この日のゲストの一人、藤木企業取締役会長で横浜港運協会会長の藤木幸夫氏は、50年以上にわたって横浜の港を「現場」から支えてきた人物。1960年代よりニューヨーク、ロッテルダム、アントワープなど世界各地の港を自らの目で確かめ、横浜港のあるべき姿を考え抜いてきた。藤木氏によれば、港には大きく分けて二つの機能があるという。実際に貿易を行う「貿易経済港」と、観光の窓口および観光施設としての「観光経済港」だ。「この二つが曖昧なままで都市づくりがなされるべきではない」と藤木氏は強調する。
1980年代に本格的にスタートしたみなとみらい21事業は、内陸から海に向かって徐々に建物の長さが低く見えるように建造物を配置した「スカイライン」をはじめとして、「景観」にこだわって街づくりを進めてきた側面がある。また、同事業の目指す都市像として「水と緑に囲まれた人間環境都市」「市民が憩い親しめるウォーターフロント空間」など、人と自然との調和のイメージが掲げられている。バブル期に設計された壮大な都市計画だけに、イメージに頼っている部分がある点は否めない。そんななかで、港の「現場」を知り、かつ明確なヴィジョンをもっている藤木氏の発言は、説得力をもって響いてくる。
ペリーが来航した頃にはまだ数千人規模の小さな村だった横浜は、1859年に開港以来、「貿易」を中心として発展してきた。街が栄え、人口350万人もの大都市になっていく過程のなかで、港の「観光」としての資源が欠かせないことは事実。2009年の開港150周年に向けて、藤木氏は「横浜港はベイブリッジから南は貿易経済の港に、北は観光経済の港に。機能をはっきりと分割したい」と語る。ベイブリッジの北に位置する新港地区では、4月24日より象の鼻パーク予定地にて「筋肉ミュージカル2004」、来年秋より山下ふ頭先端の倉庫にて「横浜トリエンナーレ2005」などが開催される。今後は広く、エンターテイメント空間としての注目度が高まっていくことになりそうだ。また、1894年に完成以来、海の玄関として活躍を続けてきた大さん橋ふ頭は、2002年、「大さん橋国際客船ターミナル」として新しく生まれ変わった。国際コンペで選ばれた気鋭の建築家アレハンドロ・ザエラ・ポロとファッシド・ムサヴィがデザインを手がけた大さん橋は、早くもカップルが訪れる新しいデートスポットとなっている。
横浜港ホームページ2009 年の開港150周年に向け、経済界も動き始めている。昨年11月、横浜市にある経済団体や横浜に深く関わる団体が集まり、「近代日本開国・横浜開港150 周年記念事業推進協議会」を設立した。横浜の企業と行政とがパートナーを組み、5年間で横浜活性化のための事業を実施していこうというもので、同会の会長は横浜商工会議所会頭の高梨昌芳氏、会長代理を藤木幸夫氏が務める。今年2月、横浜市内在住のデザイナー飯田高紀氏考案の「横濱開港150周年」のロゴマークが決定。モチーフは帆で、開港150周年を契機に新しい風に乗り、ヨコハマが世界に飛躍していくデザイン。今後横浜市で行われるさまざまなイベント各地や商業施設で、2009年の開港150周年をアピールする目的で積極的に活用していく。
ここで注目したいのは、名誉会長としての39歳の中田宏・横浜市長の存在だ。中田氏は記念事業について、「開港50周年、開国100周年というかつての節目よりもさらに賑やかに行いたい」と意欲を示している。2002年に市長就任以来「横浜から日本を変える」をモットーに、横浜出身のクレイジーケンバンドを曲づくりに起用し話題になった、ごみ減量の「G30プラン」や、横浜市でのアート活動を支援するため、「文化芸術都市創造事業本部」を設置するなど、大胆な取り組みを実現させてきている中田氏だけに目が離せない。開港50周年では開港記念会館、開港100周年ではマリンタワーが建設されたが、5年先の開港150周年では、そうしたハード面というよりも、ソフト面での充実が測られることに期待したい。
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