横浜市が創造性を活かしたまちづくりのための施策「創造都市施策」を始めて、今年で20周年となる。
5月23日~25日には20周年記念イベントが開催され、6月中旬には創造都市に関わる人材を育成する「創造都市スクール」も開講する。
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「創造都市施策」の始まりは、2004(平成16)年1月に有識者委員会によって行われた「文化芸術創造都市-クリエイティブシティ・ヨコハマの形成に向けた提言」に遡る。
この提言は、横浜が誇る独自の歴史や文化の求心力に陰りが見えることを危惧し、芸術や文化の持つ創造性を活かしたまちづくり「創造都市(クリエイティブシティ)」によって横浜の魅力を取り戻すために行われた。
提言の中では、文化芸術は市民生活に貢献するだけでなく、都市の活性化や横浜市の国際的競争力の向上にもつながるとされ、将来的に創造産業が横浜の活力の源泉となることで、税収や雇用、地域経済への成果も期待できると示されている。
2004年という年は、ユネスコの創造都市ネットワークが発足したのと同じ年であり、1990年代に提唱された創造都市という概念が世界的に広まり始めた時期と重なる。
提言に基づいて施策が開始されて10年となる2014年には、環境の変化に対応するため、新たな5つの基本方針と具体的なアクションプランが示された。この基本方針は現在も創造都市施策の方針として市のWebサイトに掲げられている。
横浜市が掲げる5つの基本方針
・多様な主体がリードする創造界隈の展開
・アーティスト・クリエーターの育成・支援と次世代育成
・創造的産業の振興
・まちにひろがるトリエンナーレの実現
・『創造都市横浜』の国内外への発信と交流
2004年3月にアートスペース「BankART1929 Yokohama」がオープンしたことで、施策が本格的に動き出した。旧第一銀行横浜支店の建物を活用しており、「歴史的建造物や公共空間を活用し、創造的な活動を発信する」と銘打った「創造界隈拠点」の一角だ。
その他の創造界隈拠点には、市営結婚式場だった建物を活用した舞台芸術の創造拠点「急な坂スタジオ」(2006年開業)、無料休憩所を兼ねた文化観光交流拠点「象の鼻テラス」(2009年開業)などがある。
以前「BankART1929 Yokohama」が入っていた旧第一銀行横浜支店の建物。現在は「YCC ヨコハマ創造都市センター」となっている
「象の鼻テラス」では現在ポート・ジャーニー・プロジェクトによるグループ展「7 SEEDS –COMMUNICATION UNDERTREES–」が開催されている(6月9日まで)
提言では他に重点的に取り組むプロジェクトとして「映像文化都市」や「(仮称)ナショナルアートパーク」が提案されており、映像クリエイターの育成やエリア整備が行われてきた。
ヨコハマ経済新聞でも、2006年にナショナルアートパーク構想の特集を掲載している。
アーティスト・クリエイターの支援のため、相談窓口や助成制度を企画運営する「アーツコミッション・ヨコハマ(ACY)」プログラムや、遊休不動産を活用して活動拠点を提供する「芸術不動産」などの取り組みも行ってきた。
5月23日~25日にかけては「クリエイティブなまち、横浜を知る・考える・楽しむ、特別な3日間~クリエイティブシティ・ヨコハマ20th Anniversary フォーラム~」と題して、創造都市20周年の記念イベントが開催された。
1日目となる23日は、第8回横浜トリエンナーレの総合ディレクターの蔵屋美香さんの基調講演「第8回横浜トリエンナーレの取組」と、現代アートが人の心にもたらす効果について研究を行っている横浜市立大学「Minds1020Lab」メンバーによるクロストークが行われた。
第8回横浜トリエンナーレの総合ディレクターの蔵屋美香さん
「Minds1020Lab」は、生きづらさを感じる若者の心の課題を包括的に研究するために多様な分野の専門家が産官学の壁を越えて参加する研究拠点。若者が心の不調を気軽に相談できるバーチャル空間上の拠点「メタケアシティ」の構築を目指す。
