横浜・川崎・小田原の路面電車や横浜ドリームランドモノレールなど、神奈川県内の11の鉄道「廃線」を紹介する「かながわ鉄道廃線紀行」(2024年10月 神奈川新聞社刊)。県内の書店を中心に売れ行き好調で、発売から約4カ月で重版となった。
著者は横浜生まれの旅行・鉄道作家の森川天喜(あき)さん。出版不況といわれる時代にどのようにしてヒット作を生み出したのか、森川さんにインタビューした。
横浜生まれの旅行・鉄道作家の森川天喜さん
――鉄道廃線というテーマを選んだ理由は?
本の「おわりに」にも書いたが、あるとき、ネットメディアに鉄道廃線のレポート記事を寄稿したところ、想像以上に反響が大きかった。そこで自宅のある神奈川県内を中心に鉄道廃線を探してあちこち訪ね歩き、レポート記事を公開すると「子どもの頃に乗りました」「懐かしい!」といったコメントがSNS上で次々とシェアされ…。「鉄道廃線」というのは、かなり人気のあるテーマなのだと分かった。
こうしたSNSなどでの読者からの反応は、本の形にしたときにどれくらい読まれるかのバロメーターになる。前作「湘南モノレール50年の軌跡」(2023年神奈川新聞社刊)も、最初は本にするつもりはなく、当初は湘南モノレールの歴史を公式サイトで連載、反応がよかったことから、書籍化することにした。
今回の「かながわ鉄道廃線紀行」も、神奈川新聞のニュースサイトで連載したところ、編集部からかなり読まれているとの話を聞き、手応えを感じた。今の時代、本を書くならば、まずはそのテーマについてネット記事を書き、読者の反応を見てみるのがいいと思う。
かながわ鉄道廃線紀行
――横浜の書店で、発売記念のパネル展が行われたり、大きな売り場がつくられたりしていたが、どのようにして実現したのか
本の販売で一番重要なのは、書店員に「いかにその本を売る気になってもらえるか」。私の場合、ある書店員さんが、私がメディアに書いた記事を熱心に読んでくださっていて、前作の発売時に「森川さんの本なら」と目立つ売り場をつくってくださったことがあった。ネットでも紙媒体でもいいので、信頼性の高い記事を継続して書き続けることが、書店員を含む読者との信頼の構築につながる。
売り場で文字通り「山積み」に 写真提供=森川天喜さん
また、今回の「かながわ鉄道廃線紀行」の増版に合わせ、くまざわ書店では、県内の複数店舗(アカデミア港北店、くまざわ書店鶴見店など)でフェアを実施してくださっている。「かながわ鉄道廃線紀行」が「鉄道」カテゴリの上位に長期間ランクインし続けているのを見てくださったのがきっかけだと聞いている。Amazonに限らず、リアルの書店でもランキングを掲示している店があり、ランキングの上位に入るのも、「売れる」ための大事な要素だとあらためて認識した。
――森川さん自身も、積極的にPR活動をされている?
まず、本を出したら、書店へ挨拶にうかがうのは大切だと思う。売り場の限られたスペースを割いて、自分の本を置いてもらっているのだから、お礼の気持ちは伝えるべき。場合によっては、訪問を機にポップやサイン色紙を置いてくださることもある。
SNSでの発信も重要。私自身はSNSの発信力がそれほどあるわけではないが、前作の発売時に、鉄道会社の公式「X」で本を紹介してもらうと、リアル書店、ネット書店を問わず、わーっと売れたことがあった。また、本のテーマに興味を持つ人が集まっているSNSグループに投稿することなども有効だ。
ランキング上位に入った同書 写真提供=森川天喜さん
あとは、普段寄稿しているメディアに本の内容を抜粋した紹介記事を載せてもらうこともしている。どんな本なのか、ある程度、潜在的な読者に知ってもらう努力は必要だろう。
取材もなるべく受けるようにしているが、注意しているのは、本の内容を読んでから記事にするように頼むこと。パラパラとでもいいから読むのと読まないのとでは、記事になったときに伝わるものが全然違ってくる。
――これから本を出したい人へのメッセージは?
個人的な感触だが、本のテーマはなるべくニッチを狙ったほうがいいと思う。例えば「日本の鉄道廃線紀行」よりも「かながわ鉄道廃線紀行」のほうがいい。母数は少なくなるものの、その分、地元の書店さんが販売に力を入れてくれるし、鉄道ファンのみならず、地元の歴史などに興味のある人も手にとってくれる可能性が高まる。
また、「紙の本は売れない」という思い込みは捨てるべき。たしかに、以前ほどは本が売れなくなっているが、文字数の制約があるネット記事では表現しきれない重厚なコンテンツや、本質的なテーマを掘り下げる紙の本のニーズがなくなることはないはずだし、むしろ、これからの時代に求められると思う。
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