日産自動車は6月24日に横浜市と共同で記者会見を行い、横浜市の「みなとみらい21地区」66街区に世界本社ビルを建設し、本社機能を移転することを発表した。「みなとみらい線」新高島駅付近の横浜市土地開発公社所有の敷地約1万平方メートルを購入、33階建て(高さ150メートル、地下2階建て)のビルを2010年までに建設する。新社屋には新車販売の大規模ショールームや本社機能を持つオフィス、同社の歴史を展示する博物館などの施設の建設が検討されている。移転を決めた背景には、横浜市が4月にMM21地区への進出企業の固定資産税や都市計画税を5年間半額にするなどの優遇措置を盛り込んだ条例を制定したことで、移転にかかる費用約300~400億円のうち約100億円以上を抑えられることがある。また、敷地が新高島駅前、横浜駅東口からも徒歩数分という好立地であることも移転を後押しした。現在、銀座にある日産本社で勤務する社員3000人のうち、少なくとも2000人が新高島にできる新社屋へ、500人がテクニカルセンターを有する厚木市へ移動する予定だ。記者会見でカルロス・ゴーン社長は「東京に残るのはゼロになるかもしれない」と述べ、全面移転の可能性も示唆した。日産の登記上の本店は現在も横浜市神奈川区宝町で、日産にとって横浜は創業の地。東京でグローバル企業として大きく成長し、地元・横浜に帰ってくるという形になった。
ゴーン社長は「グローバル企業だからこそアイデンティティーやルーツが重要。横浜は日産のアイデンティティーの一部だ」と語り、グローバル企業として創業の地・横浜をアイデンティティーと位置づけている考えを述べた。さらに「これまでは東京の本社で充分機能できたが、日産のグローバル事業をより効果的、クロス・ファンクショナルに運営するには、さらに先進的かつ柔軟性のある環境を必要としている」と述べ、東京と比較して横浜の先進性、柔軟性を高く評価した。日産を熱烈に誘致した中田市長は「市長就任以来、『民の力が存分に発揮される都市・横浜』をめざして環境整備をすることこそ、行政の時代的使命だと任じてきた。世界有数のすばらしい企業の横浜進出を心より歓迎したい」と述べ、さらに環境整備に尽力していく姿勢を見せた。横浜市は日産が新本社建設に着工する2007年度までに、横浜駅東口と日産新本社ビルの間にある帷子川の上に約100メートルの歩行者専用立体通路「横浜駅東口ペデストリアンデッキ」を19億円かけて整備する。日産新本社ビルを横浜駅からMM21地区への新たな玄関口と位置づけ、通路は日産新本社ビルの内部を通り新高島駅北口へと結ぶ予定となっている。新本社ビルの1階から3階はギャラリーやカフェなどのスペースとし、4階以上をオフィスとする計画だ。また横浜市は高島地区と新高島地区を結ぶ約120メートルの歩行者専用橋「高島二丁目連絡デッキ」、貨物線の線路を地下にくぐりMM21地区と戸部地区を連絡する約50メートルの立体横断施設「旧三菱正門踏切立体横断施設」を整備し、新高島地区へのアクセス強化を図っていく予定だ。
日産自動車浜銀総合研究所は記者会見が行われた6月24日、日産の移転に伴う神奈川県経済への経済波及効果の試算を発表した。試算によると、新本社建設着工から開業1年目までの4年間で移転に伴い神奈川県内で発生する直接的な支出増加額は約392億円(土地取得費を除く)となり、その結果もたらされる神奈川県内への経済波及効果は約620億円(直接的な支出増加額を含む)となる。浜銀総合研究所調査部の湯口さんは「オフィス需要の東京集中傾向が強まるなか、本社の移転はエポックメイキングだ」と今回の移転について語る。今回の試算は新本社建設費、新本社ビルランニングコスト、従業者2500人の消費支出額を主体に計算されたもの。試算に含まれない経済効果として、(1)県内に多く集積する同社の生産・開発拠点や関連取引企業などとのシナジー効果による県内産業の基盤強化、(2)MM21地区開発や関連企業の新規立地促進効果、(3)グローバル企業の立地に伴う海外からの来県者数および宿泊需要の増加、(4)県内の地方自治体の税収増などがある。「今回の試算は保守的につくった数字。中長期的には試算を大きく上回る経済効果が期待できる」と湯口さんは大企業の本社が移転する影響力の大きさを指摘した。
