特集

「感じる」先端デザイン&アートの展覧会。
ITのファンタジスタたちが見せる未来とは?

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■IT技術とア-ト、先端デザインが融合したエキビション「Electrical Fantasista」

海辺に佇むアートスポット「BankART studio NYK」に、先端技術を使った「アート家電」が集合した。2月24日から3月14日まで開催される展覧会「Electrical Fantasista(エレクトリカル・ファンンタジスタ)」。会場には、日本で最先端を行くメディアアーティストの作品に加え、海外の一流作家が作った日本で未紹介の作品も展示されている。

BankART1929

アートやITと言うと「分かりづらい」「敷居が高い」と思われがちだが、この展覧会は実際に作品に触れ、その新しい機能を体験できる内容になっている。空間全体にも近未来的な雰囲気が漂い、アーティストの創造性に溢れる未来のライフスタイルに没入できそうだ。作品には、癒されたり、感動させられたり、驚かされたりと、とにかく素直に楽しめてしまうものばかり。「食わず嫌い」を捨て、とりあえず、会場へ足を踏み入れてみよう。

Electrical Fantasista エレクトリカル・ファンンタジスタ
「Electrical Fantasista」 「Electrical Fantasista」

■会場全体は雲の上のような未来空間

会場に入りまず驚くのが、足元。会場の床には白いボコボコした突起物が敷き詰められ、参加者は靴を脱いでその上を歩く。実はこの突起物はスポンジで出来ており、見た目よりも柔らかいので、歩くたびフワフワし、まるで雲の上を歩いているよう。天井には白い大きな風船がいくつも浮かんでいるので、より一層そのように感じるのだろう。こちらは新進建築家、西田司氏のディレクションのもと、「36.7℃」のメンバーがアイデアを出し設営したコラボレーション作品である。「36,7℃」は心地よいアート空間を創り出すデザインユニットで、20代前半のチームでありながら北仲WHITEのbook room [encounter.]の空間デザインも手がけるなど、今後の活動が期待されている作家たちだ。

ブックルーム エンカウンター
「Electrical Fantasista」展示会場

■ITによる新たな「癒し」を提案する「Positive Living」

作品は大きく4つのテーマに分けられている。それを順に紹介していこう。ゾーン1の「Positive Living」は、アートと科学から生まれる新しい「癒し」がテーマ。IT業界では有名な、柴田崇徳氏が開発したアザラシ型ロボット「PARO」も展示。抱きしめると5種類のセンサーが反応してモゾモゾ動き、抱きしめた者を心地よい気分にさせる「癒し系」ロボットだ。まつ毛の長い愛くるしい「PARO」は「世界で最もセラピー効果があるロボット」としてギネスブックが認定するほどで、既に介護の現場を中心に実用化されており、海外からも非常に注目されている。

PARO 人の心を豊かにするメンタルコミットロボット

また、声や感触に反応して、まるで呼吸をするように収縮する、植木淳朗氏の毛むくじゃらロボット「tabby」も新種のペットのようでついつい触ってしまいたくなる。その他にも布山タルト+トリガーデバイスの「co-animation table」は、自分で簡単にアニメを作ることができるので親子で一緒に楽しめそう。また、イギリスのクリスピン・ジョーンズ氏の時計盤を見なくても感覚で時間が分かるアクセサリーとしてもシック&ゴージャスな腕時計や気持ちをコントロールする心理機能がついた腕時計など、現代人をハッとさせたり、ニヤっとさせる時計は特に注目。

トリガーデバイス クリスピン・ジョーンズ
アザラシ型ロボット「PARO」 クリスピン・ジョーンズ氏の腕時計

■「世界一危険なゲーム」もドキドキ体験、「Game is Life」

2つめのゾーン「Game is Life」での目玉作品は、欧米で話題沸騰、日本に初上陸する「世界一危険」な体感型ゲーム機「Pain Station」。ドイツのメディアアーティストチーム「/////////fur////」が開発したもので、外見はゲームセンターに置いてあるような普通のゲーム機。しかし、実は、ゲームに負けると実際に痛み(Pain)を受けてしまうという。遊び方は、いたってシンプルな2人用の対戦型ピンポンゲーム。しかし、ゲームに負けると、左の手の平に赤い光とビリッとした電気が走ったり、細いゴムにピシッと手の甲を叩かれるなど痛みの制裁を受ける。また、画面の手前のセンサーから強い光がピカっと出て目をくらまされ攻撃の妨げをされることも。痛みが伴う事によりドキドキ感が増倍し、ヒートアップ間違いなし。

