サステナブル・ブランド国際会議2020横浜
2020年2月19日・20日にサステナブル・ブランド国際会議2020横浜が開催される。4回目にして横浜初開催となる。2018年にSDGs未来都市に選定された横浜市らしさを味わえるプログラム「横浜トラック」はとりわけ必見だ。社会課題解決と持続可能性のある事業計画はサステナブル・ブランド企業の責務であり、今年のテーマは「グッド・ライフの実現」を掲げる。マーケティングとイノベーションを両立させ、希望のあるオルタナティヴな未来をつくるためのストーリーを語る、プロデューサー山岡仁美さんに話を聞いた。
―――最初に山岡さんがサステナブル・ブランド国際会議(以下、SB)と出会った経緯をお聞きしたいです。
私の専門はヒューマン・リソース(HR)で、人の育成や組織の変革を行っています。HRのアプローチの見識のある人が誰もおらず、手伝ってもらえないかと声をかけられたのがきっかけです。元々CSR(企業の社会的責任)の文脈でいろいろな活動をしていました。CSRは企業にとっては社会的に当たり前なものですが、世の中に役に立つ製品や商品のサービスを開発し、人を雇用し育成し、納税を果たす、それだけでは社会的には持続可能ではありません。
2015年にSDGsが採択され、本当の意味のサステナブル=持続可能で、ブランド=付加価値を高めてゆく理念が必要です。そのような経緯からサステナブル・ブランド・ジャパンのメンバーになりました。
また、私は横浜在住、起業も横浜でスタートしました。したがって、今年は本業のHRだけではなく、横浜ならではのプロデュースに注力しています。
サステナブル・ブランド国際会議2020横浜、プロデューサー山岡仁美さん
人は地球上で最も影響力のあるリソースです。例えば素晴らしい環境政策があっても、人のとらえ方次第で全く意味が無いものにもなってしまう。人は重要なキーです。SDGsも17の指標がありますが、どれ一つ人と切り離せない。持続可能にしてゆく、価値を高めてゆく社会的な概念や、実際のアクションの取り組みが重要です。SBはアメリカ発で2006年からおおむね15都市ほどで開催されています。日本は残念ながら後発で、SBには2017年に参画しました。2015年にSDGsが採択された後です。幸いにも採択後ですから、SDGsという言葉を聞いたことがあったり、事業経営戦略だけではなく、人の生き方や生活にも必要とされているものであるという理解が広がってきました。
国連で採択されたSDGsは17の目標以上に、具体的に達成するための169のターゲットがあります。「誰一人取り残さない」という言葉からも分かるように、誰かの何かを犠牲するもとで社会が循環してゆくというのはありえません。さらに国連はもう一つ「トランスフォーム・アワー・ワールド」という「私たちの世界を変革してゆく」文書を採択しました。
国連がトランスフォームという言葉を用いたのは歴史上3回目です。ひとつは世界大恐慌、もうひとつは第二次世界大戦直後です。つまり、世界の経済及び平和が危機的状況を迎えた時です。そして今、それほどまでに、いえそれ以上に、世界の未来が危ぶまれているからこそのトランスフォーム=変革が求められているのです。だから持続可能な変革をしなくてはならず、ここで変わらねば、子どもたちに希望のある未来を与えることはできません。
―――SDGsが採択され、サステナブルな価値観に日本は後発で参画しています。世の中の変化に追いつけているのでしょうか?
残念ながら日本は遅れています。SDGsのアイコンが美しく分かりやすくなっているので、ただ目標としてひもづけされればいいと思っていたり、「わが社は女性比率が高いのでジェンダーの問題だけやっていればいい」「うちのメーカーは製品ライン上、水を使うので水問題だけやっていればいい」など、一部分だけを取り組んでいたり、一見包括的に取り組んでいるけれども実は表層的で本質をとらえていなかったりする企業も多いです。言ってしまえばたちの悪いパフォーマンスです。SDGsは本当は本質的な社会課題解決をするための指標です。誰かの何かの犠牲を伴わずに大変革してゆくことを掲げ、この思考に基づく取り組み方や具体的なアクションが重要です。
SBのグローバル共通のテーマに「グッド・ライフ」を掲げています。イノベーションツアーの段階から、例えば壁面緑化や歩道がフラットになっているかなど、どのようなグッド・ライフの実現があるのかをご覧になっていただきます。今年はグッド・ライフを形にしてデリバリーする。一昨年はグッドライフの再定義。昨年は再設計や再構成。さらに今年はグッド・ライフをどう実現してゆくのかの3段階です。
―――サステナブルな価値観の実践は民間企業だけが主ではなく、多岐にわたるものですか?
