ヨコハマ・パラトリエンナーレ2017 「sence of onness とけあうところ」
第2部 不思議の森の大夜会でのサーカスパフォーマンス
Photo by Hajime Kato
2014年より3年に1度開催されてきた「ヨコハマ・パラトリエンナーレ(以下、パラトリ)」の3度目となる2020年の実施と会期・会場が発表された。
2020年は、より街なかへの展開を意識している点が特徴。メイン会場は3カ所。現在建築中の横浜市役所新市庁舎のアトリウム、神奈川県民ホールギャラリー、横浜市立みなとみらい本町小学校と、地域に根ざしバラエティーに富んだ会場で開催する。
ヨコハマ・パラトリエンナーレは「障がい者と多様な分野のプロフェッショナルとの国際芸術展」を掲げ、過去2回では、各分野の一線で活躍するアーティストやクリエーターが参加している。メディアアーティストの真鍋大度、ファッションデザイナーの森永邦彦(ANREALAGE)、現代芸術活動チーム目【め】、ミナペルホネン、サーカスアーティストの金井ケイスケなど、世界を舞台に活躍する数多くのアーティストやクリエーターが、パラトリをきっかけに障がい福祉の世界と出合ってきた。
ヨコハマ・パラトリエンナーレ2014 「first contact はじめてに出会える場所」出展作品《music for the deaf》 Photo by Shin Yamazaki
一般的な障がい者のアート展とパラトリとの最大の違いは、毎回、作品ごとに障がい者または障がい福祉施設とアーティストやクリエーターで、作品制作のためのプロジェクトチームを結成していることだ。フェスティバル本番で披露されるのは、このチームの共創の成果であり、故に常に新作となる。
ヨコハマ・パラトリエンナーレ2014 「first contact はじめてに出会える場所」会場写真 Photo by Shin Yamazaki
パラトリにおいては、障がい者も有名アーティストも「一(いち)表現者」として、全員がフラットに関わり、互いの創作能力を最大限に高め合えるクロスポイントを探る。知覚方法、職業、得意な分野、生きてきた道筋も異なるチームメンバーたちが、一つの作品を作り上げるために交わすコミュニケーションは膨大だ。だからこそ、そこから立ち上がる表現は、クオリティーとユニークさが組み合わされた「これまでに見たこともない作品」になる。パラトリの作品は、それ自体がまさにダイバーシティーの可能性を体現する芸術表現なのである。
そのため、パラトリの最大の魅力はフェスティバルそのものよりも、クリエーションのプロセスにある。これまで出会う機会がなかった他者と出会うことで、人は初めて自らの個性や得意なことが何か、気が付くことができるものだろう。そこには、障がい者もアーティストであっても変わりはない。クリエーションのプロセスには、まさにこの他者との出会いがある。出会いのプロセスで発見された個性や得意なことが種となり、そこからクリエーションが育ち、作品という花を咲かせていくのだ。
ヨコハマ・パラトリエンナーレ2014 「first contact はじめてに出会える場所」ワークショップ Photo by 247FOTO
「もっとかっこよく」「より面白く」と、高次な作品へと試行錯誤するクリエーションの現場では、超えがたいハードルや物理的・心理的なバリアーにぶつかることもしばしばである。しかし、バリアーを超える方法を試行錯誤する中で、障がいの有無を超えて理解と結束が高まり、互いを尊重しつつも親しみのある、小さなコミュニティーができて、関わりがまるで親戚や家族のような親しみを帯びたものへと変化していく。
パラトリ2017 パフォーマンスの稽古の様子
この有機的で温かい結びつきが表現されたのが、ヨコハマ・パラトリエンナーレ2017「sense of oneness とけあうところ」 第2部 不思議の森の大夜会だった。特に象の鼻パークで野外公演として行われたサーカスパフォーマンスが観客の胸を打った。障がい者も、アーティストも、老いも若きも、男も女も、その場にいた全ての人が混ざり合い、ひとときの祭りを楽しみ、会場は不思議な多幸感に満ちあふれていた。
ヨコハマ・パラトリエンナーレ2017 「sence of onness とけあうところ」 第2部 不思議の森の大夜会でのサーカスパフォーマンスPhoto by Hajime Kato
このステージを鑑賞したパラリンピアンの早瀬憲太郎は、後の振り返りトークの際に、「共生社会のその先を見た」とコメントを残している。障がい者が世界で活躍する人々と共に創作する機会は、パラトリ以前の社会にどれほどあっただろうか?
