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「KAAT神奈川芸術劇場」で初の取り組み「やさしい鑑賞回」体験レポート

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「KAAT神奈川芸術劇場」(横浜市中区山下町、以下KAAT)で上演されていた演劇作品「花と龍」で、2月19日、鑑賞サポートとリラックスパフォーマンスの要素を盛り込んだ「やさしい鑑賞回」が実施された。同劇場では初の試み。
 本稿では通常回とやさしい鑑賞回のどちらも観劇したライターが、その様子をレポートする。


やさしい観賞回で観客全員に配布されたガイド

脚本やキャストに変更なし!
安心して鑑賞できるように配慮された公演

 「やさしい鑑賞回」は、発達障がいのある人など「従来の劇場空間では芸術鑑賞に不安がある人たち」も安心して鑑賞できるように配慮された公演。

 脚本やキャストに変更はないが、通常よりも演出照明や音響などの刺激を弱めたり、扉を常に開放して会場(観客席)の出入りを自由にしたり、客席を完全に真っ暗にしないなどの配慮を実施した。

 受付では、普段からKAATが提供している、大きな音が苦手な人や聴覚過敏の人のために「イヤーマフ」(大人用、子ども用)、耳栓の無料貸し出しも行われていた。

観客席からの出入りは自由 もしも外に出たら・・・?

 開演前には「やさしい公演」の趣旨説明とともに、前方扉は演出上、役者が出入りするため、会場から出入りするときは後方の扉を使うようにとアナウンスがあった。

 出入口付近とロビーの2カ所に、音や光を遮断できる個室のような空間で落ち着くことのできる「カームダウンスペース」を用意。さらに、ロビーの「カームダウンスペース」の横には、舞台の様子を映し出すモニターの前に椅子とクッションを置きゆったりできるスペース「ゆったりエリア」を設け、なんらかの事情で会場外まで出た場合でもステージの様子がわかるようになっていた。


ロビーのカームダウンスペース(手前)と「ゆったりエリア」(奥)

ゆったりエリアとフリーエリアを体験

 2部制だったため、2部の冒頭を、この「ゆったりエリア」で鑑賞してみた。モニターには、舞台全体の様子が映しだされていた。客席前方の花道までが映るように広めの画角の固定カメラで、全体の様子がよくわかり、なにより足を伸ばしたり、声をだしたり「ゆったり」とできるのがとてもよかった。

 役者の表情まで見るのはさすがに難しかったが、回を重ねて、全体カメラだけでなく、話者を追うカメラがもうひとつ入るようになったりしたら、より良さそうだと感じた。

 一度会場を出たあと、通路寄りの席でなく、戻る際に何人かの前を通る必要がある席の場合は、どのように席に戻るのだろう。スタッフの案内で、可能な場合客席へも戻ることができるが、後方の左右に3列ほど「フリーエリア」が設けられていて、自席に戻らずそこに座ることもできた


最後列のフリーエリア

「やさしい鑑賞会」来客の感想は?

 KAAT広報担当者は「『やさしい鑑賞回』に初めて取り組むことができたのは、劇場の芸術監督が演出をつとめる作品であることも大きな要素」と話す。


KAATの芸術監督で「花と龍」演出の長塚圭史さん

 「客席で音をたてても体が動いても大丈夫なので、劇場デビューの人、静かに鑑賞することに不安のある人、強い音や光が苦手な人にも楽しんでいただける公演」であると同時に「サポート不要な人も利用可能で、お手頃な価格で劇場へ足を運ぶきっかけになれば」だともいう。

 鑑賞料金は一階席が8,800円のところ、やさしい鑑賞回は3,500円 。半分以下の「やさしい価格」をきっかけに前方席で鑑賞したという女性は「この公演は初めてみたが、全く違和感がなく、開演前の屋台など仕掛けがおもしろく楽しかった」と感想を話した。

 後方席から見た筆者の感想としては、通常回では感じなかった印象がいくつかあった。ひとつは、「何をしてもいいよ、どう見てもいいよ」というメッセージにより、拍手も自由で盛り上がりが大きくなっていたように感じた。また、完全に暗くなるシーンがないことに違和感を覚えるだろうかと推察していたが、それは特に気にならなかった。通常回より明るいためか、後方からは前方客席の様子がよく見えて、クライマックスで海原を見つめる主演のまなざしの先、前方桟敷席の人たちの首が主役を追って動く様子がなんだかやさしい波かのようで、とてもきれいだった。


KAAT「花と龍」撮影・宮川舞子

編集後記

 本稿では「やさしい鑑賞回」に着眼したが、「花と龍」は公演そのものにもユニークな取り組みが随所にある興味深い公演だった。そのいくつかを最後に写真で紹介したい。開演前は写真撮影が可能だったため、これらの写真は取材ではなく、一観客として撮ることができた。


舞台の背後を囲む屋台で、開演前に買い物が可能 さらに買ったものは客席で飲食可能


屋台の出店は元町の商店街が協力 飲食やグッズやマッサージまでさまざまな物・サービスを販売


花と龍にちなんだメニューも


入口から屋台までは衣装や小道具などを見ることも出来、役者が屋台エリアを歩いていたり・・・


そしてなんと、開演前に舞台上で、開演後「船」になる舞台装置に腰かけて飲食ができる
さっきまでお酒を飲んでいたその場所で展開していく物語・・・


それは開演前に舞台に上がり舞台装置の中をまじまじと見られるという体験でもあった


舞台上に飾られている屋台の一部として使用されていたのは震災を受けた石川県珠洲市の建具

 また、KAATでは普段から、見えない、見えにくい、きこえない、きこえにくいなど鑑賞に不安のある人なども芸術文化を楽しむことができるための、鑑賞サポートを事前申込制で行っている。託児サービスなどもあるため、鑑賞したいと思ったとき、下記のページを見てみてはいかがでしょうか。

KAATホームページ アクセシビリティ https://www.kaat.jp/accessibility

紀あさ + ヨコハマ経済新聞

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