新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、横浜の市民や企業、大学、行政が連携し、共創、参加型の取り組みを広げていこうとするWEBサイト、「新型コロナに向き合うたすけあいプラットフォーム『#おたがいハマ』」が2020年5月1日、開設された。
主なコンテンツは、新型コロナウイルスに関する最新情報や、テークアウトやデリバリーでがんばる市内の飲食店を応援する「#横浜おうち飯店」、医療物資の寄付の募集や、新たな取り組みの紹介など。新型コロナウイルスに向き合い、コロナの影響が長期化するなかで、新しい働き方や暮らし方を考えていくことを目指している。
おたがいハマ開設のきっかけとなったのは、2つの団体の動き。幅広い連携で、新型コロナウイルスへの対応に取り組んでいくための基盤・しくみを構想していたNPO法人「横浜コミュニティデザイン・ラボ」(横浜市中区相生町3)と、一般社団法人「YOKOHAMAリビングラボサポートオフィス」(磯子区中原4)が、横浜市や大学を含めた取り組みを考え、横浜市に構想への参画・協力を呼び掛けた。
横浜市も「新型コロナウイルスによる社会的・経済的な影響に対してオール横浜で取り組み、オープンイノベーションによる課題解決を目指すことができる」と合意。3者は2020年5月1日、「新型コロナウイルスへのオープンイノベーションによる課題解決に関する連携協定」を締結し、パイロット事業として「#おたがいハマ」の運営を始めた。
開設にあたって、横浜市政策局共創推進課長の小池道子さんは「産官学民のみなさまと共に、『おたがいさま』の気持ちで助け合い、新型コロナウィルス感染症への対策を進めていきたい」と話している。
3者間の調整を進めてきた同課の関口昌幸さんは、開設に合わせた5月1日のオンライントークイベントの中で、「市ではさまざま部署で新型コロナウイルスへの対策を進めている。より多くの市民に伝わるようにオープンデータも活用し、より多くの市民と一緒になって取材、発信を進め、情報を循環させていきたい」と期待を寄せた。また、「地域には、課題を抱えて苦しんでいる人がいる。行政も入っていって、一緒になって課題を解決していきたい」とプラットフォームから広がる動きにも積極的な姿勢を明らかにした。
おたがいハマのコンセプトは、「伝える」「つながる」「変える」の3つ。このコンセプトを実現するためのコンテンツが開設された。
「伝える」を実現するためのコンテンツの1つが、新型コロナ関連最新情報。横浜市・神奈川県・国からの情報を、タイムリーに、かつわかりやすく伝えるのをはじめ、市民や地域、企業、大学などの最新の取り組みや提言・提案などを発信する。横浜コミュニティデザイン・ラボが運営するヨコハマ経済新聞では現在、新型コロナに関連する情報を1日に数回更新しており、おたがいハマのサイトではヨコハマ経済新聞の情報と連動したうえで、独自の情報や取材を交えて発信していく。
緊急事態宣言による営業の自粛や営業時間の短縮、「新しい生活様式」の推奨の中で、多くの飲食店が厳しい状況にある。「#横浜おうち飯店」は、がんばる市内の飲食店を応援するコンテンツで、情報を「伝える」とともに、「つながる」ことも意識する。内容は大きく2つに分かれ、その1つは、横浜市経済局商業振興課が運営するテークアウトやデリバリーを行う飲食店の紹介&応援プロジェクト「テイクアウト&デリバリー横浜」との連携を図っていく
もう1つは、商店やローカルメディア、有志などによる各地で飲食店を応援する区の飲食店応援サイトなどの情報の集約。横浜市をはじめ、各地で飲食店を応援するサイトやfacebookグループなどが立ち上がっているが、それぞれのサイトなどが独立しているため、情報をまとめることを考えた。おうち飯店では、横浜市内を対象としたこうしたサイトを集約したポータルサイトを実現するとともに、各地で飲食店を応援する団体同士や利用者たちのつながりを生み出していくことも目指す。
「つながる」を表すコンテンツ、アクションの1つとして、おたがいハマでは、寄付を呼び掛けている。現在は、介護・福祉・医療の分野で不足するマスクや防護服、消毒薬、プラスチックグローブ(手袋)の寄付について、横浜コミュニティデザイン・ラボが運営することぶき協働スペースで、持参または郵送などで受け付けている。
おたがいハマのプラットフォームをベースにしたオンラインコミュニティーによるつながりを生み出すため、facebookグループが開設されているほか、LINEによるコミュニティーも準備中。
▽おたがいハマ 最新情報
https://otagaihama.localgood.yokohama/category/topics/
▽おたがいハマ 横浜おうち飯店
https://otagaihama.localgood.yokohama/yokohamaouchihanten/
新型コロナウイルス感染症の終息までには、長期間かかることも想定されうる。終息までの期間、感染症に向き合うことが必要になるが、終息後の社会では、働き方、学び方、暮らし方が、以前とは異なるものになることも考えられている。また、感染発生前から、横浜市内でも新しい価値観や働き方、暮らし方を考え、実践しようとする動きもあった。
