「美食節」開催期間中は、さまざまな会場で横浜中華街ならではの食と文化に関する催しが目白押し。中でも軸となるメーン企画が12月6日の「新作メニュー発表会」。昨年は媽祖廟の特設ステージで行われた同イベントを、今年は廣東飯店の宴会場に場所を移して最終日に開催。味自慢の参加16店舗がそれぞれ自信作を出品する。 登場予定のメニューは麻婆豆腐や炒飯など、おなじみの中国料理から創作中華までさまざま。詳細は当日まで明らかにできないが、素材はもちろん、地域によっても異なる幅広い味を楽しむことができそうだ。
審査は日本フードアナリスト協会会員、ゲスト招待者、一般参加審査員の合計50人ほどで行われ、グランプリほか各賞を決定する。フードアナリストは近年注目を集めている「食の専門家」の資格で、味覚はもちろん、食材や食品、料理の歴史やトレンドなどの知識を総合的に身につけることが必要とされている存在だ。今回の審査基準も同協会の基準に準拠するとのことで、本格的な「食」の審査が行われることがうかがえる。
発表会は関係者と審査員のみが参加できるクローズドの開催だが、一般参加審査員としての来場は可能。申し込みは11月30日まで受け付けているので、我こそは中華街通と自称する読者は、ホームページからぜひ応募してみては。募集は20人、参加費5,000円、申し込み多数時は抽選。
中華街で食の祭典「美食節」-点心品評会や中国茶サロンも(ヨコハマ経済新聞)
昨年来場者に大好評だったという「点心品評会」は、500円で参加全店の点心を会場で一度に味わえるというお得な企画だ。前回は各店舗自慢のシュウマイが大集合したが、今回は餃子をテーマに14店が参加。試食者の投票でグランプリなどの各賞を決定する。
ひとくちに餃子と言っても、調理法や具材は店舗によって多種多様。オーソドックスな焼き餃子に始まり、カレー味やピリ辛味の餃子、さらには水餃子やエビ餃子もある。具を包む皮や形にも各店のこだわりがあり、味や食感に加えて食べる前に見た目を比べるという楽しみもありそうだ。
中国での餃子の歴史は古く、紀元前の時代から食べられていた痕跡があるという。また、日本では焼き餃子が一般的だが、中国では実は水餃子や蒸し餃子のほうが主流で、おかずではなく主食として食べられることが多い。そんなちょっとした知識などもあらかじめ知っておくと、当日食べ比べる際に一層面白みが増すかもしれない。
品評会の開催は11月29日の15時~17時、会場は中華街パーキングオープンスペース。参加は先着70人限定なので早めの来場を。品評会に参加できない場合でも、フェスティバル期間中は出展された点心を各店舗でゆっくり堪能することができる「点心キャンペーン」を実施している。
中国料理店では食後に必ずお茶が出てくることからも分かる通り、中国の食文化とお茶は切っても切れない関係にある。そんな中国茶の入れ方や味わい方、見分け方などを学ぶことができるのが11月28日、29日に開催される「中国茶お楽しみサロン」だ。
会場は中国茶専門店の「緑苑」で、講師は同店オーナーであり、日本中国茶普及協会理事も務める周永泰さんが担当する。同店は茶葉を現地から仕入れており、そのほとんどが手作り。中国茶は天候や気温などの自然環境に影響されやすく、年によって出来具合が異なるため、出来が良くなければ販売しないお茶もあるというほどのこだわり。
中国茶にはさまざまな種類があり、発酵の方法の違いにより緑茶、青茶、紅茶など大きく6種類に分類される。その入れ方や味わい方は、種類はもちろん茶葉によっても異なるとさえ言われている。今回のサロンでは、毎回違った茶葉を使って美味しい入れ方のコツを周さんが伝授。道具や代表的なお茶について学びながら、お茶とお菓子をゆっくり楽しむという内容で、家族や友人同士で気軽に楽しむことができる。開催はいずれの回も午後から夕方にかけて行われるので、昼食後や食べ歩きの休憩がてら、会場に足を運んでみてはいかがだろうか。
サロンは各日12時、14時、16時、18時からの4回開催で1回1時間。参加費は1,000円、各回定員15人で先着順。申し込みは「緑苑」(TEL 045-651-5651)まで。
今年初の試みとして行われる企画が、「ワンナイトディナー」と「バーホッピング」の2つ。いずれも中華街と和洋料理店やバーが共同で実施するコラボレーション企画だ。