浜銀総合研究所MM21地区の都市計画には、「クイーン軸」「グランモール軸」「キング軸」の3本の歩行者空間を整備し、3つの軸をつなぐことで回遊性を高めようという計画がある。桜木町駅からパシフィコ横浜へ連なるクイーン軸は、駅からランドマークタワーへと続く「動く歩道」と、ランドマークプラザからクイーンモールを通りパシフィコ横浜へと続くモールを結んだ軸で、クイーンズスクエア横浜がオープンした1997年に完成している。クイーン軸のヨーヨー広場とキング軸の新高島駅北口を結ぶグランモール軸は、ヨーヨー広場から美術の広場を通り横浜ジャックモール前までの道が1999年に完成している。新高島駅南側から臨港パークを結ぶキング軸は、土地の事業者が未決定であるためいまだ整備されていない状況だ。MM21地区の都市計画について、横浜市都市計画局みなとみらい21推進部計画推進課の斉藤良展課長は「MM21地区開発はクイーン軸、グランモール軸、キング軸と順にビルドアップしていく計画。これからはキング軸の開発に本格的に取り組む時期だ」と意欲的に語る。
日本有数の大企業である日産の移転が決まり、停滞していた新高島地区への企業進出に今後弾みがつくと考えられる。実際に移転が決まってからMM21 地区の事業者公募に関する問合せ件数が増えているという。「日産移転のニュースの宣伝効果は大きいですね」と斉藤さんは大企業誘致の実感を語る。新高島の映像文化都市構想とは、キング軸海側の臨港パーク前に位置する20街区を映像文化の拠点にしていく計画のこと。キング軸の開発は都市計画局みなとみらい 21推進部が20街区の映像文化拠点に合わせて、広くエンターテイメント関連施設を有する事業者を誘致していく方針だ。斉藤さんは「公募地区にあわせて事業モデルの異なる基準を設けている。エンターテイメント関連施設があるなど、よりこちらが提示した条件に沿ったモデルを提示した事業者が選ばれる可能性が高い」と事業提案のポイントを語る。今年に入ってキング軸に面する53街区、50街区南側敷地の開発事業者に決定した事業もエンターテイメント施設が入ったものだ。
横浜みなとみらい21公式ウェブサイト5月1日、東急不動産、三菱地所、東京放送(TBS)、テイクアンドギヴ・ニーズの4社から成る「横浜ブロードキンググループ」は、MM21地区 53街区にシネマコンプレックス・ライブハウス・結婚式場の複合商業施設の建設に着手した。東急不動産と三菱地所が土地所有者である横浜市・横浜市都市開発公社より10年間事業用借地として賃借し、1万4290平方メートルの敷地に共同で4棟の施設を建設、そこを各業種が賃貸する。東急レクリエーション・松竹・相鉄ローゼンの3社がシネマコンプレックスを共同運営、11スクリーン・約2200席の規模で、神奈川県初のDLPデジタルシネマシステムの導入を予定している。東京放送は昨秋まで運営していた直営のライブハウス「赤坂BLITZ」を「横浜BLITZ」としてオープン、収容人数は約2000人、国内のライブハウスとしては初となるホール壁面36台のサラウンド・スピーカーシステムを導入する。テイクアンドギヴ・ニーズは直営のハウスウェディング「ベイサイド迎賓館」を運営、「教会大階段付き一軒家」と「プール付き白亜の大邸宅」の趣の異なる2つの邸宅をオープンする。そのほか、飲食・物販店舗の入居及び、タイトーによる横浜の「ものの始め」をテーマにした、横浜の食と遊の歴史を体験できるアミューズメント施設を展開する予定だ。今年11月にグランドオープンを予定しており、年間250万人の来場を見込んでいる。
東急不動産 三菱地所 東京放送(TBS) TAKE & GIVE NEEDS今年1月、横浜市と都市基盤整備公団はキング軸のほぼ真ん中に位置する50街区南側敷地の開発事業予定者を生活協同組合東京住宅供給センターに決定した。同センターは「機能性、安全性、快適性を有する都心型複合住宅」を建設する。建物は東西2棟のタワーを2階部分の共用空間で接続し、3階以上を分譲マンションとするもの。キング軸に面する1、2階は市の映像文化都市構想に沿い、ショートフィルムを中心に学生や若手映像作家の作品を上映する100席規模のミニシアターや商業施設を建設する計画だ。2007年にオープン・入居開始する予定となっている。
横浜駅東口とMM21地区の観光施設の間には未開発の新高島地区があり、それが両エリアを分断していた。新高島地区の開発には両エリアをつないで回遊性を高め、横浜駅からMM21地区を通り新港地区へとつづく広大な商業・文化・アミューズメントのエリアを形作るという目的もある。横浜駅から新高島への玄関口となる日産本社の建設、キング軸への複合商業施設と都心型複合住宅の建設決定により新高島地区開発は第一歩を踏み出した。横浜都心臨海部のさらなる活性化を担う新高島エリア開発の今後に期待がかかる。