特集

ハマ発ストリート・ミュージック
新時代に突入キーワードは「街」と「物語」

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■「大阪生まれ、横浜育ち」を掲げるデュオN.U.とは?

庭瀬幸一郎さん(29歳、以下庭瀬)と宇田晋也さん(30歳、以下宇田)の二人はともに大阪府生まれ。N.U.のNは庭瀬、Uは宇田のイニシャル。 1998年、大学卒業後に横浜で就職、偶然同じ会社で出会った。近所のライブハウス「新横浜ベルズ」で同僚を招いてのライブを披露したところ受けがよく、ベルズのマネージャーにも次回の出演を誘われるうち、二人の夢は膨らんでいった。99年12月、共に両親を説得した上で二人揃って会社に辞表を提出、翌 2000年よりN.U.として本格的に活動を開始する。一人っ子の宇田はその時の決意について「やるなら、今しかないと思った」。以後、働きながら伊勢佐木モールでのストリートライブと、新横浜ベルズでのライブを中心に音楽活動を行うようになる。活動当時について、庭瀬は「何もかも全くのゼロだった。そこからはじまった」と振り返る。

N.U.公式ページ ライブハウス「新横浜ベルズ」

02年9月、FMヨコハマ主催のアマチュア・ミュージシャンのコンテスト「YOKOHAMA MUSIC AWARD」にエントリーされ3ヵ月連続1位、第8期グランドチャンピオン。同番組プロデューサーの加藤直裕さんは言う。「出会った頃には24、5歳から会社を辞めてストリートに出るなんて、いったいどういうつもりだろうか、という気持ちも正直あった。だが、大阪生まれでありながら横浜にこだわり、音楽に対する真摯な姿勢をもっていることに、いつしかこちらも本気になっていった」。03年2月、TV朝日系のストリートカルチャー発掘・応援番組「ストリート・ファイターズ」で全国チャート1位を獲得。同年3月のかながわドームシアターでの1,000人動員のライブに挑戦するため、3ヵ月前から週7日9回 (ダブルヘッダー2日)のストリートライブを敢行した上で当日に臨み、成功を収めた。なお、ストリートライブは4年以上にわたって毎週欠かさずに行っており、現在も継続中。ゼロからはじめた観客の数はいま、目に見えて増えた。「最近では1曲1曲、確実に聴く人に届けたいと思う」と庭瀬。宇田は「路上に出ると、落ち着くようになった」と話す。名実共に、N.U.はいま、横浜において活躍が期待されるストリート・ミュージシャンのトップランナーと言える。

YOKOHAMA MUSIC AWARD ストリート・ファイターズ

■N.U.と「笑い」

5月31日、新横浜ベルズで行われたワンマンライブ。観客の9割は女性で、高校生や20代後半のOLに加え、30~40代の女性も多く、子連れの姿も見られた。この日のN.U.は、「環状2号線」から、2度めのアンコール「夢見ヶ丘」まで19曲を披露。どの曲も耳馴染みのよいメロディと歌詞で、1度聴くと情景が浮かんでくるものばかりだ。1曲歌い終えるごとに、庭瀬は囁くように小さく「ありがとう」と口にする。また、曲の合間のトークが実に巧みだ。庭瀬が軽快にぐいぐい引っ張っていくのを宇田が冷静に受けている、かと思うと、宇田の細かいボケが入り、たちまち庭瀬が勢いよく突っ込む。息のぴったり合ったやり取りで、観客を笑いに巻き込んでいく。そのせいか、曲の内容は切ない別れを歌うものもあるが、会場は終始和やかなムードに包まれている。ライブハウスでしか行わないという、社内恋愛をコミカルに歌ったコント付きの曲も。大阪出身のN.U.にとって「笑い」とは、二人が備える武器の一つでもあるし、同時に常に観客を楽しませるという「プロ意識」の表れでもある。毎週月曜の深夜1時半~2時、FMヨコハマでのレギュラー番組「N.U.の HANASHI GUY!」では、二人のトークを聴くことができる。

N.U.のHANASHI GUY!

■N.U.の歌詞がもつ「物語」性に迫る

ストリート・ファイターズのプロデューサーでN.U.を中心に応援する村上さんは、彼らの大きな魅力の一つを「歌詞のもつ『物語』性」と見る。歌詞作りについて二人に直接尋ねると、興味深い答えが返ってきた。歌詞は庭瀬、宇田のどちらとも作る。ノートに書き連ねたものを曲に乗せて相手に聴かせ、「わかったつもりになっている」箇所を洗い出し、繰り返し吟味する。独りよがりを避けるための共同作業だ。「自分のなかに主人公が何人もいる」という庭瀬は、人物と場所の設定を細かく決めた上で歌詞を練っていく。また、日ごろから連作になった短編集を読むという宇田は、「1曲1曲は独立した曲のように見えても、実はどの曲もどこかでつながっている」と話す。例えば、Aという曲で起きている恋愛の、6ヵ月後の姿を描いたBの曲がある。あるいは、ある曲では背後にいた人物が、別の曲では主人公として前面に出てくることもある。そんな二人の方法は、確かに歌詞という以上に「物語」を紡ぐ作業に近い。聴き手も、1曲 1曲の「物語」の断片のつながりを意識しながら楽しんでいる。

■「横濱物語」~現在進行形の横浜の景色を更新するN.U.