「ワンナイトディナー」は、中華街の参加4店舗が和洋料理店とコラボレートし、それぞれ一夜限りのスペシャルディナーを用意する。例えば、11月26日の「萬珍樓」では、元町のフランス料理店「霧笛楼」と合同で中華・フレンチの素材を融合させた新しい味を提案。中国古典の音楽を聴きながら、両店のシェフが腕を振るった特別ディナーコースを味わうことができ、ソムリエによるワインや紹興酒のサービスもあるという。いずれも有名店や良食材同士のコラボレーションとあって、新鮮な組み合わせに今までにはない美味しさを発見できるかもしれない(それぞれ店舗に予約が必要)。
「バーホッピング」は、期間中、参加15店舗のバーでおすすめドリンクがファーストオーダーのみ500円になるほか、コースターをホームページに掲載してある中華料理店に持参するとサントリー角ハイボールを1杯プレゼントするというもの。横浜界隈のバーには中華街の料理店より歴史が長い店も多く、横浜の街を古くから見つめてきた両者ならではの夢のコラボレーションと言える。これを機会に、食後や待ち合わせにバーを訪れてみるのも一興だろう。
さらに、日中食文化の代表である麺について学ぶ「日中文化講座」も11月28日に開催。これは麺を通じて中国における食文化の変容を知る参加型の講座で、講演に加えて中国麺の製麺所見学、中国南部の麺料理「伊府麺(イーフーメン)」を味わうランチがプログラムに組み込まれている。食べるだけでなく、中国の食文化の背景を耳で聞き、目で学ぶことができる、非常にユニークで興味深い試みだ。
中華街で「ラーメン」で知る日中の文化講座-ランチと製麺所見学も(ヨコハマ経済新聞)
今年の美食節は「中華街の料理の可能性」がテーマ。美食節を主催する横浜中華街発展会協同組合の事業企画部長・鐘上智さんは、開催の目的を「横浜中華街の料理技術・センス、そして料理文化を、横浜をはじめ、全国に発信すること」と話す。
同組合は、来街者が安心して中華街を楽しめるよう、環境整備やまちづくりに取り組んでいる。近年ではまちづくりの具体的な目標である「中華街憲章」や、まちづくりマナーやルールを定めた「横浜中華街・街づくり協定」を制定。公道を利用した不法なビラ配りや客引き、甘栗の押し売りを改善するためにパトロールなども実施している。
昨年初めて行われた「第1回横浜中華街フードフェスティバル」は、中国食材への風評被害や食の安全に対する信頼回復を目的に実施、盛況のうちに幕を閉じた。2回目の今回は「美食節」と副題を添え、好評だった企画に加えて新しい試みも多数盛り込む。鐘さんは「横浜中華街の真の中華文化・華人スピリットを、食を通じて全国にアピールできれば」とも。
横浜中華街はエリア内に500以上の店舗があり、日本はもちろん、東アジアでも最大の中華街だ。飲食店の数は世界でも最大級の規模で、来街者は年間延べ2,000万人とも言われている。だからこそ、健全で誰もが楽しめる中華街をPRしていきたい、そんな思いがイベントの背景にはあるのだろう。
誰もが楽しめる中華街―。それは地元・横浜の市民ももちろん例外ではない。横浜中華街発展会協同組合の理事長を務める林兼正さんは、著書「横濱中華街物語」の中で次のように語っている。「中華街は観光地ではなく横浜市民の街で、本当は横浜の人たちが一番のお客さん。それなのに知り合いに『中華街に連れていって』と言われて、どの店に行ったらいいか分からず困っている人が多い」。
確かに、と頷く読者もきっと多いように思える。筆者も横浜生まれ・横浜育ちだが、最近まで意外と中華街に来る機会は少なく、それゆえあまり詳しくないというのが正直なところだ。
しかしながら、横浜中華街は約60年の歴史を持ち、港町・横浜の発展とともに成長してきた。そして横浜が開港150周年を迎えた今、林さんは中華街のまちづくりを「人間の教育で言えばまだ高校生の時代」と表現している。歩みは着実に進んできているが、まだまだ進化はこれから。だからこそ、横浜市民も中華街を見守り、あるいは一緒になって盛り上げていくことが大切なのかもしれない。今回の美食節の開催目的には、こんな項目も掲げられている。「(横浜中華街を)ポスト開港150周年のヨコハマの観光メインコンテンツとして、中華街を愛する多くの皆さんと共に創造し、横浜の魅力度向上に努めていく」。中華街を愛する多くの皆さんと共に、のフレーズが非常に印象に残る。
決して難しく考えすぎることはないだろう。ただ、そんな主催側の思いも頭の片隅に置きつつ、会場では中国食文化の奥深さを存分に楽しみたい。日一日と寒さが増してゆく季節となったが、横浜中華街の街並みはきっと私たちを温かく迎えてくれるはずだ。
廣田清 + ヨコハマ経済新聞編集部