企業だけではなく、自治体も取り組んでいます。日本は世界の中でもまれに「地方創生」というキーワードがあります。地域ごとの持ち味を活かし、それが強みでも弱みでもあり、脅威や機会でもあるなど、多様な側面があります。地方ならではの活性や創生をどうしてゆくかというときに、SDGsや持続可能性を切り込ませないといけません。SBには自治体や官公庁の方も積極的に参加されています。横浜市はSDGs未来都市に選定されました。地方創生の文脈やSDGs未来都市の立場としての取組みとの比較や検証をして、モデルケースを見つけたり、参考にしてアイデアや機会の創出を願ったりしています。自治体の連携の可能性としては、地元企業との連携の他、持続可能な未来を見据えての地元の学校との連携があります。
―――横浜みなとみらい地区21の人口増加のため10年間限定で設置された、みなとみらい本町小学校のような取り組みもあります。
みなとみらい本町小学校は昨年のG20の際、各国閣僚の方が見学に来られた程、SDGsを取り入れた授業が注目を浴びています。SB開催前日にみなとみらいイノベーションツアーを予定しています。みなとみらい本町小学校は授業を見せてくださるということで、私たち大人が授業見学をします。こどもたちの変化や意欲を目の当たりにし、協賛企業の日産自動車や資生堂のようなみなとみらいを一つのグローバル拠点をしている企業がどんな風にサステナブルな取り組みをしているのかを体感するツアーを組んでいます。西区の協力で町の清掃をしながら開催します。
―――SBのプログラムの中で横浜特有の仕掛けなどはありますか?
2日間の全体プログラムは、両日午前中は複数の会場での基調講演方式です。2日間を通じてアクティベーション・ハブというネットワーキングのエリアを用意しています。名刺交換や商談などに利用でき、サステナブルなランチも用意しています。交流からプロジェクトが発生した話なども過去にありました。横浜市の企業や団体を中心とした情報発信・展示の機会もあります。複数登壇者によるブレイクアウト・セッションという分科会のようなパネルトークや事例トークの時間では、2日目午後に「横浜トラック」として横浜をテーマにしたセッションを設けています。
参加型サーキュラーエコノミープロジェクトとして、横浜発のサステナブルTシャツをつくろう!というクラウド・ファンディングが始まっており、2月15日が第1ラウンドの期限です。完成したTシャツはアクティベーション・ハブでお披露目します。横浜のごみを活かして、Tシャツに生まれ変わらせ、横浜のクリエーターがデザインし、横浜のみんなで着る。買ってくれたら横浜の社会課題に還元される。プレゼンターはごみの回収活動をしてくださった小学校5年生です。Tシャツは大川印刷の協力で、カーボンオフセットでの印刷が可能です。横浜のごみを横浜でデザインして環境に配慮したプリントでみんなで楽しく着ようよ!ということです。町の中にある資源が循環して経済になり、地域で生きる人や組織の活躍まで含めた「サーキュラーエコノミーplus」という理念のもと、マテリアルや経済だけではなく、社会全体を横浜からサーキュラーしていきます。
―――SBやSDGsの理念を広めてゆく上で、地域で必要なものはありますか?
線引きをしないことです。過去の前例や固定概念に縛られないことは非常に重要です。日本郵船は7期にわたって石炭を運搬されてきました。その企業が再生エネルギーの「みんな電力」と契約する。過去の「あたりまえ」の枠を取っ払った相当な決断が必要だったと思います。SBでは、サステナブルを掲げている限り、イベントそのものも出来るだけサステナブルにしたいと思っています。電気は「みんな電力」です。ペットボトルも使いません。
―――横浜市が持つポテンシャルや期待していることなどはありますか。
横浜は歴史を振り返れば、開港の街です。アイスクリームやガス灯が発祥したとか、富岡製糸場のような施設が無くとも海外のシルクを活用してスカーフにしたなど、いろいろなことにチャレンジしてきたウェルカムな街。一方で伝統や文化なども大切にしてきた精神がある。その相乗効果で、文化・芸術的で歴史的な要素もありながら、持続的で思わぬ事業展開や新しいサービスや価値が生まれてくると、とても面白く、明るい未来が生まれると思います。
―――横浜市でサステナブル・ブランド国際会議を開催する必然を感じています。ありがとうございました。
小林野渉+ヨコハマ経済新聞編集部