ライトアップされた「ジャックの塔」(横浜市開港記念会館)や「クイーンの塔」(横浜税関)など、横浜が誇る歴史的建造物――。観光都市・横浜の魅力のひとつに夜景の美しさがある。最近でこそ情報誌などで「夜景スポット」が取り上げられたりするが、実は横浜市は他都道府県に先がけて「観光資源としての夜景」にいち早く着目した自治体でもある。それだけに、横浜ではさまざまな「夜景サービス事業」が展開されている。
中華街でよく目にする観光客を乗せた人力車。「ハマの人力車」の愛称で地元の人々に親しまれている存在で、「横濱おもてなし家」という地元企業が運営している。同社では「横濱セレブナイト~ヨコハマ夜景 人力車クルーズ~」と称した夜景イベントを展開中だ。
このクルーズは山下公園や日本大通り、大さん橋といった夜景スポットを巡るもので、かねてより横浜の夜景に着目していた同社ならではのクルーズコース。今年で2年目となる。単に夜景スポットを巡るだけではなく、同社が懇意にしているカフェやバーにも立ち寄るなど、横浜観光をより堪能でき俥夫による横浜の歴史説明はもちろんのこと、街のリアル情報、レアネタ、時には乗客からの情報をも盛り込んだプレゼンテーションのもとで繰り広げられるレトロな「おもてなし流」夜景。ぜひ一度味わってみてはいかがだろうか。
料金は10分間=大人1,000円~(2人乗車時のおひとり様料金)。
横浜市内をリムジンで周遊するサービスを行う「リムジン・サポート」は、横浜の人気夜景スポットを巡る「チャーターリムジン」サービスを提供している。静かな走行、乗り心地抜群の超ロングリムジンは、「リンカーン・タウンカー」(長さ=8.6メートル、幅=約2メートル、重量=2.7トン)で最大の乗客定員は9人。内装は壁面やL字型シートは黒の本皮張りで、天井には車内を彩る星空イルミネーションと、サンルーフ付き。車内のロングバーカウンターにはシャンパンクーラー4基とグラス15個がセットされており、シャンパンやおつまみ、おしぼりも用意されている。客席と運転席の間には、開閉可能な電動パーティション付き。ドライバーとの会話は、車内にあるインターホンで行われる。
「リムジンに乗られたお客様の笑顔が一番の喜び」と語るのはベテランドライバーの米山進さん。「憧れのリムジンに乗り、横浜のこんな場所を巡りたい」という要望に、米山さんは驚くほど多くの選択肢を用意してくれる。夜景を背景にしたリムジンのベストショット、魅力ポイントを熟知したベテランならではのきめ細かなアドバイス、おすすめ撮影ポイントはもちろんのこと、乗客のリクエスト場所への到着も夕暮れ時の移ろいを考慮し、最高のタイミングで目的地までナビゲート。記念撮影サービスもあり、乗客が満足する1枚が撮れるまで何枚でも撮影してくれるという良心的な対応。
横浜夜景を巡る「超ロングリムジン」チャーターサービスが人気(ヨコハマ経済新聞)
豪華リムジンのパノラマから横浜の街に乗客が見とれていると「そろそろシャンパンをお飲みになられては?」とドライバーの声が響く。お気に入りの選曲、照明でオリジナルの演出を手掛けられるのも魅力のひとつ。車内には薄型液晶テレビ3台とDVD・CDプレーヤー、カラオケなどの設備のほか、車内撮影に対応する照明ライトを装備する。日常から解き放たれた非日常空間で、極上のリムジン体験をぜひ一度味わってほしい。
利用料金は1時間=30,000円~。横浜ベイクォーター、みなとみらい地区、中華街、ベイブリッジなどの観光地を巡る2時間の「横浜コース」は48,000円。
大栄交通では、昨年期間限定運行して好評だった「横濱夜景タクシー 横濱ブリリアントタクシー」を今年も12月1日より運行している。モデルコースはみなとみらい地区、赤レンガ倉庫、山下公園、元町・中華街など横浜ベイサイドの人気エリア中心。車窓から夜景を楽しむのがメインの「ブリリアントコース」、コンシェルジュによるガイド付の「ブリリアントウェイコース」、夜景撮影などに最適なコース選択自由の「フリーコース」、全3コースが用意されている。宿泊ホテルや最寄り駅にブリリアント・コンシェルジュ(乗務員)によるお迎えサービス案内も。
「ハマっ子ドライバーとしては、『人があまりいない穴場』を夜景スポットとして紹介したいですね。地元の人やドライバーのみが知る夜景って意外にたくさんあるんですよ。例えば浅間下近くにある関東自動車学校付近なんてオススメですね」と語るのは乗務員の星野貴幸さん。夜景ポイントの道路閉鎖時間なども考慮して、16時半から21時くらいが夜景観賞には最適なのだそう。
大栄交通では夜景タクシー実施にあたり、事前講習会を開催している。「1年もすれば、街の景観が大きく変わります。ですから、開始前に乗務員同士で運行中に得た新たな情報を全員で共有する講習会が必要です」と川田さん。横浜市内にあるタクシー会社約75社でも、このような講習会を開く会社は同社ぐらいだという。「神奈川県で神奈川検定ライセンス1級をもつのは2人ですが、そのうちの1人が乗務員にいるんですよ」とさりげなく教えてくれた。「タクシー業界全体に横浜が観光都市だという認識がもっと高まれば」と期待を寄せる川田さんだが、今後も乗客の幅広いリクエストに応えられるよう、また夜景の見方や楽しみ方などバリエーション豊かなアテンドをこれからも目指してゆく方向だ。
