神奈川県は6月28日から30日に実施する県内オリンピック聖火リレーの公道走行を中止した。県下には、まん延防止等重点措置が7月11日まで適応されており、公道走行に変えて、横浜では赤レンガ倉庫で6月30日に点火セレモニーを行なった。
2020年3月12日、ギリシャの古代五輪の舞台であるオリンピアの太陽光から五輪の聖火が採火された。聖火は8日後に宮城県にある航空自衛隊松島基地に到着。復興の火として、東日本大震災で被災した東北の3県で展示された。予定では、その後、同年3月26日に聖火が福島県を出発し、神奈川県の聖火リレーは6月29日から7月1日になるはずだった。
▽ギリシャの太陽光から五輪聖火を採火 横浜市内の聖火リレーは7月1日(2020/3/13掲載)
▽オリンピック聖火が日本到着 復興の火へ(2020/3/20掲載)
▽聖火特別輸送機でギリシャから聖火届く「無事運んできたよー!」(2020/3/20掲載)
ところが、感染症の拡大により、3月24日、安倍前総理大臣とIOCバッハ会長の電話会談で、東京オリンピック・パラリンピックを延期することが決まった。そして3月20日、オリンピックを2021年7月23日から、パラリンピックを8月24日からと、延期の日程が発表された。
一年間を経過しても、以前感染症の影響が続く中、2021年3月25日に聖火リレーは福島県から出発して47都道府県を巡り始めた。5月11日・12日に22番目の都道府県として走行予定の福岡県が、県内の走行の全面中止を初の決定。都道府県ごとに判断をする中、神奈川県は6月11日に、県内で予定される聖火リレーの公道走行を中止にすることを発表した。
予定していた6月28日からの3日間は、28日に藤沢市の辻堂神台公園、29日に相模原市の橋本公園、30日に横浜赤レンガ倉庫で、それぞれ会場内のみでトーチからトーチへと火を渡す「トーチキス」で火をつなぐことになった。
30日15時、公道を走るコースなら、第1区間の第一走者として等々力陸上競技場で走るはずだった「ももいろクローバーZ」がランタンで相模原から運ばれてきた火を、トーチに受け取った。
「ももいろクローバーZ」が聖火を受け取る
会場には走者の関係者と記録関係者のみ
「ももいろクローバーZ」からDeNAベイスターズ前監督のアレックス・ラミレスさんへ聖火が渡る
アレックス・ラミレスさんからは、元AKB48の高橋みなみさんへ
トーチキスのあとは、同じ区間で聖火を受け渡したランナーたちがそろって記念写真の一幕も見られた。
トーチキスを終えた第1区間の20人
横浜での30日の聖火リレーは、川崎市内を走る第1区間と、横浜市内を走る第2~8区間が予定されていたため、各区間ごとの走者がトーチキスをし、区間ごとの最終走者が聖火をランタンに納火して、次の区間走者へと受け渡す形を繰り返した。
トーチキスを終えた第2区間のランナー5人
第3区間の12人
第4区間の16人
第5区間の5人
第6区間の15人
第7区間の13人
第8区間の11人
区間ごとのトーチキスが終わると、聖火をランタンに納めて運ぶ
横浜市内を走行予定だったランナーは、100人弱で、最年少は2008年生まれの青木壮太さん、最高齢は1928年生まれの五島シズさん。
「今や人生100年時代と言われるようになったが、今回年齢制限がないということで応募した」という五島さん(左)
崎陽軒社長の野並直文さん、岩崎学園の理事長の岩崎文裕さん、TOHOシネマズ社長の瀬田一彦さん、ENEOS社長の大田勝幸さんら、経営者のランナーも多かった。
▽崎陽軒社長も参加 点火セレモニー(2021/6/30掲載)
バレーダンサーの上野水香さん、神奈川フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者の川瀬賢太郎さん、バイオリニストの千住真理子さんら、アーティストの参加もあった。
お笑いタレントの出川哲朗さんや、女優の草笛光子さんの姿も。
▽聖火を手にするお笑いタレントの出川哲朗さん(2021/6/30掲載)
トーチキスを終えた出川さんは「横浜で生まれ育ち、横浜は大好きな街、赤レンガや山下公園には若い頃からデートでよく来ていた。思い入れの強い街で、横浜代表としてランナーに選ばれて感謝」と話し、「トーチキスの後の隣の人とのかわいいポーズはすごく恥ずかしかった」とも。
トーチキスのあとポーズをとる出川さん(左)
草笛さんは「昔、ギリシャ女優のようだと言われたことがあるけれど、今回ギリシャから来た聖火リレーをすることになるなんて」と口にし、「走るために毎日歩いて準備してたけど、コロナなせいで走れなくなって残念」と振り返った。
笑顔でトーチキスをする草笛さん(左)
各区間のランナーでのトーチキスのあとは、一休み。後半は「NTT Presents 東京2020 オリンピック聖火リレーセレブレーション」として、横浜市消防音楽隊や、市ケ尾高校ダンス部などが、18時過ぎから次々とステージに出演。
横浜市消防音楽隊
市ケ尾高校ダンス部
EXILEのUSAさん、TETSUYAさんと福島県、熊本県のキッズダンサーによるパフォーマンス
19時半頃、ステージエリア外の赤レンガ倉庫1号館と2号館の間で、最終ランナーへの聖火リレーが行なわれた。
光の演出の中で最終ランナーへと聖火が渡る
東京2020聖火リレー公式アンバサダーの石原さとみさんは「まるでウェディングのようだった」とコメント
最終ランナー、EXILEのUSAさんが、トーチを手にステージへ走る
トーチから聖火皿に点火
これまで約7000人の手を渡ってきた聖火は、翌日から、千葉・茨城・埼玉・東京を経て、7月23日に東京オリンピック2020会場の国立競技場まで運ばれる。
夕方ごろに一時降った雨も、最終ランナーを迎えるころには止んだ。最終ランナーのUSAさんは「雨が止んだのはダンスの力かな」と笑い、「これまでこんなに多くの人に見られなかった火はないと思う。でもインターネットなどで一番見られる火かもしれない」と話した。そして「これからもずっと、一人でも多くの人の心を照らせたら」と結んだ。
編集後記
最終ランナーによる点火後に続いたイベントについては、本稿では触れませんでしたが、表現的にも技術的にも興味深いものがありました。写真で以下にまとめました。
聖火を受け渡す人たちは皆、笑顔でしたが、会場付近には現状での五輪を憂う声を届ける人たちも訪れていました。
神奈川県内では、パラリンピック競泳金メダリストの秋山里奈さん、元ラグビー・ワールドカップ日本代表の稲垣啓太さん、元宝塚歌劇団雪組の望海風斗(のぞみふうと)さん、歌手で俳優の加山雄三さんらが、今大会の開催を手放しで喜ぶことができないと、聖火リレーのランナーを当日までに辞退しています。
「スポーツを通じて平和でよりよい世界の実現に寄与する」第一回の近代オリンピックにクーベルタン男爵がこめた願いと、ランナーひとりひとりの思い、今は止まることを選んだ人の祈りも、聖火と共に後生に受け継がれていきますように。
ヨコハマ経済新聞・聖火リレー取材班
撮影・取材:大宮雅智、紀あさ、石毛咲恵
文責:紀あさ