そうした動きの1つが、各地で市民主導で活動してきたリビングラボや、こうした活動の連携・サポートを目指すYOKOHAMAリビングラボサポートオフィスの取り組みだった。同オフィスは、超高齢・人口減少社会や地球温暖化による気候危機を乗り越え、持続可能な未来を描くための社会ビジョン「サーキュラ―エコノミーplus」を掲げていた。
同オフィスは、新型コロナウイルスに長期的な視野を持って対処することを目指し、「サーキュラ―エコノミーplus」のビジョンに基づいて、新しい社会を切り拓くため、おたがいハマ内にWebプラットフォーム「Circular YOKOHAMA 2020」を開設。新型コロナへの対処として、以下の3つの視点を掲げている。
1.AGAINST COVID-19:コロナがもたらす緊急課題に対して行動を起こす
2.WITH COVID-19:コロナとの共存を見据えて暮らしを変える
3.AFTER COVID-19:コロナを乗り越えた先にある未来を描く
同オフィスの河原勇輝代表理事は、キックオフのトークイベントで、「地域の課題をビジネスで解決していこうとリビングラボが立ち上がった。課題解決につなげるため、この団体を立ち上げた。今回の新型コロナの感染拡大を受けて、地域の事業者たちの活動を紹介しながら進んでいきたい」と話した。
▽おたがいハマ Circular Yokohama 2020
https://otagaihama.localgood.yokohama/circular-yokohama-2020/
おたがいハマでは、開設初日の5月1日以来から大型連休中は連日、ランチタイムにオンラインのトークイベントを開催し、YouTubeなどで配信した。
#おたがいハマ トーク vol.1 プロジェクトキックオフ
初日のトークイベントでは、YOKOHAMAリビングラボサポートオフィスの河原代表理事、IDEAS FOR GOOD 編集長でもあるハーチ株式会社加藤佑代表取締役、横浜コミュニティデザイン・ラボの杉浦裕樹代表理事、横浜市共創推進課の関口さんが、おたがいハマの趣旨や連携協定について説明し、今後への期待を語った。
5月2日は、NOSIGNER代表で、デザインストラテジストの太刀川英輔さんが登壇し、パンデミック対策の情報ウェブサイト「PANDAID」を開設した思いや展開、クリアファイルを使ってつくるフェイスシールドについて、説明した。
▽クリアファイルでフェースシールド 横浜のデザイン事務所が作り方公開
https://www.hamakei.com/headline/10854/
太刀川さんは、東日本大震災でも情報発信を実践し、その後、防災対策などをまとめた『東京防災』を制作した。今回は、「世界で一番わかりやすいサイトをつくりたいと始めた。1カ月くらいたち、200人くらいのボランティアが関わり、毎日、何かしらコンテンツが更新されている」と状況を説明し、「SNSはスピードはあるが、後で頼れる情報がどこにあるか探すと出てこない。コロナに関するいろんな取り組みを、プルーフリード(情報の確認)をしながらまとめていく意味はあるだろう」と話した。
#おたがいハマ トーク vol.2 太刀川 英輔さん:「PANDAID」について
5月3日は、地域で協力しながら手作りのガーゼマスクをつくるプロジェクト「YOKOHAMAガーゼマスクships」を始めた緑園リビングラボ(横浜市旭区) 野村美由紀代表がゲスト。マスク不足が課題となる中、「作るなら家族で手つだうよ」の声から始まった取り組みが、オンライン以外の実会場での販売会や、マスクとともに販売が滞っている地元の産品を送る取り組みに広がっていることなどを紹介した。この取り組みは、Circular YOKOHAMA 2020を代表するプロジェクト(フラッグシッププロジェクト)ともなっている。
#おたがいハマ トーク vol.3 野村美由紀さん
野村さんはまた、緑園リビングラボの活動について、「私たちは、人に注目して活動している。近くにフェリス女学院大学があり、学生も活動に参加している」「学生に盛り上げてもらったり、助けてもらったところもある。年配の人も一緒になって活動しているし、まさに女性活躍にもつながっている」と状況を説明した。
▽#おたがいハマ トーク アーカイブ
https://otagaihama.localgood.yokohama/talk/
おたがいハマの運営は、YOKOHAMAリビングラボサポートオフィスと横浜コミュニティデザイン・ラボでつくる「チーム #おたがいハマ」。事務局は、横浜コミュニティデザイン・ラボが担当する。
同ラボの杉浦代表は「市内でいろいろな動きが始まっている。資金が足りない、仲間が足りないなど、いろいろな課題が出てくるだろう。誰かが足りないものは、誰かが持っている。おたがいハマのネットワークの機能で、これをつなぐ役割を果たしていきたい」と話している。
おたがいハマでは、コンテンツやアクションの拡大も検討中。プラットフォームの理念に共感する仲間(団体・組織・個人)を広く募っている。仲間同士の交流を深めながら、今後さまざまなアクションを生み出していく意向だ。
ヨコハマ経済新聞+三澤一孔