料金は1時間=4,350円/1台~(高速料金は別途)。2009年3月31日まで。
横浜市が冬季の集客獲得に向けて2006年から実施している夜景プロジェクト「横濱ブリリアントウェイ」をご存知だろうか? 同プロジェクトは横浜市の観光推進事業に取り組む横浜観光コンベンション・ビューローが冬の増客を狙い、横浜夜景ミュージアムなどをはじめとする横浜市内全域にわたり開催する冬の一大プロジェクトだ。
そんな同プロジェクトのコアイベントが「横浜光のプロムナード」。同イベントは横浜の夜の活性化を目的に昨年からスタートした市民参加型イベントで、来年の開港150周年に続く事業発展を祈念し企画されたもの。今年は協賛企業やボランティアスタッフなどの協力により、光のプロムナードが昨年より距離を合計1,600メートルと2倍に延長。さらに、今季は「横浜光のプロムナード」と「日本大通りウィンターイルミネーション」の結束点にあたる開港広場で「ペリー上陸の光の道」を新たに増設。その開港広場では、一昨年山下公園通りの樹の下に人々がメッセージや絵を描き設置した「光のボール」が「ペリー上陸の光の道」のオブジェとして装い新たに登場し、人々の記憶を呼び覚ましている。
この事業を担当する横浜観光コンベンション・ビューロー事業部の細野亜希子さんは、開港150周年を迎えるにあたっての抱負を次のように語る。「開港150周年を迎えるにあたり、JR東日本と提携した大規模集客プロモーション『横浜・神奈川デスティネーション・キャンペーン』をはじめ、市内事業者や交通事業者と連携することで、年間の観光客入込客数5,000万人の実現を目指します。全国から注目されるこの時期に、『横濱ブリリアントウェイ』として、『夜景都市ヨコハマ』を大々的に発信し、横浜ならではのプロジェクトとして、ポスト150周年に残していくイベントに育てたいと思います」。
そんな「横濱ブリリアントウェイ」のアドバイザーを務めるのが、「夜景評論家」としてテレビや雑誌などでもお馴染みの丸々もとおさんだ。夜景評論家としてだけでなく、膨大な夜景情報を生かしたコンテンツプロデュース、レストランや高層マンションのコンサルティングなど、「夜景」をキーワードにその活動範囲は多岐にわたる。最近、自身のプロデュースによるみなとみらいの夜景を楽しむユニークな海上カフェ「星の降る★カフェシップ」がオープンしたばかり。
夜景評論家 丸々もとおのスーパー夜景サイト MMの夜景楽しむ「海上カフェ」(ヨコハマ経済新聞)
12月中旬からは、丸々さんプロデュースの「ベロタクシーで巡る“横浜夜景独占プラン” ~過去から未来へ巡る夜景旅~」が予定されている。同プランは丸々さん監修の解説を聞きながら、山下公園からみなとみらいまでのコースを1時間で巡るもので、横浜夜景の魅力を満喫できる内容だ。そこには、夜景都市ヨコハマの古き良き夜景と未来へと成長する夜景のふたつが見事に交錯するストーリーが用意されている。
そんな丸々さんだが、横浜における夜景サービスの今後のあり方について、こう語る。「ホスピタリティという部分ではまだ始まったばかり。横浜の夜景はもともと有名だったけれど、ブリリアントウェイなどに代表されるように『横浜の夜景を楽しんで下さいね』という自治体をはじめとする地元から発信していくようになったのは、まだここ2~3年ぐらいの話。夜景というブランドをもっとPRしていこう、広めていこうという歴史はまだ浅いので、その中でそれぞれの施設等がいろいろな手法で横浜の夜景を伝えようとしている今は過渡期の段階。横浜の夜景を伝えたいという意識から生まれるホスピタリティは大切だが、横浜の夜景を語るには横浜の夜景を知っているだけでは不十分」。
丸々さんは、世界の中の横浜であったり、日本の中の横浜であったりする、そうした横浜の夜景の語り方、そういったものを今後どれだけ発信してゆけるかが重要だと指摘する。「横浜が広く世界の観光都市にならなくてはならない、夜景においても夜景都市にならなくてはならない、というところがあると思いますが、横浜の夜景をメジャーにするために、例えば香港、北海道、ヨーロッパからきた人たちに対して横浜の夜景というものの魅力をどうPRできるかというところがとても大切。横浜の夜景だけを語っていたらそこでバランスがとれない。横浜だけを知っていると世界を知らなくなってしまう。パリでは、北海道ではこのような夜景があって、こんな特徴があるのだけれど、横浜の夜景には他都市にはない魅力がある、と語れるようになってほしい」。
世界の中での横浜のオリジナリティ――。これらが鮮明になった時に初めて「ヨコハマ夜景」という横浜の大きな観光資源をもう一歩進めた形で飛躍できるに違いない。現在、夜景をテーマにした横浜のサービス事業は夜景バスツアー、ベロタクシー ナイトクルージング、ヘリコプターナイトクルージング、シーバス、海上カフェクルーズなど実に様々な形態があり、幅広い夜景の楽しみ方が用意されている。横浜の夜景ブームが生み出す新たな夜景サービスは、果たしてどこまで進化するのか? 「横浜ブランド」の確立を目指す夜景サービス事業の今後に期待したい。
佐藤優 + ヨコハマ経済新聞編集部