「増山さん!アジアの女性達をテーマにした展覧会企画してよ!」
と、ZAIMに声をかけていただいたのが丁度1年前。ZAIMのオープニングフェスティバルの打ち上げの席だった。日本国内だけで活動する事に飽きていた私は「もちろん!」と即座に答えた。
以前ドクメンタなどの国際展を見て、作家のセレクトやあまりにも西洋に偏っているのではないかと常々感じていたからだ。もっと、アジアや、アフリカ、中東などのアーティストが世界的に活躍すればいいのに…。
「じゃあ、一からそれを作ってしまえ!」いよいよそのチャンスが訪れたのだ。
シルクロードを現代アートで繋げてみたい!という壮大な妄想もあった。
2004年にイラクに行って、ハニ・デラ・アリさんという画家と、一緒に一枚の顔の絵を描き、それがきっかけで海外の作家と共同制作をするという「LAN TO FACE」というシリーズを始めました。彼の故郷であるイラクは古代シルクロードの終点で、そこから中国、韓国を通って、さまざまな文化や思想が日本まで運ばれてきたという歴史の厚みを感じたからです。中国の陶器、景徳鎮と同じ青と白の陶器が古代イラクでも発見されるといいます。でも日本でイラクの芸術というと、「反戦の絵」としか理解されなくて、なんだか残念と言うか、もったいないと思いました。命の重さと文化の重さが、同じように軽んじられているな、と。
その時感じた疑問と、自分が東京芸大という由緒ある大学(中退しましたが 笑)でアートを学んだ時から感じていた、日本の芸術にいまいち肉厚な表現が生まれてないという状況とつながるような気がしました。芸術だけではなく、一般生活でも欧米から来た映画やファッションを無条件に崇拝してしまうプライドのなさを日本人は持っています。もっと自分たちの足下や歴史をじっくりと見直す必要があるんじゃないか。だからシルクロードのネットワークを現代アートを通じて作れば、東洋がもっと自分の血肉になるんじゃないかと考えたんです。ハニさんと始めた共同制作を、北京や上海、ソウルで行ったのも、そんな気持ちからでした。最近は中国の急激な経済発展もあり、アジアのアーティストが紹介される機会も少しずつ増えてきました。
様々な角度からアジアの今を見つめるアーティストの作品に触れる事で、この時代を生きのびるヒントを、この展覧会で見つけてもらえるのではないでしょうか。トリエンナーレの開催される昔からの開かれた港町、横浜でこの展覧会を開催できる事も何かのご縁と言うか、運命を感じる。
作家探しは雑誌、インターネット、口コミなどありとあらゆる方面で行われた。東京画廊などのアジアに強いギャラリーの方々のご協力も得て、今、アジアで最もHOTな作家達が参加してくれる事になった。上海で、北京で、ソウルで、作家のアトリエを訪ね、泊めてもらったりもした。けんかもしたけれど、いろいろな話をしながら、同じような問題意識を抱えているという事もわかった。
展覧会のメインビジュアルは韓国人デザイナーグループ「少年」が担当してくれた。漫画やSMAPが大好きな「少年」は《アートロボットZAIM君》というキャラクターをチラシ用に描き下ろしてくれた。《ZAIM君》が金色なのは、「西洋から見たら、俺たちアジアはくすんだイエローに見えるかもしれない。でも本当は、俺らはゴールドなんだ!」という理由だそうだ。
また先日まで東京都現代美術館での個展という最高の形で日本デビューを飾ったばかりの中国人作家邱黯雄(チゥ・アンション)は、大学時代に「論子」という中国の古書と出会い、西洋中心価値観に疑問を感じ中国最古の地理書をモチーフとして、現代社会への風刺を込めたアニメーションをつくっている。架空の中国の都市を舞台に、911を思わせるような飛行機やビル、文明が破壊される様を美しい墨絵風のタッチで描いた映像作品だ「僕が作る作品は現実のような虚構です。見てくれる人は、自分たちの社会への警告と受け取ってもらってもいいし、全くのファンタジーを見ていると思ってもいい。テレビもそうですが、映像というメディアは基本的には虚構なのですから。」(チゥ)
韓国のジン・キジョンも「メディアの虚構性」をテーマに作品を作っている。でもジンの場合はメディア批判ともちょっと異なる。単純に映像の構造を楽しんでいるのだ。アマゾンの雄大な大自然をドキュメントするナショナル・ジオグラフィの映像が、小屋の入り口にあるモニターに映されている。観客は見慣れた映像だな、と思い、小屋の中に入っていく。すると、中には作り物の魚が小さな水槽に入っていて、それをカメラが生中継している。先ほどのモニターは偽物を映していたのか!と気がつくという仕掛けなのである。わかっちゃいるけど止められない。メディア操作が行われていると知りつつも、映像中毒を抜けられない現代人へのブラックジョークと言うべきか。レセプション後のオフには、「秋葉原でモニターやカメラなどと行った電化製品をチェックしにいきたい」(ジン)とか。
中国の孫芙蓉(ソンフーロン)の作品も強烈だ。サラリーマンの背広や下着が所狭しと、100体分並べられている。しかもどれもがハサミでザクザクと切り刻まれているのだ。一種異様な空気を醸し出している。
彼女が表しているのは、2008年のオリンピックを目前に急激な社会変革を起こしている"イマの中国"では、「人間の体というのは、毎日フォアグラを食べつるようにはできていませんし、そんなにたくさんの贅沢な服もいりません。今の中国は欲望が内側から破裂しそうなほど膨れ上がっています。病気なのです。」(孫)
中国では、今、空前の美術バブルを迎えている。北京の798ギャラリーには、海外からのバイヤーとの出会いを求めて、外国のギャラリーが次々オープンしている。一枚の単価も何百万、何千万、中には何億円・・・。日本では想像のつかない成功を手にするアーティストも多いのだ。画家は中国でも今最も憧れられる職業の一つである。
北京中央美術大学の教授である劉小東は、中国のアートピラミッドの頂点に立つ作家だ。昨年の中国で値段と地位も5本の指に入るという劉は、日本で2枚の新作を描き上げた。一枚は私がヌードモデルを務めた桜と女体の絵、もう一つは温泉に入る男の絵である。一年前から構想していたという日本文化の中の"生と死"を描くというものだ。
「今の中国では誰もが忙しく働いていますが、もっと昔、日がな一日中桜を眺めて人々が過ごしていたということを想像します。そういうゆっくりとした時間の過ごし方はすばらしいと思います。自分もそのように生きてみたいと思い、この絵を描きました。」
桜の花のように、人々を幸せにするのが、アートの仕事。彼らの作品から溢れるパワーを感じに、是非ZAIMを訪れてほしい。見終わったら、何か元気が出てくるに、違いありません!
ちなみに、展覧会の主題歌を、アジアのビューティユニットを結成して作ってしまいました!歌うのは中国のen-Rayさん、韓国のナンシー・ラン、そして日本は私こと増山麗奈です。プロデュースは音楽家の安田寿之さん。明るくてかわいいテクノポップです。今回の「アートラン@アジア」の会場でCDも販売する予定。
ZAIMで「アジアの新☆現代美術展」-展覧会テーマソングも販売
増山麗奈 + ヨコハマ経済新聞編集部