作品づくりに「物語」性を取り入れているN.U.ならではの企画「横濱物語」が、この5月からはじまっている。これは毎月1日、横浜を舞台にした1 曲入りの500円のワンコインCDを横浜市内の限定8店でリリースしていくというもの。5月1日リリースの第1弾のCDが『観覧車』、第2弾が『二人のままで』。5月31日のライブではアンコールに応えた二人が特別に、現在レコーディング中で7月1日発売予定の第3弾の作品『もう君しか見えない』を披露し、観客を喜ばせた。山下公園から臨港パークへ続く海岸通りの道を車で走り抜ける、爽やかで夏らしい曲だ。村上さんはこれらの曲について「横浜の場所をたんにキーワードとして使うのではなく、確実に歌詞の世界のなかに根付かせている」と高く評価する。この「横濱物語」を続けていくにあたって、「一曲一曲に責任をもって作っていく」と庭瀬は語る。宇田は「(横浜に来る人はもちろん)、元々横浜に住んでいる人にもおっと思わせる、改めてその場所に新鮮さを感じてもらえる曲を作っていきたい」と話す。8月以降の曲は、これから足で探しながら作るという。二人が横浜のどんな景色を切り取り、鮮やかな情景として見せてくれるのか楽しみだ。

■横浜のストリート・ミュージックの変遷

ゆずの二人が伊勢佐木モールで路上ライブをはじめたのは96年頃。ファーストシングル「夏色」で大ブレイクをしたのが98年6月。それ以前のストリートは、長淵剛や尾崎豊に代表されるような「一匹狼」の表現者の場だった。ゆずの出現は、そんなストリートの状況を一変させた。伊勢佐木モールや桜木町駅周辺界隈は、ゆずのコピー・デュオであふれ返り、バンドも増えた。二匹めのドジョウを狙った何組ものデュオがメジャー・デビューしては消えた。また、 02年ワールドカップ横浜の時期には往来の妨げになると、路上ライブに対する取り締まりが厳しくなり、ミュージシャンに規制が張り巡らされた。そうした状況のなか、98年から活動をはじめたN.U.の二人は、会社の同僚から伊勢佐木モールで路上ライブが行われることを教わり、そこを「たまたま」活動の拠点として選んだ。庭瀬は「気付いたらそこにいた。(自分たちは)横浜で、ゼロからはじめた」と、あくまでも自らの歩んできた道を率直に語る。流行と淘汰の波を、着実にファンをつかみながらくぐり抜け、その存在感を増してきた彼らの眼にはいま、自信が宿っている。

横浜での新たなストリート・ミュージックの基盤を作ろうと動くこの人物にも触れておきたい。音楽を中心に、アーティスト活動を支援しているNPO法人ARCSHIP(アークシップ)代表の長谷川篤司さんは現在、ストリートで自己を表現するミュージシャンが増えたことによる音響機材の騒音の問題を踏まえ、横浜のストリート・ミュージシャンにおけるストリートライセンス制の導入の提案をはじめている。行政はミュージシャンが演奏できる公共の場を提供し、ARCSHIPはミュージシャンに対して必要な講習をして公共の場であることを意識させた上でライセンスを授与する。行政とミュージシャンの間に立つことで秩序を回復していこうとする、NPOならではの提案だ。実際に横浜で活動するストリート・ミュージシャンに直接、どんな空間が望ましいのかと意見を聞くことからはじめている。N.U.の二人の活動を2年以上前から知る長谷川さんは、「横浜のミュージック・シーンを担っていくのはN.U.しかいないと思う」と語る。

NPO法人ARCSHIP

■気になるN.U.の今後の展望~シティ・プロモーション事業との連携の可能性

横浜におけるストリート・ミュージックのトップランナーであるN.U.の活動に焦点をあてて見てきた。今後の可能性だが、N.U.がもつ「物語」性、横浜という「街」にこだわる姿勢を充分に生かした上での、シティ・プロモーション事業との連携が考えられる。先月、横浜の観光客を増やすユニークな企画を公募し、横浜全体でバックアップする「横浜観光プロモーションフォーラム」は、平成16年度1回めの認定事業を決定、アサヒビールの「カクテルの街ヨコハマ」プロジェクトをはじめ、14件が認定を受ける形となった。同様に、行政、民間事業、NPO、メディアなどが連携を取りながら、新しい横浜の「物語」を生むN.U.のようなミュージシャンを「街」全体で育てていくべきだろう。5年後の2009年の開港150周年に向け、大きな節目に相応しい大きな企画が求められているが、実際には5年という大きな流れのなかで無理なく作り上げていけるゆるやかな枠組みと、「物語」の紡ぎ手=プレーヤーがそのカギを握る。横浜発のミュージシャンとしてこれからの活躍が期待されるN.U.に次のステップを与えるのは、横浜の「街」そのものだ。

横浜市ホームページ 財団法人横浜観光コンベンションビューロー
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