図書館総合展をご存知だろうか。今年で11回目を数える図書館総合展は、文字通り図書館に関する総合的な展覧会である。例年3日間の会期中に2万人が訪れるというこの図書館総合展は、実はみなとみらい地区のパシフィコ横浜で開催されている。「○○展」と聞くと、「ああ、東京ビッグサイトや東京国際フォーラムあたりでよくやっているあれね」と、ちょっとつまらなそうに感じるかもしれない。だが、心配はいらない。
確かに「展」とつく以上、この図書館総合展も約170社による展示やデモが予定されている。だが、それだけに留まらないのが、2万人もの人が押し寄せる理由なのだろう。図書館総合展では、フォーラムやミニ・フォーラムという名の講演会や討論会が実に70件以上も予定されている。会場への入場は無料。ただし、一部のフォーラムは500円から1,000円程度の参加費を徴収するものもある。
もちろん「図書館」という誰もが使える公共的な施設や機能に関わる催しである以上、図書館で働いていない人でも、いっそ図書館を使わない人でも参加できる。横浜での開催ということもあり、横浜開港資料館や神奈川県立図書館のスタッフによる講演も予定されている。普段は敷居を高く感じているかもしれないが、最近では公共図書館がビジネスや法律、医療といった個別分野の調査をサポートしてくれるサービスに乗り出し、また大学図書館の地域社会への開放も進んでいる。この機会に変化に富む図書館の世界に一歩足を踏み入れてみてはいかがだろう。
以下、引き続き、筆者の独断で本紙読者へのおススメのフォーラムや展示を紹介していこう。
11月10日の13時~14時30分に開催される「YUSHODO FORUM Pt.1 横浜開港資料館 所蔵史料に見る開港150年」(雄松堂書店主催)や、11月10日の13時30分~14時30分に開催される「日本における英語教育の今と昔-明治横浜から21世紀へ」(神田外国語大学主催)がある。前者では、西川武臣氏(横浜開港資料館課長・主任調査研究員)の講演が予定されている。
また、神奈川県内の図書館に関心があれば、11月11日の13時~14時30分に開催予定の「神資研はチャレンジを続ける!-館種を超えたローカルネットワークがめざすもの」(神奈川県資料室研究会主催)もいいだろう。横浜国立大学や神奈川県立川崎図書館、東芝といった神奈川県内にある様々な図書館の間で、どのような協力関係が構築されているのか、詳しく語られるようだ。
図書館員ならではの調べ物の技を学びたいと思ったら、11月11日と11月12日の10時30分~12時に開催される「ここに調べもののヒントがあります 「リサーチ・ナビ」-国立国会図書館のナビゲーションシステム」(国立国会図書館主催)を勧めたい。
国立国会図書館がインターネットで公開している調べ物のお助けサイトについて詳しい説明を受けられるはずだ。また、裁判員制度の開始で誰もが法律と無縁ではいられなくなった時代だけに、11月10日の15時30分~17時に開催の「くらしに役立つ法令・条例エッセンス」(ローライブラリアン研究会主催)も見逃せない。
フォーラムには講演や討論といった形式のものばかりではない。体験型の講座も幾つか準備されている。たとえば、11月11日の10時30分~12時にある「製本講習会 入門編-楽しい手で作る本」(キハラ主催)や、同じ11日の16時30分~17時30分にある「紙漉き教室 初級編」(風山村主催)、翌12日の16時30分~17時30分にある「マイクロフィルム劣化の対策と事例紹介」(ニチマイ主催)は普段できない経験をできるチャンスだ。
図書館総合展にはテレビや新聞、雑誌で見かける有名人も登場する。11月11日の13時~14時30分には、「出版425周年記念フォーラム」(ケンブリッジ大学出版局主催)に、リンボウ先生こと、林望氏(作家・書誌学者)が登場する。同日の15時30分~17時に開かれる「明治・大正の新聞記事を活動弁士が紹介、広告の達人と泉麻人が時代を語る」(朝日新聞社主催)では、テレビでおなじみの泉麻人氏(コラムニスト)に会えるだろう。
