今年で開催5回目を迎えるアートと光の祭典「スマートイルミネーション横浜」が、10月30日から5日間、横浜都心臨海部を中心に開催されている。
「スマートイルミネーション横浜」は、横浜市が推進する環境未来都市政策を背景に東日本大震災を経て、省エネルギー技術とアーティストの創造性を融合させた新たな夜景創出を目指し、開催されてきた。
2011年のスタートから年々、展開エリアや作品数の拡大に加えて、クリエーター、企業、大学、商店街、市民へと主体者も広がり、新しい都市環境を創造するまちづくりのイベントへと発展している。
今年は新たな試みとして、開催前に4回にわたり本イベントの運営方針や活用策を語り合うトークサロンが設けられた。環境技術に関する企業や大学、行政、アーティストらが市民、主催者と集い、ともに「スマートなまちづくりの環境ショーケース」としてのスマートイルミネーション横浜をつくりあげるべく、パネリストによるプレゼンテーションやディスカッション、交流会が行われてきた。
アートと光の祭典「スマートイルミネーション横浜」開幕 「しゃべる税関」皮切りに (ヨコハマ経済新聞)
新たな時代におけるイルミネーションの表現形態は、アーティストの作品展示や歴史的建造物のライトアップにとどまらない。参加体験型のインスタレーション、ワークショップ、イベントなど多岐にわたるプログラムが展開予定だ。
昨年の出品作でDSA日本空間デザイン賞2015の優秀賞を受賞した 「movieng projection theater 『たてもののおしばい』」は今回、横浜税関を舞台として甦る。塔に投影されたクイーンが語りかけるのは、横浜の歴史。1934年にこの地に建てられ「クイーン」の名で称される歴史的建造物「横浜税関」が初めて声と表情を得た。横浜への想いを込めて、来場者へ歌いかける。
10月30日に行われたオープニングイベントでは、公募で集まった市民合唱団「ゾウノハナ合唱部」とともにイギリスのロックバンド「QUEEN」の名曲「WE ARE THE CHAMPIONS」、「ブルー・ライト・ヨコハマ」、「ダンシング・クイーン」の3曲を披露して、スタートを飾った。
参加型プログラムとして恒例の「ひかりの実」は、果実袋に笑顔を描き樹木に実らせる企画。事前に参加表明した自治体、商店街、施設、団体などが制作・取り付けを行った果実袋が、ポートサイド公園や開港広場など臨海部各地で点灯する。
会期中は象の鼻パークや横浜港大さん橋国際客船ターミナルなど4カ所でワークショップを行っており、来場者もひかりの実づくりに参加できる。
また今年は、クラウドファンディングによる支援を募り、横浜市が設置している児童発達支援事業所「ぴーす」に通う子供たち250人も参加した。1日には約100人の子供たちと家族を招待し、ワークショップと取り付けを行った。
これら2つのプログラムの作者である高橋匡太さんは、「ZOU-NO-HANA RING」という光る浮き輪を用いた展示も行っている。 高橋さんをはじめとしたアーティストによる作品展示の中心地となるのは、象の鼻パークだ。
曽谷朝絵さんによる「虹の家」は、心の中の基地をテーマとした作品。それぞれの人が持つ、エネルギーの生まれる心の拠り所が、光る家の間を歩く体験を通してイメージされている。 樫村和美さんとLIUKOBOさんによるL.B.Pの作品「海から山を想う」は、呼吸する木々を表現する。世界を包む空気の循環を支える木々から、世界のつながりを想像させる。
この他、光によって、象の鼻テラスに設置されている石のベンチをライトアップし、かつて海だった頃の景色を表現する穴井佑樹さんと手塚健太郎さんの作品「ある海辺」、I LOVE YOKOHAMA【ハマラブ】による横浜市内飲食店の廃食油を使用したキャンドル演出、水辺でのアクティビティであるSUP(stand up paddle)のLEDライトアップなどが、象の鼻パーク周辺で楽しめる。穴井さんと手塚さんは、昨年のスマートイルミネーション・アワード2014の最優秀賞を受賞している。
また、光るスーツをまとったイルミネーターの異名をもつ日下淳一さんの夜景ガイドクルーズや、日下さんと徳永宗夕さんが電気自動車でおもてなしをするゼロエミッション茶会、竹澤葵さんと株式会社 FREEingによる光のコサージュづくり「bloomi」などの体験型のプログラムも開催される。
スマートイルミネーション横浜が「ひかりの実」制作資金募集 発達障害のある子どもたちが笑顔描く(ヨコハマ経済新聞)
スマートイルミネーションはアーティストによる作品ばかりでなく、「スマートイルミネーション・アワード」や「まちなか展示会」、「連携プログラム」といった事前に一般公募されるプログラムにより街全体が会場と化し、成り立っている。
環境共生型照明技術の活用策の創造と、次世代のアーティスト育成を目的とした「スマートイルミネーション・アワード」は3年目に突入した。今年は学校部門が新設され、横浜夜景を身にまとうパフォーマンスを行う玉川大学芸術学部プロジェクトBチームらなど9作品が一次審査を通過した。
このほか、 「ゴミ捨て」をイルミネーションにしたという 新川裕亮さんらの作品「POI」や、参加者の携帯を使って水面に光のカモメを浮かび上がらせるEllie・Hachiko Projectさんの「かもめと光の海」、センサーによるデータ変換で自分の影と遊べる Zhou Danyangらの「I MEET YOU」などの個人・グループ部門の応募と合わせ計29にのぼる一次審査通過作が、象の鼻パークエリアと横浜港大さん橋国際客船ターミナルエリアに展示される。公開表彰式は最終日3日、象の鼻テラスにて行われる。
「まちなか展示会」は、 最先端の照明・環境技術を有する企業や学校のプレゼンテーションの場。参加団体は昨年の4団体から7団体に増え、象の鼻パークや大さん橋、県庁、大通りで自社技術を用いたライトアップや展示等が見られる。2日にはこれらを巡るツアーおよび参加団体によるトークイベントが実施される。
スマートイルミネーション横浜のコンセプトに賛同するさまざまな団体が企画した「連携プログラム」は、メインエリアである象の鼻パークと大さん橋を越え、その周辺各地で開催される予定だ。光に染まる臨界部を海から眺められるクルージングをはじめ、みなとみらい21地区での白い風船を用いたインスタレーションとパレード、「ガス灯」の魅力を感じながら港へ歩くナイトウォークツアー、光のアートコンといったイベントプログラムのほか、日本大通りや神奈川県立博物館、横浜マリンタワー、大岡川黄金橋付近ではそれぞれのコンセプトに基づいた独自のライトアップや光を用いた展示が楽しめる。
参加型の作品が増えてパワーアップした「スマートイルミネーション2015」。夜の豊かな暗さの中で創り出される「もうひとつの横浜夜景」を楽しんで欲しい。
西大條晶子 + ヨコハマ経済新聞編集部