実はこのパラトリ、東京オリンピック・パラリンピックの招致が決定してから、東京で行われるパラリンピックを盛り上げようと構想されたフェスティバルなのである。
パラトリ総合ディレクターの栗栖良依(パラクリエイティブ・ディレクター/プロデューサー、SLOW LABELディレクター)は、小さいころからオリパラの式典をつくることで世界平和に貢献することが夢だった人物だ。大病を患い、一度はその夢を捨てたが、病気をきっかけに障がい者になったことで、パラリンピックの面白さに目が開かれた。 病から社会復帰して間もないことまもないころ、栗栖は病後の復帰仕事として「SLOW LABEL」のディレクターの仕事を引き受けていた。そのころは障がい者とアーティストがコラボレーションしてものづくりをする活動を行っていた「SLOW LABEL」で、彼女は初めて障がい福祉の世界と出会った。
地域に暮らす多様な人がものづくりを通して交流できる市民参加型ものづくり「SLOW FACTORY」を企画・実施していた2012年ごろ
初めて経験する障がいを持つ人とのクリエーションに面白さと手応えを感じていたころ、決まったのが東京オリンピック・パラリンピックの開催。栗栖は「今なら自分にも、東京で行われるパラリンピックで貢献できることがあるはず」と、パラトリを立ち上げた。この個人的な情熱は、これまでの2度のパラトリ開催を通じて、数々の人を活躍のステージに押し上げ、多くの人と共有する夢と希望に育っていった。
パラトリをきっかけに結成され、現在は「SLOW CIRCUS PUROJECT」として活動するパフォーマンスチームはこれまで、舞台上で活躍する障がい者に必要な配慮をするための知見を蓄えてきた。「アクセスコーディネーター」と「アカンパニスト」という職名を生み出して人材を育成し、日本初の、障がいのある人との舞台創作のためのサポート集団をつくり上げている。
SLOW CIRCUS PUROJECTでは、月に1度SLOW CIRCUS SCHOOLを開校。障がいのある方々をはじめとするマイノリティの社会参画を促すソーシャルサーカスを普及と担い手の育成を行っている。
その実績が評価されて、リオパラリンピックの旗引き継ぎ式では、パラトリにも出演したパフォーマーとアカンパニストが東京代表としてステージに上がることになる。華やかな舞台のバックステージでは、アクセスコーディネーターが重要な貢献を果たした。現在、パラトリ総合ディレクターの栗栖良依は、東京オリンピック・パラリンピック4式典総合チームのクリエーティブディレクターに抜てきされ、多くの人の夢と共に、東京オリンピック・パラリンピックの開閉会式の演出に携わっている。
しかし、パラトリを立ち上げた2014年、栗栖が思い描いていた共生社会は、まだまだ実現していない。
2019年11月22日には、パラトリ2020の会場の一つ、横浜市立みなとみらい本町小学校で「ヨコハマ・パラトリエンナーレって何?」と題し、パラトリ総合ディレクターの栗栖良依が全校児童に向けて講演を行った。
「みんな同じようにそろったダンスもかっこいいけど、私はみんなそれぞれの違いを生かし合ったパフォーマンスが面白いと思ってる。みんなが違いを生かした方が、ワクワクする社会になるんじゃないかと思っています」 パラトリの創作過程で駆使されるのが2つの「そうぞうりょく」。想像力と創造力によって、バリアーを超えるために生まれる熱には社会をより豊かに変えていく力があると強調した。
併せて、オリンピック・パラリンピックの3つのビジョンのうちの一つ「全員が自己ベスト」についても紹介。
「誰かと比べたりしない、障がいがあるかないかも関係ない、自分だけのチャレンジ目標を見つけて「自分史上最高の記録」を出すことについて、ぜひ考えてみてください」
横浜市立みなとみらい本町小学校は、全校でESD/SDGsに向き合い、「SDGsの達成に向けて、自分たちはどんなことができるのか」、地域の課題と関連付けながら考える、先進的な取り組みを行っている小学校。子どもたちの柔らかい発想や行動が、共生のまちづくりに生かされていくよう、パラトリとしても子どもたちのプロジェクトに並走する予定だ。
次のパラトリでは、東京オリンピック・パラリンピック以降の社会にレガシーとして何を残せるかが勝負どころとなる。その担い手は、この街に暮らす一人一人なのだ。パラトリが育んできた共生社会の芽を、横浜の街の各所に植樹していく取り組みは今、始まったばかりである。
繰り返すが、パラトリの最大の魅力は創作のプロセスにある。イベントへの参加やサポーター加入で、創作プロセスから関わることを積極的にお勧めしたい。
友川綾子(office ayatsumugi/SLOW LABEL広報ディレクター)+ヨコハマ経済新聞