朝日新聞社主催:明治・大正の新聞記事を活動弁士が紹介、広告の達人と泉麻人が時代を語る
1年に1度の図書館総合展にあわせて、授賞式や表彰が予定されているイベントもある。11月11日の10時30分~12時に開催の「CiNiiリニューアル記念 ウェブAPIコンテスト発表会」(国立情報学研究所主催)では、先行して行われていた研究論文の検索データベースを使った応用システムのコンテスト受賞者の発表がある。
また、最終日11月12日の13時~14時30分には、「Library of the Year 2009 最終選考会」(知的資源イニシアティブ(IRI)主催)が開催される。これは先進的な活動を行っている等、3つの観点から高い評価を受けた3つの図書館の中から大賞を選ぶものだ。来場者も審査員として一票を投じることができる。
せっかくの図書館総合展。どうせなら正攻法で図書館について考える1日にしてもいい。その意味では、どのフォーラムもお勧めだが、たとえば、11月10日(火)の13:00~17:00に開かれる「財政危機をチャンスに変える思考と戦略-低成長時代の図書館サービス指導理念」(図書館総合展運営委員会主催)や、11月11日(水)の15:30~17:00の「これからの図書館『地方自治と図書館』」(キハラ主催)、11月12日(木)の13:00~14:30の「生涯学習施設としての公共図書館」(図書館流通センター(TRC)主催)をのぞいてみてもいいだろう。
さて、ここまでは言ってみれば、図書館を肯定的・積極的に紹介してきたが、時代はGoogleブックスが世界中で議論を巻き起こすデジタル化とウェブ化の時代である。翻ってあえて図書館に厳しいことを言えば、はたしてこの時代に図書館というものはどこまで意味があるのだろうか。
もっともGoogleが図書館が所蔵する書籍を電子化し検索できるようにすることに訴訟を抱えてまで取り組んでいるということは、図書館の価値の一面を物語るものであるかもしれない。インターネットが当然となった現代において、図書館はどうあるべきなのか、そんな議論も図書館総合展では交わされるはずだ。せっかく全国から様々な図書館と図書館関係者が集う機会である。ぜひ、会場に足を運んで自分の目で「図書館」の意味を問い直すきっかけにしてみてはいかがだろうか。
11月10日から12日にかけてパシフィコ横浜で開催される第11回図書館総合展の見どころを紹介してきたが、関心が沸いた催しはあっただろうか。図書館は誰もが使える場所である。気後れせず、ふらっと足を運んでみることをお勧めしたい。
さて、このようにイベント目白押しの総合展だが、読者にとってどのような意味があるのだろうか。
筆者はこう考える。
「図書館」という言葉はほぼすべての人が知っているだろう。また、小中高校での学校図書館の整備が進み、若い世代を中心に図書館を使ったことがある人も相当数に昇るはずだ。だが、最近、図書館を訪れただろうか?
確かにインターネットの普及によって、たいていの知りたいことは検索エンジンやコミュニティーサイトで調べられるようになった。実際、図書館に関わる仕事をしている私も大概の調べ物はインターネットで済ませているし、図書館に足を運ぶことはめったにない。
しかし、堅いことを言えば、図書館は「民主主義の砦」とも言われ、長い歴史を持ってきた。そして、ときには図書館でしかわからないことも確かにある。その意味では、やはり図書館は私たちの生活に欠かせない意義や役割があるだろう。もちろん、これは筆者の考えに過ぎないわけで、せっかく全国から様々な図書館と図書館関係者が集う機会である。ぜひ、会場に足を運んで自分の目で「図書館」の意味を問い直すきっかけにしてみてはいかがだろうか。
なお、フォーラムによっては事前申し込みが必要なものや、別途料金がかかるものがある。また入れ違いで満席になっている可能性もあるので、フォーラムに参加するのであれば、図書館総合展の公式サイトであらかじめ確認してほしい。
岡本真(ACADEMIC RESOURCE GUIDE編集長)+ヨコハマ経済新聞編集部