2006年10月1日。SNS『mixi』内のコミュニティ「I love Yokohama【横浜】」主催による関内地区清掃ボランティア活動が行なわれた。午後2時30分、あいにくの雨模様だったが、JR桜木町駅前には約70人の「横浜好き」が集まった。中区役所から借り受けたほうきやちりとりなどの清掃用具を手に、7チームに分かれて常磐町や住吉町、相生町など関内の各通りのゴミを拾った。その取組みは新聞や雑誌などマスコミでも広く取り上げられ、各方面から注目を集めた。同コミュニティの代表である佐藤勇さんは「集まったメンバーの共通点は『横浜が好き』で『mixiユーザー』という2点のみ。年齢も職業もバラバラ。しかし、これだけの熱い志を持った人々が集まり、実際に清掃という形でアクションを起こせたことが注目されたのでは」と話す。
「I loveYokohama【横浜】」は、『mixi』内の地域をテーマにしたコミュニティでは最大規模の31,617人が参加している(2006年11月19日現在)。このコミュニティでは日々、横浜市内の飲食店やイベントの情報のほか、街ネタなど数多くの情報が活発に交換されている。清掃の話も、「花火大会の後の公園が汚い」「大好きな横浜のために恩返しがしたい」という書き込みが発端となり、有志によって企画された。「それだけ横浜を愛し、何かしたいという人が沢山いるということ。その人たちをつなぐツールとしてSNSは大きな力を発揮した」(佐藤さん)。
10月28日にはイベント創造プラットホームが主催する「海ぷらっとVol.4」に佐藤さんがゲストスピーカーとして出席し、開港150周年に向けて取り組む各団体にネット上の横浜のコミュニティから広がっていった活動を報告。「SNSを活用した新しい形の地域貢献として、これからも継続的に活動を行なっていきたい」と今後の抱負を述べた。同コミュニティでは、12月16日に「YOKOHAMA Refresh! G2」と題した、2回目のボランティア清掃活動をみなとみらい地区で実施する。SNSで集った仲間と共に「横浜へ恩返しを!」というこのアクションの輪はますます広がっていきそうだ。
I love Yokohama【横浜】(mixi登録者のみ閲覧可能) 関連記事(ヨコハマ経済新聞)そもそも今回の清掃メンバーが知り合うきっかけとなったソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)とはどのようなものなのだろうか。SNSとは、「友達の友達は、みな友達」という発想に基づき、交友関係や日記、趣味、居住地域などのプロフィールを公開することで人脈を広げていくインターネット上の交流サービスである。参加者は自由に「コミュニティ」を作ることができ、共通の興味・関心を持った人を集めることが可能だ。「I love Yokohama【横浜】」は、横浜を愛する人、横浜で生活する人が情報交換をする場として佐藤さんが立ち上げたコミュニティだ。
総務省の発表によれば、日本でのSNS参加者は今年3月の時点で716万人で、日々増え続けている。国内最大手のSNSは『mixi』で、677万2,564人が参加している(11月19日現在)。大手SNSとしては他に、『mixi』と並んで草分け的存在である『GREE』などがある。この他に趣味や地域など特定のテーマに特化した少規模のものも含めると国内には数百のSNSがあるとされる。
海外に目を向けると、SNSはさらに盛んだ。SNS発祥の地であるアメリカで最大のSNS『myspace.com』は1億3,000万人以上の登録があり、SNSは社会現象となっている。また、韓国のSNS『サイワールド』は国民のおよそ3分の1にあたる約1,500万人が参加している。日本のSNSは、海外と比べれば規模的にもまだまだ発展途上だが、それだけ大きな可能性を秘めているとも言える。マイスペースはソフトバンクとの提携で、日本に合弁会社を設立し、日本語版サービスを11月7日に開始した。動画の公開機能など、『mixi』ほか国内の大手SNSがまだ導入していない仕組みも装備するという。今回のマイスペースの日本進出で国内のSNS市場での競争も一気に激しさを増しそうだ。
マイスペース日本版 サイワールド日本版前述の『myspace.com』などの海外SNSのインパクトの大きさや、『mixi』などの国内SNSの盛り上がりを受けて、行政もSNSに注目し始めている。国内で最初にSNSを設置した地方自治体は、熊本県八代市だ。2004年12月に市が運営する住民ポータルサイト『ごろっと やっちろ』にSNS機能を導入し、注目を集めた。 総務省は2005年度、この『ごろっと やっちろ』のSNS機能に注目し、地域社会への住民参画を促進する目的で「ICTを活用した地域社会への住民参画のあり方に関する研究会」(座長:石井威望東京大学名誉教授)を設置し、地域SNS活性化のモデル実験として、東京都千代田区と新潟県長岡市でSNSの運営実験を行った。ICTとはInformation and Communication Technologyの略で情報コミュニケーション技術の意味だ。研究会の狙いは住民の合意形成や交流、行政への意見表明、災害時の連絡手段としてのSNSの可能性を検証することにあった。まちづくりなどに取り組む非営利団などとの協働で、千代田区は「ちよっピー」、長岡市は『おここなごーか』をそれぞれ立ち上げた。
