発行を行っている横浜市資源リサイクル事業協同組合は、1992年に設立された組合組織。横浜市神奈川区に拠点を持ち、リサイクルに関する情報発信やイベントの実施、学校への出前講師、リサイクル製品の販売など、文字通りリサイクルを通してのさまざまな社会貢献活動を行っている。組合員は地域のリサイクル事業者などで、設立当初は75社でスタート。現在は132社(正組合員112社、協賛会員20社)が加盟し、約600団体・3万3千人が「リサイクルデザインサポーター」として登録。2007年からは横浜型地域貢献企業最上位の認定も受けている。
「月刊リサイクルデザイン」の発行も、そんな同組合が行っている取り組みのひとつだ。当初は組合員向けの広報誌という位置付けだったが、やがて市民向けのリサイクル情報誌としてシフト。日々移り変わっていくリサイクル事情にも対応しながら、誰でもが読んで理解しやすいような内容をコンセプトに発行を続けている。B5版4ページ・単色刷りで始まった紙面も、今では16ページのカラー印刷に。発行部数も年々増え、現在では8万部以上。今年度中には9万部にまで伸びる予定だという。リサイクルを啓発しているだけあって、誌面には古紙70%の再生紙が用いられており、印刷には石油系溶剤0%で環境にやさしいノンVOCインキを使用している。
誌名の「リサイクルデザイン」は同組合の通称でもあり、組合が目指す「リサイクルデザインタウン(地域循環型社会)」にちなんだ名前となっている。横浜市は今年1月に、G30(全市におけるごみ排出量を2001年度比で30%削減)に続く新たなプラン「ヨコハマ3R夢(スリム)」を策定。その中で「市民・事業者・行政が更なる協働のもと3R(リデュース、リユース、リサイクル)を推進し持続可能なリサイクル都市を目指す」とうたわれており、そんな都市こそが「リサイクルデザインタウン」なのだという。
誌面は老若男女万人向けとあって、内容もリサイクルや環境分野の多岐にわたっている。最近の誌面から拾ってみても「家庭から出る資源物とごみについて」「知ってるつもりの環境用語」「知っておきたい分け方・出し方」「分別の勘違い・ギモンに迫る!」「便利でトクする資源集団回収」など、読み物として楽しめて分別の参考にもなるようなタイトルばかり。さらに、特に子ども向けに編集した「キッズページ」や、おすすめのエコアイテムを紹介する「エコプロダクツ」など、コーナーページも充実している印象だ。
製作の流れとしては、同組合の広報企画委員会で各号のおおまかな企画内容などを話し合って決定し、実際の編集や製作は武松事業デザイン工房株式会社(横浜市中区)と企業組合エコ・アド(都筑区)のメンバーが担当している。ライターや校正スタッフなどを含めても、製作に携わっているのは10人に満たない程度だ。メンバーが集まって定期的に編集会議を行い、先々の誌面の内容や取材・原稿の進行具合などを確認。次号はもちろんのこと、2~3カ月先の内容も見越して同時進行で取材や製作が進められている。
製作に携わるそれぞれの立ち位置としては、発行元である組合がリサイクル業界の立場として「発信したい情報」を提示し、エコ・アドのメンバーが市民の立場から「知りたい情報」を提案する。そして編集部を担う武松事業デザイン工房がそれらをまとめ、調整するといった形だ。
先日取材で同席させて頂いた編集会議では、発行した前号の振り返りと取材アポイントの進行具合、新たな取材先の選定などについて、メンバー間で活発なやり取りが為されていた。内容にはもちろん季節感やタイムリーさも重要。たとえば、この夏に発行する号に向けては「クールビズ」や「打ち水」に焦点を当てて取材が行われる予定で、東日本大震災を受けた原発問題に関連して「液状化現象」や「放射線」なども取材キーワードの候補に挙がっていた。
そうして出来上がった写真や図入りのデータ原稿は、再び広報企画委員会側でもチェックが行われる。内容が分かりやすく伝わるか、誤字脱字などのミスはないかを確認した上で、印刷にかけて発行する。誌面は読者であるリサイクルデザインサポーターに郵送で必要部数が無料郵送で送られているほか、市内の横浜信用金庫支店や相鉄ローゼン、WEショップなど100カ所以上で入手可能。町内会で回覧したり、各戸に配ったりしている地域もあり、ホームページでは2009年以降の誌面のPDF版も閲覧できるようになっている。
5月号まで8年間、リサイクルデザインの「編集人」として広報企画委員会の担当を務めてきた工藤健一さんは「リサイクルは日々進化し、分別の方法もそれに応じて変わってきている。それをいかに読者に分かりやすく伝えていくかが最大のポイント。そういった観点で書き方や切り口に気を使ってきました」と話す。「リサイクルについては我々も日々勉強だし、読者の方も出来た誌面を読んで参考にしてもらえれば。お互いに成長していくという感じですよね」
高齢者から主婦層、そして子どもたちまで、読者が多岐に渡るのもリサイクルデザインの特徴。その中で、歴史や教育、さらには子育てなどの側面にも触れることになる。常に読んで飽きさせない内容を―。そんな思いが読む側にも伝わってくる。
