ではオープンスタジオを行うほか、4階の部屋「アーバンサロン」をイベントやサロンのスペースとして活用し、ライブやワークショップなど多彩なイベントを展開する。
北仲BRICK&北仲WHITE今回の企画では、建物内の回遊性を高めるということが特に意識されている。なかでもユニークなのは、友部正人さんが部屋を移動しながらノーマイク・ライブを行う「ライブで巡る北仲WHITE」だ。実行委員会事務局長を務める山野真悟事務所(北仲WHITE301号)の田島孝通さんは、そうした企画となった経緯をこう語る。「最初は4階のアーバンサロンをライブ会場にしようと思ったんですが、音が響きすぎてダメだったんです。どこの部屋が音響的に良いのか調べるために、友部さんに部屋を回って歌っていただいたところ、『このやり方が北仲らしくておもしろい』となり、この企画が実現することになったんです」。アーティストならではの自由な発想が、企画全体に活かされている。
北仲の入居団体が一斉にオープンスタジオを行うのは2度目だ。前回は、横浜トリエンナーレ2005の開催期間に合わせて昨年の11月18日~12月18日に実施した。実行委員会として企画を立て運営したのは、入居者のなかの若いアーティストたち。企画に賛同した39組が参加し、一般市民がアーティストの部屋を覗いたり、交流できる機会を生み出した。しかし、開催期間が長かったので、実行委員会もスタジオをオープンする入居者も負担が大きかった。
文化と芸術が新たな「街の個性」?秋の横浜はアートイベントが目白押し2回目のオープンスタジオの企画が持ち上がったのは、「北仲BRICK&北仲WHITE」入居者や関係者の代表らによって構成される運営ボードからだった。今年の4月末に、この運営ボードで第2回の開催が決まったため、今回は全ての入居団体が参加するイベントとなった。10日間と短期集中型の企画として、参加団体の負担が少なくなるよう配慮した。
また、広報を担当する谷口祥子さん(小泉アトリエ、北仲WHITE303号)は、今回は情報発信面にも力を入れていると語る。「新しい情報はウェブサイトにどんどんアップしています。イベントの日時や入居団体のオープン日も一目でわかりますし、部屋のビフォーアフターを見せるウェブだけの企画もあるので、ぜひ見てほしいですね」。30日まで関内で開催されている「ヨコハマEIZONE」と開催のタイミングを合わせたため、普段はアートと縁がない方々や、家族連れなどの来場も期待される。期間中は、その日に開催するイベント情報を掲載した瓦版を来場者に配布し、見に来た人がより楽しめるよう心がけるという。
絵画、写真、映像、音楽などのアーティストに加え、キュレーター、建築家など、分野の壁を越えて人のつながりを生み出した「北仲BRICK&北仲WHITE」。もうすぐ終焉を迎えるその活動を、ドキュメンタリー映画にして記録するプロジェクトがスタートした。映画の名前は、「ヨコハマアバンギャルド」。中心になって進めている人物は、建築事務所「On Design Partners」(北仲WHITE308号)代表の西田司さんだ。
On Design Partners西田さんは、北仲に入ったことで入居するアーティストとのつながりが生まれ、活動の幅が広がったことを実感しているという。今年2月に開催されたクリエイティブクラスターの岡田智博さん(北仲WHITE310号)が主宰する展覧会「Electrical Fantasista」では会場設計を担当。また、自身が手がけた神田のビルのリノベーション・プロジェクトでは、階段室などの壁面をアートに活用することをオーナーに提案し、マスキングテープとマジックで壁面に樹木を描く浅井裕介さん(北仲WHITE306号)とのコラボレーションを実現した。「全く異なる活動をしている人たちが、ある期間同じ場所にいることでつながりができ、核融合のような化学反応が起こる。北仲に入ることで、いろんなモノを合わせて建築を考えるようになり、自分自身が大きく変わりました」と西田さんは語る。
この北仲という活動に感謝し、恩返しがしたい――そう思った西田さんは、それぞれの部屋とそこで活動する人の日常の姿を映像で記録するプロジェクトを思い立った。「10月に暫定活用が終了し、そこにいた人たちもそれぞれ別の場所を見つけていきます。やがて北仲WHITEはなくなってしまいますが、『なくなってしまうことの美学』と、こうした場所が生んだ人と人とのつながりを描きたい。映画『ヨコハマメリー』のように、人と街・建物の記録となり、30年後に振り返ることができるようなものにしていきたい」。
3世代のハマっ子をつなぐメリーさんの記憶映画「ヨコハマメリー」が伝える戦後史7月28日には20時30分から北仲WHITE406号アーバンサロンで予告編を上映する。西田さんは、この北仲オープンのイベント期間中にそれぞれの部屋を映像に収め、イベント終了後は入居者にインタビューし、北仲での活動についての想いを聞きだしていくという。「北仲での活動が終わり、別の場所に移っていった作家の姿も追いかけ、北仲が生み出したものを客観的に振り返りたい。来年の春には編集を終えて作品を完成し、横浜の歴史的建造物で上映会を開きたいと思っています」。一体どのようなドキュメント作品になるのか、期待が高まる。
この北仲の暫定活用は10月をもって終了する。北仲WHITEは再開発のため壊されることになるが、現在「横浜アーバンラボ」として横浜とニューヨークの1/1000スケールの都市模型の展示が行われている北仲BRICKは、再開発の工事期間中も残されることになっている。今後、北仲通北地区の再開発が進展していく中で、地元や行政と新しい横浜を考えていくためのコミュニケーションの場となり、継続した情報発信を行っていくインフォメーションセンターの役割を果たしていくことだろう。
横浜アーバンラボ再開発の中では、クリエイティブ・コアという同地区周辺のエリアイメージを牽引する施設「デザインセンター」の設置が構想されている。都市のシミュレーションラボという横浜アーバンラボの機能は、このデザインセンターにも受け継がれる予定だ。
また、この7月から横浜市が進める「創造界隈」事業の新たな拠点「ZAIM」の2年間の暫定活用プロジェクトがスタートした。選定された26の入居候補団体のうち、約半数が北仲の入居者となっている。部屋数は13室と少ないのでルームシェアが前提となり、団体間のつながりや連携はより緊密になっていくことだろう。こうしたアーティストたちが集う創造拠点から、横浜のクリエイティブの新しい潮流が生まれていくのではないだろうか。
アーティストが集う創造の場へ。創造界隈の新拠点「ZAIM」の全貌横浜にクリエイティブの新たな波を起こしている「北仲BRICK&北仲WHITE」。まだその活動に触れていないという人は、ぜひともこの最後のオープンスタジオに足を運んでみてほしい。
加速する横浜のクリエイティブ・コア「北仲BRICK・北仲WHITE」始動