今年度は、この事業を地方自治情報センターが「e-コミュニティ形成支援事業」として継承し、八戸市、前橋市、秩父市、掛川市、大垣市、宇治市、豊中市、大牟田市、五島市、大分市、奄美市の11都市で、ICTを活用した地域コミュニティ形成に向けた取組みが進行している。この事業のテーマは、地域住民等による「まちかどレポーター」で、地域情報を発信することで住民同士の交流や、災害時の災害情報発信ボランティアの活動などを促進するのが狙いだ。
総務省 住民参画システム利用の手引き 実験実証の概要(千代田、長岡) 地方自治情報センター 平成18年度 e-コミュニティ形成支援事業昨年秋以降、地域SNSを立ちあげる民間企業やNPO法人、個人などが急増している。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)研究員で地域SNS研究会を主宰する庄司昌彦氏は、「地域SNSで最大の参加者数を集めているのは福岡の『VARRY』で4,000人。電子掲示板などの従来の地域のオンラインの市民参加の仕組みの利用者に比べても引けを取らない数になってきている。また、西千葉の『あみっぴぃ』や香川の『ドコイコパーク』、神戸の『ショコベ』など、SNSでのコミュニケーションにとどまらず、オフラインでスポーツ、音楽、ボランティアなどのオフラインイベントを活発に行う動きが出てきている。兵庫の『ひょこむ』のように、民間主体で行政やNPOなどが連携して取り組む事例も出てきている。今年1月末の時点で地域SNSサイトは12件だったが、11月の現在は約150件以上に増え、増加傾向は続いている」という。
地域SNS研究会ここ横浜でも様々な分野の取組みにSNSを活用しようという動きが始まっている。今年の夏には、横浜におけるSNSの展開の勉強会「横浜SNS研究会」が市職員、大学教授、民間企業、NPO関係者などで結成され、各SNSの横の連携も視野に入れて動き始めた。横浜SNS研究会は今年9月10日、全国各地から市民メディアの担い手や研究者が集まった市民メディアサミットの中で、「地域活性化にSNSは役に立つのか?」をテーマに公開トークセッションを実施した。同研究会によれば、準備中のものも含め、横浜ではSNSを活用したユニークな取組みが複数進行しているという。開港150周年へ向けて結成された「イベント創造プラットホーム」も、SNSの導入を検討中だ。イベント創造プラットホームは、「横浜を盛り上げたい」と考える市民、企業、行政の橋渡し役となって活動の「場」を提供すべく立ち上げられた組織。同事務局では、「大小さまざまなイベントの主催者が、イベントの告知や仲間募集、プロジェクトメンバー間の情報共有や意見交換をする仕組みとしてSNSに注目している」と話す。また、保土ヶ谷区の和田町商店街でも市経済観光局との協働のもと、独自のSNSの構築が検討されている。一つの商店街という「狭域」に特化したSNSの例はほとんど見られず、今後の展開が注目される。
横浜SNS研究会 『地域活性化にSNSは役に立つのか?』公開トークセッション イベント創造プラットホーム冒頭に紹介した「I love Yokohama【横浜】」の清掃活動が注目された背景には、佐藤さんの言葉を借りれば、SNSが「ネット上での交流のみならず、リアルの場でのアクションを起こす」原動力になったことが大きい。「地域のために何かをしたい」という共通の問題意識を持ちつつも、これまで「点」でしかなかった一人一人を「線」としてつなぐ役割を果たすSNSの力は、地域活性化の観点からみても大きな意味がある。書き込みや日記を通じて登録者が情報の「送り手」にも「受け手」にもなり得るSNSは、Web2.0時代の新しい形のメディアであり、単なる掲示板よりも濃いコミュニケーションを可能にしたコミュニティという形が、人と人のつながりが特に重要な地域活性化にうまく機能したのだろう。人口は360万人を突破し、多くの情報が入り込んでくる横浜。様々な考えを持つ人々や、まだ注目されていない情報や活動を互いに結びつけ、さらに街を盛り上げていくために、今後SNSがどのように活用されていくのか。開港150周年も控え、ヨコの連携がますます重要になる今、その動向から目が離せない。
久保孝広 + ヨコハマ経済新聞編集部