魅力ある誌面づくりに一役買っているのが、読者からの声を募るモニター制度だ。誌面の感想や意見は常に読者から募集しているが、それに加えてリサイクルデザインでは毎年30人を読者モニターとして募集している。「我々だけで誌面を作っていると、やっぱりどうしても煮詰まってくるんですよね。そこで、毎号の感想や評価、今後取りあげてもらいたい内容などを読者にお聞きするんです」。実際、数年前にこの制度を導入してから読者と製作サイドとの一体感が出てきたのだという。「読者とのやり取りによって気づきと絆が生まれてきましたね」。そう言って、工藤さんは充実感のある笑顔を見せてくれた。
節目の200号となった5月号では、これまでとは異なった趣で「私たちが、リサイクルデザイナーです」という特集が組まれた。組合のメンバーである事業者を代表者の顔写真付きで紹介し、会社所在地やリサイクル取り扱い品目の一覧とコメントを掲載したものだ。
「組合員は、我々の夢でもある目標『リサイクルデザインタウン』の構築に向けて共に取り組んでいる、いわばクルーのような存在。そんな組合員を大々的に紹介するというのは今まで一度も誌面でやったことがなかったんですね。それで、この機会にぜひやってみようと。『うちらの顔なんか載せて面白いのかなぁ』とも思ったんですが(笑)、横浜市内の資源物はこういった方々の取り組みで実際にリサイクルされているんですよ、というのを読者に知ってもらいたかったんです。読者からの反応はまだこれからなので分かりませんが、結果的にはやってみて良かったと思っています」
これまでで特に記憶に残っていることは、と工藤さんに尋ねると「やっぱり読者から良い反応があった時ですね」と答えが返ってきた。どの特集が、というよりも「分かりやすくて良かったよ」「コピーして周りにも配っておいたから」というような読者のリアクション、そして活用されている、役に立っているという実感が何よりも嬉しく、励みになるのだという。200号という節目の背景には、そんな読者とのやり取りの積み重ねも着実に生きているに違いない。
工藤さんに変わって6月号から担当を引き継いだのは、それまで組合北支部の支部長も務め、組合のホームページ運営なども手掛けていた藤本達也さんだ。
藤本さんの発案により、既に実現されたアイデアがツイッターを使った情報発信。これは、読者から寄せられた「夏の快適な過ごし方」のエコアイデアや実践例を、一定時間で自動的につぶやくbotの仕組みを利用している。「現時点で寄せられたアイデアは300以上もあります。せっかく集まった生のご意見ですので、世間に広まったツイッターを使って多くの方に紹介できれば面白いかなと思い、利用することにしました」。そのほか、ツイッターでは月刊リサイクルデザインのキャラクター「けいた君」のアカウントなどでも情報発信を行っている。
今後は紙面とウェブの連携をより強めていく方針だそう。「誌面に載せられる情報って限られているじゃないですか。せっかくそれ以上のいい情報も得られたのだから、それを発信していくのが我々の使命だと思っています。これらを見て、また読者からのご意見が今後もっと増えていったら面白いですよね」
手に取ってもらえる従来の「フリーペーパー」という良さも生かしつつ、ネットを使った新しい情報発信も活用する。そんな柔軟な姿勢で、さらなるリサイクルデザインの歩みが既に始まっている。
最後に、フリーペーパーと連動した同組合の取り組みも紹介しておきたい。毎年夏休みに市内の小学生から募集している「環境絵日記」だ。
これは、絵と文章を組み合わせて、環境問題やリサイクルに対して考えていることを自由に表現してもらうというもの。2000年から募集を開始し、11回目となった昨年度は約1万5千作品が寄せられた。例年秋に開催しているイベント「リサイクルデザインフォーラム」で優秀作品の表彰と展示を行っているほか、昨年からウェブ上で全作品の公開もスタート。誌面でも受賞作品を各号で順番に掲載している。
環境絵日記は、もちろん今年も募集を行う予定とのこと。子どもたちからどんな力作が寄せられるか、今から楽しみだ。
大さん橋で「リサイクルデザインフォーラム」-環境絵日記500点展示(ヨコハマ経済新聞)
250号、そして300号に向け、リサイクルデザインのこれからの課題を聞いてみたところ「もっと知名度を上げていくことですね」と藤本さん。工藤さんは「市民からすると、リサイクルってやっぱり面倒なんですよ。分別を強制するだけだと尚更そうなってしまう。だから『なんで分けなきゃいけないか』という理由付けと、そのための方法を分かりやすく伝えることによって、納得した上で自発的に『協力しよう』と思ってもらえるような情報発信をしていかなければならない。リサイクルデザインに限らず、それが我々の使命ですね」
熱い志を持ったスタッフ達によって発行されているフリーペーパー「月刊リサイクルデザイン」。街で見かけたらぜひ手に取ってみるか、あるいはウェブをのぞいてみてほしい。
廣田清 + ヨコハマ経済新聞編集部