特集

韓国ダブルケア視察団が来日 実践現場で交流深める
ダブルケアサポートが福祉や教育の現場を巡るツアー

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子育てと親の介護が同時期に発生する「ダブルケア」

 子育てと親の介護が同時期に発生する「ダブルケア」の当事者は「どこに相談すればよいのか」「理解者がいない」と孤独感を抱えがち。家族の期待や社会のプレッシャーにより、本来受けられる支援を求めることができず、悩みを一人で抱え込むケースが多い。日々、子育てと介護の優先順位を決める選択を迫られ、どちらも中途半端になると感じるジレンマを抱えている。

 日本の出生率は1.26、韓国は0.78と低下が続く中、次世代のケア負担を軽減することは両国にとって共通の課題となっている。

日本と韓国のケア支援者・有識者が集う「日韓ダブルケア支援プロジェクト」

 一般社団法人ダブルケアサポート(横浜市西区南軽井沢)など日本のケア支援者・有識者と、韓国の専門家や実践者らで構成される「日韓ダブルケア支援プロジェクト」は2月6日から8日まで、韓国からの視察団を受け入れ、福祉や教育の現場を巡る地域交流ツアーを実施した。

 訪問先は横浜市で困難を抱える子どもたちのサポートをしているNPO法人や、男女共同参画センター 横浜南(フォーラム南太田)、相模原市内の団地に設けられた多世代交流拠点なども訪れた。

 この視察は、トヨタ財団の助成を得て実施している「日韓ダブルケアネットワーク構築」プロジェクトの一環として行われた。

 プロジェクトでは、課題解決のため、2023年11月から2025年10月、日本と韓国でケアについて研究を続けている大学教授、医療・福祉関係者、ダブルケアカフェなど当事者の交流事業を実施している。


鶴見区の「地域活動交流拠点230cafe(つみれカフェ)」で、NPO法人サードプレイスの子ども支援事業について学ぶ韓国視察団

 今回の韓国チームの来日は、昨年10月~11月にかけて日本のプロジェクトメンバーが韓国を訪れた視察に続くもの。

 来日以前にも、オンライン会議を重ねて互いの国の状況を共有し、ダブルケアの当事者と支援団体など双方で合わせて約40人ほどが集まり、学び合いを続けてきた。また、ダブルケア当事者に対するインタビューなども同時に行われ、課題の抽出も行われている。

上野千鶴子さんのオンラインレクチャーも

 視察団は、横浜市内などで、訪問先の専門家との意見交換や講演を通じて、少子高齢化社会の課題やダブルケアの当事者の状況を共有し、その解決に向かう実践を学び合った。

 視察期間中、NPO法人「サードプレイス」が京急鶴見駅そばに設けた交流拠点「230カフェ」や国会議員・横浜市役所での担当課との意見交換、長年、女性が抱える多様な課題に向き合って事業を展開してきた「フォーラム南太田」視察、著作「ケアの社会学――当事者主権の福祉社会へ」が韓国でも人気の上野千鶴子さんのオンラインレクチャーなど、精力的なスケジュールをこなして学びを深めた。

ケアを社会で担う政策の提言につなげたい

 最終日の8日は相武台団地に設けられた多世代交流拠点を視察後、今回学んだことを振り返る時間を設け、現場の課題や先進的な取り組みを共有し、今年秋に行われる予定の政策提言フォーラムにつなげる。

 プロジェクトリーダーの1人で、ダブルケアサポート理事長の東恵子さんは「日本と韓国、それぞれの国で得た学びを生かしながら、ダブルケアの実情を広く伝えてケアを社会で担う制度への提言や当事者間の交流の場づくりなど、よりよい実践に生かしていきたい」と話している。
横浜市の西区子育て支援拠点「スマイル・ポート」では、相談者のネットワーク作りなどについて韓国視察団から質問が相次いだ

編集後記

 晩婚・晩産化、高齢化、家族や地域の変化、貧困化により、ケアラー支援の重要性が高まっている。ヤングケア世帯とダブルケア世帯を別々ではなく、ケアが世代間で連鎖している問題、ケア責任や負担が特定の人に集中する問題、ケアに優しくない社会システムの問題である。しかし先日の国会のダブルケア質疑でこども家庭庁も厚生労働省も答弁が消極的であるなど縦割り行政を横断するような対応に課題が残る。

 日本の社会制度は「子供・高齢者・障害者」など対象別に支援を提供するため、ダブルケアのような複合的な課題に対応しきれていない。ダブルケアは少子化・高齢化・貧困・社会的孤立といった多くの問題と密接に関わるため、社会全体での包括的な支援が求められる。

支援の輪を広げるために
 ダブルケアは個人の問題ではなく、家族・地域・社会全体の課題。当事者が声を上げ、周囲の人々がそれを受け止めることで支援の輪が広がる。すでに地域では「ダブルケアカフェ」の開催やハンドブックを活用した取り組みが進んでおり、支え合いの仕組みを作る動きが始まっている。

 一般社団法人ダブルケアサポートは、ケアに優しい地域社会、ケアリング・デモクラシーへむけて、両国の支援や政策の現状や課題についての学び合いで、社会変革へのパートナーシップ(日韓ケアラーネットワーク)をつくり、政策提言につなげるプロジェクトを推進している。当事者たちが孤立せず、つながりを持つことをサポートすることが、解決への第一歩となる。今後のダブルケアー支援の動きに注目していきたい。

日韓におけるケアラー支援:ダブルケアラー・ヤングケアラー支援とケアが豊かな地域社会―ケアリングデモクラシーへの学び合い(一般社団法人ダブルケアサポート)

宮島真希子 + ヨコハマ経済新聞編集部

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