2日目となる24日には、6月中旬に開講する「創造都市スクール」のキックオフシンポジウムと、横浜市が横浜市立大学、横浜国立大学、神奈川大学と共同で行った創造都市施策の成果に関する調査研究の発表が行われた。
研究発表では各大学の代表者がそれぞれ登壇し成果を発表。ゲストを招いたクロストークと20年後の横浜市民の姿を考えるワークショップも行われた。
最終日の25日には、横浜市庁舎アトリウムに設置した高さ5メートルのエアドームに等身大のシルエットを投影する参加型アートイベント「よこはまミーティングドーム」が行われた。アトリウムの大型モニターでは、20年間で横浜に関わったアーティストやクリエイターのビデオメッセージも上映された。
24日にキックオフが行われた「創造都市スクール」は、次世代の創造都市の担い手を育成することを目的とした研修プログラム。自治体の政策担当者や創造都市の構築に関わる専門家の他、創造都市政策に関心を持つ人を幅広く対象としている。
同スクールは、文化庁の補助金事業「令和6年度大学における文化芸術推進事業」に採択された「地域社会と連携した創造都市マネジメント推進人材育成プログラム」の一環として、横浜市立大学が実施する。
キックオフイベント冒頭では、チーフプログラムディレクターを務める横浜市立大学都市社会文化研究科の鈴木伸治教授が趣旨説明として、イベントのテーマや人材育成プログラムの概要を紹介した。イベントには同スクールで講師を務める研究者やまちづくりの担い手、横浜市の担当者らが登壇した。
趣旨説明をする鈴木伸治教授。同スクールのロゴは、2006年に制定された「クリエイティブシティ横浜」のロゴマークのカラーバリエーションになっている
基調講演「世界と日本の創造都市」では、大阪市立大学の佐々木雅幸名誉教授が登壇。20世紀末に創造都市論が誕生した背景から始まり、欧米と日本における創造都市の展開とその成果を解説した。
基調講演を行う佐々木雅幸名誉教授
ラウンドテーブルディスカッションでは、前半の「創造都市のこれまで」と後半の「創造都市のこれから」の2パートに分かれ、これまでの取り組みとこれからの展望について意見を交換した。
イベントの様子は、創造都市スクールのユーチューブチャンネルで公開されている。
同スクールの講義は2024年度内で計12ユニット予定されており、現在1~4ユニットまでの内容が公開されている。90分の授業4回で1ユニットとする。
講義は現地会場とオンラインのハイブリッドで実施され、アーカイブ動画も視聴できる。受講料は無料。
同スクールのチーフプログラムディレクターであり、自らも講師として教壇に立つ横浜市立大学の鈴木伸治教授は、開講にあたって次のようにコメントを寄せた。
鈴木:創造都市スクールでは、対面とオンラインを交えて、創造都市に関わる人たち、特に若い世代の方達を応援したいと思っています。創造都市は、文化政策、産業政策、まちづくりなど幅広い取り組みなので、スクールを介して、いろいろな分野の方が繋がることで、新しい交流が生まれることを期待しています。
創造都市スクール Webサイト
https://creativecity.yokohama/
創造都市スクールリーフレット
詳細はhttps://creativecity.yokohama/89/2024/05/24/
正直に告白すると、筆者は現代アートを理解するセンスも感受性も持ち合わせていないタイプの人間だ。
そんな私でも、創造界隈拠点として整備された施設のいくつかには(そうと意識せず)足を運んだことがあるし、そこで行われる作品展示も見たことがある。それくらい創造都市施策は横浜の街に浸透し、思っているより身近にあるのだろう。
アーティスト達の自由な創造性とそこから生まれた作品をまちづくりのために活かすには、アーティストと街をつなぐ人材が必要となる。創造都市スクールの研修プログラムに期待したい。
内島 美佳(ヨコハマ経済新聞ライター)