Pain Station

白いすっきりしたデザインのイスのようなものが5脚ほど円になって中央を向いている作品に出くわす。思わず座ってみたくなるが、これは人工知能翻訳の伝言ゲーム「MisLeading MisReading」という作品で、座ってはいけない。それぞれに自動翻訳機が設置され、参加者が一番手前の機器の上についているマイクに向かって日本語を吹き込むと、左隣の機器が自動的に英語に翻訳して喋る。それをまた左隣の機器がその言葉を日本語に翻訳し、そのまた左隣はそれを英語に翻訳、とそれを繰り返しながら一周し、最終的にどのような日本語として戻ってくるか楽しむゲームだ。

開発に携わった、東京大学で言語処理を研究する今井健氏は語る。「この機械のやりとりにおいて言葉がうまく伝わらないのは、機械がミスをするというより、そもそも言葉やフレーズ自体いろんな意味でとらえることができるものだから。これは人間同士のやりとりも同じです。ただ、人間は様々なコミュニケーションをとることで無意識のうちにバランスをとり相手と意思疎通ができるのです。このゲームを体験することで、改めて人間の潜在能力の凄さを感心することもできるのです」。

作品をよく見ると、椅子でいう背もたれの部分に小さな丸い立体が組み込まれている。それぞれが反応している時、そこに光や様々な模様が出現する。「これは、参加者が実際に彼らとやりとりをしている感覚になるよう、誰かがいるような存在感を作り出している」(今井氏)もので、浮かび上がる光や模様は、グラフィックアーティストの野老朝雄氏によるデザインで視覚的にも美しい。

今井氏、野老氏、そして荒牧英治氏(自動翻訳と言語処理のエキスパートで政府「未踏ソフトウエア創造事業」で2度にわたり天才プログラマーの認定を受ける)によるテクノロジーデザインユニット「United Bows」は、実は愛知万博のトヨタパビリオンでアートアニメーションワークも手がけていたという。

United Bows
「世界一危険」な体感型ゲーム機「Pain Station」 ゲームに負けると左の手の平に痛みの制裁を受ける 人工知能翻訳の伝言ゲーム「MisLeading MisReading」 機器を開発した今井健氏と荒牧英治氏

■テクノロジーで感覚を可視化する「Electrical Lounge」

3つめのゾーン「Electrical Lounge」では、デバイステクノロジーの進化を実感させてくれる。中でも、においを可視化する「Scenting Device Project」は今までありそうでなかった作品。香水を葉っぱの形をしたシートにふきかける。それを茎に見立てた特殊センサー付きの機械に差し込むと、そのにおいに反応してプロジェクターからきれいな花の画像が壁に投影され、その花はにおいによって変化する。

この作品の作家ユニット「plaplax」の久納鏡子氏は「作品を作るために、様々なにおいを持ち寄って実験を積み重ねました。その結果分かったことは、においは時間で変わるということ。また、環境のにおいというのもあり、これは実験に大きく影響しました。人間の鼻は大変良くできており、都合の良いものしか嗅がなかったりするけど、実際、においとは大変複雑なものなのですよね」と制作においての苦労話を語ってくれた。同じく「plaplax」の近森基氏は「この作品は今回、初めて公開する。作品の新しい技術は今後、何かしらの大きな開発などのきっかけになるだろう」と、作品の今後の進展についても確信し、自身でも新しい計画を既に練っているようだ。今後、私たちの生活に大変役立ちそうな技術開発の第一歩を、ぜひ実際に見てほしい。

プラプラックス

また、「plaplax」のメンバーであり東京大学でVRを研究している筧康明氏は苗村健東京大学助教授との作品「through the looking glass」も紹介している。こちらは鏡台のような縦長の大きな鏡に映る自分を相手にバーチャルなホッケーゲームをするというもので、筧氏によると「勝っても負けても相手は自分自身。だから、本当は勝敗などないのだが、やはり勝ち負けを意識してしまうところが面白い」とのこと。この「作品」で筧氏は東京大学総長賞を受賞している。

鈴木太朗氏の「風の路」は、床に敷き詰められた9つのアクリルケースの中で青白い四角い光が、時たま柔らかくじんわりと蛍のように発光するもの。一見、人工的で冷たい印象の作品だが、その動きはまるで深海の見たこともない生物のようにも感じられる。

鈴木太朗作品集
においを可視化する「Scenting Device Project」 機器を開発した久納鏡子氏、近森基氏、筧康明氏 鏡に映る自分を相手に対戦する「through the looking glass」

■ウェブ×インタラクティブアートを楽しむ「Flash Fantasista」

4つめのゾーン「Flash Fantasista」では、ウェブ上で展開されるインタラクティブアートが楽しめる。キュレーターチームによる「Pencil Catcher」はUFOキャッチャーを改造し、世界三大広告賞のひとつ「Golden Pencil」を受賞した際に渡されるオブジェに見立てたものを掴みとろうとするインスタレーションと連動したウェブ作品。クリエイターの持つ根源的な欲求ともいえる「評価されたい」という気持ちとジレンマをエンターテイメントデバイスを使ってきっちり表現し、同時に、その賞をとることの困難さも表現している。

Pencil Catcher

また、以前、auのdesign projectの一環として登場し、話題を読んだマーク・ニューソン氏デザインによる携帯電話「talby(タルビー)」の人気スペシャルサイトが展示期間のみ復活する。

様々なウェブ×インタラクティブアートが楽しめる

■作家に会えるイベント、フォーラムも連日開催

会期中は様々なイベントが企画されているが、中でも3月2日に開催される「PIRAMI meets 喪服の裾をからげ」は要チェック。PIRAMI氏はCM音楽など作っている東京芸術大学出身の作曲家。競演する「喪服の裾をからげ」という名前で東京藝術大学音楽環境創造科の作家も、最近の注目株だ。先日、ネットライブでアイスクリームの作品を制作し10万円で販売したとか。個人的に、ぜひとも顔を出したいイベントだ。

参加作家や協賛企業をパネリストに迎えたフォーラムも開催される。3月9日は「デザインがIT機器をリアルに楽しいものに変えていきます」、3月12日は「感じるIT癒しのITが日本ブランドをつくる」。気になる作家をチェックして参加してほしい。

青白い光が柔らかく発光する鈴木太朗氏の「風の路」

■普段の生活より一歩先の豊かさを感じてもらう

展覧会の狙いについて、主催するNPO法人「Creative Cluster」理事長の岡田智博氏に話を聞いた。岡田氏は、「ITとアート」を用いて生活を豊かにする新しい家電の商品化や販路の開拓を推進している。「テクノロジーという側面から見せると、普通の人は疎遠になってしまう。その技術を、体験して楽しめるようなアート作品として提示していくことが自分の役割。日本の良くないところは、美大を出た人が作ったものでなければアート作品と見なさない傾向があること。でも結局、何がアートかって決めるのはキュレーターであったり、それを体験した一般の人々なんだよね」。

coolstates telegraph

ハイテクノロジーを、日常を一変するような楽しさのあるプロダクトとして提示する、その場が展覧会やデモンストレーションイベントなのだ。岡田氏は今回のような展覧会を4年前から開催している。「人がこのテクノロジーによって、普段の生活より一歩先の豊かさを感じること。『えー、こんなのやだー』と思うようなことも含め、今までにない“ワンダー”を提供したい。そのためには、単に情報を編集するだけでなく、『価値の創造』をしなければならないんです」。

IT+アートで日常生活を豊かにする多拠点型NPO「Creative Cluster」始動

将来の日本を担う子どもたちに対する危機感もある。「最近の日本の子どもは『生きる力』がなくなってきている。鞠付きができない小学生も多いらしい。せっせとハンダ付けをしたり、おもしろマシーンを作っているような、想像力から生まれて来たアーティストを子どもたちに見せていかないと、日本のものづくりの力は滅びてしまいますよ」。

今年度、岡田氏は経産省が進める「産業クラスター計画」のうち横浜市で展開している「横浜知財ITクラスター形成・支援プロジェクト」のクラスターマネージャーとしての活動も始めた。推進しているのは、暮らしをより豊かにするIT製品を、アーティスト・デザイナー・エンジニアによる創造力と、横浜・首都圏の先駆的ものづくり企業とのコラボレーションによって送り出すという「Y’イノベーション」プロジェクト。岡田氏は自身の活動経験から得たことをそこへ提供しながら、企業から自分たちの活動への賛同を具体的に得るなどして、少しずつだが確実に新しいものづくりの萌芽が生まれている。「ちっちゃくてもいい。キラリと光れば」と、最後に語った言葉が印象的だった。

横浜知財ITクラスター形成・支援プロジェクト

ドイケイコ + ヨコハマ経済新聞編集部

「Creative Cluster」理事長の岡田智博氏 「fuwapica」の、座ると色が変化する光のソファ 「Y’イノベーションフォーラム」
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